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あたしは悪くないもん
作:猫満月



第14話 陰湿


長い授業が終わり、ようやく休憩時間が訪れた。
休憩時間になったとたん美衣子は、すぐさま机に書かれた落書きを消すため、職員室にバケツと雑巾を借りに行った。
それを見計らい、あたしたち4人は美衣子の机へ、静かに近寄った。
カッターナイフを用意し、思い切り歯を出して、美衣子の机の奥の方へと忍ばせる。
その後、ハサミで美衣子の消しゴムを粉々にして、机の上に降りかけた。
筆箱の中のシャーペンは割った。定規も真っぷたつにした。
机に入っていたノートや教科書には落書きをして、ビリビリに破いて、シュレッダーにかけてやった。
筆箱の中には、もう壊せそうな物は無い。

「ねぇ、るぅ。まだ何かやる?」
「う〜ん……やってやりたいんだけど、何にも思い浮かばない……」

そんなあたしの様子を暫く見つめていた奈々が、ポケットから接着剤を取り出した。

「……涙さん。……これ、使えるですよ」
「へ? ど、どうやって……?」

奈々は、にやりと口の端を歪めた。

「決まってるじゃないですか……。椅子と机をこうやって床に貼り付けて……」

奈々は接着剤を大量にチューブから出し、美衣子の椅子の足にたっぷりと塗り付けた。
その様子をジッと見ていた瑠夏が、目を輝かせて両手を叩く。

「あ、なるほど! そういうことね!」
「奈々ってば、頭いいね〜」

奈々の言っていることの意味が読めたあたし達は、はしゃぎながら接着剤を美衣子の机の足にも塗った。
ついでに机の上にも接着剤を塗って、筆箱や読書用の本もその上に固定する。

「玩具屋さんのディスプレイみたい!」
「これ、絶対ショックだよー。あたしなら泣いちゃうね!」

あたし達はこれを見た美衣子の顔を想像して笑った。あいつ、どれくらい絶望的な顔をするだろう?
……接着剤の臭いが、教室内に充満する。流石にそれには男子たちも参ったのか、みんなゾロゾロと教室から出て行った。
男子達が教室から消えた、その直後。教室の扉が、弱々しく開いた。

「!」
「来たよ」

扉の方を見なくても分かる。……美衣子が帰って来たんだ。
あたしは笑みを浮かべて、その場に居た女子全員に指示を出した。

「……無視ろ」

それを聞いたみんなはお互いに顔を見合わせて、あたしに向かって大きく頷いた。
美衣子が、ゆっくりと机の傍に歩いてくる。
そこに広がっている光景を目の当たりにした美衣子は、一瞬だけ、唇を噛み締めた。
が、すぐに無表情になって、机の上に貼りついた筆箱や本を剥がしにかかった。
それを見たあたしは笑いを堪えながら、そっと美衣子の方へと歩いていき、声をかけた。

「美衣子」

あたしがその名前を呼ぶと、美衣子はそっと此方を振り向いた。

「な、何? るぅちゃん……」

嬉しさと不安が入り混じった表情。
あたしは美衣子に向かって優しく微笑み―――……それから一瞬で、眉を吊り上げた。

「雑巾貸して欲しいんでしょ? 貸してやるわよっ!」
「え……っ! きゃあ!」

あたしは隠し持っていた雑巾を美衣子に向かって投げつけた。
泥水に浸しておいた、とびきり汚い真っ黒な雑巾が、美衣子の制服を黒く汚した。
瑠夏が甲高い笑い声をあげて、美衣子のその格好を指差して嘲笑う。

「すっごい! めっちゃ似合ってる〜! もっと綺麗にしてあげるねっ」

瑠夏は、予め用意していた泥団子を、美衣子の顔面目掛けて投げつけた。
他の女子たちも、クスクス笑いながら、泥団子を美衣子に投げつける。

「痛っ! 痛いよぉ! みんな、やめてぇ!」

美衣子の苦しむ顔を見て、あたしは腹の底から笑い声をあげた。
―――あぁ、最高。あの顔、何度見ても飽きないわ!

泥団子が何個も美衣子の体にぶつかり、粉々に砕け散る。
美衣子は、だんだん抵抗するのをやめてきた。
何もかも諦めてしまったような、そんな感じだった。
両腕をだらりと下げて、俯いたまま、飛んでくる泥団子を体で受け止め続けている。
そんな美衣子の様子を見ても、あたし達の勢いは増すばかりだった。

「ちょっとぉ……」
「面白くないじゃん」
「もっと泣き叫びなよ!」

あたしは泥団子を引っつかみ、爪に泥が入るのも構わずに、美衣子の顔目掛けて思い切り投げつけた。
今までより一際大きな音が、教室内に響いた。
その瞬間、美衣子の体がその場に崩れ落ちた。美衣子は鼻を押さえて呻き声を上げている。
……美衣子の鼻から、滴り落ちる血。泥団子が鼻を直撃したらしい。
それを見たあたしは、思わずガッツポーズをとっていた。
はじめて、美衣子に血を流させることが出来たから、すごく嬉しかった。
だけどこんなのまだまだ、あたしが流した血より少ない。
あたしが流した血よりももっとずっと大量の血を流させないと、気が済まないよ。
その時、ほんの一瞬だけ、美衣子とあたしの目が合った。
美衣子の目に生気は無く、あたしを見る美衣子の瞳は、もう友達を見ているような瞳ではなかった。

「……」

美衣子は何も言わずにゆっくり立ち上がり、ポケットからティッシュを取り出して、それを鼻に詰めて出血を抑えはじめた。
暫くの間美衣子のその姿を見つめていた瑠夏が、妙に明るい声を出して、両手を叩いた。

「あ。そういえばさ、次って体育だよね!」
「あ、そっかぁ。じゃ、着替えなくちゃね」

あたしたち4人とその他の女子は、美衣子に背を向けて着替えの準備を始めた。












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