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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第46話 死


美衣子が目を覚ますと、見慣れた病室の天井が見えた。

「……」

……夢だったんだ、良かった。変な夢だったなぁ。やけにリアルな夢だった。

ベッドから起き上がったその瞬間、美衣子の瞳から止め処なく涙が零れ落ちた。
夢だったのに、夢だったハズなのに、涙が止まらない。
背中を丸めて泣きじゃくっている美衣子。その背後から 遠慮がちな声がした。

「美衣子ちゃん」

振り返ると、そこには笑顔の雪山が……、

「雪ちゃ……」

けれど、雪山とその笑顔は一瞬で消え去ってしまった。その代わりに目の前には、哀しそうな顔をした看護婦さんが立っている。

「看護婦さん」
「目が覚めたのね、美衣子ちゃん。……辛いと思うけど、雪山君に最後のお別れを言いにいきましょう」

美衣子は少し赤くなった目を擦りながら、不思議そうな顔をして看護婦さんを見上げた。

……最後のお別れ? 何を言ってるんだろう。看護婦さん、疲れのせいでおかしくなっちゃったのかな?

「雪ちゃんはどこにいるんですか? お見舞いに来るって言ってました。今日も来てるんでしょう?」

美衣子は段々声を荒げながら看護婦さんの服を掴んだ。……その目は焦点が合っていなかった。

「……」

看護婦さんは何も答えてくれない。寂しげな目をして美衣子を見つめるだけだった。
美衣子の傷口に注意しながら、看護婦さんはその細い腕を優しく掴んだ。

「行きましょう、美衣子ちゃん」

「え、ちょ、ちょっと待ってください! どこに? どこに行くって言うんですかぁ!」

強い力で引っ張られながら美衣子は涙声をあげた。何故か恐怖心が湧き上がってくる。

雪ちゃんは死んでない。生きてる。絶対生きてる。
それなのにどうして不安になるのだろう?
どうしてこんなにも怖くなってしまうのだろう?

暫く廊下を歩き続け、途中で看護婦さんが足を止めた。目の前にある部屋……それは遺体安置室だった。
命を失くした人間が暫くの間休ませられる場所、それがこの部屋。
美衣子は震えながら首を大きく横に振り続ける。唇が真っ青だった。
その部屋の前に立っていた院長先生と目が合った美衣子は、大声で泣き喚いた。

「嘘つかないで、院長先生! 雪ちゃんは生きてる! 今も元気なの……。だって、だって、雪ちゃんは私を護るって言ってくれたんだよ?」

看護婦さんが美衣子と院長先生を交互に見て、そっと院長先生の耳元で囁いた。

「あの、院長先生……どうしましょう?」

「仕方が無いさ、恋人が亡くなったんだから……」

院長先生は、ゆっくりと美衣子の傍へと歩み寄った。美衣子は院長先生を睨みつけるようにして歯を食いしばっている。

「美衣子ちゃん」

先生はゆっくりと、でもしっかりと、小さな子に言い聞かせるように、話し始めた。

「命あるものは、必ず土に還る時が来るんだよ。それは分かるよね?」
「……」

美衣子は何も答えない。しかし、美衣子の瞳には涙が溜まっていた。

「この世に生まれてくる者がいるなら勿論、土に還る者もいるんだ。それがこの世界での掟なんだよ。今日はたまたま雪山君が土に還ることになった。この世界から消えることになった。彼が今日、土に還ることは、きっと彼が生まれたときから変えられない運命だったんだ。いくら生きたいと思っても、変えられない運命っていうものはどうしても存在する。僕は医師だからそういう人を沢山見てきた。それでも、運命っていう歯車は決して止まらない。今この瞬間にも、命は燃え続けてるんだ。君の命も僕の命もね」

「そんなの……違うもん……! 雪ちゃんはずっと私を護るって言ってくれてた。……私をずっと護ってくれるんだよ……っ」

「うん、そうだね。雪山君は約束を破っていないよ。彼は、美衣子ちゃんの心の中に生き続けていくんだ。そしてこれからもずっと、君の事を護っていってくれる」

院長先生の言葉に美衣子の心の中の、どこかの糸がプツリと切れた。雪山が本当にこの世から居なくなり、自分の傍から消えてしまったという事実を、突然心が認めてしまった。
美衣子は泣きながら院長先生に抱きつき、大声を上げて泣きじゃくった。

「雪ちゃん、雪ちゃん、雪ちゃん! うわああああん!」












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