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気がついたら妖怪の主になっていたんだが 作者:インコ法師
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12.狸と情報



 妖怪にとって妖気は重要なものだ。妖気が尽きなければ妖怪は死なない。身に纏う妖気の大きさで強さを測ることもできる。
 能力を使えば減り、怪我をしたらその回復に使われて減る。食事や睡眠をとって休めば回復して、最大値は長い年月をかけて徐々に増えていく。長く生きている妖怪ほど妖気が強大な、強い妖怪となる。ただ、主玉から生まれる妖怪は別で、生まれた時から大きな妖気を持っているものらしい。俺のように。

 妖気が強ければ強いほど、妖怪は死ににくい。生命力と言い換えてもいい力。それを無理やり引き出し、回復することをさせず、緩やかに訪れる死を待つだけとなる。それはどれほど恐ろしいことか。そんなことをやっている妖怪が、この世界のどこかにいる。


「主様、どうなさいました?」

「……川姫か」


 川原で太陽の光を反射する水面を眺めて考え事をしていたら、川姫がそう尋ねながら隣に腰を降ろし、俺に微笑みかけてきた。よく見ると彼女の呼吸は少し乱れていて、少し遠くで「出遅れた……!」と悔しがる鴉の声が聞こえたような気がしないでもない。何かしらの競争があったのかもしれないが、全てに気づかないフリをするのが平和のためだろう。
 彼女から視線をはずし、何も気づかないフリをしながらもう一度川面を眺める。しばらくして、呼吸の整った川姫から声がかけられた。


「わしでよければご相談に乗ります。何でも話してくだされ、主様」


 生まれたばかりでこの世に疎い俺より、どうやらそれなりに長生きらしい川姫のほうが物を知っている。一人で考えてもどうにもならないだろうし、早速彼女に相談してみることにした。


「大体の居場所どころか、姿も全く分からない相手を探したいときは、どうすればいいと思う?」

「……逸れのことですな?」


 頷く。俺が探したいのは鞍馬の大天狗、クサカから聞いた逸れ妖怪だ。大妖怪と呼ばれる彼でも死に掛けていたのだから、小さな妖怪たちにとって件の妖怪は脅威だろう。
 俺はそれを取り除かなくてはならない気がしているのだが、その方法が分からない。そもそもどこにいるか全く分からないし、手の出しようがない。しかし言いようのない、何かに駆り立てられるような気持ちが湧いてきてどうにも落ち着けず、外の空気に当たりながら一人で悩んでいたのだが。


「ふむ、ならば狸に尋ねるのがよいでしょうな」

「狸?」


 直ぐに案が出てきたことにも驚いたが、その内容もよく分からなくて首を傾げた。おそらく動物ではなく妖怪の狸。俺にあるイメージは店先にある信楽焼のあの狸で、化けるのが得意というくらいのものだ。
 俺が分かっていないことに気づいた川姫が空かさず説明をしてくれる。


「狸は情報屋でしてな。この世の八割の狸は一つの情報屋に属しているのです」

「へぇ……なら、向こうで手を振ってる奴に話を聞けばいいのか?」

「…………なんと」


 川の向こう岸に、狸の耳と尾を生やした小柄な人間のような妖怪がニコニコと笑いながら手を振っているのが見える。今まさに話をしていた狸の妖怪だ。出てくる時を見計らっていたのではないかというぐらい絶妙のタイミングである。
 そして橋を渡りこちら側へとやってきた妖怪からは耳と尻尾が綺麗に消えて、人間と変わらない姿へと変わっていた。


「拙者、情報屋を営む豆狸でござる。そろそろ主殿に我らの力が必要であろうと思い、出てくる機を見ていたのでござるが、丁度よかったでござろう?」


 焦げ茶の髪と目が狸の毛色を思わせる、背の低い少年。その姿とは非常に不釣合いな話し方で、非常にわざとらしくとってつけたような「ござる口調」だ。というか、本当にタイミング見計らって出てきたのかこの豆狸。
 口調のせいなのか、それとも彼が浮かべるあどけない笑顔のせいなのか。どうも気が抜けてしまって目の前の妖怪が“情報屋”なんて頭を使う仕事をしていることが信じられない気分だ。


「……主様、このふざけた妖怪が情報屋を取りまとめている者です。こうして相手の油断を誘っていますが、中身は食えぬ狸爺ですので、どうかお気をつけくだされ」

「川姫殿は手厳しいでござる」


 豆狸はカラカラと可笑しそうに笑った。川姫の言うとおり狸爺なのだと思って接しないと飲み込まれてしまうのだろう。気を引き締め直して狸と向かい合った途端に彼は笑顔を消し、表情の抜け落ちた顔でこう言った。


「我ら狸は主殿の傘下に加わりたい。ひとまず此度の探しものは即座に見つけてみせます故、考えていただけぬであろうか」


 ござるはどこに行ったんだ、とか。笑顔との落差がありすぎて怖い、とか。思うことはあったけれど、豆狸が真剣であることは伝わってきた。


「……分かった。頼んだぞ、豆狸」

「うむ、お任せあれ。拙者達の力をお見せするでござる」


 ほっとしたような顔で笑う豆狸の顔は幼い顔立ちも相まって可愛らしく、つい手を伸ばして頭を撫でてしまった。途端にちょっとした殺気のようなものを隣から感じて、ちらりと視線を向ける。


「狸爺が猫を被りよって……」


 そう言えば狸爺だったなと改めて豆狸に目を向けると、少年の顔には若者をからかって楽しむ年寄りのような、少しばかり意地の悪い笑みが浮かんでいた。
 ……なるほど、狸爺で間違いないな。


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