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  男前な友人 作者:siko
テクニシャン柳瀬
 ―――――数日後。

 放課後に見回りのため学校中を一回りして生徒会室に行きエレンに特に異常がない事を報告。
 そして帰るために荷物を取りに教室に戻って来たところだったのだが……。

「ハァ、疲れたあぁ……」

 そう言うと自分の席に座り込んでしまう。
 少し考えてみれば解かる事なのだが帰宅部の生活を満喫していた俺にとって風紀委員を全うするという事は予想以上の激務であったのだ。

 朝は早く来て校門の前で服装検査、3年の先輩や佐藤美嘉に注意するのは中々に骨の折れる作業で気疲れもする。
 放課後にも学校中の見回りをして今の所遭遇はしていないのだが異常や非行があれば注意、その後生徒会室への報告。
 それだけではなく風紀委員の腕章は学校に居る間はしていなくてはならないので当然問題行動を見つければ注意する義務を追う。
 今までのように素通りして見て見ぬフリは出来ない立場に居るのだ。

 これだけの事を今まで何の責任や仕事のなかった人間が1人で請け負うのだ。当然精神身体共にかなりの負担になるのは当然の事だった。

「疲れた……」

 口に出しても何にもならない事は解かっているのだがため息と共にまた言葉が漏れる。
 そう、俺は部活をやめてからは真っ直ぐ家に帰ってゴロゴロするかテレビを見るかほんの僅かな勉強をするのを日課にしていた。
 以前の今の時間なら既に家についてのんびりしている所だ。
 それが今じゃまだ学校を出ることも出来ず自分の席に座りひとり草臥れている。

 窓の外を見ると既に夕暮れとは行かないもののかなり傾いた西日が見えた。
 まだ炎天下、と言うほど暑い季節ではないのだがこの西日の下、家まで歩いて帰る事を考えると更に力を失いそうな気がして憂鬱になる。
 ハァ、嫌だなぁ……。

「あれ、神承じゃないか?」

 教室の外からそんな声が聞こえる。
 声のした教室の入り口を見ると缶コーヒーを飲みながら意外そうな顔をしてこちらを見る美人が……。

「ああ、柳瀬か」
「どうしたんだい神承。随分くたびれちゃってるじゃない?」
「うん、まあ、実際その通りなんだよ」
「あれ、どうしてまた?」
「いや、だってさぁ……」

 そう言うわけで神承君、風紀委員の激務の内容の説明フェイズ!

「……って訳なんだよ。のんびりした習慣が染み付いているこの身体には結構ハードなわけだよ」
「そうなんだ。それは、その、大変だったんだな」
「全くだよ。引き受けたからにはやらなくちゃならないけどさ、正直かなりの負担ではあるよな」
「……」

 あれ、返事がない。
 柳瀬の方を見てみると少し俯いて辛そうな顔をしている。

「大丈夫か柳瀬?」
「ん、なんでさ?」
「いや、なんか辛そうだし」
「えっ、いや、別になんでもない。平気だ」
「そうか?」

 そうは見えないが……どこか辛そうだし。しかしまあ本人が言うのなら恐らく大丈夫なのだろう。

「それよりさ神承、まだ帰らないの?」
「それが、なんだか疲れちゃって立ち上がる気にもなれないんだよね」
「そうなんだ……あ、それじゃ」

 そう言って俺の目の前に手に持っていた缶コーヒー、それも俺の好きなクソ甘いジョージアマックスコーヒーを置く柳瀬。

「甘い物取ると元気でるって言うし、私の飲みかけで悪いんだけど飲むかい?」
「へっ、そんな、良いのか?」
「勿論、そんな100円のコーヒーぐらい遠慮しないで良いって」
「いやさ、そう言うことじゃなくて……」

 その、間接キス……。
 ってそんな事を気にしてしまう俺はガキなのだろうか。
 そうだよな、もう高校生なんだしそんなこと気にする年でもないよな。よし!

「じゃあ貰う。ありがと。あっ、でも……」

 そう言えば……。

「なんで柳瀬はこんなクソ甘いコーヒーなんで買ったんだ? コーヒー余り好きじゃなくて普段は紅茶派だって言ってたじゃないか」
「なっ、そっ、それは……」

 急に顔を紅くして目を逸らす柳瀬。ってなんだなんだ! 不自然すぎるぞ。

「どうかしたのか?」
「いっ、いやっ、なんでもない!」
「いやいやいや、普段冷静な柳瀬がそんなに突然うろたえてなんでも無いってことないだろ?」
「違うっ、なんでもないんだって。本当に何となく買っただけで私の気持ちや想いとは全く関係ないから! 神承がそれ好きで普段から飲んでる事とか全然関係ないってホント!」
「ん? まあ、そりゃあ関係ないだろうけどさ。大丈夫か柳瀬、今日の柳瀬なんか少し変だぞ?」
「全然っ、変じゃない! そんなことより神承、飲むの飲まないの!?」
「いや、貰うけどさ」

 そう言って缶コーヒーを飲む。
 うむ、相変わらずも甘すぎてコーヒー飲んでるのかキャラメル飲んでるのか解からないぐらいの脳死寸前な頭悪い甘さが美味いぜ。

「うん、美味い、っつーか甘いだけなんだけどな。ありがと、柳瀬」
「あれ、もう良いの?」
「ああ。十分だ」
「ふぅん」

 そう言うと柳瀬はその缶を取って残りを飲んでしまう。
 う……別に何も特別な事じゃないのに目の前でさっきまで俺が口をつけていたものを平然と飲まれると何だか意識してしまう。
 こんな事を考えてしまう俺はエロいのだろうか。

「ふーっ、甘かった。それでさ神承、甘い物とって少しは元気でた?」
「うん、まあ。でももう少し休みたい気分だし先帰ってくれよ」
「……そんなに疲れてるの?」 
「まあね。肉体的な疲れも勿論あるけど、それよりも精神的に疲れちゃってさ。なんだか人に注意するには気を使うしね」
「確かに……」

 そこまで言って何か考えるような仕草をする柳瀬。
 と、なにかを思いついたような表情に変化した。

「うん、そうだな、こうすればいいんだ」
「どうかしたか柳瀬?」
「神承、今日暇?」

 そう言いながら俺の両肩に手を掛ける柳瀬。って、近い、顔が近い! またこのパターンかよ!

「い、いいいいいや、暇と言えば暇だぞ! うん」
「それなら丁度良いや。あのさ、私って両親が共働きなんだよね」

 だからいつも自分でご飯作っているんだけどさ、と微笑みながら言う柳瀬。
 ううう、相変わらず美人なのに不用意に良い笑顔されると非常に困る!

「だからさ、今日もきっと夜遅くまで両親は帰ってこないから家には誰も居ないんだよね」
「ああ。そ、それでなんだよ?」
「今日、私の家に来ない?」

 両親不在、女の家、二人っきり。

「でええええええええええぇぇぇっ!!」
「声が大きいな神承。ビックリするじゃないか」
「だっ、だってそりゃ当然だろ! そもそも何でいきなり!」
「だってね神承。私結構自分でも巧いと思うんだよ。だから偶には神承も喜ばせてあげたいと思ってさ」

 そう言っていつものようにニヤリと、でも気のせいか色っぽく笑う柳瀬。

「な、な、な……」

(巧い/初めて/二人っきり/シャワー/両親不在/柳瀬は経験済み/ショック/別にそれでも//柳瀬の/元気出る/特に身体の一部が元気に/見たい/ヤバイ/童貞/バレ/死/恥かし)

 様々な単語が頭の中でループする。
 ヤバイ、非常にヤバい、頭がフットーしそうだよう!

「おま、うま、巧いって……」
「いやさ、偶に食べる弁当でも神承は美味しいって言ってくれてるし少しは自信もっていいのかなぁって思ってるんだけれど」
「へ?」

 弁当?

「俺が喜ぶ事で柳瀬の巧い事って……もしかして料理?」
「あたりまえじゃないか。神承は他の一体なんだと思ったのさ?」
「なにって、そりゃあお前……」

 とても放送できません!

「ハァ、全くなんだと思ったのかは全く想像つかないけどねぇ……」
「お、おぅ」

 まあ、想像ついたら困るわけだが。

「それで、来るの、それとも来ないのかい?」

 そう言って俺の肩をつかんでずずいと近づいてくる柳瀬。
 ちょ、近い近い!

「さあどっちなのさ!」
「い、行くよ!」

 うわっ、つい反応で返事しちまった。
 
「うん、解った。じゃあ今夜は腕によりをかけてご馳走するから、楽しみにしといてよ」
「ああ……」

 そう返事しながらも、流されやすい自分に少しうんざりする。

 でもまあ……。
 実際のところ柳瀬の料理は美味いから楽しみだし。
 それに目の前で腕を組みながらいつものように少し意地悪そうな感じで、でも嬉しそうに微笑む柳瀬を見ていると、流されてみるのも悪くないのかもしれないと思えてくる。

「くくくくく、本当に神承は付き合いが良いよね。でもそう言えば私の家に来てくれるのは初めてじゃないか」
「ああ。そうだな。そう言えば柳瀬の家に行ったことは……ん?」


 あ、やべえ。

 さて。
 よく考えたら目的が変わっただけで、当初の両親不在の女の家に2人きりという問題点には何の違いもないと言う事に気づいたわけだが……。


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