第30話 反抗
更にメールを受信し、鳴り続けている携帯電話を見て、私は大きく首を横に振った。
逃げたら一生このままだ。逃げたら、ずっと苦しいままだ。
るぅちゃんたちにいじめられた時だってそう。そして今、この瞬間だってそう。
いつまでも逃げてちゃ、ダメなんだ。
意を決して、携帯電話に手を伸ばす。震える両手で電話を固く握り締めて、私は男のアドレス宛てにメールを作成した。
《ごめんなさい、私、あなたのこと、全く知りません。誘ったというのも、遊ぼうというのも、何かの間違いです。もうやめてください。いい加減にしないと、本当に訴えます。私には彼氏がいるんです。だから、こういうことされると迷惑なんです》
……送信ボタンを、おした。
ずっと携帯電話を握り締めて覚悟していたけれど、着メロは鳴らなかった。
私は大きく安堵の息を吐いて携帯電話をポケットに入れ、念のために、玄関の覗き穴からもういちど外を覗いた。
私は、我が目を疑った。まだ男は玄関の前に居たのだ。男が、こちらを強く睨みつけた。
後ずさりして、恐怖でかたまる自分の両足を自らの手で押さえつける。
なんて、恐ろしい目をしているのだろう。今まであんな目をした人、見たことが無い。
再び覗き穴にゆっくりと近寄って、覗き穴を覗く。……今度は、男は居なくなっていた。
玄関から一刻も早く離れたくて、私は慌てて階段へ向かった。
他の部屋の鍵もちゃんと確認して家中を回りながら、自分の部屋へ逃げるように転がり込む。
ずっとカーテンを閉めたままの薄暗い部屋が、今は、なんだかとても落ち着く場所に思えた。
ベッドの毛布に包まって、私はギュッと目を瞑る。
やったよ。るぅちゃん、雪ちゃん。
すごく怖かったけど、私、自分の力で危機を乗り切ったよ。
これでちょっとは強くなれたのかな?
明日からはちゃんと学校に行くよ。もう絶対に何からも逃げないよ。
るぅちゃんみたいな友達と、雪ちゃんみたいな彼氏がいれば何だって怖くないから。
|