ファイル55:刃と不自然な待ち合わせ『前編』
「そうだ、オマエの条件を全面的に飲む事に決まった。指定された口座も用意した。」
『イヤー、うれしいな〜。さすが大物はちがうわ〜。』
「それで、取り引きはどこだ?」
『・・・』
「なんだと!?そんなところで!?」
杯戸競泳プール
刃、繭美、幹彦、健太の4人は、杯戸競泳プールに遊びに来ていた。
繭美
「気持ちいーい!!刃ちゃんの言う通り、ええ穴場やねー!」
刃
「わざわざ新幹線に乗ってきたかいがあったでしょ?」
繭美
「うん!!」
健太
「行っくでー!!」
タッタッタッ・・・
健太・幹彦
「ヒャッホー!!」
ドッパーン!!
健太
「プハーッ!」
幹彦
「どっちが遠くに飛んだ?」
繭美
「ウーン、同じくらい。」
幹彦
「えー、ボクの方が飛んだで!」
健太
「何言うてんねん、ワイやワイ!!」
幹彦
「刃ちゃんはどっちやと思う?」
刃
「ゴメン・・・見てなかった。」
健太
「なーんで見てへんのや!」
刃
「(なーんで見てなきゃいけないのよ・・・)」
その時、刃の後ろから声が聞こえた。
「おーい、ポニーテールちゃん。そこのポニーテールちゃん。」
刃
「ポニーテールちゃんて・・・アタシ?」
ポニーテールとは、髪を頭の後ろでくくり、馬の尻尾のようにした髪型の事をいう。
要するに、刃がしている髪型の事だ。
「そうや、自分(君)や自分。」
刃は、自分を呼んだ関西弁の男のところに歩いていった。
プールには不似合いな、阪神の野球帽をかぶっている。
「すまんけど、これでコーラ買うてきてくれんかなー。人を待っとって、ここを動けへんのや。おつりは駄賃にあげるさかいな・・・」
刃
「いいけど・・・おつりはもらえないわ。」
刃がおつりを拒否するのも無理はない。
男が渡したのは、1万円札なのだから。
コーラの値段から考えて、確実に9000円以上のおつりがくる。
「なーにカッコつけとるんや。東京は子供もエエカッコしいやなー・・・こういうんは、気持ちよーもらっといたらええんや。な、急いで頼むで、ノドがカラカラなんや・・・」
刃
「う・・・うん。」
「はい、コーラ。」
刃
「ありがとう。」
「それとおつり・・・9800円、落とさないでね。」
刃
「うん。(おつり・・・こんなにくれるかしら、普通?変な兄ちゃんねー。だいたい売店こんなに近いんだから、自分で買えばいいのに・・・人を待ってるからって、動けない距離じゃないでしょう・・・)」
刃
「はい、コーラ。」
「お、ありがと。横に置いといてくれ。」
刃がコーラを置こうとすると、携帯電話が目に入った。
その携帯電話は、女の人の待ち受け画面になっている。
刃
「ねぇ、待ってるってこの人?」
「あ・・・ああ〜見られちゃった?これ、オレの彼女。この携帯コイツからもらったんや。そしたらこんな待ち受け画面にしてあったんや・・・イヤー、モテる男はつらいわー。けど今日待ってんのはちがうヤツ。水ちゃんとはこの後や・・・」
刃
「フーン。」
「嬢ちゃんも、もうちょい大きかったら彼女にしたんのになー。残念や・・・」
刃
「そりゃどうもありがと・・・あら?それパソコン?プールでパソコンするの?」
「なんや、目ざとい嬢ちゃんやなぁー。そんな事気にすな。プールでパソコンやってたかてかまわんやろ?」
刃
「うん、そりゃ・・・」
健太
「おーい刃ちゃん、何してんねん。」
「ホラ、友達呼んでるで。つまらん詮索しとらんと、行った行った。」
刃
「あ、うん・・・」
健太
「刃ちゃん、もう一度勝負するから、今度はちゃんと見ててくれよな。」
刃
「はいはい・・・あ!いっけない!おつり返す気だったのに。」
健太
「行くでーよーい・・・ドン!」
ガッ!
幹彦
「あっ。とっ、とっ・・・わっ。」
ドサ!
刃
「え?」
ドボーン!
刃
「あの浮き輪・・・」
幹彦
「テテ・・・」
「オ・・・オマエ・・・何しとるんじゃ、ボケッ。」
パン!!
「よそで遊ばんかい!!」
幹彦
「わ〜ん!!」
タタタ・・・
健太
「おーい、どないした〜。」
繭美
「ひどーい、あんなに怒る事ないのに。」
刃
「・・・行こ・・・」
繭美
「え?」
刃
「向こうに行こ・・・あの人、怖いから・・・(あの人・・・いったい何を・・・)」
繭美
「ホラ・・・もう泣かないで。」
健太
「タコ焼きでも食べて、元気だしや。」
幹彦
「うん・・・」
繭美
「あれ、刃ちゃんは?」
刃は、男を監視していた。
刃
「(あの人・・・誰かと待ち合わせしてると言ってたけど、いったい誰と・・・おそらくは、一度も会った事がない人物でしょう。プールに不似合いな阪神の野球帽は、自分を知らせる目印にするため・・・面識のない人との待ち合わせだから、あまり場所から離れたくないのはわかるけど、さっきのコーラ・・・あんなわずかな距離なのに・・・よっぽどあそこから動きたくないの?原因は・・・あの浮き輪か・・・幹彦君がさっき浮き輪につまずいたにもかかわらず、浮き輪はほとんど動かなかった。つまり、中に何か入ってるんだ。それもかなりの量の物が・・・だから持って歩くのはまずいし、かといって置いておくワケにはいかない・・・それでわざわざアタシに・・・しかも、幹彦君が浮き輪につまづいただけで殴るほど怒るという事は、よっぽど貴重な物・・・プンプンにおうわ・・・犯罪のにおいが!!)」
刃は、怪しい人に気づいた。
刃
「(ん?あの奥の2人連れ・・・さっきからチラチラあの男の方を見てる。男2人であんなに吸い殻を散らかして・・・どぉ〜もプールを楽しみに来たって顔はしてないわね・・・よく見りゃ、あそこにも、あそこにも・・・遠巻きにあの人を見てる・・・あの人の仲間?それとも待ち合わせ相手の仲間?状況から察するに、これから何かの取り引きをしようとしてるんだわ・・・それも、ヤバイ品の・・・さて、どうする?平次や警察を呼ぶ?でも、浮き輪の中を確かめたワケじゃないし、こんな推測で警察が動くかどうか・・・)」
繭美
「あー、こんな所にいたー。何してんねんこんなトコで・・・」
刃
「あ、繭美ちゃん。ちょうどいいトコに来た。ちょっとここであの人の事見張ってて。」
繭美
「え、刃ちゃんはどこに?」
刃
「ロッカーに忘れ物!」
タタタ・・・
刃はロッカーにたどり着いた。
刃
「(ロッカーからボタン型発信器を出して、あの浮き輪に取りつけてやる!一度あの人と会話してるアタシなら、あまり警戒されないはず・・・そして運ばれた先を突き止めて、それから警察に・・・)」
ガシャン!!
刃
「!!」
「とっとと・・・いけねえ。」
「アホー!気ぃつけぇや!!」
「す、すんません。」
サッ!
刃
「(け、拳銃!?・・・これは・・・油断できない展開になってきたわね・・・アイツらも関西弁・・・プールサイドのヤツの仲間かしら?それとも・・・)」
刃は聞き耳を立てている。
「しっかし情けない話やなぁ。天下の大阪中学会が、子分に麻薬持ち逃げされるたぁ・・・」
刃
「(麻薬!やっぱり浮き輪の中身はそれだったのね・・・大阪中学会といえば、関西で一番の暴力団・・・あの人、そんな所から麻薬を持ち逃げしたのね・・・)」
「マサのアホめ!!オマケにそれを三橋組に売りつけようとしよって・・・」
刃
「(三橋組・・・関東1の暴力団だわ!三橋組と中学会は犬猿の仲。中学会に知られずに麻薬を売りさばくには、最高の相手だわ!でもどこかでヘマをして、それがバレたのかしら・・・?それでコイツらが麻薬を取り戻しに・・・)」
コツコツ・・・
「あ。兄貴、あれ。」
「中学会の無藤さんですか?」
無藤
「三橋組の有部さんで・・・」
刃
「(何!?敵である中学会と三橋組が接触!?いったいどういう事!?)」
有部
「遠いところご苦労さんです。」
無藤
「いや・・・こちらこそわざわざ知らせていただいて・・・」
刃
「!?」
無藤
「驚きましたわ。三橋組の方から、ウチの商品流そうとしてるヤツがおるいう電話が来るとは。」
有部
「気にせんでください。ウチとおたくは、ビジネスパートナーになる事が内定してるんですから。今回の件は、今までの事を水に流すよいきっかけになりますよ。」
「(何が『ビジネスパートナーになる』や!『手打ち』て言え、カッコしいが。)」
無藤
「(情けないのう、こんなヤツらにでかい『恩』売りつけられて。)」
刃
「(なるほどね!三橋組は中学会の裏切り者の情報を教える事で、手打ち成立後に優位に立とうってワケね・・・)」
有部
「じゃあ、さっそく。」
ピピピ・・・
ルルルル・・・
マサ
「おーしゃ!!きおったきおった、時間通りや!」
ピッ!
マサ
「有部さんですなー、待っとりましたでー!さっそくやけど、競泳プールまで来てもらえますか?約束通り、水着一丁でお願いします。バスタオルとかもあきまへんで。おっかないもの隠してるかもしれませんからな、それじゃ後ほど。」
ピッ。
「あのボケ!調子のりくさって・・・」
有部
「まあまあ、ブツを回収するまではおとなしくいう事を聞いときましょう。ブツのありかがわからない今は、ヘタに捕まえようとして騒がれるよりも、買うフリをしてありかを聞き出す方がいい。」
「そうですな・・・ブツ、取り戻せないと、ワシら組長に殺されかねんし。」
有部
「マサってチンピラは、そのあとゆっくりと始末しましょう・・・」
刃
「(なるほどね。ヤツらの出方がわかれば、打つ手はあるわ。コイツら全員、一網打尽にしてやる!よーし、バッジで繭美ちゃん達に協力をお願いしないとね・・・)」
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