最終話 止める側の人間に
クラスメイトと棗が立ち去った後、屋上にはいつもと同じ静寂が訪れた。
ただ1人その静寂の中に残って寂しそうに佇んでいるのは、瑠夏だった。
・・・瑠夏は思い出していた。
涙と美衣子と瑠夏の3人で笑い合い、ふざけあっていた日々の事を。
二度と戻れない思い出だとは分かっているが、もう1度だけあの日に戻りたくて仕方なかった。
この地獄のような日々を過ごしながら何度願ったか知れない。
この出来事が全て夢だったら良いのに、と。
今此処から見える惨劇は、きっと1週間もすれば
何事も無かったかのように綺麗に片付けられるだろう。
しかし、自分達全員が心に負った深い傷は、一生癒えることは無いだろう。
瑠夏は泣き腫らした目を、もう一度冷たい地面で眠る涙に向けた。
「・・・いじめって、何も生み出さないんだね。
生み出すものは憎しみや悲しみや怒りという負の感情だけ。
そして悲しみの感情は、色んなところに続いていく・・・どこまでも。
こんなことだからきっと、この世からいじめって単語が消えないんだろうね」
今更気づいても、全てが遅すぎた。
どうしてもっと早くこの事に気づけなかったのだろう。
瑠夏は自分自身を心の中で何度も罵り続けた。
しかし、そんな事をしてももう誰も自分のもとへは帰ってこない。
ねぇ、るぅ。これから1年,2年・・・10年経ってもあたしは、るぅの事を覚えているのかな。
いじめという名の数螺旋を紡ぎ合う今の人間達を止められるような人になれるのかな。
瑠夏の髪の毛の中を、優しい風が吹き抜けていく。
瑠夏の頬を流れる涙も、一緒に乾かしていってくれる。
10年後、いや・・・これからもずっと、涙の事を忘れませんように。
この悲しい事件を、今の苦しい気持ちを、絶対に忘れませんように。
瑠夏は強くそう願い、屋上を後にした。
廊下を走る瑠夏の足音だけが、暗い校内に響き渡っていた。 |