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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第68話 あたしは悪くないもん


……それから2ヶ月ほどの月日が流れた。美衣子の新しい家が建つまであと1ヶ月程度。
美衣子は、あと2週間くらいで学校へ行けるように頑張る、と笑顔で瑠夏たち3人に話した。
瑠夏たちはそれを聞いて勿論喜んだが、しかし、1つだけ不安な事があった。それは勿論、涙の存在。

瑠夏、京子、奈々は、美衣子の不安と自分たちの不安を消すために、涙と直接話をすることを決めた。
瑠夏は、教室で1人机に座って携帯をいじっていた涙の傍に駆け寄り、出来るだけ笑顔で話しかけた。

「ね、ねぇ、るぅ。ちょっといいかな?」
「……ん、何?」

涙は顔を上げ、にぃっと笑みを浮かべて首を傾げた。その悪魔のような笑みを見て、瑠夏の背筋は凍りついた。
瑠夏の隣に京子、奈々が待機しているのを見た涙は、あぁ、と何かを理解したように口の端を吊り上げて笑った。

「……何、話したいことでもあんの?」

3人が頷くよりも先に、涙は自分から席を立った。

「じゃ、どこで話す? ……校舎裏でいいよね。行こうか」

涙は1人で喋ると、すたすたと歩き出した。
瑠夏たち3人も、少し戸惑いながらその後をついていく。

涙は、瑠夏や美衣子と親友だった時とは全くの別人になっていた。
今はただ美衣子を苦しめることだけを考えている、悲しい人間になってしまっているようだった。


「……で、何? あ、もしかして美衣子いじめに入れて欲しいとか?」

悪戯っぽく笑う涙。3人は怒りのこもった瞳で涙を睨んだ。
涙はその目を見て、冗談冗談。と更に高く笑い声を上げる。

「ま、そんなわけないか。もうとっくにあたしのコト裏切ってんだし。もし今更いじめ仲間に加えろとかいっても加えてやらないわよ」
「加えてもらう気なんてないわ。……ねぇ、るぅ。もうやめて? 美衣子は、変な男からストーカーみたいなことされて精神的に辛くなってるの。お願いだから、もうこれ以上美衣子を傷つけないで」
「……涙さん。もう雪山先輩はこの世にいないんですから、美衣子さんをいじめる理由はもう無いんじゃないですか? それなのに美衣子さんをいじめようとする精神が、奈々には理解不能です」

涙は自分に降りかけられる数々の非難を、うざったそうに何度も溜息を吐きながら聞いていた。
しかし、突然大きく口を歪めて笑い、こう言ったのだ。

「……まぁ、確かにあのヲタクはキモかったよね。勘違いしか出来ない、ニートの馬鹿男」
「え?」

その言葉に、瑠夏が困惑の表情を浮かべた。
奈々と京子も顔を見合わせて眉を顰めている。

「……何よ」
「ちょ、ちょっと待って。るぅは……あの男の姿を見たことがあるの?」

涙は、うん、と頷くと事も無げにさらりと瑠夏の質問に答えた。

「だってあのオヤジに美衣子を紹介したの、あたしだもん。そりゃ知ってるに決まってるっしょ? 何度も会った事あるし」
「う、うそ……紹介って……るぅが……?」
「信じらんない……。るぅ、そんなことまでしてたの?」
「ふふ、驚いた? あの男、働いてないくせに結構いい金ヅルだったしね。美衣子の情報ならいくら出してでも買っていったわ」

瑠夏はその言葉で怒り狂い、涙の頬を平手で打った。
涙は一瞬だけ両目を瞑ったがすぐに目を開き、まるで3人を挑発するかのように笑い声をあげた。

「……あいつ、死んだのよね。美衣子と会うって言ってた夜から携帯繋がらないし。美衣子が殺したんでしょ?」

あたしには関係ないことだけど。と呟き、涙はにやにやと不快な笑みを浮かべた。
京子は拳を握り締め、顔を真っ赤に染めて俯いていた。もう少しで涙に殴りかかっていきそうなくらい怒っているのだ。
奈々は瞳に涙を溜めて、涙のほうへ少し身を乗り出した。

「許せないです……。涙さん、最低ですよ!」
「は? 何言ってんのよ。あんたらだって虐めてたでしょ。……美衣子のこと」

それを言われると、返す言葉はない。しかし、3人はなんとしてでも涙の暴走を止めたかった。

「涙! あんたがやった事、全部警察に……っ」
「あは、言ってみれば? 証拠なんてないけどね」

涙は高らかに笑い声をあげ、更に続けた。

「大体さ、今の大人って役に立たない人が多いんだよ? 大人に相談したところでどうにもならないわ。だってこれはあたしたち子供が引き起こしたことなんだもん、まじめに取り合ってくれるはず無いでしょ? 子供の気持ちなんて、大人にはわからないんだから」

それを聞いた京子の頭には、あの時相談しようとした警察官の顔が浮かんだ。
しかし京子は首を激しく横に振り、大声で叫んだ。

「そんなこと無い! 真剣に言えば、聞いてくれる人もいるはずよ!」
「じゃあ聞くけど、あたしが美衣子をいじめて証拠はどこにあるの? 動機はどうやって説明する? もう雪山はいないし、証人なんていない。あたしがあの男とコンタクトを取ってたっていう証拠はあるの?」
「そ、それは、……あの男の携帯電話か涙の携帯電話を調べれば、2人がメールしていたことは明らかだわ。そうすればそれが動かぬ証拠になる。……涙、あんたは逮捕されるのよ!」

それを聞いた涙は、やれやれと首を横に振る。

「あんたねぇ、そんな事このあたしが対策練ってないとでも思ってるの? もう1ヶ月も経つんだし、警察に見つからないうちにあたしがあいつの死体を捜してきたわ。そしたらあいつ、案の定隣町の山奥で腐りきってた。ああ、思い出すだけで吐き気がするわ。気持ち悪い」

涙はそこで微笑み、ポケットから赤く染まった携帯電話を取り出した。

「!」
「それ、まさか……」
「そう。あいつの携帯電話よ」

涙は笑いながらその携帯電話の電源ボタンを押した。

「最初は電池切れなのかと思ったんだけど、完全に壊れてる。どうやら美衣子があいつを殺した時にこれも一緒に殴っちゃったみたい。あ、凶器は石みたいね。傍にべったり血のついた石が転がってたから」

涙はその携帯を地面に落とし、大きく足を振り上げた。

「……これで完全に証拠隠滅よ!」

携帯電話を力一杯踏みつける涙。何かが弾ける音がして、携帯電話はバラバラに砕け散った。
無残な姿になってしまった携帯電話を、3人は呆然と見つめた。

「はい、これで完璧に携帯自体は使い物にならないわよ。まぁ、携帯会社とかに問い合わせたらどうにかなるかもしんないけどね」

涙のその言葉でハッとした瑠夏が、慌てて奈々に指示を出す。

「……それだわ! 奈々、今すぐ携帯会社に問い合わせて!」

奈々は大きく頷いて自分の携帯電話で携帯会社に電話をかけようとし始めた。涙は余裕の笑みを浮かべてそれを見て、静かにこう言った。

「やめとけば?」
「は? なんでよ。やめるわけないでしょ!」
「やっぱあんたたち馬鹿ね。わかんないわけ? あたしも捕まるかもしれないけど、美衣子があいつを殺した事もバレるわよ。……あの状況だもん、目撃者もいないし、正当防衛が通用するかしらねぇ?」

笑いながら肩をすくめる涙に、3人は苛立ちを隠せない。

「それに、」

涙はなんとも嬉しそうな表情を浮かべて、3人の方へ2,3歩歩み寄った。

「あたしには最終兵器があるから」

最終兵器、という言葉を聞いた3人は困惑した表情を浮かべた。
一体なんのことだろう。瑠夏が訊くよりも先に、
涙は制服の手首についているスナップを外し始めた。

露になった手首に残っていたのは―――……、涙が自分で自分を傷つけていた時の、あの傷跡だった。

「そこまで深く切ってないから、大分治ってきてるけど、どう見たって刃物で切った傷にしか見えないわよ。……あたしはこれを言い訳にすれば良いのよ。『美衣子があたしに対して酷いいじめをして、あたしはすごく傷ついた。だからあたしも仕返ししたいと思って……』ってね。その発言を裏付ける証拠はここにある。たとえそれが嘘だったとしても、馬鹿な大人にはそんなことわかんない、ってわけよ」

涙はそう言って、口元に笑みを浮かべながら自分の手首についた傷跡を撫でた。
瑠夏はその言葉に更に驚き、そして更に怒りを露にして叫んだ。

「そ、そんなこと許せない! 許さないわよ、るぅ!」
「うるっさいわねー。大体、あんたたちにはもう関係ないことでしょ。馬鹿らしいから、あたし教室帰るわ」

涙は笑みを浮かべたまま3人の傍を通り抜けていった。
3人は涙を追いかける事すら出来ず、ただ立ち尽くしていた。

何かを思い出したように涙が途中で立ち止まり、くるりとこちらを振り返る。そして、こう言い放った。

「あたしは悪くないもん。悪いのは全部あんたたちと美衣子よ」












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