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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第78話 再び


いじめる相手がいなくなったから、もう次のターゲットを探し始めた涙。
瑠夏と京子はそんな涙に呆れ、そして底知れない憤りを感じていた。

「あ、ところで昨日の数学の課題やってきた? あたしやるの忘れちゃったのよね」

突然の涙のその問いかけに、瑠夏は待ってましたとばかりに頷いた。

「やってきたよ。見せてあげる」
「ほんとー? ありがと!」
「うん、いいのよ」

瑠夏は自分の席へ一旦戻り、引き出しを漁った。
机の中から数学のノートを取り出し、口の端を吊り上げて微笑む。

「るぅ、投げるから、ちゃんと受け取ってね!」
「え……っ?」

自分のもとへ持ってきてくれると思っていたのだろう。
油断していた涙が、慌てて両手を伸ばす。……しかし、遅かった。
次の瞬間、痛々しい音がした。涙の頭にノートのカドが当たったのだ。

「きゃあ!」
「あっ……、るぅ、ごめん! だ、大丈夫?」
「……へ、平気、よ」

涙は引きつった笑みを浮かべ、瑠夏から目を逸らした。……きっと涙は気がついたのだろう。
この手口は、涙が美衣子をいじめていた時のものとほとんど同じだという事に。
瑠夏が涙に“謝るフリ”をしている間に、京子が涙の机の上から筆箱をとった。
素早く窓を開け、涙がこちらを振り返らないことを確認してから、全身に力を込めて筆箱を外へ投げ捨てる。
筆箱はかなり遠くへ飛び、濁りきった水の溜まっているプールへ音を立てて吸い込まれていった。

「本当にごめんね、るぅ」
「大丈夫だってば。どこも怪我してないから」

涙はそう言って、自分の机上に視線を振り、あれ? と間抜けた声をあげた。

「どうしたの?」
「筆箱が無い」
「え。うそ、どうして?」
「わからないわ。……さっきまで机の上にあったはずなのに」

少し不安げに表情を曇らせる涙を見て、瑠夏は心配そうにこう言った。

「そっか、書くものないと宿題うつせないもんね。シャープペン、貸してあげる」
「え、やったー! それなら別に筆箱なんてなくてもいいやー」

その嬉しそうな笑顔を見た瑠夏は、心の中で毒づいた。
まったく、涙の立ち直りの速さは尋常ではない。

「じゃあ、奈々。るぅに何か貸してあげて」

それを聞いた涙は、意外そうな顔をして瑠夏の顔を見つめた。いつの間にか廊下から戻ってきていた奈々は、自分の席に座ったまま口を尖らせて小さく頷いた。

「……わかりました。涙さん、どんなのが良いですか?」

涙は若干奈々を睨みつけながら少し考える素振を見せ、すぐにしまりのない笑顔を浮かべた。

「じゃ、とりあえず全部貸してくれる?」
「……」

奈々はそれを聞くが早いか、筆箱の中身を机の上にぶちまけた。そしていきなり、それを力一杯涙に向かって投げつけ始めたのだ。

「痛っ! ちょっ、やめてよ!」

奈々は何も聞こえないフリをして、更に力を込めて筆箱の中身を投げ続けた。
涙の悲鳴や叫び声は、クラス中の人間に聞こえているはずだった。しかし、涙が美衣子をいじめていた時と同じように、クラスメイトは何も言わなかった。こちらに視線を向けようとさえしないのだ。
涙はそんなクラスメイトたちに苛立ちながら、小さく蹲り必死に奈々の攻撃から身を守ろうとした。

「痛いっ!」

そんな中聞こえた、一際大きな涙の悲鳴。
思わず瑠夏が様子を見ると、奈々の投げたコンパスの針が涙の手の甲に刺さって皮膚を破り、薄く血が滲んでいた。
血を見つめて悔しそうに唇を噛み締める涙。奈々は自分の席から立ち上がり、こちらの方へ歩いてきて、涙に手を差し伸べた。

「……大丈夫ですか? すいません、全部って言うから全部投げたんですけど」

奈々は悪びれた様子も無く、事も無げにそう言った。
涙は顔をあげ、そんな奈々を力一杯睨みつけた。
しかし奈々は怯むどころか、そんな涙を睨み返し、制服のポケットに手を突っ込んで絆創膏を取り出した。

「はい、これあげます。貼っておいた方が良いですよ」

まるで人事のようにそう吐き捨て、涙の目の前に絆創膏を落とす。
涙は両手の拳を握り締め、怒りで体をブルブルと震わせた。
そしてキッと顔をあげ、奈々に向かって怒鳴った。

「奈々! あたしに怪我させたの、わざとでしょ!」

奈々はいつもどおりの平然とした表情カオで涙を見下ろし、静かな声で、言った。

「奈々、なんて呼ばないでください」
「……は?」
「よく考えたら奈々と涙さんって、そこまで仲良くないじゃないですか。だから、奈々のことは名字で呼んでください。親しくもないのに名前で呼ばれると気分悪いです」

涙は不機嫌そうに眉間に皺を寄せたが、ふんと鼻を鳴らして頷いた。

「分かったわ。その代わり、あんたもあたしの事名前で呼ばないでよ?」
「ええ、言われなくてもそうするつもりですよ。……葉山さん」

その会話を聞いていた京子が、すぐさま話に割り込んだ。

「じゃ、私もそこまでるぅとは仲良くないから、今度からは、京子って呼ばずに名字で呼んで。あたしも今度からは、るぅじゃなくて葉山さんって呼ぶから」
「……」

涙は、何も答えず京子を睨みつけ、瑠夏の方に視線を向けた。

「瑠夏は今までどおりでいいわよね。だってあたしたち、親友じゃん?」

瑠夏はすぐにでもそれを否定してやりたかったが、我慢した。

「うん。……良い、よ」












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