「あ゛〜もう何やねんお前は!」
隣で不機嫌そうに口を尖らせ
何を言っても聞く耳を持たず
顔も会わせない和葉に
平次はしびれを切らし怒鳴る。
「何がそんなに気にいらへんのや!?」
和葉の一足前にでて
正面から無理やり顔を合わせる。
道端で2人の足が止まった。
しかし和葉は
それでも目線を横にやり、平次と顔を合わせようとしない。
「ったく…ブッサイクな顔しやがって……見てられへんわ。」
平次は吐き捨てるようにそう言って
和葉に背を向け歩きだした。
「悪かったなぁブッサイクで!誰のせいやと思ってんのん!?」
平次の捨て台詞に
和葉は怒りを露にして後を追う。
再び肩を並べて歩き出す。
「人の気も知らんでっ……」
「…だからさっきから聞いてるやろ?何が不満やねん?」
意外に優しい口調に驚いて和葉が足を止めると、
平次もそれに従うように足を止めた。
小さくため息をついて
和葉に顔を向ける。
何故か真剣な平次の表情に
和葉は顔を赤らめる。
「やっと顔あわせたな」
「えっ?」
「気持ち悪いねん…隣におるのに目ぇも見られへんのは」
多少ぶっきらぼうではあるが
平次の暖かな言葉に
和葉は何も言い返せなくなる。
自分の言動が恥ずかしくなって
「あ」とか「う」とかしか
言えなくなってしまった。
その場で俯く。
「…………」
「…で、何やねん?どうせ大した事ないやろうけど聞いたるわ」
「……もう、ええねん」
「は?」
和葉は顔を上げると
恥ずかしそうに笑った。
その表情に何故か平次まで恥ずかしくなり
自分の髪を掻き回し、気を紛らわす。
「な、何や…変なやっちゃな……」
「あっ!平次!あたし団子食べたい!」
切り替えの早い和葉は
数メートル先にある店を指差して言った。
「せっかく京都まで来たんやから、何か美味しいもの食べて帰ろ!」
「……せやな」
□
「ああ〜!美味かったわ〜!」
「…オッサンやな」
「何や?美味いもん美味いゆうて何が悪いん?」
「もう少し上品にいえへんのか?“とても美味しかったわ”とか…」
「“とても美味しかったわ”」
「…気色悪っ……」
「うっさいわ!」
ふざけ合いながら
歩いていると桜の木が並ぶ通りに入った。
「こっちに来てから毎日見てるけど…何回見ても綺麗やな」
「せやなぁ…」
桜に見とれる和葉の横顔を
じっと見つめた。
こいつが俺の初恋か……
まだイマイチ実感が湧かへんわ……。
眉間にシワをよせて
目を細め、食い入るように和葉を見つめる。
いきなり和葉が顔を俺に向けたので
慌てて顔を正面に向けた。
「何や?見てたやろ?」
「何でもないわ」
「……なぁ平次、まだ時間ある?」
「無いことは無い」
「この辺親戚のおばちゃんの家近いねん!寄ってもええ?」
そんなわけで
俺は和葉の親戚訪問に付き合う事になった。
知り合いの家が近いと
ついつい寄りたくなるんは、多分大阪人の性や。
「おばちゃ〜ん!あたしやで〜!」
和葉が玄関で叫ぶ。
奥からパタパタと足音がしたかと思うと
綺麗に着物を着こなしたおばはんが出てきた。
なんか見覚えはあるけど、はっきりとは覚えていない。
「あらっ、誰かと思たら、和葉ちゃんやないの!」
「おばちゃん久しぶりやね!」
「少し見ない間に、また女らしゅうなって……」
言いかけて、おばはんは和葉の後ろにいる俺に気付いて
笑った。
「そら女らしゅうなるわなぁ……和葉ちゃんのボーイフレンド?」
「ちっ、ちゃうちゃう!ちっちゃい頃はこっちに来たことあんねんで!幼なじみの平次や!」
「…あぁ!2人ともあがって。お茶くらいなら出せるから」
芝生や黒木がある庭が見え
風通しの良い居間で
お茶を出してもらい、一息ついた。
事件のせいでゆっくりできなかったから
丁度いい。
座布団ふかふかしとるし
なんや眠うなってきたわ。
テーブルに肘をついて
手の甲で傾く頬を支える。
「和葉ちゃん、いつ帰るの?」
「夕方には帰ろう思てん」
「あらぁ…そう…せや!和葉ちゃ…………」
あかん。
本気で眠なってきたわ。
□
鼻のむず痒さを感じて
目が覚めた。
鼻先に手をやると
どこから飛んできたのか
桜の花びらがひっついてた。
鼻を軽く擦って辺りを見ると
和葉とおばはんの姿がない。
二人で出掛けてしもうたか?
まぁええ。
もう少しのんびりしとくか。
テーブルのお茶をすすると
すっかり冷めきっていた。
立ち上がって
庭に近い柱のそばに座り込み
体を柱に委ねる。
ゆっくりと目を閉じた。
しかし眠りにつかないうちに
パタパタと足音が聞こえた。
「平次〜!」
何や、もう帰ってきたんか。
足音は俺の真横で止まる。
「おう、お帰………」
目を開けて顔を横に向ける。
赤、黄色、白、金色
様々な色が控えめに主張し合いながらも
鮮やかな布地が目にはいる。
そのまま顔を上げると
見違えるほど
綺麗に着物を着こなした和葉の姿があった。
「綺麗やろっ、この着物!」
和葉は着物をくずさないように
ゆっくりと膝まずいて
俺と目線を合わせた。
「おばちゃんが着せてくれはって……どや?似合うっ?」
和葉は満面の笑顔で笑いかける。
艶々とした唇に
思わず息を飲んだ。
えらい似合うとる。
「まっ…馬子にも衣装って感じやな……」
「何やそれ、誉めてんの?」
「綺麗やろ?和葉ちゃんよう似合ってるわ」
おばはんは満足気に和葉を眺めて
嬉しそうに微笑む。
「私が若い頃着たものや。今はもう派手な色は着こなせないから……良かったら和葉ちゃん、貰うてって」
「えっ…でもこんな高級なもんっ……」
「ええのよ、私が持ってても宝の持ち腐れやわ」
「おばちゃん………おおきにっ!」
おばはんは、和葉に
袋を渡した。
「はい、これ脱いだ服」
「あ…おおきにっ」
「思ったより似合うてるから、今日はそれ着て帰んなさい」
「うんっ!」
おいおい、それは目立ちすぎるやろ!?
つっこみながらも
和葉のいつもと違う顔に
何やドキドキして落ち着かない俺がおる。
□
「和葉、それ俺が持つわ」
和葉の持っていた袋を
俺が代わりに持って歩き出した。
「あ、ありがとう……でも何で…」
「せっかく着物つけとんのに、こんな袋持ってたらもったい無いやろ。」
「……何や、えらい気が利くな」
本当は、何か持ってないと落ち着かへんのや。
また、桜の木が続く道に入った。
歩きながら、和葉が口を開いた。
「……あんな、平次。」
「ん?」
「ちょっと前な…怒ってたやんか、あたし」
「あぁ」
「平次の初恋の人が気になってん。平次、京都行くたびに探してるから…気になって今回もついてきたのに……教えてくれへんから……」
「何でお前が俺の初恋の人気にしてんねん。どうでもいいやんけ」
「よくないわっ!あたしはっ……」
和葉が立ち止まる。
必然的に俺も立ち止まる。
「あたしはっ………」
和葉の頭の上に、桜の花びらがひらひらと舞いおちた。
「あたしはっ………平次のお姉さん役みたいなもんやろ!?ちゃんと知っとかな…」
「お前や」
「へっ?」
和葉はしばらく口を開けたままだったが
やがて顔を真っ赤にした。
「お前見てると思い出すわ。」
「…えっ?」
「そうやって綺麗に着物着こなして、少し化粧してて…桜が舞う木の下におった。」
ほんま、よう似合っとる。
こいつが俺の初恋の女や。
やっと会えたんや。
「俺の初恋の相手は、お前みたいな女やった」
しばらくの沈黙が続いた。
和葉の頬はまだ赤い。
リアクションに困ってるんや。
「な、何や!あたしかと思ったやないの!」
やっといつもの調子を取り戻して
せかせかと俺の先を歩きだした。
「あぁ、お前やで」
後ろで小さく呟いた。
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