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木苺はわたしと犬のもの ~司書子さんとタンテイさん~ 作者:冬木洋子
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第一話 お祖母ちゃんの髪飾り事件(14)

 六月。静かな雨に降り込められたひんやり薄暗い台所で、木苺のジャムを煮ました。焦がさないよう、木べらで丁寧に混ぜながら、ゆっくりと、静かに。
 今朝、雨の止み間に摘んだ今年最後の木苺はほんの数粒でしたが、今までずっと少しずつジッパー袋に冷凍してきたものと合わせて、小さな瓶に二つ分を、なんとか確保したのです。
 一つ分は自分用に、あと一瓶は、反田さんに差し上げるつもりです。琴里ちゃんの髪飾りの件でご尽力いただいたお礼です。それに、あの時に立て替えていただいたジュース代は払いましたが、タクシー代の半分は、あれは自分が勝手に拾ったのだからと、頑として受け取ってもらえませんでしたし、先日、お庭の草取りを手伝っていただいたお礼も、まだまだ足りません。

 草取りは、反田さんが、どうしてもやらせてくれと言い張って。
「俺、草取りが大好きなんですよ! もう、死ぬほど大好きでね! でも、うち、庭がないんですよね。玄関先にお袋がプランターとかトロ箱並べて花を植えてるくらいで、草を取るっていったって、あっという間に終わっちゃってね。もう、草取りがしたくてしたくて、禁断症状が起こりそうなくらいですよ! もうね、草取りしないと手が震えてきます!」
 なんてことをおっしゃったのですが、きっと、最初にうちに来た時にわたしが雑草を気にしている素振りを見せたものですから、それで親切に手助けを申し出てくださったのだと思います。わたしが遠慮して断らないようにと、そんな面白い口実を考え出してくださったのですね。
 反田さんは、草取りは本を借りたお礼だとおっしゃっているのですが、だからって、こちらが他にお礼をしないでいいというわけはないですよね。だからわたしも、草取りのお礼にと、縁側でお茶とお菓子をお出ししたのはもちろんのこと、庭のユスラウメのジュースやきゃらぶきなど手作りの保存食、さらに、お料理好きだと聞いたお母様へのお土産にと、庭でとれた茗荷や青じそ、パセリやミントやローズマリーなどのハーブ類もいろいろと持ち帰ってもらいましたが、そんなものはちゃんとしたお礼にはなりませんし、それに、木苺のジャムは、ぜひ、反田さんに差し上げなくては……。
 だって、反田さんは、うちに立ち寄るたびに木苺を摘んで食べていて、木苺がよっぽど好きみたいですから。ジャムにすれば、木苺の季節が終わっても、また木苺を食べられます。
 反田さんは、喜んでくれるでしょうか。木苺を摘んで食べた時の、あの子供みたいな笑顔を、見せてくれるでしょうか。

 もうすぐ梅も実ります。反田さんが収穫を手伝ってくれる約束になっています。そのお礼は、採れた梅で作った梅酒と梅シロップの予定です。傷のない良い実が採れたら、青梅の甘露煮も作れるでしょうか。
 夏になったらブルーベリーも実ります。実ったら、それもお砂糖で煮て、マフィンにでも入れてみましょうか。上手く焼けたら、縁側で、お茶と一緒に反田さんにお出ししましょう。反田さんは、お酒も飲むけど、甘いものも好きなのだそうです。わたしがお出しする手作りのお茶菓子を、いつも、とても喜んで食べてくれます。一緒に食べてくれる人がいると思うと、お菓子作りも、いっそう楽しいです。

 北向きの台所はひっそりとして薄暗いけれど、真っ白なホーローの鍋の底から、お砂糖の照りを宿した小さな泡が後から後からふつふつと湧き上がってくるのを眺めていると、わたしの心の中にも、何か楽しい気持ちが静かに湧き上がって、満ちてくるのでした。

 熱いうちに瓶に詰めたジャムが冷めたら、蓋を可愛い端布でくるんで、リボンも結んで、反田さんのお家に届けましょう。それとも、もしかするとその前に、反田さんが訪ねてきてくれるでしょうか。読み終わった『指輪物語』の二巻目を持って。


   第一話『お祖母ちゃんの髪飾り事件』終わり(第二話に続く)
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
最初の『謝辞』でも書きましたが、今回完結の第一話『お祖母ちゃんの髪飾り事件』は、村崎右近様のプロット提供による作品です。
若干の変更や追加要素はありますが、かなり元プロットに忠実に書きました。
あらためて、村崎右近様に感謝を……。
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