地を這う獣は恋に憧れる
暑くて眠れなかったので、ぼーっと妄想していたものを、ざっと書き上げたので、いつもより更に拙い出来上がり・・・!ふおおお
照りつける太陽が、今年は例年以上の強さを持っているらしい。
毎年聞くような暑さの中に身をおきながら、私は今たくさんの人に囲まれて、笑顔を作り上げている。
「すいません、こっちもいいですか?」
「あの、勝った時の決めポーズお願いします」
カシャカシャカシャ
たくさんのカメラを向けられ、笑顔を作ったり、冷たい表情をつくってみたり、グラビアアイドルさながら、カメラを構える人たちの要望にこたえて行く。
声をかけてくる者もいれば、無言でシャッターを切りまくる者もいる。私はその真ん中で、それぞれにカメラ目線を向けながら、サービスとしてたまに際どいポーズもとって見たり。
「マジ再現率半端ないっす」
「ありがとうございます」
くたびれたシャツを着こなす人のねちっこい目線が、私の足元から這い上がり胸元で止まっても気にならず、私は慣れてしまった自分に苦笑する。
なぜなら、ここはそういう場所だから・・・っ!
熱気を含んだ風が髪を乱すのを、手ぐしで整えながら、私は周囲を見回した。
煌びやでいろんな人種が混ざった衣装を着こなす人たちと、それをカメラに収めようと躍起になっているたくさんの人達。
そう、今私は一年に二回開催される、コスプレイベントに参加しているのだ。
この日のために、私マジ頑張った・・・っ!
安い布を使うと、どうしても出来栄えも安っぽく仕上がるから、布を選びに選びまくり、自分のサイズにしっかりフィット。
腰から生えるこうもりの羽をモチーフにした飾りも、軸はフィギュア製作を趣味とする友達に造ってもらい、血管とかも薄く見えるものを仕上げてもらった。
自分で言うのもなんだけど、今回の出来は本当改心の出来だ。スペシャルだ。
キャラ的に本当だったらおへそのあたりまで、胸元から一気に空いてるんだけど、そこは規制もあるから、動けばうふふとなるところもあるけど、普通に立ってる分には大丈夫。
そういうチラリズム的な所まで折り込んだ今回の、エロ可愛いキャラの服、ゲームが発売した時から絶対着こなしてやると、本当、今回頑張った。
「あの、一枚お願いします」
「はーい」
だからね、もう思う存分撮ってくれたえ。
今夜のおかずとして使われるのは、ちょっと怖い気もするけど、こういう場所にいるからには覚悟のうえだ。今の私をもっと見て欲しい。褒めてほしいの!
そんな悦に浸りながらの写真撮影も、時間が過ぎるとそれでもやっぱり、疲れというものは出てくるわけで。
「ごめん、ちょっと喉かわいたから、休んでくる」
「あっそ? あたしはまだこのへんにいるから」
「うん、わかった」
一緒に参加している友達に一声かけて、外から建物の中へ移動し、自動販売機が並んで設置されている、少しだけ人ごみが少ない場所を見つけると歩を進める。
その間ちらちらと視線を感じるけれど、ここは見られてなんぼの場所なので、普段の私だったら怪訝に思う視線も、にこやかにスルーして自動販売機に小銭を投入。
冷えた清涼飲料水で喉元を潤すと、ようやく私はほっと一息ついて、空いてるベンチに腰掛けた。
壁につけた背がひんやりとして気持ちいい。
それにしても、これだけ規模大きいと、レベル高いレイヤーさん多くて眼福、眼福。
あ、あれ今度発売するゲームのキャラなのに、早い人は本当早っ!
うおう、あの子、可愛すぎるんだけどっ!
隣を歩くのは、長身の男と見せかけて女の人だ~いいね~いいね~そのストイックさ。
・・・なんて取り留めの無い事を考え、口元がにやけそうになったのを、誤魔化すようにもう一度ペットボトルを口にあて、首を傾ける。
目を閉じて、ごくごくと喉を潤し、はあっと一息ついて顔を上げると・・・
会場の雰囲気が一変していた。
あれ?
首をかしげて、改めてあたりを見回す。
周りには、たくさんのレイヤーさんが確かにいる。
ただ、白い壁の大きな建物で、ガラス張りの大きな窓から真夏の太陽が燦々と日差しを差し込ませていたんだけど、それが無いのだ。
それに、レイヤーさんだけになっているのが凄く気になる。
ゲームや漫画、いわゆる二次元の服装に扮したコスプレイヤーが集まる場所には必ずいる、一般の方々、カメラを持った人達の姿が無い。
いや、確かにレイヤーさんしか入れない場所もありますよ。
親交深める的な、そういうところもあるけど、今さっきまで私がいたのは、そういう場所じゃなくて普通の大きな通路の一角に備え付けられたベンチだったんだけど・・・
???と疑問を浮かべながらも、周囲に視線を向ける。
猫耳のついた女の子、黒いフードに身を包んだ大きな杖を持った陰鬱とした人、何のゲームかはわからないけど魔道師系かな?
半分顔が溶けたマスクをつけた人や、トカゲのマスクをつけた人達が隅に集まって嫌な笑みを浮かべて談笑している。様になってるな。
お腹の空いたセクシーな黒のドレスを纏った外人の女性は、妖艶で目を惹き付けられる。
他にも、覚えは無いけれど、様々な格好をした人達がその場には数えられないほどいた。
うん、いたって普通のコスプレ集団だ。
いつの間にか、会場だけ変わったのかな?
闇系キャラだけを集めて、ついでに場所もサプライズチェンジとか。
流石、年に二回しか開催されない大型イベント、やる事が違うわ。
そう結論づけて、こうなったら私も楽しむかと、座っていたベンチから腰を上げた。
どの人もさっき見てたのより、格段にレベル高いな~
あの服作るの、凄い高そう・・・
あ、立ってる人達で見えなかったけど、端っこの方に騎士系の格好した人達が縄で縛られてる。
話せないように、口元を縛られ、目が血走っている。
闇系コスプレを集めてるからってそんなところにまで凝るなんて、ちょ、萌えなんですけど・・・!
あとで話しかけてみようっと。
るんるんとした気分で、きょろきょろと辺りを見回しながら、とりあえず、まずは友達と合流するかと、一緒に来た相方の顔を捜しながら会場をうろつく。
途中黒の燕尾服に身を包んだ紫色に肌を塗っている男の人に飲み物を渡されたりして、ここを抜けないかと誘われたりした。紫が肌につくと困るからなんて断ったら、残念そうに肩をすくめて離れていった。
それにしても、友達も魔女系のコスプレだから、この会場の何処かにいてもおかしくないはずなのに、何処にも見つからない。
人が多いせいかと、携帯で連絡取ってみるかと短いフリルスカートのポケットに忍ばせていた携帯を取り出そうとした時だった。
ざわっと人の気配が乱れる。
ん? と好奇心から、人の波が分かれた場所へと視線を移して、私は息を飲んだ。
「ジーヴィストだ・・・」
「・・・の種が奴に滅ぼされたと・・・」
ひそひそと囁かれる声は、私の耳を素通りしていく。
そんな事よりも、私はそこに立つ人に全身で惹き付けられていたからだ。
だって、そこには、すっごい秀逸な作りの銀の毛に覆われた人狼がたっていたのだ。
顔はもう、本物? どんな特殊メイク? ハリウッド?
とにかく、レベルたけえーっ!!!
ってね、私はごくりと喉を鳴らした。
作り物のマスクとは思えない狼の顔に、さらさらした銀の毛に覆われたがっしりとした体躯、すらりと伸びた筋肉質な太い腕とすらりと伸びた足。
ざっくりとした黒地に紫と銀で刺繍されたマントを斜めに羽織る姿が、均整取れすぎていて、ドキドキする。こんな凄いコスプレを見たのは初めてな私は、彼から視線を外せず感嘆の溜息を漏らす。
こりゃ、お近付きになるしかない。
今後のコスプレのためにも、知り合いを増やしておくのは、良い事だ。
思い切って彼に向かって歩を進めると、周囲の人が驚いたように道を開けてくれた。
その人たちの動きのおかげで、彼が私に視線を止める。
狼の深い蒼の目と、目が合う。
獰猛な肉食獣と目があった時のような、妙な緊張感が私の背中を走った。
子供の頃に動物園で初めてライオンを見た時のような、水族館で水の中を泳ぐ白熊を水槽の外から見つめていて目があい、白熊が水槽の端に寄って来た時のような、そんな武者震いにも似た感動に私は震えた。
それらは勿論危険だから、触れることは叶わなかったけど。
あの精巧なつくりをしたコスプレイヤーさんなら、触らせてくれるだろうか。
人狼の目の前まで歩み寄り彼を見上げると、本当に背も体も大きくて驚いた。
軽く二メートルは越えてるんじゃないだろうか、たぶん、錯覚だろうけど、それくらいでかい。
思わず、ぱちぱちと二度瞬きすると、じっとこちらを見下ろしていた狼の目も、瞬く。
凄い、それどうやって動かしてるの?
綺麗な深い蒼の瞳に引き寄せられるように、そっと手を伸ばす。
流れるような銀の鬣が、私の動きを察してふっくらと空気を含んだように、波立つ。
そんな動きまで出来るなんてと、この時の私は感動していた。
その感動を更に深める伸ばした手の指先に感じた毛の感触に、私は堪えきれずに笑みを零す。
「柔らかーい!」
声を上げいきなり無遠慮に彼の喉元を覆う毛に触れ、想像以上に柔らかなそこを堪能する。
わしゃわしゃとかき回して、乱れた毛を整えては、もっと触りたいという欲を抑えられずに再度わしゃわしゃと触ると、狼の目が気持ち良さそうに細められ、彼の首が触りやすいように下がった。
それに思わず気をよくして、私の手は更に遠慮が無くなる。
大きな狼の顔は真正面から見ても、本物そっくりだ。
といっても、本物の狼をこんな間近で見た事もないから何とも言えないけど、まあ、シベリアンハスキーの毛が多いのとあまり変わらない感じかも?
本物の犬を触ってる気分になり、私は近付いた鼻先に自分の鼻先を押し付け、そのままちゅっとキスをした。
狼の鼻先の湿った感触に、こんなところまで本物そっくりに作るなんて凄い! なんて思ったところで、彼が慌てたように身を起こした。
わ、流石にやり過ぎたか。
「ご、ごめんなさい。つい」
その狼のマスクがあまりにも秀逸で、一瞬本気で犬とじゃれあってる気分になっちゃっいまして、本当すいません。でも、本当良く出来てて、もうこうなったら、何処までよく出来てるのか、しっかり全体触らせて欲しいっていか、あ、いやこれって変な意味じゃなくて、純粋に興味が沸きまして!
「・・・触りたい? オレに、興味、だと?」
早口で一気に捲くし立てたため、私の言葉は一部しか理解されなかったらしい。
そこだけ聞くと、変な意味だけしか伝わってないようじゃないか。
しっかり訂正させて頂かなければ・・・!
そう思って、口を開こうとした時だった。
私の体は、その人狼コスプレイヤーさんの片腕によって、一気に彼の肩口に担ぎ上げられた。
わわっと驚き、思わずしがみついた彼の大きな背中を覆う毛の感触にも、そこでちょっと感動する。
これ、どうやってるんだろう。
あの、肌にくっつける育毛的なあれかしら?
年に二回のためにそこまでするなんて、私はコスプレイヤーとしてまだまだね。
なんて事を考えてる私を他所に、人狼はざっと辺りに視線をさ迷わせて、一点でぴたりと止めた。
「蜥蜴のツェーザル」
彼が声をかけた人の群れの隙間を縫って、青色の肌をした燕尾服姿をした人が現れた。
先程の紫の色の人といい、燕尾服姿の人は肌の色を変えるのが、どこかのゲームであっただろうか?
きょとんとして見つめる私の視線の先で、彼らの会話が続く。
「・・・ようこそ、ジーヴィスト。あなたのあのような姿を見られるとは」
「戯言はいい。これをもらっていく」
「まだ、主賓も来られぬうちに帰られると?」
「人間を捕まえたというから、奴かどうか確かめにきただけだ。ここにはいない」
「今回捕まえたのは王都の魔法騎士、その力を分け与えて頂こうと、ここにいる皆様は集まってらっしゃるというのに」
「ふん、オレには必要ない」
コスプレしてる人達がたまに、キャラになりきって会話するような事あるけど、これもそれ?
私は会話の内容がさっぱり解らずに、首をかしげた。
青色の肌の人は、金色のカラコンを入れた目をちらりと私に向けて微笑む。
「あなたが興味を抱く娘なら、私も味見させて頂きたいと思うのですが」
そこで、人狼は肩越しに私の顔を振り返った。
肩に担ぎ上げられてるから、どう動いても彼の顔は私の位置から確認出来ないけれど、何やら、ふっと彼が笑ったような気がする。
「さてな、・・・とにかく、この娘もらっていくぞ」
言って、ばさりとマントを翻し、彼が歩き出す。
私は落とされないように、慌てて彼の体にしがみ付く腕に力を込めた。
その後に、青色の肌の人が呟いた言葉も、ひそひそと囁かれる言葉も私には聞こえず、私はわけもわからず人狼の背中の毛をただ、堪能するのだった。
「・・・はて、その娘。此度の招待客リストに名前の無き者。あなたはどうなさるのでしょうね?」
これは、知らず内に魔界に落ちた女と、孤高の魔との恋物語・・・かもしれない。