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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第62話 恐怖のドライヴ


春になろうとしているとはいえ、夜の街は想像以上に寒かった。
美衣子は震える体を抱きすくめながら腕時計を確認した。……あと少しで9時だ。約束の時間になる。

あと10秒、9秒、8秒………3、2、1、……ゼロ。
時計の針が9時を指した瞬間、前方から小さな乗用車がやってきた。
運転席の窓が開き、そこから顔を覗かせたのは、

「美衣子ちゃん、お待たせ!」

言うまでも無く、あの男だった。
男はにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべている。
美衣子の足が、ガクガクと震え始めた。今すぐここから逃げ出したいという衝動に駆られたが、必死に笑顔を取り繕った。

「こ、こんばんは」
「こんばんは。……さぁ、乗って」

美衣子は車に乗るのを躊躇ってしまい、気を落ち着かせるために会話を続けた。

「あ、あの、……す、素敵な車ですね」
「そうかな?そう言って貰えて嬉しいよ」
「えっと、今夜は、その……ええと、月が綺麗ですね」
「うん。でも、ちょっと寒いね」
「は、はい、……そう、ですね」

話は途切れ、車のエンジン音だけがあたりに響いた。
美衣子はとうとう観念して、車の扉を静かに開けた。

「それじゃあ、失礼します……」
「うん、どうぞどうぞ」

車の中に乗り込んだ美衣子は、沢山の美少女フィギュアが所々から顔を覗かせていることに気づき、こっそり顔を顰めた。

「美衣子ちゃん、どこか行きたい場所はある?」
「いえ、ありません。お任せします」
「そう? わかった。それじゃあオススメの場所を紹介するよ。ふふふ。僕、今夜は美衣子ちゃんと沢山話したいな」

その言葉に美衣子は身震いしたが、顔をついと上げて、小さく頷いた。

「はい。私も貴方とお話したいことがありますので」

車はそのまま道路に出て、暫く暗闇の中を突き進んだ。

「美衣子ちゃんの話したいことって、何?」

男の問いに、美衣子はごくりと唾を飲み込んだ。今言うべきか迷ったが、静かに口を開く。

「えっと、……あのですね」
「うん、何かな?」

美衣子は男の横顔を見据えて、ワザと少し大きな声で言った。

「私、……貴方とお付き合いすることは出来ません!」

車内に緊迫した空気が立ち込めた。重い空気。男が何も言葉を発さないので美衣子は心配になった。

「あの、」

美衣子が口を開きかけた時、男が車のアクセルを踏み込んだ。
車はどんどんスピードをあげ、急な坂道を登っていく。
美衣子は少し驚いたような顔をして、窓の外と男の顔を交互に見た。
……すると、男は突然、震える声で質問してきた。

「な、な、なんで? なんで、どうして僕と付き合えないの?」

美衣子は自分の思っていることを素直に話す事にした。
両手を握り締め、硬く両目を閉じて語り始める。

「あなたが殺した雪ちゃんが、私が愛していた人だからです。私にはあの人しかいなかった。それなのに、あなたはあんなことをした。私は今、本当に腹が立っているんです。今すぐあなたを殺したいくらいに。……お願いします。今までの度を越した嫌がらせを許してあげますから、このドライブを最後にして、もう二度と私の前に現れないで下さい」

男は再び口を閉ざした。車はアクセル全開で坂道を登り続ける。
美衣子は焦りながら外の景色を見た。額に嫌な汗が滲んだ。

一体ここはどこだろう? 坂道を登っていることは確かだけれど、明かりが無い。
遥か下の方に、小さな街頭がぽつんと見えるだけだった。

「あの、すみません! やっぱり……」

おろしてください、と美衣子が言うよりも先に、車は急に停車した。
美衣子は慌てて扉を開けて外に出た。……そこには闇が広がっていた。
男も運転席からおり、にやりと口の端を歪めて笑った。

「ここは、僕の好きな場所なんだ」
「あの、ここ、どこですか?」
「隣町の山奥だよ」

山奥、と聞いて得体の知れない恐怖を感じた美衣子は、少しずつ男から離れた。
男も美衣子の方へと少しずつ近寄ってくる。距離は縮まらないし離れもしなかった。

「ほら、見て。この真っ暗闇。この山には街灯が無いんだ。だから、夜は滅多に誰も近寄らない」

男はだんだんスピードをあげて美衣子に近寄ってくる。距離は少しずつ縮まっていった。
美衣子は叫び声をあげて後ずさった。距離は少しずつ離れていった。

「嫌……っなんなんですか! 来ないでください、私に近寄らないで!」
「ふふふふ……。ここには誰も近寄らない。その言葉が何を意味するか、分かるよね?」

男は怪しく笑って、素早く美衣子の腕を、強い力で掴んだ。

「ここで何をしても、誰にも見つからないって事だよ!」
「い……っいやあああ!」

美衣子は大声で叫びその手を振り払い、生い茂った森の方へと走り出した。












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