第74話 海
雨は一切止む気配を見せず、降り続いている。そんな凄まじい雨の中、傘も差さず崖の上から海を眺める人物がいた。
……その人物は、言うまでも無く美衣子だった。
美衣子は今、荒れ狂う海を見つめながら何かを決意していた。
彼女は、幼い頃から海が好きだった。
とても力強い波の音。しかしその音はたまに優しい音へと変わり、人々を癒す。
瞼を閉じて、もうこの世にはいない、雪山との思い出を呼び起こす。
……とにかく素敵な事ばかりだったあの頃。まだ4ヶ月程しか経っていないはずなのに、何故か酷く遠い昔の記憶のように思えた。
美衣子はそっと瞼を開き、瞳の中に雨が落ちてくるのも構わず空を見上げた。
それから口を開いて、空に向かってこう言った。
「ごめんね……」
雪ちゃん、るぅちゃん、瑠夏ちゃん、京子ちゃん、奈々ちゃん、お母さん、お父さん。
こんな私のわがままを、どうか、どうか許してください。
美衣子は力強く目の前を見据え、1歩、また1歩と海の方へ足を進めた。
雨に濡れた衣服はとても重く歩き難かったが、そんな事は気にもならなかった。
「みんな、今まで有難う」
弱虫な私を支えてくれて、護ってくれて、ありがとう。
瞳を閉じる。美衣子の頬に、雨と共に涙が流れた。
雨の音が少しずつ、沢山の拍手や歓声に聞こえてきた。
今までの自分の頑張りを認めてもらえたようで、少し嬉しかった。
すぐ真下に海が見える場所まで来て、少し美衣子の足が震えた。
それでも美衣子は首を横に振り、自分の腹を抱き締めるように押さえた。
美衣子は大自然の拍手に身を包まれながら、海に向かって身を投げた。
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