Candy&Cigarette
初めまして。作者は文章力があまりないので稚拙な所が多々あると思いますが、ご了承ください。
「好きだよ」
なんて言葉、ずっと言われてみたいと夢見てた。でも、それはわたしにとってただの憧れでしかなくて。まるで他人事のようにぼんやり思い浮かべてただけ。
だって実際、今までそういう場面を体験してきてなかったし、どうせ無理だろうって諦めてたんだもの。小学生の頃から友達すら全く作れなくて、ずっとひとりぼっちで過ごしてたし⋯⋯。
それなのに、どうしよう。
3時間目の授業後の休み時間。賑やかな教室で、わたしの心臓がどくんと跳ねた。
隣の席に座る「彼」を見る。それに気づいた「彼」は、わたしに困ったような顔を向けた。わたしは急いで顔を背けた。一気に全身が熱くなっていくのを感じる。
生まれて初めてもらった「好き」の言葉。わたしはそれを頭の中で繰り返し反芻した。
沈黙に耐えかねて、わたしは震える声で尋ねる。
「あ、あの⋯⋯す、好きっていうのは⋯⋯」
「え、あっ。ち、違⋯⋯っ。ああもうまた悪い癖が⋯⋯! そ、そういう意味じゃないからね、ごめんね! 」
「彼」は必死に手を振って否定した。それを見た瞬間わたしは、なんだかほっとしたような、残念なような、ぐちゃぐちゃに混ざりあったいろんな感情に頭を満たされた。
まったく、一体なにをわたしは勘違いしてるのだろうか。あまりの恥ずかしさで、このままどこかに消え入りたい気分だ。
「ふ、ふーんそっかー。う、嘘はついちゃだめだよ⋯⋯」
「いや、嘘じゃないよ。好きってのは実際そうなんだけど⋯⋯。って、何を言ってるんだぼくは!」
「⋯⋯っ、い、意味わかんないし」
なにか今とんでもなく恥ずかしいことを聞いたような気がするけど、気づいていないふうに振る舞う。しかしいくら冷静なふりをしていても、わたしの体温の上昇は全く抑えられそうにない。
「彼」が少し考え込んだようにしてから、ふと口を開いた。
「あ、あのさ瑠衣。瑠衣ってほら、女の子らしいよね。今だってぱぱぱーっとぼくの制服のボタンつけ直してくれたし、すごいなーっていうか⋯⋯そんな家庭的なところ好きだなーっていうね! 」
「こ、こう見えてもれっきとした女子ですからね!⋯⋯そりゃどーもありがとーございますー」
「そ、そうだよね。結婚したら良いお嫁さんになりそうだよねー。なんつってー⋯⋯」
「ちょっ、結婚とかいつの話してるの? まだ、か、かれ、かれし⋯⋯もいないのに⋯⋯」
彼氏、か。わたしの好きな人があなた本人なんだってこと、やっぱり分かってないのかな。それも分かりやすく反応に出ているつもりなのだが、「彼」はきっとそのことにすら気づいてないんだろう。鈍感そうだし。主に顔が。
「あっ、そうなんだ! 瑠衣可愛いからもう彼氏いるんじゃないかって不安だったんだー。⋯⋯じゃあぼくにもまだチャンスがあるってことか⋯⋯。あー、ほんと良かったな」
「⋯⋯へ?」
無邪気に笑う「彼」の顔を、わたしは直視出来なかった。
どうしよう。あなた自分で何言ってるか、本当に分かってます?
女の子の友達も全然できなくて、ましてや男の子となんて、全く話もしたこともなかったわたしが? 高校に入ってからというものの、体験したことのない状況ばかりで頭が混乱するばかりだ。
高校入学初日、キャンディから始まった甘い恋を今一度ふり返ろう。もう何度も何度も繰り返したように。
***
その日の天気は痛いほどの晴天だった。 まるで、わたし達の高校入学を祝福しているかのような明るい日差しが、皮膚に突き刺さる。畜生。わたしは建物の陰に入り、日差しを避けながら学校までの道のりを歩いていた。 それはわたしの一番嫌いな天気だ。晴天の日にすることなど、訳のわからない暑苦しいスポーツや、無駄に疲れるだけのアウトドア活動などといったところか。大体相場が決まっている。
わたしは雨や曇りの天気の方が落ち着いて好きなのだ。日陰者の私にお似合いの天気だからかな。こういう卑屈な性格がいけないのだろうけど。
そもそも高校生活初日というしちめんどくさい状況でこれはない。本当はお兄ちゃんに車で送ってもらいたかったが、入学式の準備とやらで先に学校に行ってしまった。あぁ。帰りたい。学校やめたい。どうせ、高校でもまたぼっち生活×3年になるんだろうな⋯⋯。もうニートになりたい。
わたしはそんなことを考えながら、だらだらと学校に向かった。
学校に到着した後、案内役の先輩方に従い1年生の教室に向かった。少し早く着きすぎたからおそらく教室にはまだ誰も来ていないだろう。そう思った。
教室の前に到着する。わたしは1-Aの札がかかった教室の扉を静かに開けた。
なんとそこには予想外な事に先客がいた。そう「彼」だ。彼、「愛須 涼」はわたしに気づいてこちらを見た。目が合ってしまったので念のため軽く会釈をし、素早く一番後ろの席に座った(ちなみにこの時は自由席だった)。
こんな早い時間に人がいるとは予想していなかったな。こういう時は気まずくてどうしようもない。咳が出た。
わたしは鞄から水筒を取り出して温かいお茶を飲んだ。すると、運が悪かったのか良かったのか、お茶が気管に入ってむせてしまったのだ。これが結果的に涼と仲良くなるきっかけになるから、今思うとある意味ラッキーだったのかもしれないな。
わたしは生まれつき気管支が弱かったせいで、こうなってしまうとしばらくは咳が止まらず、呼吸も苦しくなってしまうのだ。
その時だった。咳が収まらず涙目になっていたところに、涼がこちらの席まで歩いて来てわたしにスーパーの袋を差し出してきた。袋の中にはびっくりするぐらい大量の飴が入っていた。これ、どんだけ飴に金かけてるのかしら。
「ねえ、のど飴はいかが? 気休め程度にしかならないかもしれないけど、良かったらどうぞ」
わたしは軽く頭を下げて、袋の中から適当に一つ飴を掴んだ。わたしの好きなレモン味のキャンディだった。急いで口に放り込む。
それを見た涼は小さく笑ってから、わたしと同じレモンキャンディを探して食べ始めた。
しばらくして咳が治まったわたしは、涼に小さな声でお礼を言った。涼は優しい声で「どういたしまして」と言い、突然上機嫌に話し始めた。
「あー、飴いっぱい持ってきてて良かった! やっぱ持つべき物は飴だよねえ」
「けほ⋯⋯。あ、飴、お好きなんですか⋯⋯」
「え! ⋯⋯うん、まあそんな感じ、かな。君も飴好き?」
「は、はい⋯⋯」
「へえ、そうなんだ! 」
その時わたしは、内心すごく焦っていた。何故ならわたしは、初めて会う男子と会話を続けられるほどのコミュニケーション能力を持ち合わせていないからだ。わたしはただ相手の言った言葉にぼそぼそと相槌を打つだけ。出会ってすぐに根暗女だと思われてしまっただろうか。そう考えていた。
わたしはいつもこういうチャンスを逃してしまう。仲良くなる機会は、こうして自分自身の手で潰してしまうのだ。これまではずっとそうだった。
なんと驚く事にこの時、涼は態度を変える事なくわたしに接してきてくれた。
「あー、それにしてもさ、ぼくも超早く学校着いたと思って1人で笑ってたんだけどね。どんだけ張り切ってるんだよって感じ? でも君が来てくれたから良かったよー。すごく暇だったから」
饒舌にしゃべる目の前の男子に小さくはい、はい、と言いながら色々な話を聞かされた。焦りすぎて正直内容はほとんど入ってきていなかったけど。
しばらくするとクラスに人が集まってきたが、それを気にするそぶりも見せず涼は話し続けた。数人の女子がこちらを見て、ぴーぴーきゃーきゃー言うのを聞いたわたしは、涼にこう言った。
「あ、あの⋯⋯大丈夫ですか。ずっと話してたら、その、勘違いされちゃいますよ」
「へ? なにが? 」
「なにがって⋯⋯。その。つ、付き合ってる、とか⋯⋯」
馬鹿だ。自分で言っておいて一気に恥ずかしくなった。最悪。言うんじゃなかった。その時はものすごく後悔したのを覚えている。それを聞いた涼は一瞬キョトンとした後、突然くすくすと笑い始めた。
「そういう事か! あはは、ごめんね気が回らなくて。なんかそういうのって疎くてさ。ぼくは全然問題ないんだけど、君が嫌なら戻ろうか?」
「あっ、いえ⋯⋯!嫌とかそんなんじゃ」
「⋯⋯そ、そっか良かった!じゃあもう少しだけ。あ、そうだ。鞄持ってきて君の隣の席取っちゃえ!ねえ、いいかな?」
「⋯⋯は、ひゃい。ど、どうぞ」
「よっしゃ!ありがとう」
涼は小走りで最初に座っていた席まで鞄を取りに行った。
⋯⋯なんなのこれ。わたしが勘違いするんですけど。
そっと頬に手を当てると、もの凄く熱くなっていた。その時、涼に対して特別な感情を抱き始めている事に気付く。出会ってから心を奪われるまでのタイム、30分ジャスト。なんてわたしはちょろい女なのだろうか。
♦︎
高校生活初めてのホームルームが始まった。担任の先生は暑苦しい熱血系教師だった。お兄ちゃん曰く「レッドゴリラ」。顔がゴリラっぽくて、熱くなると顔を真っ赤にして語り始めるかららしい(ちなみに本名は河辺潤一先生だ)。
その時わたしは、隣の席にいる涼をばれないようにそっと眺めようとした。しかし、ふとおかしな事に気がつく。涼の様子が少しおかしいのだ。
(⋯⋯あれ? )
涼はずっと下を向いたまま、小さく貧乏ゆすりをしている。しかもそれは次第に大きくなっていき、だんだん落ち着きもなくなって来た。涼の表情を確認すると、顔色が悪く、さっきまでのような覇気がなくなっている。
(ぐ、具合悪いのかな。それともなんか⋯⋯怒ってる!? )
声をかけようかとも思ったが、わたしから男の子に声をかけるなんてまず無理だ。特にその頃は出会ってまだ1日目。流石にハードルが高いと言いますか。 涼の様子をちらちらと気にしながら、ホームルームが終わるのを待った。
なんとかホームルームが終わりレッドゴリラが教室を出るのを確認すると、涼は鞄の中から何かを引っ張り出して、それをすぐさま上着のポケットにねじ込んだ。
その時ふと、微かにだがよく知っているようなにおいを感じた。
(このにおい、いつもお兄ちゃんから⋯⋯?)
あまりの怪しさにわたしは注意深く観察する事にした。涼は鞄を机の横に掛け、足早に教室から出て行く。歩いていった方向と、担任から配られた校内マップを見比べてみた。
購買や中庭、別のクラスの教室などが並んでいる。わたしはこっそりと後を追った。今考えても、この時わたしになぜこんな行動力が湧いてきたのかはよく分からない。何か気になる事があっても自分からは絶対行動しない、というスタンスを取っている私にとっては随分と奇妙な話だ。小走りで涼の向かった方向に向かう。
しかし、少し出るのが遅かったようだ。わたしは涼を完全に見失ってしまった。一応購買の所まで来たのだが、そこからはもうどうしようもなかったので教室に戻る事にした。
だが、教室に戻るとなんと涼が普通に席に座っているではないか。涼はきょろきょろと辺りを見回している。わたしは静かに椅子に座った。
「あっ瑠衣だ! ぼくが教室に戻ってきたらいなかったからどこに行ったのかと思ったよー」
またさっきとはうってかわって、ニコニコと上機嫌な様子だ。
「あ⋯⋯ご、ごめんなさい⋯⋯。愛須、くんこそ ⋯⋯どこに行ってたんですか⋯⋯? 」
「あー、トイレだよ。ねえ、良かったら今度は瑠衣の話色々聞きたいな! 」
「そ、そうですか⋯⋯はい⋯⋯」
もちろんそれは嘘だった。涼が向かった方向にはトイレが無かったし、あるとしても購買のすぐ隣のトイレだけ。購買にいたわたしとすれ違わずにトイレから帰ることも、わたしよりも先に教室に戻ることも不可能なのだ。
その休み時間も、最後まで涼と話をして過ごした。授業が始まる前に、涼はキャンディを一つ口に放り込んだ。
♦︎
授業が終わった瞬間、わたしは一目散に教室から飛び出した。布石として、授業中涼に向かって「トイレが漏れそうでやばいやばい」と連呼したのだから、この行動自体は怪しまれてはいないはずだ(もっとマシな言い訳は無かったのか)。
涼のこととなるとなぜか急に湧いてくる行動力は一体なんなのだ。そのくせ、自分から話しかけるのだけは無理だという不思議感覚。はい、チキンですみませんね。
わたしは急いで中庭まで向かった。
中庭に到着したところで、わたしは植木の後ろに隠れて涼を待った。わたしの直感が正しければ涼はホームルーム後、ここに来ていたはずだ。そして、さっきの授業中の様子を見る限りでもまたこの時間も来る可能性が高い!そう踏んでの行動だった。
その時、廊下から一人分の足音が近づいてきた。植木の隙間からそーっと覗き込む。見ると、その足音の主はやはり涼だった(その時のわたしのドヤ顔は誰にも見せたくないわ)。
涼は周りをサッと見回してから、急いで木の陰に隠れた。ポケットから例の物を取り出して口元に運ぼうとした瞬間、わたしは勢いよく飛び出した。
「こっ、こらー! なにしてるーっ! 」
「うわぁっ! ⋯⋯って! 瑠衣!? なんでここに!? 」
涼は慌てて手に持ったものを背中に隠した。わたしは恥ずかしさも忘れて涼に近づく。
「も、もう見ちゃったから、いまさら隠しても無駄⋯⋯です! あ、愛須涼くん、高校生がどうしてタバコなんか吸ってるのかなぁーっ? 」
「⋯⋯いや、あの、これは⋯⋯」
涼は酷く動揺した様子だった。それもそうだろう、タバコが見つかってしまっては処分されるのも免れない。ましてや登校初日にバレるなんて思ってもみなかっただろうから。もちろんわたしも確信はなかったのだが。
「せ、先生には言わないから大丈夫、です。その代わりそのタバコは、処分しますからね⋯⋯? 」
「そ、そんな! やめて! それがないとぼく死んじゃうからぁ⋯⋯」
涼は本気で泣き出しそうな顔でやめてやめてと訴えてきた。正直タバコは好きじゃないからやめて欲しいんだけど、ここまで言われると罪悪感が湧いてくる。
「じゃ、じゃあ一本だけだよ⋯⋯? でも、か、体に悪いからあんまり吸わないでほしい、です⋯⋯」
「う、うん! ありがとう⋯⋯! ⋯⋯んはぁ~、ニコチンが染み渡る~⋯⋯。これだからやめられない⋯⋯」
本気で嬉しそうな顔で笑っている涼の顔に、凄くドキッとした。タバコ吸ってる所も正直⋯⋯か、かっこいい、のだけど⋯⋯♡ いやいや!
もしかしたらわたしはこの時点ですでにこの人に相当お熱になってしまっていたかも。本当、ちょろいなんてもんじゃないわ⋯⋯。
「や、やめられない、じゃだめですよ! 絶対絶対、やめてもらいますからね⋯⋯? 」
「あっ、あははは⋯⋯」
涼はしまった、という表情で苦笑いをした。わたしは涼がタバコを吸い終わるまで隣でただ黙ったまま待っていた。ちょっとして、涼は上着から取り出した携帯灰皿に、短くなったタバコを入れた。そして、またまた上着から取り出したのはにおい消し。念のためにわたしにもかけてもらった。なかなか用意が周到だ。
「じゃ、じゃあそろそろ教室に戻りましょう⋯⋯。あの、授業始まっちゃうから⋯⋯」
「⋯⋯ん」
廊下に出るための通路を歩き始めたその瞬間、後ろから涼に呼び止められ、優しく腕を掴まれた。その時、どきんと心臓が高鳴った事を覚えている。そして、心なしか涼も緊張しているように見えた気がした(という勝手な思い込みだったら悲しいが)。
「あの⋯⋯本当は来てくれて凄く嬉しかった。もしかして瑠衣に嫌がられてるのかなって思ってたから⋯⋯。これってぼくのこと心配して来てくれたってことで、良いんだよね⋯⋯? 」
その時はすごく真剣な眼差しで言われたから、とにかくかっこよくて、緊張して。声もうわずりながら、途切れ途切れに返事をするしかなかった。
「ぅ、あ、あの⋯⋯。は、はい」
「そ、そうなんだ⋯⋯! へえ、そっか、そっか⋯⋯! うん⋯⋯! 」
「な、なんですか、それ⋯⋯? ほ、ほら教室戻りますよ? 」
「そうだね! でもその前にもう一つだけ」
わたしの腕を掴んでいた手を離して、それをそのままわたしの目の前に差し出してきた。
「ぼくとこれから出来るだけで良いから一緒に居てくれないか? 理由なんか言わないし、何故かなんて聞かないで欲しい。ただ⋯⋯瑠衣の事、もっともっと知りたい。そして、ぼくの事も知って欲しいんだ。⋯⋯だだ、だっ、だめかな? 」
「⋯⋯っ! は、はい! よよ、喜んでっ! こちらこそよろしくお願いします⋯⋯! 」
汗ばんだ手を拭って、わたしからも手を差し出した。繋いだ手の温度が伝わるのが恥ずかしくて、さっと足元に視線を落とす。その時涼がどんな顔をしていたのかは、見ることはできなかった——⋯⋯。
***
と、回想が終わって現在。以上がわたしの、心ときめく涼との出会い(多少の美化あり)である。どうだろうか、どうにも心臓が早鐘のビートを刻んでいた事だろう。ほら、特にあのシーン⋯⋯
「ねえ、瑠ー衣ー。ひとりでぶつぶつ言ってないでさ、こっち向いてよー」
「う⋯⋯向けば良いんでしょー向けば⋯⋯」
「⋯⋯あ、か、かわい⋯⋯じゃなくて!ぼ、ぼくの顔かっこいい?なんつってー⋯⋯」
「⋯⋯う、うん」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
白石瑠衣、初めて出来たお友達。
恐らく両思い⋯⋯みたいです!?
〜つづく〜