ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
私ハ君ノモノ
 僕と彼女が付き合うことになった経緯を軽く説明した後、のっそりと彼女が立ち上がった。トイレかな? うちのトイレはやたらと寒いから気をつけてね。まぁ、今の季節はまだ大丈夫だけどさ。
 彼女は黙ったまま、おもむろに床に正座して三つ指ついて、お母さんと妹に向かって深々と頭を下げた。何をする気? いや、まぁ、なんとなく予想はできるんだけどさ。彼女が彼氏の家に行ってそこの家族に対して改まって言う言葉にそれほど種類があるとは思えないからね。
 彼女は頭を上げ、お母さんをきっと睨みつけて、言った。
「息子さんを私にください」
 それ違う。
「僕はモノじゃないよーってか、それはどっちかっていうと僕の台詞だと思うよ?」
「む。そーいえばそうだな。確かに。じゃあ、言い直そう」
 僕が忠告すると彼女は無表情で頷くと少し考えてから、再び口上を述べた。
「私を息子さんのものにしてください」
 だから、人は誰かのモノ扱いするのはどーかと思うよ。とかそーいうふうなことを考えるよりも先に、なんかちょっとおかしい口上なんじゃないかなぁ。もしも、彼女を僕のものとするのに、僕の家族の許可がいるのかなぁ?
「そーいうときの台詞は、これから世話になるから、宜しく的な言葉でいいと思うよ?」
「そうか?」
「うん。そー思う」
「君がそう思うなら、そうする」
 彼女はそう言うと再び姿勢を正して、頭を床に擦り付けんばかり深々と礼をして言った。
「これから末永く、永遠の別れがやって来るまで、私は彼と共にあろうと固く決意しております。その為、彼のご母堂様と妹御様には、お世話になりますので、何卒宜しくお取り計らい願います」
 重い。挨拶が重いよ。彼女が彼氏の家族に初対面で言う台詞ちゃうよ。いや、まぁ、こーいう場面でどーいう台詞を吐けばいいのかなんて知らないけどさー。
 このやたらと重たい言葉を受けて、
「んー。まぁ、好きにしたらいいんでないかい」
 お母さんは頭をぽりぽり掻きながらいい加減に了承した。おぉい、それでええんかね? 我が家の長男坊の将来がかかっているんだよー?
 僕がその辺りのことを踏まえて反応して欲しいなと要請したところ、お母さんは舌打ちしてから面倒くさそうに僕を睨んで言いなすった。
「んなもんどーでもええがな」
 えぇー。その答えは予想外だったなー。
「結婚するもしないもてめーの人生だろーが。んなもんてめーで好きにしたらいいじゃねーか」
 そんなんでいいのか。なんという放任主義。というよりも無責任主義。っていうか無関心主義? まぁ、とにかく、何にせよ。ダメな親だっていうことだけは確かだね。
「ということらしい。明日、市役所に行こう。婚姻届をもらってこなければ」
 いつの間にか床から僕の隣に位置を変えていた彼女が目をきらきらさせながら僕の手を取って熱っぽく言った。ただし、やっぱり、無表情。
「何が、ということなのか分かんないんだけど。とりあえず、君、民法731条を読むといいよ」
「民法731条?」
「僕が何歳か知っているかい?」
 僕の問いに彼女はすらすらと答える。
「勿論知っている。11月11日生まれの15歳。サソリ座。A型」
「いらん情報までありがとう」
 お陰で情報が漏洩してしまったよ。ちなみに全部合っている。血液型を聞かれて答えると「えー。嘘ー」と言われるのが最近の悩みな男子高校生たぁ僕のことさ。
「そうか。君は再来年まで結婚できないのか」
 彼女は残念そうに呟き、お母さんはテレビのバラエティ番組を見て、げらげらと豪快に笑った。もうこっちに興味なしってどんだけ無関心主義なの?

「何考えてんのこの糞兄貴っ! 大体ね! 今、何時だか分かってんのっ!? もうこんな夜だっつーのっ! 外見れば分かるでしょうがっ! 真っ暗でしょっ!? 兄ちゃんの目がいくら節穴だっつっても明るいか暗いかくらいは分かるでしょうがっ! それもわかんないくらい役立たずの目だったら今すぐ抉り出して捨ててカラスの餌にしちまえっ!」
「あ、あー、分かっ」
「夜だってことが分かってんなら、何で、そんなことをほざいてんのさっ!? あんたの口はっ! いっつも余計なことしか言わない口だと思ってたけど、本当に全く余計なことを言わないわねぇっ! その舌、脳と繋がってるのっ!?」
「んー、ま、まぁ」
「なら、本当におかしいのはあんたの頭だってことでしょうがっ!? 普段から、馬鹿なことばっか考えてると思ってたけど、実際、馬鹿な上に有害かつ無神経なことしか考えてなかったみたいねっ! 脳味噌腐ってるんじゃないのっ!? こんな夜に、一人でとぼとぼ歩いて帰れって、あんた、常識ってもんが分かってるのっ!? てか、そもそも、あんたが送られてきて、あの人、送っていかないって意味わかんないじゃないのさっ! あんた、それでも玉ついてんのかっ!?」
「女の子がそーいう言葉遣いをするのは」
「うっさいわねぇっ! くだんねーことぐだぐだぐだぐだ言ってんじゃないわよっ!? 今は、あたしが喋ってんのっ!? 兄ちゃんは黙って耳の穴かっぽじってよく聞いてなさいよねっ! 今日という今日は、あんたに常識ってもんを教えてあげるからっ!」
 妹から説教という名の罵倒を受けている間、僕は冷え冷えとしたフローリングの床に正座させられていた。彼女はお母さんと一緒にテレビを見ている。時折、僕に向けて嘆かわしそうな視線を向け、僕の側に行きたそうに腰をもぞもぞさせているけれども、ビールで酔っ払ったお母さんに肩を組まれ、動くに動けない状況だ。
 ところで、何故、僕がこんなにも中学三年生の妹に罵倒されているかというと、まぁ、その責は僕によるものなんだけどね。大抵のことにおいては、僕よりも妹の方が正しいのさ。
 妹のお怒りの原因は僕の不用意な発言によるものだ。というのも、まぁ、用事も済んだことだし、夜も遅いことだから、彼女に「じゃあ、帰ったら? また、明日」と言ったことに平素から非常に堪忍袋の緒が脆い妹はぶち切れた。曰く「てめーは彼女さんに送ってもらっておきながら、こんな夜遅い時間に彼女に向かって一人で帰れば。とはどーいう言い草だぁっ!」ということらしい。ごもっともです。
 いや、僕だって、こんな夜遅い時間に彼女一人で帰そうとは思っていなかったよ。勿論。ただ、ちょーっと「夜も遅いし、危ないから送っていくよ」ってな言葉を付け忘れただけなのさ。本当本当。
 さて、そんなわけで彼女を送っていかなければならないわけだけれども。ここで一つ問題が生じる。というのも、僕が徒歩で彼女をエスコートしてあげることも吝かではないのだけれども、しかし、自慢じゃあないが、僕は人を守り導くことに関して、特に「守る」という行為に関しては著しく不適格な人間であると言わざるを得ない。要するに、もし、変質者が彼女の目の前に現れたとしても彼女を守れる力なんぞこれっぽっちもない弱っちい奴なのさ。
 できれば車で送ってあげたいところだけれども、お母さんはアルコールを多量に摂取していらっしゃるので車の運転は無理だ。そもそも、車はお父さんが会社への通勤に使っていて今この家にはない。
「っていう理由だから、お父さんが帰ってくるまで待っててくれる?」
 妹の罵倒を半時くらい受け続けた末に、身体は健全、精神はずたずたという見かけにはダメージが分かりにくい状態の僕はぐったりとした気分で彼女に提案した。妹もさすがに半時間ぶっ続けで罵倒するのは堪えたらしく、台所でペットボトルのスポーツ飲料をラッパ飲みしていた。
 彼女は文句も言わず黙って頷いてくれた。
「小うるさいどころか超うるさいうちの妹とは大違いだなぁ」
「誰が超うるさいですってぇっ!?」
「あ。心の中で呟くはずだったのに、つい、本音が口からポロリと……」
「にーいさーんっ!!!」
 台所で妹が鬼の形相で僕を睨んでくるものだから、僕は咄嗟に彼女の手を取って、茶の間を出た。
「とりあえず、僕の部屋に避難、じゃないや、待機していようか。ここじゃあ、お母さんに絡まれるといけないからね。妹の罵倒から逃げ出したいからじゃあないよ。本当だよ」

 僕の自室は二階にある。我が家の二階には部屋が二つあって、片方が僕の部屋。もう片方は引きこもり姉さんの部屋だ。
「やれやれ、うちの妹は暴力的でいけないなぁ。言葉の暴力が酷すぎるよねー。あれじゃあ、幸せになれんよ」
 無事、部屋の中に避難してから、僕は呟いた。妹は追ってこなかったようだ。中学生だってそこまで暇じゃあないのさ。宿題とか明日の予習とかテレビによる情報収集とかあるだろうしね。
「あ。そこら辺、てきとーに腰掛けててって言っても椅子は一つしかないからねー。ベッドの上にでも座っててー」
 彼女は僕の部屋に入った後、部屋の入り口辺りにぽつんと立って、きょろきょろと部屋の中を見回していた。床の灰色の絨毯を見て、僕が小学生のときから使っている学習机を見て、ヘンテコな本ばかり詰まっている本棚を見て、ヘンテコなガラクタが詰まっている棚を見て、小型の液晶テレビを見て、ゲームとDVDの積まれた山を見て、僕が夜な夜な横になったりならなかったりしているベッドを見て、何故か顔を赤らめた。え。何、その反応。
「こんな統計を聞いたことがある」
「ほう」
「女性が初めてセックスをした場所で最も多いのは彼氏の部屋だそうだ」
 それなんて統計? 世界保健機関とか厚生労働省とかが実施した確実に信用の置ける統計なの? そして、その統計結果のごく一部の情報を今僕に開示することに何の意味があるの? なーんて、聞かんでも分かるがな。
 突然、彼女は僕にタックルを食らわせてきて、僕は息を詰まらせながらベッドに仰向けに倒れ込んだ。その上に彼女が落ちてきて、僕は危うく親子丼の成れの果てを口から放出するところだった。
「いきなり何す」
 そこまで言ったところで、彼女の唇が僕のそれに吸い付き、同時に舌が捻じ込まれてきた。前歯が当たって少し痛かったけれども、彼女はそんなことなど気にしない。僕の口の中を舌で縦横無尽に蠢かせ、歯と歯茎を舐め上げ、舌を絡み合わせ、唾液を流し込んでは、じゅるじゅると音を立てて啜り上げ、二人の交じり合った唾液をうっとりとした顔で嚥下する。
「あらら、僕の彼女は発情してしまったのかな?」
「うん」
 僕が冗談めかして呟くと、彼女はあっさりと頷いた。潤んだ瞳で僕の眼球を覗き込みながら、啄ばむようなキスをちゅっちゅちゅっちゅと僕の顔に浴びせてくる。
「ちゅ、もう我慢できない。ん、ちゅ、ちゅ」
 彼女がいつ、どこで、どれくらい我慢してたっていうんだろうか? なんか出会ってからずっと欲望のままに行動していたように僕には思えたんだけど。
 彼女に唇を何度も啄ばまれ、顔中を舐められながら、なんとかその旨を伝えると、彼女は遺憾そうに眉根を寄せた。
「我慢していた。ずっと、ずっとだ。もう、ずっとずっと、永遠かと思うほど、君とこんなふうになれる日なんて来ないかもしれないと思っていた。ずっとずっと我慢してきたんだ。こんなふうに君に触れることを。ちゅ、こんなふうに君と口付けすることを。こんなふうに君に私の気持ちを伝えることを。こんなふうに君と愛し合うことを」
 そう言って、彼女は嬉しそうに、満足そうに微笑んで、僕に口付けた。
 そんなことを言われたら、まぁ、その、なんていうかね。そこまで、僕のことを想ってくれるんなら、ちょっと彼女になら身を任せてもいいかなって気持ちになる。あれ、僕の思考回路ってなんか処女な生娘みたい? 普通、逆じゃね?
 僕が首を傾げている間にも、彼女は僕の顔やら首やら耳やらに舌を這わせ、唾液を舐めつけ、肌に吸い付き、甘く噛んでくる。彼女の左手は僕のシャツの中に潜り込んで、僕のお腹とか胸を優しく撫で回し、右手はベルトを緩め、ズボンのチャックを下げ、その中に潜り込んでくる。彼女のひんやりとした指が、既に、僕の股間で硬く起立しきっている息子を撫で擦り、ぎゅっと軽く握ってくる。
 そんなことされりゃあ声が漏れてしまうのも当たり前さ。
「ん、んんー、んぁ、ん」
「気持ちいい?」
「ん、んーっと、えーっと、んぁん!」
「気持ち良さそうな声が出てるぞ? 顔もかわいい」
 彼女は何処となくうっとりとした目で僕を見つめながら、己の股間を僕の足に擦りつけ、胸を僕に押し当ててくる。
「ねぇ、私も。私にも、して」
 そんなふうに耳元で甘えるように囁かれたら、そりゃあ彼氏としては彼女の甘えに応えてあげないといけないよねぇ。
「あれ? 君、ブラは?」
 シャツの上から彼女の乳を揉むと、なんとブラの感触なく、いきなり、乳の感触が掌に感じられて吃驚した。
「してない」
「え。何でよ?」
「君とこーいうことになるかもしれないから」
「いつからさ?」
「家で着替えてから」
 あー、そーいえば、彼女の部屋でごちゃごちゃやってるときもブラなかったなー。ということは飯食ってるときも、帰るときも、お母さんと妹に挨拶してるときも、ずっとノーブラだったと。君、恥ずかしくないのか?
「外す手間が省けていいだろう?」
 彼女は特別そのことに羞恥など感じていないのか。そんなことを言い出す始末だ。まぁね。確かに、手間が省ける。
 乳を弄くりながらも、もう片手を彼女のジーンズの中に滑り込ませる。
「まさか、こっちもノーとかいわないよね?」
「そんなことはしない。まぁ、君が望めばしてもいいけど」
 いや、ノーブラだって僕が望んだわけじゃないし。勿論、ノーパンだって望みやしないさ。でもでも、まぁ、二人っきりで部屋の中でならば、いいかもしれない。
「ん。濡れてる。エッチだなぁ」
「ぁぁん、だって、君とこんなふうに、なっているんだ。濡れない方がおかしぃ」
 彼女のパンツの中に指を入れて、意地悪なことを囁くと、彼女は頬を桃色に染めながら答える。
 二人の行為は止まることなく、遂に本番、終点、行き着くところまで行ってしまうのか? 僕らは目的地直行の最終特急列車のように走り抜けてしまうのか? 彼女はそれを望んでいた。ただ、一つ屋根の下には家族がいることを僕の理性が告げる。止めておくべきだ。もうこのくらいにしておかないと。何せ、今日は、いっつも、いいところで邪魔が入る運命みたいだからね。
 彼女から手を、体を、唇を、離しかける。
 離れかける僕を抱き寄せて彼女は僕の耳元で甘く淫らに可愛く美しく、囁く。
「んん、ぁん、んぁ、きて、して、私を、君のものにして」
 そんなことを言われてしまっては、それを拒絶する力も意思もあっという間に木っ端微塵に砕け散る。同じ屋根の下に家族がいるという事実も僕を抑止するには足りない。ただ、愛欲に身を任せかけていた。
 が、そうは問屋が卸さない。何故ならば、これはラブコメディであり、官能小説ではないからさ。
「兄ちゃん。お父さんが、あと少しで帰って、く、る……」
 妹よ。前々から言っているはずだよ? 僕の部屋に入るときはノックをしなさい。と。そのせいで三回も僕は妹に自慰を見られていて、妹はその度に絶叫して、何故だか僕を散々攻撃するのだ。
 そして、今回の悲劇だ。いや、喜劇?
「ぎゃーっ!!! 破廉恥っ! スケベっ! 変態っ! エロっ! 最っ低っ! 最っ悪っ! 死ねっ! ボケェッ!」
 妹はそう僕を罵倒して、階段を駆け下りて行った。
 あぁ、凄い悲しく虚しい気分だ。
 項垂れる僕の顔を覗き込んで彼女が呟く。
「続き、する?」
「しないよ」
 僕は溜息を吐き、彼女も不満そうに吐息を漏らす。
 しかし、すぐに気を取り直したのか、僕を睨んで、にっこり微笑んで、囁く。
「まぁ、でも、私は君のものだ。いつでも、どこでも、どんなときでも、私を愛してくれ」
 まったく、彼女には敵いそうもないなぁ。
 もう! かわいいんだから!


「私ハ〜」最終話です。
長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。
ちょっとエロが、ギャグが、蛇足が、行き過ぎた点が多々あったかと思われますが、無事、叱責や注意を受けることなく完結させることができました。もしかすると、温情で見逃してくださっていたのかもしれません。
さて、これにて僕と彼女の出会いの馴れ初めは一旦終了ではございますが、現在、僕と彼女のその後の日々を描く長期連載を計画中でございます。いつの日か、連載されました暁には、宜しくお付き合い頂けましたならば幸いです。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。