ヒーラーのオレが異世界トリップしたら胸触りまくりなんだが、
気がつくと、明るい暗がりだった。
明け方なのかな? と思って空を見上げたら、月が高いところにある。星はあまり見えない。
あの灯りは魔灯かな? 魔灯は魔力を水晶に溜めて光らせる装置で、ナエクラエのような都会にあると、聞いたことがある。
魔灯のおかげで夜明けか黄昏のように見えるのか?
建物にも見覚えがない。あちらもこちらも石造りでもレンガでもないような、角がきっちりした建物ばかり、しかも一体何階立てなのさ。
遠くにはもっとよくわからない建物がニョキニョキはえていた。
「ここ、どこ?」
オレは思わず口に出した。
その時、
「キャー!!」
女の悲鳴が聞こえ、足音がした。
コチラへ向かってくる。
「まちやがれ!」
「イヤーッ! 助けて!」
女がオレの後ろに隠れた。男が迫る。
「ちょっと、な、なに? なんだよォォォオオオ!!」
男がオレの大声にひるんだスキに金的をかまし、オレは女を抱えて逃げた。
「だ、大丈夫?」
「……うう」
しばらく逃げたあと、うめき声をあげた女を見ると彼女は怪我をしていた。しかも重傷。
胸元がざっくりと切られ、先ほどまで動けたのが不思議なくらいだ。
「大変だ」
治療師としては放っておけない。
周囲を見回し、男が来ないのを確認して、空き地に小さい洞窟のようなものがあったから、そこで女を治療する事にした。
幸い治療鞄は持っていた。
見たところ刃物はよく手入れされていたのか、キレイに切れている。
繋いで跡を消せば問題ないだろう。
「癒やしの神よ、我に力を。ヒール」
傷口がふさがった所に柔らかくした触媒を塗る。
うーん、あんまり盛り上がると彼女に悪いかなぁ。
巷では、大きな胸は品がないとか、動きにくいとか言われている。オレも小さい方が好きだ。
でも、傷跡があるよりは良いだろう。
あ、デコボコした。
しかたない、もう少し乗せるか。
んで、整えて……
「ヒール」
……頑張りすぎたのか、魔力が足りなくなって眠くなってきた。
とりあえずこれでいいか。
最後にオレは包帯を巻いて、そこで意識がなくなった。
「えー!? ナ、ナ、ナニコレー!」
女の悲鳴でオレは目覚めた。
確かに女はモテモテサイズの美小胸だったから、普通の女サイズになっていればショックだろう。一刻を争う容態だったから、勘弁してほしい。解決方法といえば、お金があるなら、脂肪摘出手術でもしてもらうぐらいしかないか。
罵られる覚悟を決めて、オレは目を開けた。
「おまえ、具合はいいのか?」
女はオレを見る。
よく見れば、女は珍妙な格好をしていた。
髪は前を短くして子供っぽいし、そのくせ赤い紅を引いている。
昨日裂けた服も、胸元は若いのに大きくあけ、胸を大きく錯覚させるフリル。趣味が悪い。
「あんた昨日の」
「怪我はオレが治療した。急いでいたし、その、あの、胸が大きくなってしまって、すまない」
オレは女の目を見て謝った。
「え、あの、夢じゃなかったんだ……っていうか、あんたがやってくれたの? 何で謝るのよ」
「へ?」
「タダで豊胸出来たなんてサイコーよ!」
女は治療した胸をバーンと張った。
大きくて嬉しいなんて、不思議である。
しかしオレは、
「無理するな。激しく動かすと傷口が裂けるぞ」
と、治療師として真っ当な注意した。
「はーい。ところで、あんた、コスプレなのその服」
女はオレの治療師の制服を見て変な顔をした。
神官の格好に似た、オーソドックスなタイプだと思うんだけど。
「仮装じゃない! ああ! そうか! そういえば、ここはどこなんだ?」
オレは女の服がヘンテコに見えて、女にとってオレの服が変に映る。それに昨日見たヘンテコな建物。
ここは、今までいたところとは違うんじゃないか、と考えて、女に質問した。
「え? 迷子?」
女は怪訝な顔をする。
「違う……ような違わないような」
「ここは何丁目かしら、そよかぜ公園だからー」
女はちょっと待って。と薄切りの水晶のようなものを取り出してなにやら指を滑らせている。
「ちょっと待て、アナタは呪術師なのか?」
呪術をかけられたらたまらない。命が助かって嬉しいフリをして、大きい胸にしたこと、恨んでいるのか?
しかし、女の返答は意外なものだった。いや、トンチンカンか?
「ハア?あんた日本語ペラペラなのに、アフリカ奥地からでも来たの?」
「日本語?オレはさっきからホヘア語を話してるんたけど」
「ハア?」
「……ひょっとしてココは、ホヘアじゃないのか?」
「ホヘアってどこ?」
女に首を傾げられる。
「ひょっとしてツクヨエですらない?」
「どこ? そこ」
治療した女によると、ここはツクヨエとは違う、地球という世界らしい。
ホヘアと日本の言葉は非常に近く、区別がつかなかった。
でも文化なんかは全然違って、地球で魔法は想像上の存在らしい。かわりにツクヨエの錬金術師の想像だと思っていた、高度な鉄鋼加工や電気が発達しているそうだ。
昨日魔灯だと思ったものも、電灯といって電気の力で光らせていたものらしい。
「ところで、どうやって治したら胸が大きくなったの?」
「治療魔法のヒールをかけて、触媒でならしてヒールしたんだよ」
「魔法?」
オレは頷いた。
「すごい、まるで本物の胸みたい」
「本物だろ。触媒は身体の細胞になるんだ。神経もできるから、感触あるぞ」
「それってなんか、先端医療みたい!」
「ホヘアでは普通だ」
女は大げさに驚いて、自身の胸に触れ、「キャー嬉しい」と騒いでいた。
どうも彼女が言うには、地球の日本では女の胸は大きいほうが、モテるらしい。
「ところで、アンタこれからどうするの?」
「うーん、帰る方法があれば、帰りたいな」
ホヘアでは天涯孤独の一人暮らしだったけど、友人に会えないのはやはり寂しい。
女に方法を知っているか聞くと、知らないと言われた。
女の知る異世界に行く物語(実話ではないらしいけれど、参考までに聞いた)では、決まった手順を踏んだ場合は帰れることも多いけど、迷い込んだ場合は、ある日偶然帰れるか異世界で暮らし続けるパターンが多いらしい。
帰れるのか? オレ。
「なんにしても先立つものは必要よね。金目のものはもってる?」
「紙幣制だったからな。後は形見の品だから、手放したくない」
オレが言うと女は頭を掻いた。
「異世界人とかは隠して暮らしたほうがいいと思うのよね」
異質の存在に出会った時、この地球の人間は閉じ込めて観察する習慣があるらしい。
女はこうして恩を受けた人間に、非人道的な生活をさせるのは心が痛むらしい。
「一体どうすればいいのやら」
「そっか……その触媒っていうのは何でできてるの?」
「豚の脂肪と、新鮮な鶏の卵だが」
触媒の調合も治療師の手腕の一つだ。卵などは高級品だが、手に入るのだろうか。
「マジで!? ええっ? ああそうだ!」
そう言うと、女は良いことを考えたという顔で、お礼がしたい、とオレを役所に連れて行った。
観察されるんじゃないのか? 大丈夫なのか?
なんだかわからないうちに、オレは借家も仕事も斡旋してもらえた。
とりあえずは助かった……のか?
エステという職に就いて、そこの店長に胸の小さい女性に、触媒を塗ってヒールをして欲しいと頼まれた。治療したあの女のアイデアだという。
「そんな! 怪我でもないのに美しい胸をわざわざ大きくするなど耐えられない」
訴えてみたものの、店長から、
「君は貧乳派か。珍しいねぇ。気に入った客は口説いていいからさ、他に働き口ないんだろ? な、頼むよ」
と強要された。
オレはこうして美しい胸の女達を改造する仕事に就いてしまった。
毎度「元にはなかなか戻せないよ、恋の相手が小さい胸好きだったら、どうするの?」と、確かめてから、血涙を流す思いで胸を大きくする。
その態度が丁寧だとか、いやらしさがなくて良いだとか言って評判が評判を呼び、オレはすっかり豊胸マッサージ師として有名になってしまった。
どうしてこの世界の住人たちは大きな胸がいいのだ!
オレは今日も心の中で叫ぶのだった。