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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第80話 悪魔


登校時刻になり、クラスメイトたちも次々に教室に入ってきた。

「ねぇねぇ、凄かったよね。涙ちゃんの靴箱!」
「あぁ、見た見た! 真っ赤になってたよね〜。誰がやったんだろ?」

そんな会話を耳にすることもあったが、瑠夏たちは全く気にせず、何事も無かったかのように会話を続けた。

暫くして、教室の扉が乱暴に開いた。瑠夏たち3人は一瞬扉の方を見て、顔を見合わせた。……涙が来たのだ。
涙は俯き加減で、しかし力強くこちらに歩いてきたが、自分の机の前で足を止めた。机の上に、小さな菊が花瓶に入って風に揺れていたのだ。
無論、その菊の花は瑠夏たちの仕業だった。涙は舌打ちをし、花瓶ごとその花を鞄ではらいのけた。

鋭い音がし、床に落下した割れた花瓶からは液体が溢れ出る。それを見て、周りにいたクラスメイトたちが小さく悲鳴を上げた。
花瓶から出てきた液体は、水ではなく真っ赤な液体だったからだ。
しかも明るい赤色ではなく、ドス黒い赤色をしていた。……そう、まるで血のように。

涙は何も言わずにポケットティッシュを取り出し、その液を残らず拭き取った。

それは血ではなく絵の具で色々加工して作った水なのだが、パッと見れば血と変わりないような色をしている。我ながら上手く作れたわね、と瑠夏は小さく笑みを浮かべた。

そのまま涙は表情一つ変えず、席に座った。花瓶を片付けようともしない。
痺れを切らした瑠夏は静かに立ち上がり、笑みを浮かべて涙の方へ歩き出した。

「おはよ、涙」

涙はゆっくりと顔をあげ、瑠夏を軽く睨んだ。いつもは“るぅ”と呼んでいたのに、今瑠夏が“涙”と呼び方を変えたことに気がついたようだった。しかし、すぐに『勝ち誇ったような顔』をして、涙はにたりと笑った。

「おはよ、瑠夏。それから……、“前田さん”と“中山さん”」
「……あのさ、涙。見たよー、下駄箱。凄い事になってたわね」

それを聞いた涙は、うん、と頷いてクスクスと笑った。

「正直、もうちょっと凄いことされてるかなって思ってたんだけど、案外普通だったわね。やった奴らは相当幼稚だったとしか思えないわ。頭が足りない人たちなのね、きっと」

その言葉を聞いた瑠夏は、流石に頭にきた。
涙は、あれをした犯人が瑠夏たち3人だと知った上でこんな憎まれ口を叩いているに違いない。

「…………ねぇ、涙」

瑠夏はぱっと手を伸ばして、涙の胸ポケットからはみ出していた財布を取った。
その財布は、普通の女子中学生には到底手が届かないような、有名なブランドの財布だった。

「わぁ、すごいわねー。ってか、何これ? 涙ってこんなに金持ちだったっけ?」

涙は何も答えない。ただ瑠夏を睨みつけている。
瑠夏はおもむろに財布の中身を確認し、必要以上の大声で叫んだ。

「何これ! 中身、諭吉さんばっかりじゃん!」

それらすべてを取り出して、1枚1枚数える。

「1万円札が1,2,3……。……え? に、27万?」

あまりの大金に、瑠夏も動揺を隠せない。
クラスメイトたちもその金額に驚いたようで、こちらの方に視線を注いでいる。
京子が恐る恐る瑠夏の手から財布を受け取り、それを涙に渡して、引き攣った笑みを浮かべてこう尋ねた。

「も、もしかして涙って……援交……とか、してるの?」

クラスメイトたちは、瑠夏のその一言でざわつき始めた。
不快そうに眉を顰める男子、ニヤつきながら涙を見る女子。全ての人間が涙を軽蔑の眼差しで見つめていた。
涙は勝手な想像をされることに腹が立ったらしく、真っ赤な顔をして大声で怒鳴った。

「うるさいわね! 黙りなさいよ!」

しんと静まり返る教室内。
涙は腕組みをして教室内を睨みつけると、大きく舌を出して叫んだ。

「このあたしが援助交際なんてやってるわけないでしょ? ただ、変態ストーカーに美衣子の情報を売って稼いでただけよ。……悪い?」












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