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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第50話 単独行動


3人と別れた後、涙は商店街を歩いていた。
左手で髪の毛、そして右手で携帯電話を弄りながら。

ふと前方を見ると 深く帽子を被った太めの男が
辺りを見回しながら此方へ歩いてくるのが見えた。
その男は涙の真横をそそくさと通り過ぎていった。
涙は横目でその顔を確認し、ふふっ、と小さく笑った。

携帯電話を閉じて、その男の後ろへと駆けていく。
そして、男の背中を、何度か優しく叩いた。

「ねぇ、おじさん」

男は酷く慌てた様子で振り返った。
それは、嫌というほど見覚えのある、あの太った男の顔だった。

「初めまして。あたし、美衣子の親友なんだけどさ、突然だけど、聞くね。……おじさん、美衣子の家に火をつけた犯人でしょ?」

男は慌てて逃げようと身構えた。が、しかし涙はにっこりと笑って首を横に振ってみせた。

「あ、大丈夫よ。あたし、おじさんを警察に連れて行こうなんて思ってないから。ねぇねぇ、そういえば、雪山先輩を線路に突き落としたのもおじさんだよね? あたし実はあの駅にいたんだぁ。だからおじさんの顔も記憶しちゃってるんだよね」
「うん……ぼ、僕が落としたんだ……。でも、実はそのせいで警察に追われて困ってるんだ」
「ふ〜ん。じゃあ警察に捕まる前に、美衣子から預かった伝言伝えなくっちゃね」

涙のその言葉に、男の瞳が輝いた。本当は美衣子に伝言など預けられてはいないが、涙はこれから、綿密に練った“ある作戦”を実行しようとしているのだった。

「ね、おじさん。教えて欲しい?」
「うん、是非お願いするよ」
「んっと……教えてあげても別に良いんだけどさ、今いくら持ってる? 財布の中身次第で教えてあげる」

それを真に受けたらしい男は、慌てて汚いポケットから財布を取り出した。
そして、その財布を丸ごと涙に手渡した。財布は大きく膨れている。小銭の擦れあう音もした。……大分大金が入っているらしい。

「え、これ全部貰って良いの?」
「うん。全部いいから、早く教えて!」

きゃあ嬉しー! とワザとらしく黄色い声を上げた涙は、すぐさま、傍の公園のベンチを指差した。

「じゃ、あそこでゆっくりお話しよ」


***


公園のベンチに腰掛けた涙は 男に“嘘で固めた伝言”を伝え始めた。

「おじさん、こないだ雪山先輩を線路に落としたでしょ? それで先輩死んじゃってさ、美衣子、かなり嬉し泣きしてた。あのおじさんに、本当にありがとうって言いたい、ってさ。でも丁度携帯が壊れちゃってて、伝えられなくて困ってたよ」

男は鼻息を荒くしながら目を輝かせている。
あまりにも単純すぎて、涙は小さく鼻で笑ってしまった。

「……と、ここまでが伝言なんだけどね。財布ごとくれたお礼に、秘密の事を教えてあげる。でもこの事を言ったって事は、美衣子には内緒だよ?」
「え? ……う、うん。何だい?」

疑う事すらしてこないオヤジに向かって、涙は更に口から出任せを言い続ける。

「お葬式が済んだ後、『美衣子はあのおじさんと付き合うんでしょ?』って聞いてみたの。だけど美衣子はね、『ううん、できる限り利用したら捨てるつもり』……って言ってたの。いくら親友でもあの発言は酷いと思ったから、一応、報告しておくね」
「……み、……美衣子ちゃんが、本当にそんなことを言っていたのかい?」
「うん。これは事実だよ。だって、ちゃんとあたし目の前で聞いたし」
「い、いくら美衣子ちゃんだとしてもその発言は許せないよ。僕の事を散々利用して、警察に追われるようになったら捨てるって事?」
「う〜ん……まぁ、そういう事なんじゃない?」

表では深刻そうに話してはいるが、内心で涙は笑いを堪えるのに必死だった。
すっかり涙の言葉を信じてしまっている男は、悔しそうに唇を噛み締める。
それを見た涙は心の中で飛び跳ねて喜んだ。……計画は順調に進みつつある。

「……美衣子ね、家が全焼して今まで入院してたんだけど、今日からアパート暮らしするんだって。
しかも学校があるからアパートには1人暮らしらしいのよ。両親はちょっとだけ離れた祖母の家に泊まるんだってさ。ねぇ、おじさん。……これってチャンスじゃない?」

涙はそっと男の手を握って、男の顔をじっと見つめた。男は涙の言っている言葉の意味が分からないらしく、首を傾げている。涙は男の耳に唇を寄せ、小さな声で、妖しくこう囁いた。

「美衣子を自分のものにしたいって思わない? 今ならあたしも協力してあげるよ?」

ようやく涙の言葉の意味を理解したらしい男は暫く躊躇ったが、小さく頷いた。
涙はそっとほくそ笑み、心の中で美衣子の傷ついた表情を思い浮かべた。
ずっと頭に描いてきた美衣子の絶望の表情が、だんだんリアルになっていく。
この計画が成功すれば、美衣子のあの表情を現実で拝むことが出来るのだ。

涙は、男に自分の考えた作戦を全て話した。男は必死に涙の計画に耳を傾けている。
作戦を話し終わり、涙はにっこりと微笑んで、ちゃんとこの計画を実行するように釘を刺した。

「じゃあ今夜、あたしの言ったとおりに行動してね? そうすれば絶対に失敗しないから。……いいよね、おじさん。今夜は頑張ってね! あたしも応援してるから」

メールアドレスと携帯電話の番号を交換し合った2人は、“計画”を隅々まで頭の中に叩き込んで 別れた。
計画の実行日は今夜。もしも涙の目論見が成功すれば、美衣子の心はきっとこの上なく傷つくだろう












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