第53話 二度と訪れぬ日々
「お邪魔しました」
瑠夏、奈々、京子の3人が声を合わせて、美衣子に向かって深々と頭を下げた。
美衣子はその態度に驚き、慌てて両手を激しく横に振った。
「そ、そんな気を遣わないでいいんだよ? えっと、今日はありがとう。良かったらまた遊びに来てね」
「うん。此方こそありがとう。あ、お茶ご馳走様でした!」
「またるぅが何かしそうになったらあたし達が全力で止めるから。これからはあたし達もこっそり味方についててあげるから安心して! それじゃあ、あたし達帰るね……、って、あれ? 奈々、何してんの?」
奈々は玄関の靴箱の前で、なにやら携帯電話を弄っているようだ。
右手に自分の携帯電話、そして左手には、美衣子の携帯電話。奈々は少し俯き加減のまま、小さな声で自分が今やっていることの意味を説明し始めた。
「奈々は、るぅさんがこのまんま黙ってるとは思えないんです。だから、もしもの事があった時のために、奈々たちの電話番号を美衣子さんのアドレスに送っておこうと思いまして……」
「あ。それ良い考えかも。じゃ、あたしも送るね〜」
瑠夏の電話番号は登録済みだが、奈々と京子の番号は無い。少しずつ仲間が増えて、美衣子は少しだけ心強さを感じた。
「よし、それじゃあ、送信……っと」
京子と奈々がほぼ同時に送信ボタンをクリックした。
何秒かして、メール受信の音楽が軽快に流れ出した。その受信音を聞いた美衣子は、一瞬体を強張らせた。以前あの男からメールが来た時の事を思い出してしまったのだ。
(やだな、気持ち悪い。早くメールの着信音変えなくちゃ)
美衣子は1人で深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
……大丈夫、これはあの男からのメッセージじゃない。
大切な仲間からのメッセージなのだ。……だから大丈夫。
そう自分に言い聞かせても、怖くてメールBOXを開くことが出来ない。
「どうです? 届きましたか?」
いつまでも携帯電話のボタンを押そうとしない美衣子を見て不安に思ったのか、少し躊躇いがちに、奈々がそう訊いてきた。
美衣子はそれを聞いて我に返ってボタンを押し、笑顔で首を縦に振った。
「う、うん。届いた! ありがとう、奈々ちゃん。 これでいつでもみんなと電話できるんだよね! 本当にありがとう。私ね、明日からは学校にもちゃんと行くし、るぅちゃんともきちんと話する。また5人仲良く過ごせる日が来るといいね……」
瑠夏たちは笑みを浮かべて、大きく頷いた。そして玄関の扉を開け、美衣子に向かって手を振った。
「それじゃあ、ばいばい!」
「また明日、学校でね」
「さよなら。……あ、もし何かあれば電話くださいね。待ってます、から」
3人の笑顔が扉の向こうに消えてしまっても、まだ美衣子は手を振っていた。
にっこりと微笑んだ美衣子の頬を、一筋の涙が伝う。……それは嬉し涙だった。
初めてあの3人と心を通わせることが出来たことに、美衣子は堪らなく感激したのだ。
ねぇ雪ちゃん、大丈夫だよ。雪ちゃんがいなくなっちゃっても私、1人じゃなかった。
いつかるぅちゃんも一緒に、5人で仲良く出来る日が、きっと来るよ。
だから……ねぇ、雪ちゃんも応援していてね? ずっと見守っていてね?
(なんか眠くなっちゃったな)
美衣子は瞼を擦りながら窓の外を見上げた。空には沢山の星がきらめいている。
「雪ちゃん、おやすみなさい」
窓を閉め、施錠をして、布団の方へと向かう。そしていつもどおり布団に包まって幸せな気分に浸った。
美衣子はまだこの時気づいていなかった。この後、自分の身に何が起こるのか―――。
そして、5人で仲良く過ごす日なんてものは、もう二度と来るはずの無い未来だということを。
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