第86話 屋上
下校を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
ようやく、待ちに待った放課後がやってきたのだ。
下校時刻を5分ほど過ぎてから、涙は席を立った。
もう教室には誰も居ない。セピア色の教室は、昼間の騒がしさからは想像もつかないほど静かだった。
涙は鞄を片手に、急ぎ足で屋上に続く階段を上っていく。
・・・屋上の扉が見えてくると、無意識のうちに階段を上るスピードが速くなっていった。
棗がいる。そこを上れば、棗がいる。
涙は扉に手をかけて、勢いよく開いた。
「・・・あ、先輩!!」
いつもの笑顔が、そこにはあった。
1週間この笑顔を見なかっただけなのに、何故かとても懐かしく感じた。
「棗!」
両手を大きく振りながら、涙は棗の方へ走る。
棗はにっこりと微笑んで手招きをした。
立ち入り禁止の札がかかったロープの向こうに、彼は立っていた。
涙はそのロープを大急ぎでまたぎ、棗の傍へ駆け寄った。
「・・・すみません、いつもの柵の場所じゃなくて」
棗は少し申し訳無さそうにそう言って俯いた。
立ち入り禁止のその場所は大分前に柵が壊れ、
一歩足を踏み外したら落ちてしまいそうな、危険な場所だった。
涙は、棗が目の前にいることがとにかく嬉しくて、笑顔で首を横に振った。
「大丈夫! 棗に会えるんならどこでも嬉しいよ」
棗は嬉しそうに微笑み、ありがとうございます と言って頭を下げた。
「・・・あ、先輩。あの手紙、読みましたよね?」
「あぁ、うん! これ・・・だよね?」
涙はポケットにしまっていた手紙を棗に手渡した。
棗は内容を確認して頷き、その手紙を自分の制服のポケットにしまった。
「これは俺が持っておきますね。誰かに見られたら恥ずかしいから」
棗のその台詞で、更に涙の心は跳ね上がった。
やっぱり、この雰囲気は・・・あれしかない。
「俺、先輩に言いたいことがある、って書いてましたよね」
「・・・う、うん」
「えっと、実は・・・」
棗は一度目を瞑り、それから真っ直ぐに涙の目を見た。
「……会ってもらいたい人たちがいるんです」
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