第7話 仲間
瑠夏と廊下に出たあたしは、一度教室の中を覗き込んだ。
……よし、美衣子はちゃんと課題をやり始めたみたいだ。
美衣子はああいうことをしている間、話しかけない限りずっと集中して勉強をしているから、なるべくバレないように行動を開始しよう。
瑠夏の手を握り締めて、先程出たほうとは違う扉から、再び教室内に入る。
扉からすぐ近くのところには、女子の集団が集まって話をしていた。その中でもいちばん明るい、クラスの中心的なグループを狙って、瑠夏が声をかける。
「ねえ、ちょっといいかな?」
瑠夏の声に気づき、そのグループの中心人物である中山京子が首を傾げて此方を向いた。
「ん? どうしたん?」
「あのさ、ちょっと聞いて! マジ、最悪な事があってさぁ!」
瑠夏が、音量は小さいけれど荒々しい口調で京子の方に詰め寄る。
そして、一旦あたしの方に視線を振ってきた。……あたしは、ワザと哀しそうな顔をして、静かに俯く。
「ねぇ、るぅ。……京子たちに言っても、良い?」
瑠夏が遠慮がちに尋ねてきたので(勿論演技だけど)、あたしは少しだけ躊躇う素振りを見せた。
「え……だけど、それは……ちょっと……」
あたしの様子がおかしいと気づいた京子が、あたしの手を握り、優しい笑みを浮かべて、こう言った。
「なんか悩みでもあるの? 力になれないかもだけど、もし良かったら相談にのるよ? ね、みんな」
京子が問うと、グループの女子は、勿論だよ。と言って一斉に頷いた。
その優しさに、あたしの胸の中はあたたかい気持ちでいっぱいになる。
「……ありがとう。でも、やっぱりあたしの口から話すのは辛すぎるよ……。だから、瑠夏、お願いできる?」
「うん、勿論。それじゃあみんな、るぅのかわりに話すからよく聞いてね。4日前のことなんだけど……、」
瑠夏はあたしの手を握り締めながら、みんなに4日前の出来事を話し始めた。
京子と、そのグループの子達は、みんな頷きながら、真剣に話を聞いてくれた。
話を聞き終わった京子達は驚きの色を隠しきれない様子だった。
あたしの方を見ながら、必死に言葉を選んでいるようだ。
……暫くの重苦しい沈黙の後、京子が小さな声で、尋ねてきた。
「あの、……そ、それってもしかして、美衣子が……るぅを裏切ったって事、なの?」
「……。やっぱり、そうなるよね」
あたしはそう言って、力無く笑った。
頑張って泣くのを我慢してたのに、夕焼けに染まった2人の幸せそうな笑顔が脳裏を掠めて、何故か分からないけど、すごく惨めな気分になった。
気がつくと、両目からは大粒の涙が溢れ出していた。
しゃくりあげながら泣くあたしに、京子がそっとハンカチを差し出してくれる。
それを受け取って涙を拭いながらお礼を言うと、京子は唇を噛んで、言った。
「美衣子って最低なんだね。あたし、美衣子がそんな子だなんて知らなかった……。るぅ、もう大丈夫だよ。あたしたちみんな、るぅの味方だからね。だから、安心していいよ」
京子のその言葉で、またあたしの目には涙が浮かんだ。
どうしよう。涙が止まらない。止まらない……。
だけど、辛くないよ。苦しくないよ。痛くないよ。
言葉にならないくらいに、嬉しいよ。
京子のハンカチで涙を拭いながら、あたしは掠れた声を絞り出した。
「美衣子を、懲らしめたいの。お願い。協力してもらえないかな……?」
京子は、迷うことなくあたしの両手を掴んで、力強く頷いた。
「勿論、協力してあげるに決まってるでしょ! だってあたしたち、友達なんだから!」
「……っ……ありがとう……」
みんなの優しさが嬉しすぎて、あたしは涙を流し続けた。
瑠夏が微笑みながら、あたしの頭を撫でてくれる。あたしは泣き腫らした目を瑠夏に向けて、瑠夏と同じように小さく微笑んだ。 |