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私は隣の田中です 作者:秋月 忍

第六章 闇の慟哭

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防魔調査室

いつもありがとうございます。

最初の一行、ぜひ「嘘をつけっ」と突っ込んで下さい。
大嘘です(笑)
 防魔調査室の本部は、実は宮内庁の地下にある。
 防魔の技術は、日々科学的になっては来ているものの、霊能力者は、神社仏閣に由来することが多いということのようだ。
 近代的なスーパーコンピュータが、各地に設置された妖力感知システムと連動するという、ほとんど漫画な設備である。
 私は、セキュリティがバシバシに高そうな場所をいくつも通過して、総合本部とやらに如月とともにやってきた。
 正面に大きなディスプレイ。横並びのコンソール。
 まるでNASAみたいだ。時々、警告音が鳴ってびくりとするが、ほとんど日常の風景なのか、如月の表情は少しも変わらない。
「おっ、噂のマイちゃんだね」
 体格の良い男性がディスプレイから目を外し、私に微笑みかけた。年齢は三十代前半くらい。端正とはいえないかもしれないが、人好きのする感じ。パソコンのディスプレイの横には、たくさんのファイルが積み上げられている。
「マイ、紹介する。俺と柳田の上司である課長の、真田勝さなだまさる
「はじめまして。田中舞です」
 私は深々と頭を下げる。
 真田勝は、某HPの『婿にしたいキャラ』ナンバーワンだった人物だ。爽やかで優しそうな表情は、イメージ通りで、ついぼうっと見惚れてしまう。
「はじめて、か。そうか。そうだね」
 なんとも微妙な表情で、真田はそう言った。
「はい?」
 その反応に首を傾げていると、如月に腰を引き寄せられた。
 まさか如月の職場でそんな風にされると思っていなかったので、私は真っ赤になって下を向く。
「状況は田野倉たのくらに聞いてくれ。オレは、ちょっと手が離せない」
 真田は私と如月を見て、ほんの少しだけニヤリと笑ったが、すぐにディスプレイを睨みつけた。とても忙しそうだ。
「マイ、こっちだ」
 如月に腰を抱かれたまま、連れて行かれた先には、頭を丸めた美丈夫が袈裟をきてパソコンをしていた。マウスの横には、数珠が置かれている。なんとも、違和感てんこもりであるが、そういえば、田野倉という人物は、小説でもこういう人物であった。事件そのものとは違って、調査室のメンバーは、ほぼイメージが変わらないのかもしれない。
「やあ、マイちゃん、久しぶり」
 にこにこと、田野倉が私に笑いかける。
「……久しぶり?」
 私は首をひねる。どこかで会ったであろうか? これほどインパクトのある人間を忘れることはないと思うけど。
「おい、田野倉」
 如月が渋い顔をした。
「あ、そうか。はじめまして、だね。田野倉栄治たのくらえいじだ。噂は聞いているから、ついね」
 田野倉は、慌てたようにそう言った。
 噂って、そんなに私、話題に上っているのだろうか。まあ、魂が二つ同居って珍しいから仕方ないか。
「田中舞です」
 私は、慌てて頭を下げた。
「実は、『幻視』が声明を送ってきた」
「声明?」
 ひらり、と、田野倉はプリントアウトされた紙を如月に手渡す。
「妖魔の存在を、大衆に周知させろ、か」
 如月が苦々しい顔で紙を見つめる
「そうすると、何か良いことがあるのですか?」
「霊能者の待遇が全面的に改善する」
「え?」
 私は如月と田野倉の顔を見比べる。
 ふたりとも、非常に複雑な表情をしていて、この声明に共感するところがあるらしい。
「おれたちはさ、こうやってお役所の仕事をしていても、世間様にとっては影のお仕事なわけ。公的な権力を持っているおれたちですら影だから、民間の霊能者がどう思われているかって、言わなくてもわかるよね?」
 田野倉の言葉に、私は頷く。
 自分がこんなことになるまで、霊能者という言葉にすら、胡散臭さを感じていたからよくわかる。
「周知した場合のデメリットは?」
「たぶん、霊的な犯罪は十倍以上になる。素人が妖術に手を出す可能性も増える。妖魔は人の負の感情で増殖するものも多いから、妖魔そのものの数も増えるだろう」
「あまり、よろしくないですね」
 私はため息をつく。如月たちが影に生きているという認識はとても辛い。辛いけれど、今の世の中の平穏は彼らの献身によって保たれているのだ。
「界弾きの際に開いた穴を固定化したとあるが?」
 文面に目を通しながら、如月は眉を曇らせる。
「今、調査中だが、雲龍寺付近で、妖気の異常感知が続いている。戯言と言えないかもしれない」
 田野倉の顔が厳しい。
「そんなことをして、何かメリットがあるのでしょうか?」
 私は首を傾げる。犯罪が増えたり、妖魔が増えたりしても、誰も得をしないと思う。
「マイちゃんの感覚って新鮮なくらい普通でいいなあ」
 田野倉はくすりと笑って私を見つめる。なんだか、恥ずかしくなって顔を赤らめると、グイッと如月の手で身体を引き寄せられた。
「奴らはね、魔への恐怖を利用して、世間を支配しようとしている」
 苦々しく田野倉はそう言った。
「結社『幻視』の奴らは、霊能者は選ばれたエリートだと思っている。畏れ、敬われ、そして、支配する存在だとね」
「選民思想ってやつですか」
 私は首を振った。
「妖魔を増やして、それを退治することで世間に恩を売ろうということですか?」
「そ。自分たちを神聖化するのが、権力への近道だからね」
 田野倉は首をすくめる。
「まー、少しは奴らの気持ちもわからなくはない。おれたちは、命を張って戦っても、たいていは誰の記憶にも残らない」
 私は、蛍を見に行った時の神社の境内で起こった事件を思い出す。
 色情魔に取りつかれた男性と襲われた女性を助けた時、如月は、『落石事故』の記憶に書き換えた。
 おそらく、あれはほんの一例なのだろう。
「それって、辛いですね」
 なにも感謝感激で恩人と崇められなくてもいいから、その仕事の功績を誰かに知ってほしいと思ってしまうのは、私が甘っちょろい『ナンチャッテ』霊能者だからだろうか。
「民間の霊能者は、おれたちみたいに徹底して記憶を改ざんしたりはしないけどな。防魔調査室の規則は厳しすぎる」
 田野倉はそう言って、私の頭に手を伸ばした。
「正直、マイちゃんとお話できる日が来るとは、思っていなかった」
「田野倉!」
 如月の非難ぎみの言葉に、田野倉は首をすくめる。
「いいだろう? マイちゃんは、もうこちら側の人間だから」
「あの?」
 不思議そうな顔をした私の頭をクシャクシャと、田野倉はなでた。
 如月は、何とも嫌そうな顔を浮かべている。
「それで、どうする?」
 如月は声明文をパチンと叩いた。
「今、杉野に札を作らせている。そっちの準備が出来たら、雲龍寺の妖魔を封じにいく。それまでに、飯を済ませておけ」
 田野倉はそう言うと、食堂の千円の金券を私にくれた。
「マイちゃんの分は、おれのオゴリね」
「ありがとうございます」
 私は丁寧に頭を下げようとすると、如月は金券を奪い取り、田野倉につき返した。
「マイの飯代は俺が出す。マイも、下心満載の男のプレゼントを簡単に受け取るな」
「下心?」
 何を言われたのかよくわからず、首を傾げる。
 今の流れって、「お嬢ちゃん、アメあげるよ」くらいのノリで、下心なんてものがあるとは思えなかったけれど。
「田野倉さん、ごめんなさい。如月さんが変なこと言って」
 思わずそう言って、頭を下げる。
「いーや。真実だから。用心したほうがいいよ、マイちゃん」
「は?」
 田野倉の言葉に目が点になる私を、引きずるように、如月が引っ張った。



 ご飯を頂いた後、如月と柳田が使っているという部屋に案内された。
 部屋の広さは四畳くらい。板張りで、部屋の隅にソファとテーブルがある。
「ここで、物見の陣を張る」
 如月はそう説明した。
「ここでできない複雑な霊視は、俺の家でやることになっている」
 それで、柳田や杉野が如月の家にしょっちゅう訪れるのか。
「おうちが職場になってしまっているということですか」
 ふうんと、納得する。
「あのマンションは場の安定度が高い。妖魔の危険も少ない土地柄だから」
 如月は言いながら、床に陣を書いていく。
「ここも、悪くはないのだが……いつもは、マイがいない」
「は?」
 如月の言葉に、私は首をひねる。言われた意味がわからない。
「舞が隣に引っ越してきてから、俺の霊力が安定した。麻衣が来る前の話だ」
 如月はそう言って、少しはにかんだ。
「こういうことを言うと、またマイが勘違いするから、あまり言いたくないが」
「何のことです?」
「霊的魅力、まあ、周囲に与える霊的な雰囲気だな。それが俺の霊力と相性が良かった」
「はあ」
「麻衣が来て、マイになって、さらにそれが顕著になった。最近、うちにやたらと柳田が来るのは、そのせいだ」
「よくわかりませんが……それで、夕方においでになっていたのですか?」
「そうだ。マイが不在なら、ここと条件はそんなに変わらないからな」
 如月は頷いた。
「ああ、だから、私に傍に居てほしいと?」
 私がポンと手を打つと、「それは違う」と、如月は慌てた。
「……もちろん、それも少しはあるが。術の為に、マイに傍にいてほしいわけではない」
 如月は陣を書き終えると、ふう、と息をつき、時計の針を見た。
「十五分か」
 ボソリと呟いて、私の身体を抱き寄せた。
「何のことです?」
「柳田が来るまでの時間」
 少し短い、と如月は呟く。
「マイ……キスしていいか?」
 唐突に問われて、心臓が止まりそうになる。
 今まで、何も聞かずに勝手に唇を重ねたくせに、と、ちょっと思う。
「どうして?」
 私が呟くと、如月は自嘲めいた笑いを浮かべた。
「杉野に叱られた。俺は言葉が足りないらしい」
「杉野さん?」
 如月が軽く頷く。
「女が占い師の門をくぐるのは、気持ちが不安定な時だって」
「は?」
 私はポカンとした。
「マイを不安にさせるから、日野に引っかかってしまったって」
 えっと。
 これはすごい誤解があるような気がする。そもそも、占いには全く興味がなかったのだから。
「それに……マイには、女性関係の激しい男だと思われていると」
 それは、確かに杉野さんにそう言ったと思う。
「違うのですか?」
 私の問いに、如月は微妙な顔をした。
「違うと言いきれないのが……辛いな」
 如月は、私の唇を指でなぞる。
「俺はこの仕事の意味を見失いかけた。情けない話だが、精神の拠り所を求めて女に走った」
 如月の顔に苦悩が浮かぶ。
「何か辛いことが?」
 私は、如月の頬に手を伸ばす。
「誰の記憶にも残らず、影に生きるのがしんどかった」
「……わかる気がします」
 誰だって、自分のことを認めてほしいって思う気持ちはある。
 命を張った戦いをなかったものにする……それって、酷だと思う。
 そういう意味では、『幻視』の声明は、よくわかる。
「女を抱いている時だけ、生きていると実感できた……」
 如月は苦笑いを浮かべた。
「最低だな」
「でも……その、合意の上ですよね?」
 言いながら、ちょっと、私は顔を赤らめる。
 如月だったら、一夜の夢で構わないという女性は多いと思う。
「合意の上で、犯罪じゃないなら……それは、過去の恋愛です」
 くすり、と私が笑うと、如月は目を丸くした。
「私は、如月さんの女性関係に口をはさむ立場ではありませんでしたし」
「マイ、俺は……」
 如月が何か言おうとするのを私は唇で塞いだ。
「占いに行ったのは、同僚に誘われたからですよ」
 びっくりした表情の如月に、私はちょっとだけ満足する。
 今、この表情を作ったのが自分なのだと思うと、少しだけ幸せになった。
「私、如月さんが好きです」
 クスクスと笑いながら私は告げる。こんなに素直に想いがこぼれるなんて、思ってなかった。
「マイ」
 如月の秀麗な顔に笑みが浮かぶ。
絶妙なタイミングで、廊下を歩く靴音が響く。
如月の手が私の顎にかけられるのを私は制した。
「ダメですよ。柳田さんがお見えです。お仕事ですよ」
「……意外とマイって、冷静だな」
 がっかりしたように、如月はため息をついた。
如月、キャラ崩壊しているかも…いわゆるデレキャラになってしまったかも…
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