ファイル95:播磨紅子最初の事件『後編』
図書室
保
「何かわかったか?姫川・・・」
紅子
「ん・・・高いわね・・・よっ!」
トッ・・・
紅子
「ダメだわ!上の板まで全然届かない・・・」
保
「4人の中で一番背の高い180センチ近くあるオマエが届かないんなら、もちろん165センチしかない青沢や陸也にもムリだろうね!なぁ、姫川・・・本当に2人のうちどちらかが犯人なのか・・・?」
紅子
「そうね・・・1/2の確率ね・・・犯人がここにニセの本棚を作るとしたら、台に乗らなきゃ上まで本を重ねられないわね・・・」
保
「それじゃ犯人は、この木の台を?」
紅子
「イヤ、違う・・・見て、この引きずったような跡・・・おそらく犯人は、どこからか台を引きずって・・・。!!あのカウンターの隣にある鉄の台か!よく見ると、段のところに血がついている・・・靴の裏についた血痕が登った時についたんだわ!」
保
「それじゃあ犯人は、この鉄の台を使って・・・」
紅子
「ええ・・・(でも、どうして犯人はこんな事を・・・)・・・!!そうか・・・そうだったんだわ!新島君!青沢君と陸也を呼んでくれないか!」
保
「!!姫川!!それじゃあ・・・」
紅子
「ええ!犯人はわかった!!事件の真実は、これからこのアタシが明らかにする!!!」
四朗
「何だって!?姫川!!」
陸也
「ボクらの中に犯人がおるってどういう事!?」
紅子
「犯人割り出しの決め手は、昨日の午後5時30分から7時まで校舎に残ってて、アリバイがないのがアタシ達だけだという事・・・そしてもう1つ、犯行の際の犯人のある『不可解な行動』が、犯人を絞り込む最大の手がかりとなったのよ!その『不可解な行動』を取らざるを得なかった犯人・・・それは・・・あなたよ!あなたがこの事件の真犯人だ!!」
ビシッ!!
紅子
「この図書室で梶山君を殺害した犯人は・・・あの状況から見てあなた以外には考えられないのよ!新島君・・・!!」
保
「・・・!!」
紅子
「本当に残念だわ・・・!あなたがこの事件の犯人だったなんて・・・!!」
四朗
「マ、マジかよ!新島!オマエがこんな・・・」
陸也
「なっ・・・!?」
保
「なるほど・・・オレが犯人か・・・おもしろい!犯行時間にアリバイのなかったこの3人の中で、どうしてオレが犯人扱いされるのか・・・君の推理を聞かせてくれよ!姫川!!」
紅子
「そうね・・・1つ1つ謎を解明していきましょう・・・まずアリバイがないのがあなた達3人しかいないとわかった時点で、真っ先に容疑から外れたのは陸也よ!」
陸也
「え!」
紅子
「犯人が使ったトリックでニセの本棚の組み上げを行うためには、棚の一番上の高さまで本を組み上げるのにどうしても台が必要になる。だけど陸也は、筋金入りの『高所恐怖症』だわ!陸也が木の台にすら乗れなかった事は、昨日本を棚に戻す時青沢君に頼んだ件でもわかるでしょ?本を戻すのに台に乗れないほど高い所が苦手な陸也が、組み上げるのに時間のかかる台の上の作業に耐えられるワケがない!」
陸也
「・・・」
紅子
「ここで容疑者は1/2の確率で、青沢君と新島君・・・あなた達2人に絞られた・・・そして犯人を確定する決め手となったのが、ニセの本棚を作るトリックに使われた、あの『鉄の台』だわ!付着した血痕と現場に残っていた重い物を引きずった跡から考えても、鉄の台が犯行に使われた事は明白だわ・・・人間の心理から考えて、普通なら遠い所から重い鉄の台を持ってくるよりも、近くにある木の台を使った方が早いわよね?でもこれこそが、犯人が新島君である事の証なのよ。彼はその木の台を『使いたくても使えなかった』のよ!もしも青沢君が犯人だったとしたら、木の台でトリックを実行する事は充分可能だわ。だけど犯人は軽くて持ち運びが簡単な木の台を使わず、わざわざ遠い所にある重い鉄の台を引きずってきて使ってる・・・それはなぜか?」
四朗
「そうか、体重か!!」
紅子
「そう!この『古い木の台』は、小柄で体重も軽い青沢君なら乗れるけど・・・『それ以上に重い人』が乗ると・・・」
トッ・・・
ミシッ・・・
バキッ!!
メキバキ・・・
ガシャン!!
紅子
「この通り・・・壊れてしまうのよ!!犯人が体重の軽い青沢君なら、鉄の台を使う必要はない・・・鉄の台を必要とするのは、体重の重い人・・・つまり犯人は、新島君しかいないって事になるのよ!」
保
「・・・」
紅子
「新島君・・・これ以上アタシからは追求しないわ・・・ここから先は警察の仕事だ。物的証拠が見つかるまで粘るか自首するかは、あなたの意志に任せる・・・ただ、アタシとしては・・・月並みだけど自首する事を勧めるよ・・・それが、あなたにとっても一番いい選択だと思うから・・・」
保
「・・・いやぁ・・・オレの負けだよ、姫川!まったく見事な推理だったよ!さすが『英秀のマープル』だ!君の言う通り、梶山を殺したのはオレだよ・・・オレ、アイツに脅迫されてたんだ・・・オレ実はこないだのクラス編成テストで、カンニングやっちまってな・・・」
陸也
「カ・・・カンニングやて!?」
紅子
「・・・」
四朗
「な・・・なんでだよ!?オマエならそんな事しなくたって充分に・・・」
保
「背伸びしてたんだよオレ・・・元々頭のいいオマエらにはわかんねえだろうけど、オレの頭じゃ本当は特Sクラスなんてもう追いつけなくなってたんだ・・・ところが、そのカンニングをあの梶山に見られてさ・・・アイツに金とかしつこくせびられてたんだ。そして、あの時もこの図書室で・・・」
梶山『さ〜て、次は何をしてもらおうかなぁ・・・?そうだ!オマエのクラスに、姫川紅子って美人がいたよなぁ?アイツをうまい事、人気のない所に呼び出してくれよ!』
保『あ・・・紅子を!?』
梶山『後はこっちでうまくやるからさ!イヤとは言わねえよな?『優等生』・・・』
保『オ・・・オマエなんかに・・・オマエなんかに、紅子を・・・!!』
バッ!!
ガツッ!!
保
「後はオマエの推理した通りさ、姫川!このニセ本棚のトリックは、いつの日かオマエに出そうと思っていたとっておきの推理クイズネタだったんだ。それを、とっさにね・・・」
四朗
「新島・・・オマエ・・・」
陸也
「姫川君を守るために・・・」
紅子
「に、新島君・・・あなた、アタシの事が・・・」
保
「ああ・・・好きだったのさ、君の事がね・・・オレの告白はここまでだ!オレはこのまま警察に自首するよ!これ以上シラを切っても、仕方ないしね・・・」
紅子
「待って、新島君・・・最後に1つだけ教えてほしい・・・あなたはあの日、アタシがいつものように学校に遅くまで残ってて、あのトリックを使えばアタシが容疑者になる事がわかっていたハズだわ。それを知ってて、どうして・・・あなたは・・・」
保
「その謎は君が解けよ、『マープル』!これは『ヘイスティングス』から『マープル』への・・・『最後の挑戦』だ!!もし10年経っても謎が解けずにいたら、10年後、教室の今の君の席の机の上に答えを書いておくよ!じゃあな!『マープル紅子』・・・!!」
紅子
「さようなら・・・『ヘイスティングス』・・・」
そして、10年後・・・
アタシは英秀大学中等部の、かつての特Sクラスにやって来た。
今日はこの教室で模試があるらしい。
なので、消される前に答えを見ようと、アタシはここまでやって来た。
紅子
「・・・」
『君がこの答えを見に来たって事は、あの謎が10年間解けなかったってワケだな?
姫川・・・
イヤ、紅子・・・
じゃあ、教えるよ、答えを・・・
オレ、前に言ったよな?
『マープルの活躍を待つのがヘイスティングスの役目だ』って・・・
オレは殺人を犯したから、もう君と同じ道は歩めない・・・
だから最後にオレが作ったとっておきの謎を君にふっかけて、君が謎を解き明かす姿を自分の中に記憶しておきたかったんだよ・・・
君の活躍を心底待ち望んでたのは、他ならぬオレ自身だったから・・・
最後に、一言・・・
君の事は、本当に好きだったんだよ、紅子・・・
じゃあな・・・』
紅子
「うっ・・・うぅっ・・・新島・・・君・・・」
紅子は嬉しくて悲しくて、涙があふれた。
紅子
「ありがとう、新島君・・・いつかまた会えたその時は・・・アタシからあなたに返事を言うから・・・それまで、待っててね・・・保・・・」
紅子は丁寧に文章を消すと、模試を受けに来た未来の後輩達をしばらく見守ってから、英秀大学中等部を後にした。
その紅子の背中を、1人の青年が見つめていた。
「新島先生〜!こっちの受験票の回収終わりました!そろそろ片づけを・・・」
新島保(25)
「ああ!今行くよ・・・(あれからお互い、歩む道は遠く離れてしまったけど・・・オレはいつでも君の活躍を待ち望んでるんだよ、紅子・・・今でもオマエはオレにとって、永遠の『ジェーン・マープル』なんだから・・・)」
新島保は微笑むと、ゆっくりとその場を後にした・・・ |