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  男前な友人 作者:siko
昼休み
―――――昼休み


「ハァ、ハァ」

 知らず、息が荒くなる。しかし、我慢だ。何事も忍耐が必要だ。

「はぁはぁ、ハァ」

 そう、必要なのは我慢、その忍耐を過ぎた先に目指すべき物が……。

「何をハァハァしてるんだ。気持ち悪いぞ神承」

 見上げると、少し引いた雰囲気で不気味そうに俺を見る柳瀬が居た。

「って、何でハァハァしてたかってお前のせいでハァハァしてたんだって」
「ん? 私のせいってどう言う意味さ」
「だってさ、俺今日朝飯食いそびれてたんだよ。でもお前が一緒に飯食おうって誘ったもんだから俺はこうしてっ!」

 そう言いきり鞄から包まれたままの弁当箱を取り出してドンと机に置く。

「全く箸をつけづに待ってたんだぞ! この空腹を我慢するのに必要な勇気と精神力がお前にわかるか!」
「あー、そりゃあ全く解からないね。解かる訳も無い。だってわたしはそんな馬鹿なことをしたことが無いからね」
「なっ、だいたい俺が腹減ってるのに弁当食うの我慢してるのはお前の為なのにそりゃあ、あんまりにもあんまりな意見じゃないか!」
「ああ。それについちゃ素直に謝るよ。ごめん。でもさー」

 そう言って自分の席に戻り弁当箱を鞄から引っ張り出して戻ってくる柳瀬。

「わざわざ食べるのを我慢しなくても先に食べ始めておいてくれても良かったのに。私は神承に話を聞いて貰いたいだけだったわけだし何も食事の進行速度まであわせる必要は無いんだし。それとも何かい? 神承はそんなに私と一緒に食事を取りたかったのかい?」
「ばっ、そんな訳無いだろ!」
「くっくっく、相変わらず面白い反応をする奴だよな神承は。そんなにムキになって否定しなくても良いのにさ」

 そう言って人が悪そうにクツクツと笑う柳瀬。くそっ、なんか面白く無いぞ。
 そんなことを思ってると、俺の弁当の隣に突然缶コーヒーと購買で売ってる杏仁豆腐を置く柳瀬。

「ん? なんだよ、この飲み物とデザートは?」
「いや、さ。その付き合わせたお詫びのほんの気持ち」
「へっ、くれるの? 良いの? 俺遠慮しないよ?」
「それぐらいで遠慮されても困るって。どうぞ頂いちゃってよ」

 また気を使ったのか。ふぅ、相変わらず良い奴だな。柳瀬はさ。

「まあ、ありがとー。でもわざわざそんなに気を使わなくても良いのに」
「んー。まあそうかもしれないけどさ。大したモンじゃないでしょ?」
「そうだけどさ。でもありがとな。じゃあ、飯食おうぜ?」
「うん。そうだね」

 そう言って二人でいただきますと言って弁当の蓋を開ける。
 俺のはオーソドックスな自家製の弁当。ビック・マムことマイマザー作。
 それに対し、柳瀬の弁当は二段の物。一段目が白米で二段目は一面の……って、なんだこれ?

「おい、柳瀬。その二段目のおかず(?)らしき物は一体なんなんだ?」
「ん? これは昨日の晩御飯の残り。作りすぎちゃって残っちゃったんだよね」

 そう言って何故か俺から目を逸らしてあはははーと不自然に笑う柳瀬。

「って、そんな変な笑いでごまかされないぞ俺は。だから何なんだよそれは!」
「んー、まあ、野菜炒めだよ」
「野菜炒め……」

 確かに、良く見れば、それは普通の野菜炒めだ。
 だが、しかし、駄菓子菓子、想像して欲しい。二段の弁当だから箱が二つ有るのだ。そのうちの一つが全面が野菜炒め。
 ひたすらもう親の敵のように野菜炒め分100パーセント。そりゃあもうギッシリと詰まってるんですよ。野菜炒めだけが。
 これは中々に壮絶な眺めである。と言うかこんなヘンテコな弁当見たこと無い。

「って言うか、柳瀬あいかわらず料理作るときに分量が巧く出来ないのな。普通野菜炒めなんて冷めたら不味いから一回で食い切れる分しか作らんだろうにさ」
「んー、どうもこればっかりはさぁ。巧く行かないんだよね。と言うか流石に口の中が野菜炒めの味しかしないわけだが……時に神承君」
「ナンダイ柳瀬さん」
「その、神承クンの弁当のそれ、その揚げ物」
「ん? このから揚げ?」
「ああ、それ。その、それは、実に美味そうだな」
「ああ、美味いよ」
「くれ」
「……」

 さて、どうなのだろうか。この状況は。

 仮にもモテモテの花の女子高生ともあろう者が、人の弁当箱の一点からあげを異常までに凝視しながら、問答無用な勢いで「くれ」と言い切ってしまうのは。
 良いのだろうか、いや、良く無い。全国の女子高生に夢を持つ男性たちと、今まで柳瀬に告白してきた沢山の夢見る少年少女たちの面子にかけて、決して良くは無いと思うのだが……。

「ハァ、まあ、一飲コーヒー一飯デザートの恩もあるしな。やるよ」
「ナイス! あいかわらず話がわかるねぇ神承は。じゃあ……」
「っと、ストップ。その前に!」
「ん? なんだ?」
「そのやたら豪快な野菜炒め少しくれ」
「ああ、なんだ。そんな事か。良いよ、いくらでも食ってよ」
「おう、じゃあ……」

 そう言って、とりかえっこタイム!
 柳瀬の弁当箱から野菜炒めを一つまみ。そして口へと運ぶ。

 普通に考えて前の日に作られた冷めた野菜炒めなんか不味くて食えたものじゃないはずなんだが……。

「やっぱり、何故かウマいんだよなぁ」

 そう、コイツはやたら豪快な料理しか作れなくて、分量も大抵多く作ってしまうのだが、何故か味だけはやたら美味いのだ。
 これだって冷めててこんだけ美味いんだから作りたては相当美味かったのだろう。
 すっごく不思議だ。

「ん? そうか? そりゃあ良かった」
「って、なニー! 柳瀬、なに勝手に人の弁当のから揚げ3個も自分の弁当の方に取ってんだよ!」

 どう考えても取りすぎだろ!

「くっくっく、相変わらず変な所ミミっちいよなぁ神承は。そんなんじゃ女の子にモテ無いぞ?」

 そう言い切りケケケと笑いながらもから揚げを食ってしまう柳瀬。
 むぅ、現在進行形で女からモテてる奴の意見だと無碍に出来ないぜ。

「って、そうだ。今日告白されてたんだよな。結局どうしたんだよ。また振ったのか?」
「ん? まあね。丁寧に断らしてもらったよ」
「へー、今日は男だったんだろう? 何でまた……カッコ悪かったのか?」
「いや、多分世間一般から見ればイケメンって言う部類に入ると思う」
「ふーん。じゃあ告白受ければよかったのに。勿体無い」
「何で? 別に私が世間一般の感覚に合わせる必要は全く無いじゃないか。私の目には魅力的に映らなかったんだって」
「良く解からないな。何が柳瀬の目に魅力的に見えなかった?」
「いやね、極端に痩せてたからな。やっぱり男はある程度がっしりしてて見た目から頼り甲斐があるやつじゃなきゃね」
「ほー。つまり柳瀬の好みは極端に痩せていない男ね。と言うことは……そうだな。英語の山村なんてどう?」

 ちなみに山村とは俺たちの英語教師の山村大二(48歳、独身)の事である。
 生徒からは西郷どんとか武蔵丸などと呼ばれてマスコットのように親しまれている、人気者の先生だ。

「アハハハハ、面白い冗談を言うね神承。山村先生は痩せて無いではなくて肥満体とかメタボリックって言うんだよ」
「むーん。ダメか……」

 ちなみに山村の体重は、100オーバー。でも生徒からの人気、プライスレス。
 
「あとの条件は……んー、そうだなぁ。私より強い男……かな」
「んな奴早々居るわけねー。って言うかさ、どういう意味において柳瀬より強ければ良いんだよ」
「それは、んー、何て言うか、抽象的な意味で言ってるだけでさ、具体的には解からないんだよね。まぁ、何でも良いよ別に」

 なんだ、その俺の屍を越えて行けみたいなな条件は。

「へー。でもまあ、なんだったとしても柳瀬より強い男なんて中々いないぞ?」
「そうでも無いさ。だって、取り合えずだったら、神承だってオッケーなんだし」
「は?」
「いや、だって神承私より剣道強いでしょ? だったら私の守備範囲内だって事になるじゃん」
「でも、だけど俺は男だし柳瀬は女だし俺のほうが強くて当然じゃ……」
「さっき、神承自身が、「私より強い男なんて早々居ない」って言ったよね。と、言う事は神承は私の眼鏡に適う、数少ない男って言う事になるんだけどなー」

 そう言ってクックックとかみころすように笑う柳瀬。
 その笑いを見て、ああ、からかわれてるんだって気づいた。いつもの俺ならお茶らけて、ふざけて返事しただろう。
 だが、どうしてだろうか。今日は不思議と言葉が出ない。
 
 何でだろう。昨日、少し考えた事が影響しているのかもしれない。俺には目的が無くて、柳瀬にはある。
 だからだろうか、俺には柳瀬がとても輝いて見えた。

「神承?」
「……」
「神承ってば!」
「あ? ああ。ごめん柳瀬。少し考え事してただけ。俺なんか強くないって。柳瀬の方がよっぽど強いよ」
「へー、そうかな。私はこと剣道においては神承に敵うと思えた事は無いけどね。まぁいいや。それより神承」
「ん?」
「今日の放課後って暇?」
「まあ。帰宅部だしやること無いし暇だけど」
「じゃあさ、今日帰り剣道部寄ってよ」
「ん? なんでさ。また入部の勧誘?」
「はは、違うって。今日はね、少し面白い人が来るんだよ」
「面白い人? 誰だよ一体?」
「それは来てからのお楽しみって事で。どう? 来る気になったかい?」
「むぅ、気になるから行ってやるよ」
「ああ、それが良いと思うよ。多分退屈はしないと思うから」

 そう言ってクックックと悪役っぽく笑う柳瀬。
 それにしても相変わらず普通には笑えないんだなコイツ。




うーむ、我ながら健全なお話だなぁ。

どうも。珍しくペースが速いsikoえです。
でもしばらく旅に出ます。ノートパソコンは持ってくから影響無いと言えば無いけどあるといえばある。
どうなるかは自分でも解からないです。なまぬるく見守ってもらえたら嬉しいです。

あ、あとランキング見て少しビックリ。結構上のほうに名前がありました。
実際に見てみると嬉しいものですね。
戯れで登録しただけだったので実はそれほど興味は無かったのですが。
でも見ると嬉しくなっちゃう。単純な物です。
あ、投票くださった方、ありがとうございます。
それと、読んでいただいて、本当にありがとうございます。
それでは、また。