強制脱皮
僕はただひたすら股間に与えられる刺激に耐えていた。いや、僕だって、そーいう行為が嫌なわけじゃあないよ? 男の子だしね。てか、大概の人間はそーいう行為が好きだからね。でもねぇ、こんなところで、こんな場面で、まだ正式に男女交際することが取り決められてもいない相手とってのはどうかと思うんだよ。僕は。うん。
「じゃあ、正式に男女交際してくれ」
「そうは言われてもねー」
僕はむちゃむちゃもごもごと結論を先送りする。まるで労働組合の賃上げ要求を先延ばししようとする経営者のように、或いは有権者からの要求をはぐらかす政治家のように? まぁ、どっちも似たようなものだね。まぁ、ともかく、僕もそーいった経営者とか政治家みたいに何だかんだ難癖をつけて先延ばしする気満々だった。
何故って聞かれると困る。何故なら、僕には彼女の要求を拒否する理由などないはずなのだからね。
僕は今現在交際している相手なんかはいないし、特に好きな異性もいないし、勿論、好きな同性もいないし、男女交際をできない理由なんかにも特には思い至らない。宗教上の理由なんてのは神の存在さえも疑っている僕には存在しないし、うちの父さんも母さんも「男女交際なんてけしからん!」なんてお堅いことを言う人ではなさそうだし、僕は聖職者か何かよく分からない胡散臭い職業を目指しているか何か頭の中が変なことになって、男女交際などという汚らわしきことは一生しないなんて自分ルールを定めているわけでもないからね。僕が男女交際をしない理由は一つもないと言っても過言ではない。
そして、僕が彼女を拒絶する理由もないのだ。彼女は美人だし、頭いいし、性格だって、多少表情が薄くて感情が分かり難いっていう点があるけれども、僕にとってはさしてマイナス要素ではないし、何より、彼女は僕を好きだと言ってくれるのだからね。ちょっとっていうかだいぶ愛が強過ぎる気がするけれども、まぁ、僕にとっては許容範囲内かな。さすがに風呂の水蒸気を浴びたり吸ったりって行為はちと引くけど。
それでも、僕が彼女からの男女交際要請を拒絶とまではいかなくても返答を先延ばしにしようとする理由は、ただ一つさ。
彼女の方がだいぶ背が高いのがねー。
嘘です。
そんなガキ臭い理由で彼女からの告白を無碍にするほど、僕は阿呆じゃないつもり。こんな嘘を吐く方が阿呆かな?
と、ここで、さっきの阿呆な嘘を実際に口に出して言ってみたいという悪戯心が僕の中で沸々と湧きあがってきたけれども、さすがにそれは我慢した。それはあまりにも彼女に対して失礼だと思ったからね。てか、これを言った後「嘘嘘ジョークジョークアメリカンジョーク」なんて言ったら殺されかねない。
まぁ、結局のところ、男女交際を断る理由なんて僕には特段思いつかなかった。でも、好きでもないどころか殆ど知り合ってもいない相手と男女交際するってのはどーいうもんかと僕は思ったりもした。
付き合い出してからお互いを知り合って好き合っていけばいいじゃないかって意見もあるだろう。なるほど、確かにその通りかもしれない。けど、付き合い始めても、結局、お互いを理解し合うことができず、好き合うこともできないかもしれないじゃあないか。結婚してからもそーいう理由で離婚する奴がどれだけいるか考えてもみてよ。
そんなふうに安易に付き合い出して、結局、あっさり別れるなんてこと、僕はまっぴら御免だった。なんだって、そんなふうにお互いにマイナスしかもたらさないような時間を過ごして、苦痛でしかない別れなんてことを経験しないといけないのさ。
つまり、僕はこーいう手のことにはヘタレというか慎重というか臆病だったわけだね。
そんなことを僕は彼女に説明してみた。
すると、彼女は無表情でじっと僕を見つめながら、か細い声で言った。
「……ダメ……なの?」
そう言った彼女の瞳もゆらゆらと頼りなく揺れていて、顔は緊張と羞恥で赤く染まっていて、男からするとかなり庇護欲をそそられる。変化はそれほど目に見えて違うわけではない、細かな点でしかないけれども、普段、クールな彼女がこうほどまでに弱弱しく頼りないような感じでこんなことを聞いてくるなんてシチュエーションに萌えない男がいるものか? いや、いない。当然、僕も萌える。いや、今、断言したけど、萌えない男もいるかもしれない。そこんとこ訂正しておくよ。わざわざ訂正する必要があるかどうかは甚だ不明だけど。
「確かに、君の言うとおりかもしれない」
彼女は少し悲しそうな顔で頷いてから、すぐに強い視線で僕を睨みつけた。
「でも、それでも、私は君と付き合いたいんだ。確かに、理解し合えないかもしれない。好き合えないかもしれない。でも、そんなことはやってみなければ分からないじゃないか」
彼女は真っ直ぐな視線で僕の目を突き刺しながら大真面目に言いなすった。まったくもって、彼女の言うとおりだから、僕はぐぅの音も出ない。ただ黙って何事か考えているような風を装いながら「あぁ、これはだいぶ形勢が不利だぞ」と弱気になっているだけだ。
「勿論、私を君に理解してもらえるように努力する。私を君に好いてもらえるように努力する。君は何もしなくていい。君が何もしていなくても知ることはできるし、既に私は君のことを好いているから」
彼女は僕の手を握り締め、瞳に僕しか入らないくらいに迫りながら言うのだ。
「だから、私と付き合ってくれ。もしも、どうしても、私を理解できなければ、私を好きになれなければ、その時は、捨ててくれてもいいから」
彼女はそんなことまで言うのだ。こりゃあ参っちゃうなぁ。
「いくらなんでも、僕はそこまで酷いことはしないよ」
僕はあんまり本筋とは関係ないところを齧ってみたりした。
「じゃあ、君が私と付き合うのが嫌そうに見えたら、私は君の前から消えることにする。それなら大丈夫だろう?」
「いやいや、それだって、あんまりにも人道的にどうかと思うよ。そもそも、付き合い始める前から、別れるときはどうするかなんて話をするのはどうかと思うよ」
結婚式で離婚したときの示談金はどうするか話し合うようなもんだ。無粋にも程があるってもんさ。
すると、彼女は顔の表面にちょっとだけイラつきを出して言った。
「誰のせいでこんな話をすることになっていると思っているんだ?」
まったく仰るとおりで。僕が「うん」か「いいえ」と言えば、済む話なんだよね。
いい加減、彼女も遅々として進まない話にイライラが募り始めたらしい。さすが、母親から「あんたと話してるとイライラする!」って週に一度言われる僕だ。初めて言われたのは幼稚園の年長さんくらいの頃だったかな?
「うーん。この答えってまた後でってのはダメなのかなぁ?」
僕は懲りずに引き伸ばし工作を続ける。だって、恐いじゃないか。今まで男女交際の「だ」
もしてなかったのに、いきなり、こんな別嬪さんと付き合うことになるなんてねぇ。まずは、ほら、委員会とか部活とかなんかで女の子と二人きりになる(勿論、なるだけ。軽い会話は可。それ以上は行き過ぎだ)とか、たまたま家の方角が一緒のクラスメイト(女子)と一緒に登下校するとか、女友達を含めた数人で遊びに行くとか、女友達のお家に遊びに行くとかそーいうところから始めないと。
「私としては逸早い回答を希望する。さもなくば」
「さもなくば?」
「実力行使あるのみ」
そう言うなり、彼女は僕にかけられていた掛け布団とシーツを引っぺがし、僕が着ているシャツのボタンを外しにかかった。
「何してるの?」
「脱がす」
「何を?」
「君の服」
「何で?」
僕が聞くと、何故だか彼女は顔を赤らめるのだ。何でだろう? 何でもかんでもあるもんか。人間が服を脱ぐときなんてのは着替えるか風呂入るか怪我の手当するか相撲取るか助平なことをするときしかないじゃないか(他にもあると思うけど(例えばサウナとか)一々全部挙げていくのは大変だから割愛するよ。そんな細かいことを気にしたらダメだ)。助平ってのは別に人の名前(助兵衛って人は実際にいるんだよ)じゃなくて、具体的に述べると大変なことになるので、ボカして違う言葉で表現すると、つまりは、Hなことであり、エロいことであり、お子ちゃまは見たらダメよなことなんだ。明るい家族計画だ。彼女は何の計画をするつもりなのか?
当然、僕は抵抗する。僕とてエロいこと(湾曲に言うのはもうなんか面倒くさい)は嫌いじゃあないけど(嫌いな人なんかいるわけがない)、高校生男女が平日昼間から学校の保健室でエロに精を出す(色んな意味の精)なんてけしからんじゃあないか。そんなことしていいのはAVとエロマンガとアダルトゲームの中だけだ。
僕はそーいったことを懇切丁寧に説明しつつ、彼女の手を止めようと努力したけれども、生憎と僕の努力はいくらか不足していたようで、僕の言葉はほぼ無視され、僕の両手は大変美しく長い指を持つ彼女の片手によってまとめて拘束され、抵抗らしい抵抗をできず、されるがままに、脱衣を強制された。
その間、彼女は無言で、恐いくらい大真面目な無表情フェイスを維持しているっていうんだから、一体、何を考えて、何をやっているんだか、全く僕には理解のしようがない。いや、まぁ、エロいことしようとしてるってことは何となく察することができるんだけどね。まさか、これから、解剖されるなんてことはないんじゃないかな。ないと心の底から信じたい。
しかし、これってセクハラだよねぇ。いや、もうセクハラに止まってくれるかも疑わしい。このまんま放っておいたら、逆レ……。……………。ねえ、この先って言ってもいいと思う? いや、まぁ、最近の小説にはヒロインがそーいうことになっちゃう奴とか多いけどさ。でも、僕の場合、ヒーローがヒロインにやられるってんだから、こりゃどーいうことなんだろうか?
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。