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私は隣の田中です 作者:秋月 忍

第五章 界弾き

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ヒマワリの花束

いつもありがとうございます。

ちょっと構成に苦しんでおります。
 夜の八時を過ぎたころ、玄関の呼び鈴がなった。
「はーい」と、扉を開ければ、例によって、如月と柳田だった。
「杉野さん」
 私が、奥に声をかけようとすると、「お土産」と言って、柳田がケーキ屋の箱をよこした。
「マイちゃん、コンビニで弁当買ってきたから、中で食わせて」
「はい?」
 私がケーキの箱を持って反応できないうちに、柳田と如月は靴を脱いでうちに上がり込む。
「わー、ローズカフェのケーキ!」
 杉野がケーキのパッケージを見て、テンションを上げる。
 ローズカフェは、駅前で人気の喫茶店。ケーキの持ち帰りもやっていて、とても評判が良い。女子宅訪問のお土産のチョイスとしては、かなりポイントが高い。さすがである。
「柳田、やるじゃん」
「お前にじゃない、マイちゃんに、だ」
 コツンと、柳田は杉野の頭を叩く。とても仲がいいらしい……って。
「お土産は嬉しいのですが、どーして、うちで? 如月さんのお家で食べればいいのでは?」
 如月の家は、隣りなのだ。杉野がうちにいるからといって、うちで弁当を食う理由はよくわからない。
「だって、如月の家にはマイちゃんがいないだろ」
 柳田がニコニコと笑う。
 それは、当たり前だけど。
「どうせなら、マイちゃんの顔を見て食べたい」
 ニコリと笑うバリトンボイス。冗談と分かっていても、ドキッとする。
「その口説いているみたいなセリフ、やめてください」
 私の抗議に、杉野は笑った。
「マイさん、柳田はあなたを口説いているのよ?」
「杉野」
 柳田が慌てたように、杉野に抗議する。ちらちらと、如月を気にしているようだ。
「そんなに焦らなくても、大丈夫ですよ。冗談だって分かっています。身の程はわきまえていますから」
 私は、お茶を入れようと台所に立った。
「ふう。身の程って。マイさん、鈍すぎ」
 杉野が呆れたように呟く。
 如月は、買ってきたものを並べつつ、パチンと指を鳴らし桔梗を呼び出した。
 ふわり、と、桔梗が壁から現れ、すっと私の手伝いをしてくれた。
「マイちゃんは座っていていいよ」と桔梗が言ってくれるので、私は、湯呑を持って、折りたたみテーブルの傍に座り込んだ。
 それを見て、「言っておくことがある」と、柳田は話を切り出した。
「マイちゃん、『保護観察リスト』から、外れることになったから」
「保護観察?」
「『防魔調査室』は、妖魔に襲われる危険度の高い人物をリストアップしているのだけど、マイさんは、立派な霊能力者だから、保護観察リストから外すことに決定したの」
 自分がそんなリストに名を連ねていることは全く知らなかったけれど。
 『防魔調査室』は、そういう地道な仕事をしながら、妖魔の存在を世間から隠しているのだろう。
「つまり、如月さんの監視下でなくなるということですか?」
 私は寂しさを感じた。今まで危なくなると必ず如月が来てくれていた。リストから外れる、ということは、もう、如月は私を守る必要はないということだ。
「一応そういうことにはなるかな」
柳田が如月の顔を伺いながら、そう答えた。
「悟さまが、マイちゃんを守るの、仕事じゃないから」
 桔梗がにっこり笑いながら、口をはさんだが、如月は無言で、ただ、私を見ているだけだ。
「でも……私、自分で自分を守れるようにならないといけませんね」
 小説のなんちゃって知識じゃなく、きちんとした知識を得ないといけないと思う。
 帰らないと決めた以上、いろいろ腹をくくらねばならない。
「マイは、俺に守られるのは、迷惑なのか?」
 怯えたような目をして如月が口を開いた。なぜ、そんな目で見るのだろう。
「迷惑って……私の方が迷惑をかけてばかりだと思いますけど」
 如月の言っている意味がわからずに、首を傾げる。
「あー、まどろっこしいなあ。いい大人のくせに、イライラするっ!」
 杉野が突然、そう言って立ち上がった。
「如月も、欲しいなら欲しいで、さっさと押したお――」
 杉野の口を柳田が慌てて抑えた。ハグハグと声にならない杉野が暴れる。
「へ?」
「あー、悪い。杉野はちょっと品がないンだな。男社会が長いとダメだねー」
 ヘラヘラと柳田が取り繕うように笑う。柳田の拘束を離れた杉野は、不機嫌そうに顔を膨らます。とても、キュートだ。美人は何をやっても、美しいなあと思った。
「マイ、バラ男の他に、最近変わったことはないか?」
 こほん、と咳払いをして、如月は話題を変えるように、そう言った。
「特に、何もないです」
「例の、小説とやらは?」
 柳田が口をはさむ。
 私は、ふうっと息を吐いた。
「界弾きがおこって、異界から凶悪な妖魔が来ます。それこそ、魔王という感じのやつです」
「界弾き……」
「はい。実は、界弾きが起こるまで、小説は、「幻夢」という謎の集団を追う『防魔調査室』の日常です。そして、界弾きが起こって、妖魔がやってきて……あとは、もう、私は知りません」
 最終巻を読む前に、トリップしてしまったから。
「気になるのは『幻夢』は、『界弾き』がおこることを知っているような記述があったことでしょうか」
 私は首を振る。
 何にしても。今まで、小説と現実は異なる展開を見せるのが常で。ゲームの選択肢で分岐するような、単純なものではなく、最悪の未来を知っていたところで、回避するポイントはよくわからないし、そもそも、『界弾き』は人為的なものではない。
「……詳細は話せないが、「幻視」という結社を俺たちは、今追っている」
 如月の眼光が鋭くなった。
「何か、ヒントはないか」
 私は迷う。最終巻を読んでいないため、張られた伏線のどこに正解が潜んでいるのか見当が付かないし、『幻夢』と『幻視』がイコールなのかもわからない。
恋雲湖れんうんこの近くに本拠地がありました。雲龍寺うんりゅうじだったかな。たどり着いた時は、既にもぬけの殻でしたが。」
「一応、調べてみよう。関連があるかもしれん」
 柳田が手帳にメモを取った。
「それから……星村麗奈ほしむられなという女性が出てきます。ホテル湖水のラウンジで、出会います」
 星村は第五章のゲストヒロイン。妖艶な謎の女だ。
「その女がどうかした?」
 私は言うべきかどうか迷う。彼女は、何かをしたわけではない。とりあえず、五章の如月の夜のお相手をつとめた以外、特記するべきことは何もないのだ。
「特に何も。ただ、意味ありげに登場したので」
「ふうん」
 私の顔を杉野がさぐるように見る。
「ねえ、マイちゃんは?」
 桔梗がいつもの質問を繰り返す。背景キャラだと何度説明しても、彼女は私がメインストーリーに出てくると信じているらしい。
「私は……バラ男に花束もらって、如月さんとあいさつしたから、もう終わり」
「何それ? バラ男も出てくるの?」
 桔梗はびっくりした顔をした。
 驚くのは、そこかい? と思ったが、言われてみると、なんか変だ。田中の色恋の相手なんて、書く必要ないのに。
「参考までに、どんな奴? バラの花束持ってくるキザ男って」
 柳田が、興味深そうな表情で聞いてきた。
「ホストみたいな感じの、茶髪の二枚目です。占い師で、本業は呪言師だそうです」
「バラの花束で告白する人種って、実在するのねー」
 杉野が感心したようにそう言った。さすがの杉野でも、そんな告白はされたことがないらしい。
「……付き合うのか?」
 如月がボソリと呟くように聞いてきた。思いっきり拒絶したつもりだったけど、如月にはそんなふうに、見えたのだろうか?
「いえ、断りました。断ったつもりです」
 諦めない、と言われたような気はするけれど。私としては、かなりハッキリ断ったと思う。
「でも、住所だけを頼りに花束持って突撃しに来たって、相当、情熱的よね」
 杉野が面白そうにそう言った。
「情熱的かなあ。二枚目のくせに、私に交際申し込むって、それだけで怪しくないですか?」
私は首を振る。
ああ、でも。
「そういえば小説だと、私、バラ男と付き合うみたいだったな」
 上気した頬で、花束を抱えて恥ずかしげに、如月に挨拶する、田中舞。
 どう考えても、田中のラブの予感を匂わせるシーンである。
「マイちゃん?」
 心配そうな桔梗に、大丈夫よ、と告げる。
「男の名前は?」
 如月が私の顔を見つめる。
「日野陽平ですが……どうかしましたか?」
「住所を知られている以上、用心した方がいい。家に帰る前に俺に電話を入れろ。桔梗に様子を見させるから」
「心配しすぎでは?」
「マイは、トラブルに巻き込まれやすい癖に不用心だ。ストーカー体質の男だったらどうする?」
 正論過ぎて、何も言えない。
 言われてみれば、住所も会社名もバレバレなのだ。携帯電話の番号も書いたかも。
 日野が、良識ある人間であることを祈るしかない。
「私にいわせりゃ、如月も、アブナイ奴だとおもうけどねー」
 杉野はそう言って、「マイさんは男運、ないね」と、私の背を励ますように叩いた。



 翌日。
 会社に、ヒマワリの花束が贈られてきた。
 送り主は、日野陽平で、あて先は私だ。
 白石美紅が、ヒマワリの花ことばは、『あなただけを見つめている』よ、といらない情報を教えてくれた。
 それ、重い。
 相手が誰かはみんな知らないだろうが、社内中に私が求愛されていることがバレバレである。
 社長夫人である、山村まどかは「そうよねー、田中さんもお年頃よね」とか言っている。
 熊田は、「公開プロポーズか?」と、言って眉をしかめた。
 二十七才という私の年齢を考慮してか、周囲はおおむね祝福ムードで、「実はつきあってもいない相手です」と、とても言える雰囲気ではない。
 話に尾ひれがついて、秋には結婚するということに(誰が、誰と!)なったらしく、定時に帰ろうとしたら、何人かに「おめでとう」と言われた。
 これは、アレか? 私に会社を辞めさせるための嫌がらせだろうか?
 正直言って、求愛されたことより、スカウトされたことのほうが、私的には理解できる。
 なんちゃって能力ではあるけれど、一応、九字も切れる。世間的に見て、どの程度のレベルなのかはわからないけれども、そこそこ霊力は高いらしい。らしい、というのは情けないが、私の周囲の霊能力者は、桁違いの方ばかりなので、比較対象できないのだ。
 貰った花束を、会社で処分する訳にもいかず、花束を抱えて、帰宅する羽目になった。
 大きな花束を抱えて電車に乗ると、寿退社か、栄転か、というような目で見られ、超目立つ。
 駅の改札を出て、家に帰る旨を如月にメールする。
 すぐには、返事は来ないだろうと思い、自販機で缶コーヒーを買い、駅のベンチに腰を下ろした。
 花束を椅子に置き、タブに手を入れる。
「やあ」
 背中から声をかけられ、私は口にしたコーヒーを吹きそうになった。
「日野さん?」
 茶髪の端正な男が微笑む。今日は、ポロシャツにジーンズ。カジュアルな格好だ。
「プレゼントは、気にいってくれましたか?」
 クスクスと日野は笑った。
「どういうつもりですか? 会社に贈るなんて」
 私は、彼を睨みつけた。
「効果的な方法を、試してみただけですよ」
 本気なことを知ってもらいたかったから、と、日野はにこやかに笑う。
「私、断りましたよね?」
 私の言葉を、日野は、気にしていないようだ。
「逆に聞きますが、なぜ、断るのです?」
「え?」
 私は、思わず首を傾げた。
「私は、貴女の才能を生かせる職場が提供できます。もちろん、貴女が望むなら、貴女は家庭に入って私を支えてくれるという形でも構わない。収入の面で苦労させることはない」
 日野は、さっと、私の隣に座り、私の手を取った。
「自分で言うのもなんですが、ルックスだって悪くない。年齢的にも、あなたより二つ上で、ちょうど良いはずだ」
 日野の話を全部鵜呑みにするわけではない。しかし彼はルックス的には、如月クラス。私の相手としては、良すぎるくらいだ。
 二十七才の干物女が、簡単に断ってはいけない優良物件だとは思う。
「私……すきなひとがいます」
 私の言葉に、日野はニヤリと笑った。
「好きなひとということは、恋人ではないのでしょう?」
 日野は、私の手にゆっくりと口付けた。ゾクリ、としたものが身体に走った。
「忘れなさい。辛い恋をするより、私の愛を受け入れたほうが、貴女は幸せになれる」
 日野の言葉は甘い。甘くて、痺れる。
 日野の手が、私の頬に触れ、ゆっくりと肩を撫でて、止まる。
「恋人でもないのに、所有痕とはね」
 呆れたように日野は、手を離した。
「今日はこのくらいにしておきます。でも、諦めませんから」
 ニヤリ、と口に笑みを浮かべて、立ち上がった。
 携帯電話の着信音が流れる。
「貴女はきっと私を選びますよ」
 日野は耳元でそう囁くと、駅の改札の方へと消えていった。
 私の心に、日野の言葉が甘美な痺れを残す。
 着メロの音が、警告音のように鳴りつづけていた。

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