第72話 最後の電話
迷わず瑠夏の携帯番号を押し、携帯電話を耳にあてる。
今はお昼休みのはずだから、きっと電源を入れているはずだ。
何度か呼び出し音が鳴り、すぐに瑠夏の元気な声が電話の向こうから聞こえてきた。
『もしもし、美衣子? どうかしたの?』
美衣子は電話を耳にあてたまま、玄関へと移動した。
「ううん、なんでもない……ちょっと、声が聞きたかったの」
『そうなのんだ。あ、そういえば、美衣子そろそろ学校来れるんだよね?』
「う……うん」
『みんな待ってるよ。あと、学校終わったら、速攻で奈々と京子と一緒に遊びに行くから待っててね!』
美衣子は靴を履き終え、扉を開けて外に出た。外の空気が美衣子の体の中を通り抜けていく。
美衣子は微笑み、電話の向こうにいる瑠夏に向かって、静かにこう言った。
「ごめん、瑠夏ちゃん。今日は遊べそうに無いの」
『え? どうして?』
涙を堪える事が出来ず、美衣子は嗚咽を洩らした。
それに気づいたのか、瑠夏が慌てた声を出した。
『ど、どうしたの、美衣子!』
「な、なんでも、ない、よ」
『なんでもなくないでしょ! 待ってて。今からそっち行くから』
「い、いいの、来ないで!」
思わず大声で怒鳴ってしまった。電話の向こうは、一瞬静けさに包まれた。
辺りのざわめきだけが携帯電話の向こうから聞こえてくる。
「大丈夫だから、来ないで」
今度は少し冷静に、呟くように美衣子は繰り返した。
『美衣子?』
「ありがとう、瑠夏ちゃん」
『え?』
「……友達になってくれて、ありがとう」
ただならぬ気配に、瑠夏の声が低くなる。
『美衣子、本当にどうしたの? 何かあった?』
「……嬉しかった。本当に楽しかった。今まで、ありがとう」
瑠夏が何度も、美衣子! と叫び続けている。
しかし美衣子はすぐに通話を切ると、携帯電話に向かって微笑んだ。
「さよなら」
|