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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第23話 危機


「あ」

目の前に表示されていたテレホンカードの使用度数が0になった。
ピー、ピー、という無機質な音と共に、カードが出てくる。

「切れちゃった」

あたしが残念そうに言うと、他の3人も、溜息を吐きながらテレホンカードを抜き出した。

「あたしのも切れちゃった」
「あたしもー」
「奈々のも……切れちゃいました」

あたし達はお互いの顔を見合わせて肩をすくめた。まさか、こんなに早く無くなってしまうとは。
……時計に目を向けると、なんと嫌がらせを始めてから2時間が経過していた。
もう授業は終わっているだろう。どうして楽しい事をしていると、時間が過ぎるのがこんなに早いのかな?

「しょうがないなー。そろそろ、帰ろうか」
「うん、そうしよっかぁ」

あたしは、その使用済みテレカを両手でくしゃくしゃに丸めて、近くにあったゴミ箱に投げ入れた。そして、

「美衣子がこの世から消えますよーに!」

と、まるでお賽銭箱にお賽銭を入れたときのように、自分自身の願いを大声でゴミ箱に告げた。
他の3人はそれを聞いて笑いながら、駅の出入り口に向かって歩き出す。ゴミ箱を一瞥してから、あたしもその後を追った。
すると、突然目の前を歩いていた瑠夏の足が止まった。それに気付かなかったあたしは瑠夏の背中に顔をぶつけてしまう。

「きゃっ! ちょっと瑠夏、突然止まらないで……よ……」

笑いながら瑠夏に抗議しようとしたあたしの視線が、瑠夏たちと同じところを捉えた。
見覚えのある人物が、怒り狂った表情を浮かべてこちらに歩いてきている。

「ね、ねぇ、るぅ。あれって……」

そう呟く京子の声は震えていた。
あたしは大きく目を見開いて、深く息を吸い込んだ。そのまま1歩前に歩み出て、すぐ目の前までやってきたその人物を、力強く睨み付ける。

「何か御用ですか? ……雪山、先輩」

そう、そこに現れたのは雪山先輩だった。あたしの大好きだった人。このいじめのきっかけを作った人。
今現れた人がもし警察官とか学校の先生とかだったら、あたしたちは血相を変えて大慌てで逃げ出していただろう。
でも今のあたしは他の3人と違って、不自然なほどに落ち着き払っていた。
……何も言わず、あたしを睨み返してくる雪山先輩。あたしは髪の毛を片手で弄りながら、にっこりと笑みを浮かべた。

「用が無いんなら、失礼しますね」

そう言って先輩の横を通り過ぎようとした瞬間、強く腕を掴まれて後ろへ引っ張られた。握られた腕に爪が食い込み、思わず痛みに顔を歪めて悲鳴を上げる。

「いたっ!」

慌てて手を引っ込め、先輩の顔を睨んだその時、雪山先輩が怒鳴り声をあげた。

「美衣子に嫌がらせするんじゃねぇよ!」
「はぁ? 何言ってんですか? マジで意味わかんないんですけど!」

しらばっくれようとわざとらしい溜息を吐いたら、更に先輩は激怒して、あたしの胸倉を掴んだ。

「美衣子に電話したらあいつのお袋さんが出て……っあいつの声が出なくなったって聞いたんだ!
原因不明だって言われたって、お袋さんめっちゃ心配してんだ! お前達があいつに変なことするから、美衣子は苦しんでるんだろ!」
「……へぇ! 美衣子、声出なくなったんですか? うっわ〜、悲惨ですねぇ」

まあ、しょうがないんじゃないですか? 天罰ってやつですよ。
そう言って笑い声をあげたら、雪山先輩の右手が強く握り締められ、あたしに向かって振り上げられた。

「る、るぅ! 危なっ……」

瑠夏がそう叫んで両手で目を覆う。あたしは冷静にその拳を見つめて、その手が振り下ろされようとした瞬間に、ふっと笑みを浮かべた。
あたしの笑みを見て驚いた先輩の拳が、一瞬止まる。勿論あたしはそのすきを見逃さなかった。
自分の手を素早く胸元に持っていき、その手に力を込め、制服の襟を引きちぎった。ボタンが床に飛び散り、下着が露になる。
先輩も瑠夏も京子も奈々も、それを見て唖然とする。全ての動きが、止まった瞬間だった。
あたしは一度先輩に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべてから、……大声で叫んだ。

「いやあああ! 誰か、誰か助けてーっ!」

あまりの大声に、先輩が慌てて一歩後ろに下がる。あたしは泣き真似をしながらその場に座り込んだ。
おろおろする先輩を、駆けつけて来た駅員や成人男性が取り囲み、取り押さえる。

「この痴漢! おとなしくしろ!」
「な……っ、ち、痴漢? 違ぇよ! 俺は……っ」

あたし達はその騒ぎに紛れ、慌てて駅の出入り口に向かって走り出した。
“痴漢の犯人”の顔を見ようとする野次馬が多くて、誰もあたし達が逃げていく事に気が付いていないようだ。

「あ! おい、こら! 離せよっ」

逃げていくあたし達に気がついたのか、先輩はあたし達に向かって片手を伸ばし、立ち上がって走り出そうとした。しかし、すぐにまた取り押さえられ、床に組み伏せられる。

「……畜生っ」

先輩は悔しそうな声を上げ、床を思い切り拳で殴りつけて歯軋りした。
その様子に大満足したあたしたちは、笑い声をあげながら、そのまま逃走した。












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