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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第28話 怪しい男


電話を切った直後、私はコートを羽織って玄関を飛び出した。
真っ直ぐに、近くの公園に向かって走り出す。興奮で呼吸が荒くなっていくのが自分でも分かった。
久しぶりの外の空気に、体が身震いする。嬉しさで、顔が紅潮した。

(るぅちゃん……)

るぅちゃんに会える……。また、友達に戻れるかもしれない。そう考えたら、嬉しくてたまらなかった。
るぅちゃん、るぅちゃん、るぅちゃん。やっぱり私にはるぅちゃんが必要だよ。


***

先程自宅に電話がかかってきたとき、家には私1人しか居なかった。
誰からだろう、そう思って何気なく受話器をとると、向こうから聞こえてきた声は、酷く懐かしく感じる……でも、聞き慣れた声だった。

『もしもし……美衣子?』
(る、るぅちゃん……?)

恐怖で体が震えた。携帯だけではなく、自宅にまで嫌がらせの電話をかけてきたのだと思った。
慌てて受話器を下ろそうとした瞬間、電話の向こうからるぅちゃんが、必死にこう叫んだ。

『美衣子! お願い、話を聞いて!』

まるで懇願するようなその声に、私は思わず受話器を握り締めたままかたまってしまった。
恐る恐る受話器を耳元まで持っていき、次のるぅちゃんの言葉を待つ。

『……美衣子……。聞いて欲しいことがあるの。声が出ないんだよね? 返事はしなくてもいいから、このまま聞いて。……あのね、』

加速する鼓動を感じながら、唇を引き結んで受話器を耳に押し当てる。……るぅちゃんは、驚くべき言葉を発した。

『あたし、美衣子にたくさん酷いことしちゃったよね。謝って済むような問題じゃないってわかってる。でも、どうしても言いたかったの。……本当にごめんなさい』
(……るぅちゃん……)

暫しの間を置いて、るぅちゃんは続けた。

『また美衣子と仲良くしたいんだ……。すごくわがままなこと言ってるよね、あたし。嫌だったら来なくてもいいけど、もしまたあたしと仲良くしてくれる気が少しでもあるなら、●×公園に来て。あたし、ずっと待ってるから……。……それじゃあね」

電話が、切れた。
受話器を静かにおろし、私は顔をあげた。
嬉し涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。……次の瞬間私は、コートをつかんで玄関へ向かっていた。


***


もう数mで公園に着く。きっと優しい微笑みを浮かべて、るぅちゃんが立っているだろう。
そうしたら、そうしたら……まず最初に、なんて言おう?
るぅちゃんの姿を探しながら、公園の入り口で立ち止まる。……るぅちゃんは、いない。

(中にいるのかな?)

公園内に入り、更に辺りを見回してみる。
ブランコ、すべり台、ジャングルジム、鉄棒、砂場……。やっぱり、どこにも見当たらない。
ついさっきまで嬉しさで熱くなった頬の熱が、少しずつ冷めていく。私は足を止めて、眉を下げて、その場に立ち尽くした。

―――……もしかして、騙された?

そんな絶望的な自分の考えを、首を左右に振って慌てて否定する。
ううん、そんなはずは無い。だって今日、私とるぅちゃんは仲直りするんだもん。また一緒に 笑いあうんだもん。
ポツンと置かれた小さなベンチを見てみても、そこに座っていたのは中年の男性だけだった。
その男性は、手に持ったフィギュアのようなものになにやら話しかけている。

「ミツルちゃん、みいこちゃん遅いねぇ……」

その男性の言葉に、私は思わず振り返る。ミツルというのはあのフィギュアの名前のことだろう。
でも、その後の言葉……、美衣子って、一体誰のこと? ……、私のことなわけ、ないよね。
次の瞬間顔を上げた中年男性と目が合い、私は思わずいきおいよく目をそらしてしまった。
その男性は、こういうのもなんだけど、所謂オタクみたいな感じの顔や格好をしていて、正直あんまりお近づきになりたくないタイプの人だった。

(あんな人、現実に居るんだぁ……)

そんな失礼なことを思いながら、そっと視線を元に戻し、私は心の中で小さく悲鳴を上げた。
その男性が、こちらに向かってにたあ、と笑い、あろうことか小走りで近寄ってきたのだ。

「……っ!」

私は慌てて公園の出入り口に向かって走り出した。

「待ってよ、美衣子ちゃん!」

やだ、気のせいじゃない! あの人、今私の名前を呼んだ……!
血相を変えて、足がもつれそうになりながら、必死で逃げる。
せっかく愛しい友達と再会できそうだったのに、こんなことに邪魔されてしまった悔しさが涙となって、頬を伝っていく。
必死に走りながら、振り返る。……まだ追ってくる。手を伸ばして、追ってくる。

とても長い間走り続けた気がする。やっと、自宅が見えてきた。震える手で玄関の鍵を開ける。
太っているせいで追いつけなかったのか、途中で諦めたのか、男の姿はもう見えなくなっていた。












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