女神様たちに愛された文化系男の憂鬱
これは現実か、ただの自分の妄想なのか。
僕にはもうよくわからなかった。
「ちょっと…そこをどきなさい、アマテラス」
巫女さんみたいな姿のおねーさんを押しのけるのは、ギリシャの…キトンとかいう衣装をなんなく着こなすおねーさん。
「アテナ、あなたこそ。今日はわたくしが彼の隣の席よ」
「誰が決めたのかしらそんなこと」
「お待ちなさい、このあいだきちんと順番表を作ったはず。
今日は間違いなく、このイシュタルが彼の隣だわ」
このおねーさんの服は、なんていうのか知らねぇや。
と思ったところへいきなり、皮鎧を着けた金髪色白おねーさんが抱きついてきた。
「あらぁ。マコトは絶対、わたしが横にいた方がいいわよねぇ」
「「「フレイヤ!!」」」
「ちょっと! 抜け駆けはゆるさなくてよ!?」
朝のお決まりの光景だ。4人の女性が椅子取りゲームよろしく、食事用ちゃぶ台の僕の両脇を取り合っている。まるでありきたりなギャルゲーだ。
なんで、こんなことになってしまったのかというと――
1ヶ月ばかり前に、僕はノートをもらった。
相手はあやしげな路上の占い師だった。手招きされて、なんとなく寄ってったら、無言でそのノートを押しつけられて。
僕は深く考えず、それを絵の下書きノートにした。
画板に向かう前のモチーフ描写。このところ凝っていた題材というのが“女神”というやつで。
いろいろ、描いてみたわけだ。
そうしたら……こういうことになってしまった。
「アテナ。前々から思っていたのだけど、あなた、戦女神ってポジションわたしとかぶってるのよ!」
「まあイシュタルなんて日本ではマイナーなのだから、気付く人もそういないでしょうけれど」
「アマテラス…!ご当地女神だと思って生意気に!」
「北欧系は日本でもブームだというわね。私チャンス?」
「おあいにく様。星占い好きの日本人にギリシャ神話は鉄板よ」
なんというかもう、カオス。
アマテラスオオミカミ(日本)にアテナ(ギリシャ)にフレイヤ(北欧)にイシュタル(メソポタミア)ってどういうことだ。どういうチョイスだ。世界観統一しろ。
なーんて突っ込んでみたところで、それは自分に跳ね返る。
何しろ全員、描いたの僕だからなぁ…
だからなのか、実はみんな顔の系統が似ている。
要は――僕好みなのだ。
……。
いいじゃないか、嫌いな顔を描いたってしょうがない。
「マコト! 今日こそはっきり決めて頂戴!!」
急に矛先を向けられて、一瞬焦った。
「決めるって…」
「結局のところ、わたし達の中から、誰を選ぶの!?」
4人の視線が刺さる。まあ…これにも慣れた。
僕は食べ終えた朝食に手を合わせて立ち上がる。
「学校行って来る」
「ちょっとマコトぉ」
「すぐに選ぶなんてできないよ」
「マコト!」
「1人だけ――って、それだけは決めちゃったからさ」
それでみんな黙った。少し申し訳ない気分で、僕は部屋を出た。
本当に、どうしたものか。
いっそ全員を選んでしまえばいいのじゃないかと、どこかで囁く声もあるけど…
基本的に、僕は浮気をしない主義だ。
――といえば格好いいけど。つまりできないのだ。
1人に入れ込むやり方しか、僕には。
「さて…本当、誰にしよう」
まだ決めかねている。次の絵画のモチーフを。
それぞれの顔を思い浮かべながら、僕は非現実を離れ、日常(学校)へと還っていった。
END
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