第34話 疑惑
何なのよこいつ。今のこいつは、目障り以外の何者でもないのよね。
あたしはこっそり溜息を吐いてから、くるりと振り返ってにっこり笑った。
雪山に連れて来られたのは、あたしたちの教室から大分離れた廊下。少し昔のあたしだったなら、こいつにこんな風に呼び出しされたら、きっと嬉しすぎて倒れてただろうな。
「どうかしたんですか? 雪山先輩。あ、もしかして美衣子やめてあたしと付き合うとかー?」
からかうようにそう言って笑い声をあげる。……でも、雪山は何も言わず、俯いている。
それで、あたしの顔からも笑みが消えた。え? ……まさか、本当に?
でも、それは勿論あたしの勘違いだった。雪山は何故か憎しみのこもった瞳で私を睨みつけると、静かに口を開いた。
「美衣子の家が火事になった」
……それを聞いた瞬間、思わず私は言葉を失い両目を見開いて、両手で口元を押さえた。
「えっ?」
流石に、あたしも驚いた。美衣子の家が、……火事?
「……そ、それで、美衣子は? まさか、死……」
「いや。運よく助かって、今病院で治療を受けてる」
「嘘……でしょ? 火事だなんて。どうして、そんな……」
まさか、あのヲタク男の仕業? 美衣子に拒絶されて、逆上したのかな……。
そうだとしたら、もしかしてこれ、あたしの責任? そんな。あたしは、ちょっと美衣子を懲らしめてやろうと思っただけなのに。
蒼ざめて両手で顔を包み込んだその時。強い力で雪山に肩を掴まれ、壁に押し付けられた。頭を壁に打ち、ごつんという音が自分の耳に届く。
「いったぁ! 何すんの?」
「……お前、しらばっくれんなよ!」
「え、何言ってんの? 意味わかんないんだけど……」
「お前だろ? 美衣子の家に火ぃつけたの!」
「…………はあ?」
その言葉に、あたしの頭の中の何かが切れた。
怒りと憎しみと、それから強い殺意が、あたしの中に芽生えてきた。
「ふざけんじゃないわよ!」
あたしは雪山の腕を振り解き、彼の胸を思いきりどついた。勝手に犯人扱いされて、物凄く腹が立っていた。
鈍い感覚と共に苦しげな雪山の声が聞こえ、雪山は反対側の壁に頭を叩きつけて……ずるずると、倒れた。
「えっ?」
頭を叩きつけたときの音が酷く大きな音だったので心配になり、恐る恐る雪山の肩を掴んで揺さぶる。
「ちょ、ちょっと。大丈夫?」
まさか死んでしまった? そう思って唇を引き結び、脈をはかる。……ああ、なんだ。生きてるわ。
安心してほっと息を吐き出し、気絶している雪山の横顔を見ていたら、突然、先程と同じ怒りの感情が込み上げてきた。
「……」
何の根拠も無いくせに、あたしを疑ってたんだよね。少しだけ、ほんの少しだけ美衣子の事を心配してやったのに……。犯人扱いは無いんじゃない?
もう一発くらい殴っておいてやろうか。握り拳を作ってそう考えたとき、ふと、頭の中にいい考えが浮かんだ。
(そうだ、こいつ受験生なのよね)
そういえばこのあいだの痴漢騒ぎで、受験がちょっとだけ危くなったらしい。それじゃあ、もっと受験を危なくしてやろう。
私は雪山の体を、すぐ近くの写真部の部室へと運び込んだ。現像室の扉を開け、更にその中に雪山を押し込む。
そしてあたしは写真部に置いてあったカメラを片手に持って、雪山に向かって笑みを浮かべた。
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