久しぶりの変態神承
少し離れたところからバシャバシャと水の流れる音が聞こえる。
今俺が居るのは柳瀬の部屋である。勿論入るときに本人に了承は得ている。
ちなみにご本人の柳瀬は洗い物の最中な訳で。
俺一人の食後のくつろぎタイムである。
柳瀬の料理はと言うと、メニューはニラレバ炒めと餃子とスープとご飯と言う中華料理屋で食う定食のような雑多なメニューだった訳だが、これがもう無茶苦茶に美味かった。
本来炒め物というのは出来立ての熱が最も重要なもので冷めるととんでもなく不味いものだ。
だが、俺は今まで柳瀬の料理は弁当のお裾分けでしか食ったことがなかったのだが、その弁当に入っている当然冷めきっている青椒肉絲なども、味付けが良い為かかなり美味かった。
その冷めててすら美味い炒め物を熱々で食ったのだ。これは今まで食った料理の中でも5本の指に入りそうな旨さであった。
特にニラレバ炒めなどは凄かった。
俺は特に好き嫌いはないと言ったが、それでもレバーはあまり好きな方ではない料理だった。
あの粉っぽさや臭さがキツいのがどうしても気になるからだ。
もちろん雑多な物を幼少期に食べていたから食べれないほど嫌いと言うことはないのだが、自ら好んで食べようと思ったこともないのも事実だ。
だが柳瀬の作ったニラレバ炒めは違った。
初めてレバーを食べて「これはうまい!」と感じた気がする。
具体的に言うと表面に均一に薄く油の膜が張っているからか粉っぽさをそれほど感じなく、臭みもなくレバーの持つうま味の部分だけがニラと合わさりダイレクトに届いてくるのだ。
その感想をそのまま柳瀬に言ってみたら
「そう言ってくれると作った甲斐があったよ」
と笑顔で答えてくれた。
まあ唯一の欠点と言えばどう見ても量が多く作り過ぎなのがツッコミ所だったが、両親が帰ってきたら食べるから大丈夫なのだという。
本当に大丈夫なら、なぜお前は毎日次の日の弁当に前の日の残りのおかずを詰めてくる羽目になっているんだよと言ったら
「ハハハ、それは、きっとその時大丈夫ではない量になってしまったからだよ」
と笑いながら言っていた。
全く、解っているのかどうなのやら……。
そして二人で食事を終えて現在柳瀬が洗い物中な訳だ。
俺としては手伝うと言ったのだが「今日の神承はお客さんだから」と押し切られて身の置き所も無くなったので柳瀬の部屋を見物しつつ食後の食休みな訳である。
こうして最初の所へ戻ったわけだ。
さて、やってきたのは同級生女子の部屋。
それだけでも特別な場所になり得るのに、その相手がとびっきりに魅力的で人気も高い「柳瀬の部屋」なのだ。
この部屋まで入れると言うのはなかなかのレアチャンスである。そりゃあもう某「徹○の部屋」なんか目じゃないくらいぜってなモンである。
これはもう、物色しないで男と言えるだろうかいや言えない!
部屋に入る許可を得る時には「洗い物の人手が必要ないなら明日の宿題をしたいから柳瀬の部屋でやっておいて良いか?」と聞いて了承を得たわけだが、そのままアホの子のように言ったことを実現する必要もあるまい。
と言うわけで、多少の罪悪感を抑えつつも柳瀬の部屋の物色開始である。
部屋全体の感じとしては非常に整然と片づいており清潔感で溢れている綺麗な部屋なのだが年頃の現役ジョシコーセーの部屋としてはシンプルに纏められており、少し地味な印象を受ける。
だが地味一辺倒というわけでも無く、ベッドのシーツがオレンジな所などに微妙な乙女心を感じることもできる。
また、少々変態的な意見だが何となく僅かだが良い匂いがする気がする。
それも香水や芳香剤の匂いではなくではなく、もっと自然な、何とも言えないフレグランスな感じなのだ。
総括的な感想としては非常にシンプルで飾りっ気の無い部屋なのだが、誰もが女性的に心地よく感じるように思えるところなんか非常に柳瀬らしい、居心地の良い、気持ちのいい感じのする部屋だと思う。
……うん。なんか想像したとおりで詰まらん。
なんか、こう、もっと以外性のあるファンシーさや陰媚な物体(例えば紐のぱんてぃえとか)なんかが落ちてたら面白いのだが。
などと思っていると、少し意外なもの物が目に入った。 柳瀬のベッドの枕元に置いてある色褪せた熊のぬいぐるみ。
随分と年季が入っているように見えるそれを手に取ってみる。
これは……テディベア、か?
それも、本物だな。これは。
随分と古い感じがするうえに微妙にホツれなどがあるのだが丁寧に修繕されており不思議とボロい印象は受けない。
柳瀬が大切にしている物らしいが枕元にあると言うことは……もしかして柳瀬はこれを毎晩抱いて寝てる……とか?
想像してみる。
外では気丈に振る舞っている姉御肌で男前である柳瀬が夜寝るときにはベッドで熊のぬいぐるみを抱きながら眠りにつくところを。
……。
…………。
いかん、鼻血でそう……。
このギャップは、破壊力高いぜ。
これが、萌えという感情なのか!
取りあえずこれは戦利品その1として確保しておき探索を続行することとする。
他にある物は、勉強机。机を開けたり棚のノート類を勝手に読むのは流石にアウト、と言うか流石に越えてはいけない一線だろう。
よって机はパス。
他にある物……クローゼットに洋服箪笥。
この中には下着とか入っているのだろうが、落ちている物を拾ったのなら言い訳もつくが、流石にこれらを漁ったら人としてダメすぎるだろう。つーか犯罪だわな犯罪。
と言うわけでこれらもパス。
となると、残るのは……ベッドの下とか。……
男の子のエロ本隠しスポットとして有名なベッドの下だが女子ではどうなのだろうか?
まさかビッシリとエロ本が隠してあるとも思えないが何か秘密の品でも潜んでいるかもしれない。
と言うわけでチェックタイムだぜ!
屈んで!
そんでもって膝をついてベットの下をのぞき込む!
薄暗くて良くは見えんがどうなんだろうか。
だんだんと目が慣れてきたが、うーむ。特に何かがあるようには見えな……。
「へぇ、随分と楽しそうな宿題が出てるようだね神承」
ゲェッ、その声は柳瀬!
ベッドの下に頭を入れていることも忘れて猛烈な勢いで頭を上げたものだから当然……。
ゴツッ!
「ぐおぉぉっ!」
後頭部を強打する訳で、涙目になりながらベッドの下から這い出る。
見上げると、柳瀬が笑顔で仁王立ちしていた。
笑顔は笑顔なのだが、目が笑っていないのがめっちゃ怖い。
「くくくく……楽しい宿題の途中でお邪魔して悪かったね神承。で、宿題の捗り具合について一言聞きたいのだけれど」
ううむ、これほど冷たい視線を向けられるのは初めてだぜ。
でもその見下した視線にちょっとだけ……ゾクゾク!
「さて神承、何か申し開きとかある?」
何だか冗談で返しても笑ってくれなそうな空気! 大ピンチだぜ。
もうなんかこういう状態になったら……。
「ごめんなさい」
涙目なのは格好悪いが素直に謝るしかないよな。
だが、俺の謝罪を聞いた柳瀬はふわりと表情を緩め……。
「うん、素直に謝れるところは神承の美点だと思うよ」
勿論、行動は感心しないけどさ。と言いながらも。
だけど、そう、笑顔で言ってくれた。
つまりは、許してくれるのだろう。
良かった、誠意をこめて謝って。
「ムラムラしてやった。今は反省している」とか言った日にはどんな事態になっっていた事やら……。
しかし謝ったからといってすぐに許してくれるとは……やっぱり、こいつは良い奴だったのだ。
うぅぅ、それに比べて俺は……罪悪感。
やっぱり後悔は後に立つのであった。
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