「ほんっと、久しぶりだね。元気してた?」
彼女は高校の頃よりも綺麗になったのか、それとも化粧が上手くなったのか、輝きが一層増して見えた。
「柊君、仕事はどこだっけ?」
「あー、サラリーマンやってる」
「なんていうか、柊君らしいね」
彼女から、その名で呼ばれるのは、本当に久しぶりだ。
「そういうは夏木は?」
「あー、私はね」
彼女は言いづらそうに、それでも嬉しそうに言葉を続けた。
「専業主婦」
「……は?」
俺がつい漏らしてしまった、そのたった一音の響きには、驚愕と動揺と呆然が現れている。
っていうか、結婚?
「まあ、まだ籍は入れて無いんだけどね。ちょっと調整中」
彼女は本当に嬉しそうに、嬉しそうに言う。
きっと幸せなのだろう。
「……なんつーか、あれだ。おめでとう」
「ありがと」
少し照れながら、彼女は答える。
はにかんだ笑顔は、高校の頃と全く変わっていない。
「柊君は彼女いないの?」
「ああ、彼女ね……」
付き合おうって言ってくれる人は居たが、それを受け入れた事は無かった。
それは、高校を出てから、ずっとだ。
「今はいない」
「なんか、ちょっと前まで居たって雰囲気だね」
彼女はくすくすと笑いながら、そんな事を言ってくる。
確かに、俺にしてみれば高校の出来事は、つい先日のようにも思えてくる。
だから、ちょっと前までは居たんだろう。
「私さ」
不意に、彼女が言葉を紡いだ。
「柊君が居なかったら、きっとこうはなってなかったと思う」
やめろ。やめてくれ。
そんな事言うなよ。頼むからさ。
「だから、ありがとうね」
何に対してのありがとうなのか。誰に対してのありがとうなのか。
俺には計り知る事は出来なかった。
でも、ようやく。
「夏木に会えて良かったよ」
俺の想いは吹っ切れる事が出来そうだ。
引きずり引きずり引きずって、気がつかない内に磨り減っていたのかも知れないけど。
それでも。
「ようやく、前を見れそうだ」
「なにそれ?」
「ちょっとカッコつけてみただけ」
俺の彼女だった君は、他の誰かと幸せになった。
彼女と付き合ってた俺は、ようやく想いから抜け出せて。
これでようやく、ゼロになった。
もしかしたらマイナスかも知れない。
でもまあ、別に良い。
「晴彦にも報告しないとな」
「うわ、懐かしい! 春日君なにやってるの?」
親友は果たして、何と言うだろうか。
未だに想いを引きずっているあいつは、どんな顔をするのだろうか。
「知ってた? あいつ夏木のことずっと好きだったんだぜ?」
「うそだー」
満面の笑顔で、信じてくれなかった。
まったく、つくづく不幸な奴だな、お前は。
たまにはあいつでも誘って、飲みに行くか。
彼女の結婚の話を酒の肴にでもして。
……完全に自棄酒になりそうな感じもするが。っていうか、目に見える。
「っと、もうこんな時間。それじゃ、私行くね」
「ああ」
手を振ろう。
君に。
過去の想いに。
「それじゃあ元気で」
これからは、記憶の奥に、大事に閉まっておくことにしよう。
鍵を掛けて、二度と溢れ出さないように。
でも時々、思い出してみたりなんかしてさ。
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