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タイトル見て分かるとおり「君ハ私ノモノデアル」の関連作です。でも、そっち読んでなくてもなーんの問題もありません。
貧血とお姫様抱っこ
 僕は貧血持ちだ。
 どーにも体温が低いのか、血が少ないのか分からないが、僕はよく貧血を起こす。
 朝礼、集会、体育などなど。あらゆる場所で僕は、長時間起立していたり、少し激しい運動をしたりすると、血の気を失い、ふらっと倒れるという自他共に認める迷惑極まりない習性を持っている。その度に周囲の人々には迷惑をかけてしまっているので、大変心苦しい。
 そんなわけで、僕が卒倒する度に、僕を保健室に輸送している保健委員の鈴木君とはすっかり親友の仲だ。貧血から始まる友情ってかー。
 よく運び込まれる関係で保健室の先生とも仲良しだ。
 仲良しとは言っても、よくエロ漫画とかであるような大人な関係ではない。
「先生が気持ちいいこと教えて、あ・げ・る」
「せ、先生……あぁっ!」
「ほーら、気持ちいいでしょ? さあ、いっちゃいなさい」
「あ、あ、あぁ、だめ! だめだよ! 先生ぇっ!」
 とかいうことはないのだ。
 実際は、
「かっぱえびせんて本当に止まらない止められないよねー。ぽりぽり」
「そーですねー。ぽりぽり」
「もしかしたら何か中毒成分とか混入されてる? ぽりぽり」
「かもしれませんなぁ。ぽりぽり」
「えびせんは何となく分かるけど、かっぱって何? ぽりぽり」
「さあ? ぽりぽり」
 とかいう会話を頬杖ついてテレビ見ながら、だらだら怠惰にしているような仲だ。色気もエロ気も全く感じられない間柄だ。
 かっぱの意味が気になる人は自分で調べて欲しい。僕は別にどーでもいいので調べない。

 さて、その日も、僕は朝礼で貧血に見舞われた。校長が30分も益体もないことを延々とくっちゃべったのが原因だ。
 つまり、要点は教頭が朝礼の冒頭に言った「最近、市内でインフルエンザが流行っているから気をつけるように」ってことだけだろうに。何でそれだけのことを、校長が話すと30分にもなるんだろう? これはもう魔術としか思えない。
 そもそも、病は気からとかそんなありふれたっていうか使い古されてぼろぼろになりきってしまっている説教は言われなくても知っているし、分かっているし、うがいとか手洗いとかをすれってそんなん小学生じゃねーんだから分かってるってばー。と、こんなことを考えつつ、心の中で校長を罵倒したり、校長の演説の中で出てくる「えー」とか「あー」とかいう言葉を数えてみたりしていた。50回を軽く超えた。
 そんなふうに暇を潰しながら、突っ立っていると、だんだんと頭のてっぺんからすぅっと血の気が引いていく感じになってきた。あーあー。頭から血が抜けてるー。どんどん血が下に落ちていくーって感覚がする。体温がひゅえーって下がっていくのも分かる。これが僕の貧血だ。頭のてっぺんから血がどんどん落ちていって、意識が朦朧もうろうとし、くらくらしてくるんだ。
「あぁー。駄目だー」
 僕はぼそりと呟き、卒倒した。
「おい! 大丈夫か!?」
 危うく体育館の傷だらけのフローリングに頭を打ちつけ、お脳に宜しくないことになりそうだったが(最悪、そこら中に脳漿のうしょうと血潮をブチマケルところだった。まぁ、そこまで床は固くないし、僕の頭骨も弱くはないと思うんだけどね)、運良く、後ろに並んでいた柔道部の吉田君が僕の体を支えてくれた。まぁ、何度も卒倒している貧弱者が目の前でふらふらし始めたら咄嗟に受け止めるくらい誰でもするか。
「あぁ、ありがとう。吉田君。もう大丈夫だ」
 吉田君の胸の中で僕は弱々しく礼を言い、彼から離れる。我が身を救ってくれた恩人とはいえ、いつまでも男子の胸の中にいるのは愉快とは言い難いし、相手にも悪いからね。それに、吉田君。言っちゃあ悪いが、少し汗臭いよ。
 吉田君から離れ、くらくらする頭をゆらゆら揺らしながら床に座り込み、僕は前方に呼びかける。
「おおい。鈴木くーん。保健委員或いは僕の保護・輸送係の鈴木くーん。また貧血だー。申し訳ないが、保健室に連れて行ってくれないかーい?」
 控え目ながらも鈴木君の並び位置くらいまでならば聞こえる程度の声で言った。まぁ、言わなくても、彼は来てくれるはずだ。つまらない校長の演説の最中に、人が倒れれば、大したことがなくとも、暇を持て余した級友たちが勝手に騒ぎ出し、いつかは保健委員に呼び出しがかかるはずだ。
 しかし、周りの級友たちは騒ぐものの、待てど暮らせど愛しの……ごめん。そんなに愛しくは思ってない鈴木君はやって来ない。一体、どーしたというのか?
 僕が頭のくらくらを我慢しつつ、お尻をフローリングで冷やしていると、突然、手を引かれた。
 驚いて顔を上げた先にいたのは、少しだけ見慣れた美少女だった。眼鏡をかけているせいか、いつも表情が薄いせいか、知的でクールな顔立ちで、すらりと背が高く、僕よりも頭1つ分くらい身長が上だ。まぁ、僕が小柄なせいもあるんだけど。ええ、そうですとも。僕はチビですとも。だから、何か? チビは悪いことですか? チビは悪ですか? そうではないでしょう!
 彼女と僕はあまり接点はなく、ただ、クラスが同じなだけだ。会話したこともあまりない。全然、ないわけではないけれどもね。
 彼女はいつもの冷ややかにも見える表情の読めない顔で僕を見下ろしている。
「何か用かな? 見てのとおり、今、僕は少し非常事態の状況にあるんだ。申し訳ないけど、急がないなら後にして欲しいな」
 早く横になって、安静にしたいけど、体育館の冷たい床の上に転がるわけにもいかない。とっとと保健室の薬品の臭いが染み込んだ白いシーツの上にダイブしたいよ。そして、惰眠を貪りたい。
「それだ」
「は?」
 彼女はぼそりと呟き、僕は首を傾げる。あ、頭を動かすと、余計にくらくらする。
「君は、今、非常事態だ」
「あ、うん、さっき言った」
「だからだ」
「…………」
 駄目だ。話が通じない。伝聞によると彼女は結構まともっていうか秀才といってもいいくらいの成績を修めているはずなんだけれど、人格はなんと天然だったというのだろうか?
「理解していないな?」
 彼女は呟きながら、もう意識がどこか遠くへ飛びそうになっている僕の手を握る。
「保健委員の鈴木は今日は休みなんだ。インフルエンザでな」
 あ。そーだったんだ。親友といっておきながら、出欠状況も確認していない僕ってばお茶目さんだね。
 しかし、今、まさに、校長が喋っていることで、こんな身近なところに被害が出ていたのか。インフルエンザ気をつけようっと。てか、校長。生徒1人貧血で倒れてもまだ平然と演説を続けるのか。
「しかし、案ずるな」
 何にも案じていないのに、彼女は1人で勝手に続けた。
「私がいる」
 どゆことさ? 別に、仲間が全滅して途方にくれているわけじゃあないけど。
「クラスには保健委員は2人いる。そのうちのもう1人が私だ」
 彼女がそう言ったとき、僕は全てを理解した。彼女がここにいる理由。彼女がこれからしようとしていること。
「やだ!」
 咄嗟に叫んだ。
「やだと言われても困る。もうこれは春のホームルームで定められたものであって、今更、委員を変更することなど……」
「そーいう意味じゃない!」
 あ。叫ぶと、頭から更に血が……。脳味噌の中を血液が通らなくなって、酸素不足に陥ってるよー。
 それでも、僕は主張する。これは譲れないね。
「だって、君、僕を保健室に輸送する気でしょ?」
「ああ。その為の保健委員であり、その為に私はここへやってきた」
 何だかちょっと格好いい台詞だな。そーやって仁王立ちして堂々と言うと、尚更だね。
 しかし、そんな格好いい台詞に騙されるわけにはいかない。
「いやだよ。いやだいやだ。だって、君はインフルの餌食になった鈴木君の代わりをするとってんでしょ?」
「そうだが。私ではいけないのかね?」
 そりゃそうだよ。
「だって、鈴木君は僕を背負って輸送してくれてたんだよ? 僕は、この通り、歩けない」
 現状を説明する僕の後ろでクラスメイトが話す。
「何か口だけは妙に元気じゃねーか?」
「こいつは、いっつもこーだろ」
「死ぬ直前までべらべら喋ってそうだな」
 口だけ達者で悪かったね。まぁ、事実で反論のしようがないから、無視。
「つまり、僕を保健室に輸送するには背負ってもらわないといけない」
 頭がくらくらして支えてもらって歩くのも不可能に近いのだ。だからといって、女の子に背負ってもらうなんて僕のプライドが許さないのさ。器ちっさいとか言うな。
「だから、私が君を背負って保健室まで輸送する」
「いや、だから、いやだって」
我侭わがままを言うな」
 彼女はそう言うが、僕は承服できない。高校生にまでなって女の子におんぶしてもらうなんて恥以外のなにものでもない。僕はぐずぐずとゴネて、彼女の背中に乗背するのを頑なに拒否した。
「じゃあ、しょうがない」
 彼女はいくらか呆れの含まれた冷ややかな表情で僕を見下ろす。諦めてくれたか。さて、誰か鈴木君の代わりに僕を運んでくれる心優しい男子はいないかな?
「お姫様抱っこでいくしかないな」
「えぇっ!? それはもっと嫌だよっ!」
 思わず、僕は叫んだ。お姫様抱っこってあれだろう? お姫様がされる抱っこだろう? そんな恥ずかしい方法で輸送されるくらいなら、床を引き摺られた方がマシだよ。
「そんなことを言われても、しょうがないだろう。背負うのが嫌ならばお姫様抱っこしかない。幸いにも君は軽そうだ」
「チビのガリで悪かったね!」
「別に悪いとは誰も言っていない。悪いどころか、私は……、その、良い……と思う」
 彼女は眼鏡をくいっと動かしながら照れくさそうに言った。君が良くたって、僕は良くないの。
「とにかく、お姫様抱っこは拒否するよ」
「じゃあ、おんぶだ」
「おんぶも嫌だよ。誰か他の人に運んでもらうから」
「いや、それはいけない」
 彼女は強い視線で僕を睨んで言った。
「病人を他の者に運ばせたとなれば、保健委員の沽券こけんに関わる」
 彼女はそんなにも保健委員というクラス内職務に誇りを持っているんだろうか? まぁ、真面目な印象はある子だけどね。
「どーしても抗弁するとなれば、無理にでも輸送せねばなるまい」
「わぁっ! やめぷっ!」
 結局、僕はお姫様抱っこで保健室に輸送されてしまうのだった。
ご覧の通り、「僕」と「彼女」のお話です。


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