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拝啓、日だまりの人々
作:あおぞらスカッツ



夢の中


足元には一匹の猫、ミレトスがいた。
私ははっとした。目の前には男と女、さっきの場面がただ広がるばかりである。
いけない、いけない、すっかり昔の思い出に浸ってしまった。
「普通だったら<その男の言葉を理解した色気の無い女はなんでも屋を辞め、新しい道へと旅立っていった>で終わるはずだったのに」
私は頭が悪い。奴の言葉は形にもならずに今までずるずると引っ張ってきちゃったし、なんだか妙な雰囲気が漂うこの1コマ。
私はもう一度起こっている状況を整理すると、
「一体何をしていたわけ?あんたには大体彼女がいるでしょ」
悪い人なりの精一杯の言葉を発した。
本当に怒りたいときに名前も言えないなんて。
なんだかずっといいように振り回されて、お金だって貰ってるし、それなのに一番大事な名前を知らないって、どういうことよ。
「いやいや、俺は喧嘩、説得、それ以外何もしてない。俺は彼女を一番大切にしますから。」
男はへらへらと笑うが、それで女の存在が消え去るわけでもない。
「じゃあその人は何なのよ!!」
と言ってはみたものの、よく考えればこの台詞、なんかおかしくないか?
そりゃ変なことばっかり考えちゃった私が悪いのだけれど、こいつのことはどうでもいいのだけれど、八つ当たり気味になっちゃったのはいいのだけれど、これじゃまるで彼女みたいじゃないか。いやいや、そんな気はまるで無いのだけれど。
「おいおいそんな声出しちゃミレトスがびっくりするぞ。俺はミレトスが一番大事なのだ。」
それにミレトスは反応した。尻尾を振りながら、ミレトスは男の元へ駆けて行ったのだ。男はミレトスの脇の下に手をやると、大事そうに抱えた。
「ここに来るのは依頼者以外の何者でもありません。」
男は一度、栗色の髪の毛をもった女性のほうを振り返った。女性は静かに頷く。
「朝っぱらから言いにくい話なんだけどな、」
男はミレトスとじゃれ合いながら話し出した。

この女性、リエさんっていうんだけどね。つい先月、夫さんと離婚したんですよ。それで色々疲れちゃって、この俺のところまで来て、「殺してください」だって。そりゃなんでも屋だけどさ、俺たちがやるのは一般的に言う雑用、なんだよ。まあ見ず知らずの男に向かってそんなことを言うリエさんはよっぽどだったと思うし、そりゃ今まで分かっていたことも分からなくなるよな。そんなわけでだ、俺は彼女を実に鬱陶しい、青い言葉で説得した。そしたらリエさん逆ギレ。流石の俺もびっくりしたよ、だってこんなにべっぴんさんなのに、あんなキレかた!いやあ本当に世の中は難しいねえ。んで、このままだとアパートが崩壊するって思ったし、めんどくさかったし、じゃあ出来るだけのお手伝いはしますよーってところでお前が来たのだ。

「リエさん本当に疲れちゃってるので早いうちに決着つけます。出発は夜の十一時。車は俺の兄貴が用意してくれるから。いや、兄貴に上手く嘘つけてよかったよ。こんなことやってるって知ったら大変なことになっちゃう。君も行くんだよ。リエさんの最後の姿見届けようぜ。あとミレトスも。」

男は一通り言い終わると、リエさんに向かって、「これでいいでしょ?」と微笑んだ。

「大丈夫!今はまだ朝です。あ、やりたいことは今のうちやっといてね。もしかしたら一緒に死ぬことになるかもしれないから。まあそれはリエさん次第だけれど。・・・きっとこの世に存在する娯楽以上の娯楽があるに違いない、ミレトス、」
奴は自分の腕の中で目をつぶる猫に向かってそう言った。
えめらるどぐりーんの目を持った猫、ミレトスの心は奴にも分からない。
だけどミレトスは、確かに柔らかい声で鳴いた。

「あの、よろしくお願いします」
リエさんがそれに続くように言った。
繊細で、手荒く扱ったらつぶれてしまいそうな声だった。

私、頭が悪いんじゃなくて、ただおかしくなっちゃっただけかもしれない。
嫌だ、嫌だとたった一本のタコ糸を握りながら泣いている自分が奥底には確かに存在しているのに、それを言葉で表すことが出来ない。

「車は昼頃、来るんだ。俺とリエさんは買出しにいってくるから、お前、兄貴を出迎えてくれ。」

もうどうにもできなかった。












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