あたしは悪くないもん(49/90)縦書き表示RDF


あたしは悪くないもん
作:猫満月



第48話 葬儀


その3日後、雪山家の1人息子、雪山拓正の葬儀が行われた。
葬儀の会場には沢山の、人 人 人。どこを見ても人混みばかりが目についた。
どれほど雪山が沢山の人に愛されていたか、すぐに理解できる大人数だった。

彼の写真を胸の前に抱えて泣きじゃくっているのは、2日前に病院から退院してきた美衣子だった。

「雪ちゃん、雪ちゃん……」

あれから幾ら泣いても美衣子の涙は枯れなかった。
3年生のクラスメイトたちが1人1人、彼に最後のお別れを言い、
そして彼女である美衣子は、花に包まれた彼の、硬く閉じられた瞳を見て更に悲痛な泣き声をあげた。

「雪、ちゃ……ん……」

雪ちゃんは死んじゃったんだ。本当にもういないんだ。
世界中どこを捜したって、もう二度と会えないんだ。

美衣子の涙が、綺麗に死に化粧された雪山の頬に、ポツポツと落ちていく。
熱い涙が零れても、雪山の頬に赤みがさすことは、もう二度と無い。

ふと思い出したように、美衣子は喪服のポケットを探った。
そこから取り出したのは、涙たちに切られそうになったあの財布だった。

「1ヶ月記念日に雪ちゃんが私にくれたお財布、ちゃんと大事にしてたよ。でもね、これを見てると辛くなるから、一緒に持っていって? 私がいつかそっちに行く時のために、大事に預かっててね……」

美衣子は棺桶に眠るその安らかな顔をしっかりと目に焼き付けて、涙を拭い、そっとその蓋を閉じた。
しかし未練は消え去ることは無く、美衣子の瞳には再び涙が溢れ出した。
美衣子は棺桶を抱き締めるようにして、大声を上げて泣き崩れた。

「雪ちゃん……さよなら……っ! 大好きだよ、今も昔もずっと大好きだよ。私がいつかそっちに行く時まで、私のことを忘れないで……。私も、絶対、雪ちゃんのこと、忘れないよ……」

雪山の母が、そんな美衣子を後ろから優しく抱き締めた。彼女の目もまた、美衣子のように赤く腫れ上がっている。

「美衣子ちゃん、ありがとう。拓正の事を想ってくれて。こんなにいい彼女がいるなんて、あの子は本当に幸せ者よね。……一緒に、拓正にお別れを言いましょう」

美衣子は小さく頷いて、泣きながら棺桶から離れた。
それを見計らったかのように、手際よく棺桶は霊柩車に積み込まれていった。
霊柩車が長い長いクラクションを鳴らす。美衣子はそれを黙って聞いていた。
そして泣き腫らした目でにっこりと微笑んで、遠ざかっていく霊柩車に向かって手を振る。

「ばいばい、雪ちゃん! また、きっと、どこかで……会える、よね」

やっとの事でそう叫んだ美衣子は嗚咽を洩らし、顔を両手で覆った。
雪山の母の隣に、いつの間にか美衣子の母がやって来た。美衣子の母は、美衣子の手を握って、赤くなった目を擦った。

「美衣子、雪山さん、……、送り出してあげましょう……拓正くんを」
「うん……分かってるよ、お母さん」
「ありがとうございます、春風さんの奥さん」

会場に集まっていたほとんどの人が、車で火葬場へと移動する準備を始めた。
雪山のクラスメイトたちも次々と自分の家の車に乗り込んでいく。
美衣子も自分の母に手を引かれ、車に乗り込んで火葬場へと向かった。

その時、遥か後ろで美衣子の家の車を見送り、嬉しそうに微笑んでいた1人の女が居ることを 美衣子は知らなかった。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう