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アンドロイドたちの話(仮)

サリアとフィニアンの話

作者: ささかま。

SFに関しての詳細は一番下の後書きにて。色々盛り込んでみました。本文を読む前に確認していただいても構いません。

 さて、昔々あるところに、サリアという見た目は可愛らしい、しかし不良品アンドロイドの少女がいました。


 サリアはよく「サリアは不良品だね。そこら中のネジが吹っ飛んでいるわ」と主人である女から不平不満を言われていました。主人は古い知人からサリアと名付けられたこのアンドロイドを買い取ったのですが、掃除をやらせるにしても料理をやらせるにしてもそのアンドロイドは不出来な様子なのでした。

「サリア、お前はどうしてそんなに不出来なんだい?」

 主人はフーッと煙草の煙をサリアに吹きかけました。

「そういうことができるように家事プログラムが実装されているはずなのですが、サリアには原因が不明です」

 サリアは従順に不満そうな主人に答えました。

 しかし、主人の不機嫌さは増すばかりです。

「サリア、アンドロイドが原因不明だなんて、不明瞭な言葉で濁すんじゃないよ!そんなこと言うなら、不良品のお前なんか畑の案山子にでもしてやる!」

 サリアの主人はそう言いましたが、サリアには何を言われようとも自分が役立たずな理由は不明なのでした。



 ※



 それなので、サリアは主人の言いつけで結局案山子として畑に立って畑を守り、風雨やカラスにさらされる毎日を送ることになったのでした。その畑を通り過ぎた人間やアンドロイドたちは、不幸なアンドロイドを嘲りました。

「始末してしまえば、夫人も楽だったろうにな。流石に知人の手前捨てられないんだろうが、不憫なものだ」

 台詞の中に出てきた夫人というのはサリアの主人のことでした。サリアは夫人の悪口を言われても微動だにしませんでした。散々悪口を言われようが、不幸と言われようが、彼女は動かずに畑を守る案山子なのですから。

「そんな風に言うでないよ。それに、今度、夫人は新しいアンドロイドを買うそうだよ。聡明で話も上手くて、不良品とは違って家事も上手くできる新型らしい」

 そんな噂を耳にして、サリアは深く俯きました。空から照る太陽が、サリアの思考に負荷を与えるようでした。そもそも頭が不出来らしいサリアは、普段から思考するときも主人から散々叱られていたのでした。

「サリアには不明なことが多すぎるのです。システムエラーが多く、フリーズするかもしれません」

 寂しく独り言を繰り返し呟いていると、ふと目の前に人影が通りかかりました。その人影から何やら甘い不思議な香りがしました。サリアが顔を上げると、そこにいたのは浮浪者のような見た目の男でした。冴えない見た目の男は、深く帽子を被っていて表情が良く見えません。すべて身に着けているものがボロボロで、ところどころ不織布で繕ってあります。その男は荷台を引いていて、中には深緑色の葉の合間に色とりどりの花が、さっきの不思議な香りを漂わせて咲いていました。そして、男は何故か不良品のサリアの元で立ち止まりました。

「そんなところでふてくされた顔しているのは何故だ?」

 その男は不快そうな声で言いました。

「サリアはふてくされていますか?」

 サリアは男の言葉に不可解そうに訊ね返しました。

「そんなことは普通顔を見ただけでは分からない。しかし、それを知りたがるというのは古い型のアンドロイドの割には上々だ」

 そして男はそう言いながら、不意にその場に座り込みました。そして、サリアにも畑の縁に座るように言いました。

「サリアは座ることは不可能です」

「それはお前が今夫人に命じられて、案山子をやっているからか?」

「そうですが、不思議ですね。それを何故浮浪者の貴方が知っているのでしょう?」

「せめて浮浪者呼ばわりはやめろ。サリア、俺の名前はフィニアンと言って、今は浮浪者ではなく、花屋をやっている……たぶん」

「それなら、たぶん花屋のフィニアン、何故私の事情を知っているのでしょう?」

 しかし、フィニアンはサリアの質問には答えませんでした。その代わり、再び座るようにサリアに言いました。すると、不思議なことにサリアは地面に座れてしまったのです。主人の命令に反するようなことが仮にあれば、普通はシステムエラーが起きて動作ができなくなるはずです。サリアはそれを知っていましたので不安に思いましたが、特に何も起こりませんでした。

「せっかく再び出会えたんだから、目を合わせて話した方が良いだろう?」

 そう言うフィニアンの表情をとうとうサリアは覗くことができました。空色の大きな目だけしか見えず、顔のほとんどは目深に被った帽子と口元に巻いたボロ布の陰になってはいましたが、終始不機嫌な声には不釣り合いな優しそうな感情をその目見せていました。空色はどこまでも広がっているようでしたが、それでも深いところには底はあるように見えます。

「せっかく再び出会えた、というのはどういうことですか?サリアは複雑な思考はできないので、手短にお話し願います」

 サリアの言う、手短に、というのは夫人の口癖でもありました。サリアは不良品なので、何かを話すのも聞くのも一苦労なのです。

「そんな話をしにこんな古い郷に来たわけじゃない。主目的は、お前が不甲斐ないという噂を聞いたから心配で様子を見に来たっていうところだ。システムの自主定期メンテは普通にできているか?」

「システムは普段から正常。診断プログラムも通常フェーズを経て稼働しています」

 そんなことをどうして訊くのかサリアは疑問に思いましたが、フィニアンに尋ねられて答えない理由はなかったので素直に答えました。

 燦々と照る太陽はちょうど二人の真上にありました。冴えない帽子を被っているフィニアンは、それでも暑そうに服の袖で時々汗を拭っています。

「涼しそうな服だな。サリアはその服は自分で選んだのか?」

「主人が選んでくれたのでサリアは選んでいませんが、サリアは不承不承これを着用しています」

 サリアは着ていた煤けた藤鼠色のワンピースの裾を少し持ち上げました。サリアの主人が、古着屋で適当に見繕ってきた安物です。

「サリアには不釣り合いなぐらい陰気な色だと思うよ」

 正直にフィニアンは感想を述べました。

「正直、昔から夫人の趣味はあまりよく分からない」

 その発言で、サリアはフィニアンが自分の主人の知り合いらしいことを知りました。

「サリアはフィニアンと知り合いなのですか?」

 サリアが気になったので訊ねてみると、フィニアンは帽子の奥で空色の目を少し輝かせました。しかし、すぐに不機嫌そうな声で応えます。

「サリア、深く知りすぎちゃマズイことだってこの世界にはたくさんあるんだ」

「そんな不明瞭な言葉で濁さないでいただきたいです」

 サリアは目の前のぼろい服を握りしめて、詰め寄りました。サリアにはフィニアンが何か誤魔化そうとしているのが分かったからでした。サリアは不良品でしたが、それが分からないほどガラクタではないのでした。

 真摯な瞳と不機嫌そうな瞳が見つめ合いました。空には雲が漂い、鳥が複雑に飛び交いながらその様子を見守っています。

 しばらく経って、不機嫌そうな瞳が先に目を逸らしました。

「サリア、さっきの話に戻るが服を着るとしたら本当は何色が良いんだ?」

 そう言いながらフィニアンは、さっき引いてきた荷台を漁り始めました。涼やかな風が吹いてきてそれに乗って、不思議な香りが再び漂います。サリアはこの不思議な香りがすっかり気に入りました。すっかりこの場の空気を吸い込んでしまいたいという風に、サリアは息を大きく吸い込みました。

「そんなにこのフリージアの香りが気に入ったのか?」

 背中を向けたままガサゴソやっていたフィニアンはサリアに言いました。そして、サリアの目の前にフリージアの花束が差し出されました。差し出されたそれには様々な色が、深緑の中で自ら誇るように咲いていました。

「サリアはフリージアが好きなようです」

「それならお前が一番好きな色のフリージアを一つあげよう」

 サリアはガラス製の目を輝かせて、フリージアを見つめました。様々な色がありましたが、一つだけしかくれないなんてフィニアンはケチだとサリアは思いました。しかし、それと同時にこんな和やかな雰囲気の会話を以前もしたような気がして、フィニアンに気付かれないようにサリアは必死に思考しました。せめて、誰と、どこでという断片的なところだけでも思い出せれば良いのですが、負荷がかかりすぎて頭が痛くなったので一先ず花を見る作業に戻りました。

「すべて好きと言うのではダメなのですか、フィニアン?」

 サリアがそう言うと、深く被った帽子の陰で青い目が見開いたのが見えました。そんなにびっくりすることだろうかとサリアは不思議に思いました。

「それだから、お前は彼女に不良品と呼ばれるんだな。しかし、不安がることはない。サリアは古い型なのにそういう思考ができるんだから」

 そう言うフィニアンの声はなんだか嬉しそうでした。

 さて、結局フリージアの色を一つ選ばなくてはいけないという状況は変わっていません。サリアは半ばフリージアを睨むようにしながら、思考しました。そして、フワフワとした大きな雲が一つ主人の畑をゆっくり横切るのと同じ時間を使って結論を出しました。

「サリアはこの紫のフリージアを選びます」

「それを選んでくれると、不思議と分かっていた気がするよ」

 それなりにいっぱい時間を使ったのにフィニアンは怒りもせずに、フッと笑いながら言いました。その笑いは普通の人間からしたらまだ不機嫌の域かもしれませんが、彼にしては精いっぱいの笑顔なんじゃないかとサリアは思いました。

「サリアは、それは不可知の事柄であったと考えるのですが?」

「そりゃ、不可知だったさ。それでも全く予測不可能だったかと言えば、そんなことはなかったよ」

 そして、フィニアンはサリアの髪にその紫のフリージアをそっとさしました。それは、サリアの長い黒髪に風流な印象を添えていました。先程、話題になった藤鼠色の服の不釣り合いを帳消しにする以上の美しさです。

 空は静かに色を変え、二人の周りを夕日が淡く染めました。静かな夕日が花束を持ったままのフィニアンを照らします。

「サリアがそれを選ぶなら、俺はこのフリージアを選ぼう」

 そう言いながら彼が花束から抜き取ったのは、赤色のフリージアでした。そっと手に持ったそれを、再びサリアの髪の毛に差しました。サリアは二つの花を見ようと目を左右に動かしましたが、側頭部に飾られたそれを見るのは残念ながら困難でした。そこで、フィニアンにこんな提案をしました。

「サリアはフィニアンにフリージアを飾りたいのです」

 そう思ったのは何故なのか、不意にそんなことを考えそうになりましたが止めておきました。そういう、理屈でどうこうできるようなことではないと不思議と分かっていたのでした。

 そして、自分の髪から紫のフリージアを持って立ち上がり、少ししゃがんでフィニアンの帽子の帯の部分にそっとそれを差したのでした。それは不思議と似合っていて、サリアはとても満足しました。

「さて、主目的は概ね済んだから、次は副目的の方だ」

 そう言いながら、フィニアンは伸びをして立ち上がりました。

「サリア、フリージアの荷台を動かすのを手伝ってくれないか?そう難しいことはなくて、後ろから普通に押すだけで良い。そんなにお前の主人の家まで行くには時間はかからないだろうし、お前は普通の人間の何倍もの力を持っているアンドロイドだしな」

 そこでお前が不思議がっている疑問も解決してやる、と彼は言いました。

「しかし、サリアはここで案山子として主人の畑の不可侵を守らねばなりません」

「それより俺の副目的を達成するのを手伝ってくれ」

 少々乱暴な主張だと思ったサリアでしたが、疑問を解決しないとそろそろ負荷がかかりすぎでショートしそうだったのでフィニアンの言葉に頷きました。

 それに、と付け足すように、あるいは言い聞かせるように、荷台を引いて踏み出す彼は呟きます。

「サリアは、不幸な案山子なんかじゃないんだ」



 ※



 そんなに時間はかからずに二人と荷台は、田舎道を通って夫人の家に到着しました。少々急ぎ気味の道のりでしたが、夕日が沈んでしまう前に到着しようと二人はかなり頑張ったのです。

「戦争の英雄がそんなみすぼらしい風体で一体どうしたの、フィニアン=サイクス?」

 それがフィニアンを家に招き入れたときの夫人の第一声でした。サイクスというのは普通に考えて、フィニアンの苗字でしょう。

「すでに戦争は10年前に終わっているし、そんな古い話をしたいわけではないよ、シルヴィア=フォレット」

 シルヴィア=フォレットと言うのはサリアの主人のフルネームです。

 しかし、戦争と言う言葉がサリアには気がかりで、フィニアンの背中にすがって主人を観察しながら思考していました。主人を観察していたのは、主人の言いつけを破ったことで何か言われるんじゃないかと不安もあったからでした。

「その不良品を連れてきたことから、大体の事情は察しているわ」

 そして案の定、不愉快そうな声で主人は言いました。

「それで、どうやってこの不良品に命令違反をさせたのかしら?システムをどうにかして弄ったのだとしたら、不義理だと言わざるを得ないわ」

「システムは弄っていないと、不肖ながら俺の臓腑のすべてを賭けて誓うよ」

「そんなこと言ったって、貴方は戦争で負傷して臓腑のほとんどを失くして今は機械仕掛けじゃない。そんな腑抜けを賭けられてもね」

 すごく皮肉的な笑みを浮かべて夫人は鼻で笑いました。

「相当怒っているようで、この不完全な臓腑の底まで痛み入るんだが、本題に入ろう」

 すごく挑戦的な声音でそう言いながらフィニアンは鼻で笑いました。

「さあ、互いの不義理について語ろうじゃないか」

「そちらの不義理しかないでしょうに。すべて知っていて、この不良品を私に売った。それが貴方の不義理」

「サリアは不良品じゃない。さっきから思っていたが、その呼び名は不愉快だ」

 底から轟くような声が沸々と込み上げる怒りのすべてを夫人に示していました。その怒りに夫人は背筋を震わせました。

「……そう、こちらにも不義理なところがあったのは認めよう。説明が不足していたのは申し訳なかった。しかし、それなら、そちらは契約不履行があったことを認めるべきだ。サリアを不幸にしないという契約だったはずだ」

 サリア自身は今までこんな取り決めが二人の間であったなんて全く知りませんでした。サリアは二人の話にただ耳を傾けて、そこから自分なりに思考するしかありませんでした。

「相当格安でアンドロイドを売ってくれるっていうから、二つ返事してやっただけよ。そりゃ、不良品って知ってたらびた一文も出したくなかったけど。そもそもアンドロイドに幸せも不幸もあるもんですか。すべての命令にアンドロイドは黙って服従していれば良いのよ」

 すると、不意に静寂が訪れました。サリアは自分の主人の顔が恐怖に歪むのと、フィニアンの帽子が床に落ちていくのを見ていました。その一瞬の間に主人が彼によって、近くにあったテーブルの上に伏せるように叩きつけられたのを観測したのでした。すごく大きな音がして夫人は痛そうに呻いていましたが、サリアは不思議と痛めつけられている主人を助けようとは思いませんでした。システムがやはりフィニアンによって書き換えられたのでしょうか。

 そして、帽子がその静寂の中フワリと床に落ちて、サリアはようやく彼の素顔を見たのでした。素顔はほとんど火傷のような痣で覆われ、ところどころ腐敗したような紫色をしていました。更に顔の上半分は機械化されていて、不機嫌そうな青い瞳の周りは銀色の硬い表面が覆っていました。昨今のアンドロイド技術なら鉄の部分に人間のような皮膚をつけられるはずですが、フィニアンの顔はそれこそ戦争時代の古い技術をそのまま残しているにではないかとサリアは思いました。

「サリアは元は戦闘特化型アンドロイドSF-221型として俺とタッグを組み、子供だろうが婦女子だろうが何だろうが構わず、相手国の人間を殺して回った」

 流石にいきなりそんなことを言われて、サリアはフリーズせんばかりに驚きました。サリアの主人も驚いているのか、口を大きく開いてテーブルに叩きつけられたままの体勢でフィニアンの話を聞いていました。

「サリアは俺に絶対服従する兵器として存在していた。それを以前から不憫だとは少なからず思っていたんだ。戦争が終わって数年で、普通の平和な生活に戻った時、サリアには居場所がなくなっていた。戦場こそ彼女の居場所で、そうしたのが俺達だと、不甲斐ないことに俺は最近まで気付かなかった。戦争の英雄なんて呼ばれるのは今でこそ不愉快だが、昔はそれで良い気になっていたんだろう。……それに気づくと同時に、俺のような戦争バカの傍にいることこそ、サリアを不幸にしているんじゃないかと考えた。サリアが戦争のことしか考えられないのは、戦闘システムのせいだけじゃなく不甲斐ない俺のせいなんじゃないかと」

 そして、彼はサリアの戦争時代のログをすべて消去し、古い塗装を直しました。戦闘装備をすべて外して新品のパーツをいくつか使用したり、皮膚を取り付けたり、普通の女の子にさえ見間違えるほどになったのです。戦闘システムを素体として家事システムを構築したため全体的に負荷が大きくかかってしまう難点はありましたが、それでも新型家事専用機のシステムに少しでも近づけることに成功したのでした。最後にフィニアンはサリアにあるものを実装しました。それは、それまでの歴史でアンドロイドには不必要と言われ続けた部品でした。

「そんな……心を実装するなんて不可能だわ」

 サリアは主人の言葉を聞きながら、複雑な心境で自分の胸を押さえました。しかし、この複雑な心境を与えてくれたのがフィニアンだと思うと不思議と嬉しくも思うのでした。

「そんなことしたら、アンドロイドは主人に服従しなくなるとでも言いたいのか?それで何か不都合でもあるのか?」

「そんなの、不都合しかないわよ!」

 しびれを切らしたかのように夫人は叫びました。

「それは人間側の不都合で、エゴだよ、シルヴィア」

 そう言いながら、フィニアンはテーブルの上の夫人から離れました。少し息を切らして夫人も普通に立ち上がりました。

「そんなバカげた理屈が通るようなことがあるわけないし、常識的に考えて不謹慎極まりないわ」

 シルヴィアは顔をふんだんに歪めてました。

「その不……アンドロイドはお返しするわ。新品のアンドロイドを購入予定だから、それがなくても私にはもう不都合はないし、貴方の顔はもう二度と見たくないわ」

 心底、彼女は不機嫌そうにフィニアンに言いました。

「それでは、いつか再び会おう」

 そうフィニアンが帽子を深々と被りながら挨拶をしましたが、シルヴィアは決して目を合わせようとせず、こう吐き捨てました。

「素晴らしく滑稽でイカれた貴方の理屈、死んだって理解不能だわ」

サリアはそんな夫人の横顔を見て、少し考えた後に別れの言葉を口にします。

「さようなら、フォレット夫人」



 ※



 サリアとフィニアンは夫人の家を出た後、しばらく歩き、やがて大きく開けた十字路へと到着しました。

「さて、夫人から自由になった今、君はこれからどうしたいんだ?」

 空は暗くなり星の瞬きが夜更けを告げています。静けさの中、深い声が優しくサリアを包みました。

「サリアは深く深く考えます」

 空を見上げて、夜更けの空気と共に吸い込むのはフリージアの甘い香りです。すっかり暗闇に包まれていますが、機械仕掛けの二人の目にはお互いの頭にある花の色までしっかり見えていました。サリアの髪にある赤いフリージアとフィニアンの帽子にある紫のフリージアは本当に似合っています。

 空の広さの中にはサリアの演算では到底導けないほどの数の星々が転がり、サリアはまるでその一つ一つの輝きに触れようとするかのように手を伸ばします。

「サリアは深く深く考えて、答えを出します」

 そして、またフリージアの色を考えたときのようにじっくり時間をかけてサリアは答えを導き出し、フィニアンに告げます。

「サリアはせっかく心を持ったアンドロイドなので、風の吹くまま気の向くまま、自分で道を選び、自分で進んでみます」

「……その答えが正解か不正解か、自分でよく考えながら広い世界を歩いて見てくると良い」

 サリアの答えを聞いたフィニアンはどこか悲しそうな表情を浮かべましたが、どちらかと言うと吹っ切れたかのようにそう言いました。

 しんとした星空の下で二人は別れの言葉を交わします。

「さようなら、フィニアン」

 しんみりとした声が出てしまってフィニアンが呆れていないだろうかとサリアは心配になりました。しかし、フィニアンはサリアの小さな手を大きな両手で包み込むと、不機嫌ではない声で応えます。

「親愛なるサリア、君の踏み出す道に光があることを願う」

 サリアの胸にその言葉は不思議と響いたのでした。その響きを胸に抱えてフィニアンに背を向けます。

 すぐ後ろでフィニアンが見送っているのが分かりましたが、もう彼女は振り返りませんでした。

 そうして、サリアは十字路の真ん中の道へと一歩踏み出したのでした。

 静寂の中に輝く星の灯りが、暗がりを進む彼女に降り注ぎ、道を照らしていました。


 めでたし、めでたし。


【SF一覧】

●SF=サイエンスフィクション(のようなものを書きたかったという心意気。)

●SF=サドンフィクション(sudden fiction。ショートショート的な意味と「突然の産物」という意味を込めて。)

●SF=主要登場人物二人の名前。作品タイトル。

●SF(あるいはFS)=登場人物のうち二人のイニシャル。

●SF=型番。

●SF=あらすじ&本文中の文章(本文最後の一文以外)。それぞれ一文ずつ、省略するとSFになるようになっています。

(例:すべて不思議だった。=す(S)べて不(F)思議だった。)

結構無理してSFにしている文章が多いですが、私の技量ではこれが限界でしたorz

※もし仮に「この文章、略してもSFにならんぞ。日本語おかしいぞ」ということがありましたらお知らせください。話に支障のでない範囲で修正します。


【参考】

e恋愛名言集(フリージアの花言葉)http://rennai-meigen.com/freesiahanakotoba/


【作品あとがきという名の大反省大会会場。ネタバレあり(活動報告)】

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/187605/blogkey/973849/


【修正情報】

2014/08/29 感想掲示板にてご指摘いただいた4箇所(SFになっていなかった部分)を修正。ご指摘ありがとうございます。

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[一言] はじめまして、虚白と申します。 新規登録後、「yoursf」の企画を知り、読ませていただきました。 感想を言うとすれば欠かせないのは、全文が「S・F」で書かれていることです。もう、読んでい…
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