挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

童話・児童文学風

塔を上っていった若者

作者:Veilchen
 その朝、目を覚ますと雪が降っていたので人々は驚きました。だって今日から春になるはずの日で、朝になれば太陽が温かく地面を照らし、色とりどりの花が蕾を膨らませ始めているはずだったんですから。
 でも、窓の外は真っ白い雪におおわれたまま。どうしてかしら、と窓に寄ってみると、吐く息がガラスを曇らせて、外はまだまだ氷の寒さなのだと分かります。

「これなら種まきも畑を耕すのも無理だね!」
「まだ雪遊びをしていても良いのね!」

 春一番の仕事をしなくて済む、まだまだ遊んでいられるとはしゃぐ子供たちの一方で、大人たちは困り顔で話し合います。

「こんなことは今までなかったのになあ」
「いつまで冬が続くんだろう」
「収穫の予定が狂ってしまう」

 でも、それも短い間だけのことでした。どうして春が来ないのか、どうすれば良いのか、いくら考えても誰にも分からなかったのですから。誰ともなく、こんなことを呟いて相談は終わりです。

「まあ、王様が教えてくださるだろう」



 この国はとても素晴らしいところだ、と住んでいる人たちはいつも言っています。高い壁にしっかりと守られた内側では、春と夏と秋と冬と、四つの季節は決められたとおりに巡り、その時々の恵みをもたらしてくれます。春には咲き乱れる花々、夏は鮮やかな新緑、秋には果実の実り、冬には雪の美しさ。人々はみんな働き者で、助け合って暮らしています。畑からとれる作物や、育てている牛や豚や鶏なんかで、誰も食べるものに困ることなく満ち足りた暮らしを送ることができるのです。

 それもみんな王様のお陰だ、と大人たちは子供たちに教えています。王様はいつもは国の真ん中の高い塔にいらっしゃるので、子供たちはどうもぴんとこないのですが、王様はとても偉い方です。どの作物の種をいつ撒けば良いか、どうやって水をやったり葉を間引いたりして育てれば良いか。そしていつ収穫してどんな風に料理したり蓄えたりすれば良いか。いつ雨が降って雪になるか、洗濯日和の暖かい日は、出かけるのを止めた方が良いとびきり寒い日はいつか。みんなみんな教えてくれるのは王様です。たまに悪い風邪が流行った時なんかも、王様がよく効く薬を配ってくれるからみんな助かるのでした。

 だから、終わらない冬の止まない雪のせいで中々外に出られなかったり、種まきが遅れてしまっても、薪や食べ物の蓄えが段々少なくなっていっても、みんなあまり心配しませんでした。王様が何もおっしゃらないということは、大したことではないということなのでしょう。

「たまには家の中でゆっくりするのも良いかもねえ」

 みんな、そんなことを言いながら降り続ける雪をガラス越しに眺めるのでした。



 それでも雪は何日も降り続け、心配性な人たちがさすがにおかしいんじゃないか、と思い始めた頃に、王様が町にいらっしゃいました。

「こんにちは、何か困ったことはありませんか?」

 王様は、王様なのに少しも偉ぶったところがなくて、町の人たちにも丁寧な言葉遣いで話しかけてくださいます。みんなが幸せに暮らすことが私の務めです、といつもおっしゃるので、みんな王様を素晴らしい方だと思って慕っているのでした。

「あのう、冬がずっと続いて雪が降りっぱなしなのはどうしてでしょうか?」

 だから町の人たちも気軽に王様に尋ねることができます。王様はお伴も連れていらっしゃらないので、町の人に取り囲まれるとどこに王様がいらっしゃるのかも見えなくなってしまいそうなのですが、そこはちゃんと王様らしく薄くきらきらした生地の素敵なお召し物を着ていらっしゃるし、畑仕事なんかしない綺麗な真っ白なお顔をしているので、この方が王様なのだな、と誰にでもはっきりと分かるのでした。

「ああ、それは冬の女王が塔から出てこないからです」
「冬の女王……?」

 町の人たちが首を傾げていると、王様は国のどこからでも見える高い塔を真っ直ぐに指さしました。

「春と夏と秋と冬が巡るのは、それぞれの季節の女王が順番に塔に住むからです。今は冬の女王が塔にい続けているので、春が巡って来ないのですね」
「このまま春が来ないのでは困りますが……」

 困ります、と町の人たちが言うと、王様の目がきらりと光りました。みんなの役に立てる場面、何か教えてあげられる場面が来ると、王様は嬉しくなるのですね。

「塔に閉じこもったままの冬の女王を春の女王と交代させることができたなら、いつも通りに春が巡ってくるでしょう」
「それにはどうしたら良いのですか?」
「塔の上まで行って、冬の女王に呼びかければ良いでしょう。誰か行ってくれる人はいませんか?」

 王様の澄んだ目に見渡されて、町の人たちは困ってお互いに顔を見合わせました。

「私たちが、ですか?」
「王様は……」
「王と女王は互いの職分を侵さないもの。私から言う訳にはいかないのです」

 大事なことはいつも王様がやってくれるものなのですが、今回ばかりはそうはいかないようでした。でも、種を撒いて耕して、家畜を育てて――決められたことを毎日のように繰り返している人たちにとって、暮らしているところから離れて塔に上るなんて、とても怖いことのように思えました。

「春を呼んでくれた人には何でも望みのものをあげますが」

 王様がそう言ってみても、みんな困り顔のままです。だって食べるものも着るものも、何も不自由していないのですから、望むものなんてないのです。むしろ、何ももらわなくて良いからいつも通り家の周りを離れないで済むようにしてほしい、と誰もが思っているのでした。

「望みのものがある人はいつでも塔まで来てください。冬の女王の部屋への行き方を教えますから」

 王様は国中の町や村を巡って同じことを言ったのですが、どこも人々の反応は同じ、わざわざ塔まで出かけようという人はいませんでした。
 そうして雪はまた降り続け、家々の蓄えは少しずつ減っていきました。



 国中が雪に埋もれてしまいそうになったころ、やっとひとりの若者が塔に向けて出発しました。といっても、春が来てほしいというのが一番の目的ではなくて――もちろんそれもあるのですが――若者は王様にお願いしたいことがあるのでした。若者は、この国ではとても珍しい、望みというものを持っている者だったのです。
 ほとんどすべての人が満ち足りた暮らしをしている国のことですから、若者が望みのことを家族や友達に話しても、バカなことを、と笑われるだけか、悪くするとそんなことを考えていないで働け、と怒られてしまうのでした。今回も、冬を終わらせるためとはいえ望みをかなえてもらいたいから、だなんて正直に言ったら止められるに決まっています。だから若者は誰にもいわずに、こっそりと真夜中に家を出て塔に向かったのでした。

「おお、とうとう冬の女王に会いに行ってくれる者が来てくれたのですね」
「はい、王様。あの、本当に願いを叶えてくださるのでしょうか……」

 とても喜んだ様子の王様に迎えられて、若者は少し心配になってしまいました。王様は、若者が立派な気持ちでやって来たのかと思っているのかもしれませんが、若者は自分の願いごとのために来たのですから。

「はい、もちろんです。私は嘘を吐きませんよ」
「そのう、とてもくだらない願いでも……?」
「人の願いにくだらないことなどありません。私はあらゆる人の願いを叶えたいと思っています」

 突然現れた若者にも王様は温かく力強い言葉をかけてくださって、若者は何て素晴らしい方だと感動しました。でも、そうするとますます自分の望みがくだらない――というか失礼なもののように思えてしまいます。だって若者が叶えて欲しいのは――

「この国の()に行ってみたい、ということでも……?」

 みんなの暮らしを豊かにしたいという、王様のお気持ちを裏切るようなものなのですから。

 若者の家族や友だちがバカなことは考えるな、というのも分かります。だってこの国にいれば何も困ることはありません。国の外がどうなっているかは誰も知らないのですが、ここより良い場所だという保証はどこにもないのです。
 でも――でも、と若者は思ってしまうのです。それでも、外にはここよりも素敵な場所があるのかもしれない。もっと美味しいものや綺麗な景色があるかもしれないし、着るものや道具にするのにも、もっと良い材料が見つかるかもしれません。行ってみなくては分からないことではないのでしょうか。
 どうやったら国を取り囲む壁の外に行けるのか、若者には想像もつかないのですが。首が痛くなるほど見上げてもてっぺんが見えない壁を見るにつけ若者の胸で膨らんでいた、その向こうはどうなっているのか知りたいという思い――それを、若者はとうとう抑えきれなくなったのでした。

 それでも王様は何と仰るか、叱られたり、悲しいお顔をさせてしまうのではないだろうか。怖々と綺麗なお顔を見つめていた若者に、でも、王様はにこりと微笑みました。

「もちろん大丈夫です。まずは冬の女王のところへ行ってください。彼女もあなたを待っていることでしょう」

 王様の目が不思議な色にきらりと光った気がしましたが、若者にはそれがどういうことなのかさっぱり分かりませんでした。



 とにかく、若者は高い高い塔を上り始めました。一日ではとても上り切れないからと、王様は水や食べ物、寝袋なんかも与えてくれました。王様がくれた食べ物は硬くて小さくて茶色いパンかクッキーのような形で、とてもお腹がいっぱいになりそうではないのですが、ひとつ齧ると一日塔の階段を上り続けても全然疲れないのでした。とても不思議な食べ物なのですが、若者はさすが王様のところのものだ、と喜んで冬の女王の元への道のりを進んでいきます。少し変わり者ではあるけれど、若者もこの国のほとんどの人たちと同じように深く考えたり疑ったり悩んだりということが苦手なのでした。

 塔の内側に螺旋を描いて巡らされた階段を、若者は上っていきます。先が見えないほど長い長い階段を、ぐるぐると。果たして上り切れるかどうか、最初は心配だったのですが、塔の階段は一段一段が全く同じ高さで、しかもでこぼこがまったくない滑らかな素材でできていたのでとても上りやすく疲れにくいのでした。木ではないけれど、石を削り出したにしてはあまりにもどれも全く同じで、どうやって作ったか不思議に思っても良いはずだったのですが――でも、若者はさすが王様と女王様の塔だ、と思っただけでした。

 時々ある踊り場で眠ったり休んだりしながら、若者は何日もかけて塔を上っていきました。塔の壁にはところどころ窓があって、遥かな地上の景色を見ることもできます。若者が旅立ってきた町、今は雪に埋もれてしまった畑、家畜を育てる工場、若者が子供の頃に通っていた学校も見えました。それから、塔と同じようにどこまでもそびえる高い壁も。塔の上の方まで来たら、壁のてっぺんが見えるのではないかと若者は思っていたのですが、国の果ての遥かな距離にぼんやりと霞む壁は、若者を追いかけるかのように塔と同じ高さまでずっとずっと聳えていたのでした。ただ、色は少し違っています。森のそばなら緑色、町の近くなら家の壁や屋根に合わせた赤や茶色やオレンジ色をしている壁は、高いところにいくと空に紛れるような青のような白のような色になっていました。まるでどこまでも空が広がっているかのような――でも、目をこらせば確かに壁の固い質感が見て取れます。
 そんな景色を見ながら、若者は誰が色をつけたんだろう、これも王様だろうか、などと思いました。

 塔の更に高いところへ差し掛かると、若者は雪が生まれるところも見ました。塔から何本も管が出ているところがあって、そこから細かな水滴の霧が噴き出しています。塔の中はどういう訳か春か秋のようにちょうどよい暖かさなのですが、外はとても寒いのでしょう、水滴はすぐに凍ってしまって、雪のひとひらひとひらとなって地上へと舞い降りていくのでした。それを見て、若者はなるほど、冬の女王様の居場所は近いらしい、と足に力を込めるのでした。



 何日もかけて、若者はとうとう塔の一番上へとたどり着きました。女王様がいらっしゃるはずの場所にしては飾り気のない扉が若者を待っています。若者は、さすが女王様、王様と同じように気取ったことはなさらないのだ、と感心しながら薄っぺらな板を取り出しました。女王様のお部屋の鍵だということで、王様が預けてくださっていたのです。

 その板は掌に収まるほどの小さなもので、扉の鍵だなんてとても信じられません。でも、一方で――塔の階段と同じように――木でも石でもない、何だか分からないものでできているようです。それに表面も眩しいほどにきらきらとしていて綺麗なのです。だからきっと不思議な力があるのだろう、と若者は納得することにしました。

 それに、扉にはちょうど()がするりと差し込めるくらいの細い切れ目が入っています。ははあ、これが鍵穴なんだな、と。若者がきらきら光る鍵を切れ目にあてると、それは大して力も入れていないの切れ目に吸い込まれていきました。
 びっくりして、さっきまで鍵を持っていた手と切れ目を見比べる若者の耳に、どこからか女の人の綺麗な声が聞こえてきました。

「降雪継続日数28日……予想収穫量23パーセント減……燃料(エネルギー)貯蓄率78パーセント……予想死亡率2.3パーセント増。――第27次人口抑制(コントロール)計画、目標値の達成を確認しました」

 いったい何の呪文だろうと若者が首を傾げる目の前で、扉が音もなく開きました。そしてその中には、とても綺麗な女の人が微笑んでいたのです。

「よく来てくれました。あなたがデータを更新してくれたのですね。ありがとうございます」

 その方が何を言っているのか若者には分かりません。でも、この女の人こそが冬の女王様なのだということは分かります。だってつるりとした白いお顔も、優しそうな微笑みも、王様にそっくりだったからです。お召し物の生地や造りもそっくりで、そこらの町の人とは全然違った雰囲気なのです。

「女王様……いえ、僕はただ……」

 あまりに綺麗な方の前で緊張してしまって。それに、ただ塔を上って板を切れ目に差し込むだけの簡単なことしかしていないのにお礼を言われてしまって。若者はもごもごと大したことではありません、というようなことを言おうとしました。でも、冬の女王様は分かっていますよ、というようににっこりと微笑みかけてくださいます。

「わざわざ来てくれたからには願いごとを叶えてあげなくてはいけませんね」
「いえ、そんな……」
「あなたの願いは、壁の外に行きたいということ、そうでしょう?」
「なぜ分かるのですか!?」

 女王様の前で失礼な、と思いながらも若者は大きな声を上げてしまいました。王様や女王様がどんなに凄い方だと言っても、何も言わないうちから願いごとを分かってくださるなんてことがあるのでしょうか。
 すると女王様ははまた微笑みました。とても綺麗な――でも、どうしてどこか悲しそうにも見えるのか。若者には分からないことだらけでした。

「この国の中にないものといったらそれしかありませんもの。それに、慣れた暮らしを離れてこの塔を上って来てくれるような人が望むのは、いつも同じことなのです」
「いつも……? 他にも僕のような人がいたのですか!?」
「ええ、もう何度もあったことです。春の長雨を止めるために春の女王に、夏の日照りを止めるために夏の女王に、たくさんの人が会いに来ました。そしてみんな同じ願いごとをしてきたのです。その人たちが決心してくれるまでに時間が掛かってしまって、計画が達成できてしまうのも、いつも同じ……」

 もしかしたらもっと早く塔を上って来なければいけなかったのかな、女王様はお怒りなのかな、と若者は少し心配になってしまいました。でも、それよりももっと大事なことを聞いたような気がします。前にも同じ願いごとをした人たちがいるのなら、女王様は壁の外の様子をご存知なのではないでしょうか。

「外には何があるのですか? 前に外に行った人たちは何と言っていたのですか?」

 若者が勢い込んで尋ねても、女王様の悲しそうな微笑みは変わりませんでした。

「私も王様も他の女王たちも、とても知りたいと思っています。この国の中だけでは守ることができる人はとても限られていますもの。でも、誰も帰ってこなかったのです」
「誰も……?」
「はい。男の人も女の人も、歳を取った経験豊かな人も、力に溢れた若い人もいたのですが。誰も帰ってきませんでした」

 女王様は細い指先を伸ばすと、若者の頬にそっと触れました。冬をつかさどる方だといわれるとおり、雪のように白い指は雪のようにひんやりとしています。

「……私たちは人間を守らなければなりません。守るためという言い訳を保つために、傷つけたりはしていないと信じ込むために、回りくどく天気を操ったりしているのです。だから、本当は外へ送り出すこともしてはいけないのかもしれません。人の願いを叶えるためというのも言い訳に過ぎないのかもしれません。でも、もしもあなたがそれでも行くなら、行ってくれるというなら――」
「もちろん僕は行きます、女王様」

 女王様の白くて綺麗な手を握りしめて、若者は大きく頷いていました。若者には女王様のおっしゃっていることの意味が半分も分かりません。ただ、女王様が悲しそうだということと、外の様子を知りたいと思っていらっしゃることは分かりました。もともと壁の外に行ってみたくてはるばる塔の長い長い階段を上ってきたのです。願いが叶う上に女王様を喜ばせてあげることができるなら、これほど嬉しいことはありません。

「前に行った人たちも探してきて差し上げましょう。きっと外には楽しいことがたくさんあって、帰ることを忘れてしまっているのでしょう」

 王様や女王様にちゃんとご報告しなかったらしい人たちのことを、若者はすこしひどいと思いました。でも、帰ることを忘れてしまうくらい外の世界が素敵なのかもしれないと思うと、とてもわくわくしてもくるのでした。

「……ありがとう」

 若者の真心が伝わったのでしょうか、女王様はやっと――ほんの少しですが――嬉しそうなお顔で微笑んでくださいました。そして、白く細い指で部屋の奥を示します。

「あちらにまた階段があります。そこを上れば外に出ることができますから」
「まだ上るのですか」

 若者は長い長い階段を下るのだと思っていました。また地上へと降りて行って、そうすれば王様がどこか壁の切れ目があるところを教えてくださるのだろう、と。だから疲れた足をもうひと働きさせなければ、と膝を曲げたり伸ばしたりしていたのですが。でも、女王様の指は上の方を指しているようです。

「はい。本当の地上まではもう少しです。風も太陽も――すぐそこにあるはずなのです」

 女王様のおっしゃることは、やっぱり若者にはよく分かりません。でも、すぐだというなら考える方が時間の無駄というものでしょう。また何日もかかるようなことではないはず、若者が焦がれた外の世界がすぐそこにあるというのに、ぐずぐずと思い悩んでなんかいられません。

「――分かりました。行ってきます」

 だから若者は女王様にもうひとつ頷いて見せると、部屋の奥へ、外へと続く階段へと足を踏み出しました。



 若者が本当の地上へ旅立ったのを見送ると、冬の女王と名付けられた気候制御担当のアンドロイドのひとりは塔の奥へと去っていきました。次の季節を担当する春の女王と交代するために。
 塔が見下ろす方の地上では、雪が止んで溶け始めていることでしょう。季節はまた滞ることなく決められたとおりに巡るはずです。少なくとも当分の間、この国の人たちがまた増えすぎたり減り過ぎたりするまでは。

 あるいは、あの若者が帰ってきてくれるまでは。風や太陽や空を飛ぶ鳥たち、どこまでも広がる本当の青い空――そんな世界が蘇っていると、そうとは知らないまま地下に閉じ込められた人たちに、教えてくれるまでは。
 王様と女王様たちは、若者の帰りをずっとずっと待っているのです。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ