エレンの秘密兵器
そんなこんなで、エレンのあの痴態を知ってから風紀委員として巧くやれるか不安にこそなったのだがそれから数日は非常に真面目と言うか、風紀委員らしく過ごすこととなる。
まず最初の仕事はどんな行為が校則から外れるのかをエレンを教師に向かえ生徒会室でマンツーマンで勉強。目標は「生徒心得」である校則の全暗記である。
そんな必要が在るのかと問いただすも「あるのよ!」の一言で片付けられ、試験勉強のようなノリで校則を覚える日々が始る訳だが。
しかし何で我が校の校則は108個もあるのだろうか。煩悩の数ジャマイカ……。
と言うか、幾らなんでも多すぎではないだろうか?
しかし実はそれには理由がある。我が菖蒲里高校は自由な校風と言われるだけあり、普通の学校のような服装や生活の事についての校則と言うのは意外と少ない。
だが、その他、「学校で楽しく生活するために」と書かれた項目の部分が異常に多いのだ。
しかも内容は 「生徒同士の恋愛の告白には、出来るだけ恋文を使用する事」だとか、「体育大会では真剣に勝ちを狙え」だとか、「学食でカレーを食べる際にソースを掛けるのは禁止。我が学食のカレーにソースはあわないと思うし」だとか「文化祭の後、夜の時間の後夜祭のダンスはやってもやらなくても良いのだけどやった方がいいと私は思う。皆で参加して青春時代の思い出を作るべきだ」だとか校長お前いい加減にしろよって感じの校則が盛り沢山である。
このアホな校則を全て覚える日々は拷問に等しかった。
毎日毎日、休み時間は単語帖に書いたこのクソ下らない校則と睨めっこして、放課後は生徒会室に行き「108の校則をすべてかけ」と書かれた108のマスに別れた問題用紙をエレンの監視のもと埋め、エレンがする答合わせを待って「55点。神承君はまだダメダメねー。ホント使えない神承君だわ」とか言われたりするのである。
余りの事に校長までも恨むようになった。
ストレスの余り日を追う毎に頭痛が酷くなる中、柳瀬が買って来てくれたジョージアマックスコーヒーを飲んで糖分をとり、真っ白な灰になって燃え尽きていたのから何とか復活して家に帰ったりする日々を過ごす事となったのである。
―――――だが、そんな苦痛の日の仲で段々と点数も上がり、そして迎えた今日。
「…………」
「…………」
「…………」
例によって、例によっての答合わせタイムである。
ちなみにカギカッコが三つあったのは、俺と、エレンと、そしてどう言う訳か柳瀬が来てたからである。
「って言うか柳瀬、どうして今日に限って居るんだ?」
「いや、それがエレンに呼ばれてさ。何でも「そろそろ神承君のほうも仕上がるし、今日は祐と神承君にちょっとした話があるの」との事だそうだけどさ。神承、仕上がるって言う事は今日の生徒心得テストは大丈夫なのかい?」
「うん、実は結構自信ある」
「へぇ、凄いじゃないか神承。勉強を初めてまだ数日しかたって居ないのにもう全部覚えたんだ。やっぱり神承はやれば出来る子なんだから、普段の勉強もそれぐらい熱心にやったらエレンと競えるくらいの点数にはなるんじゃないのかい?」
「ハハハハ、流石にそれは無理だって。アレは天才なんだから。俺みたいな凡人との間には生まれ持った超えられない壁って言うのがあるのさ」
ちなみにエレンの成績は基本的に学年1位、五教科合計で495点を下回った事がないという化け物である。
「ふぅん、私としては神承にもエレンと同じ天才性を感じるんだけどね」
「柳瀬が何を根拠にそんな事を言うのかは解からないけれどそれは買被りだと思うぜ」
「ハァ、アレだけの剣道の腕を持っていながらこれだから神承はねぇ……」
その意見に対してはノーコメントで!
俺が返事をしない事で柳瀬も黙り、ひたすらエレンが赤鉛筆を走らせる音だけが響く。
と……。
「はい! 採点できたわよ!」
元気に立ち上がるエレン。
笑顔だ……これは合格の印か?
いや侮るな! 侮るな神承武! この後笑顔で「まだまだね。使えない神承君は去勢ね。宮刑に処すわ!」と言い出すやもしれん。そう言う生き物なんだアレは!
油断しちゃいけない!
「満点よ神承君! おめでとう!」
「へ……」
満点?
「凄いじゃないか神承! こんな短い間に108もの校則を覚えるなんて。やっぱり神承はやれば出来るんだよ!」
「あ、ああ」
自分の事の様に嬉しそうな表情で俺の背中をバシバシと叩く柳瀬。少し痛いが不思議と嫌な気分はしない。
そうか、満点か……数日とは言えしんどかったけど少し報われた気分だ。
「そうね。正直神承君を見くびっていたかも。もう少しかかると思ったんだけれどね。思ったよりやるじゃない」
「お、おぅ」
誉められるのは嬉しいのだが、すこしくすぐったく感じてしまう。
「そんな偉い神承君に今日はプレゼントがあります!」
「へ?」
「これよ!」
そう言って満面の笑みで俺に何かを渡すエレン。
「なんだこれは、携帯でもないし、モバイルでもないな。ゲーム機……か?」
それは忍地堂の出した大人気携帯ゲーム機、ニンチドーDXと言う携帯ゲーム機を更に3分の一ほどの大きさにした謎のコンピューターらしき物体だった。
かなり小さい。だが目玉のペンはついていないようだ。
「ふふふふ、そんな1万円ちょっとのチャチなおもちゃと一緒にされたら困るわね。これはブレンターノ重工本社で何故か開発された試作品よ」
「それで一体なんなんだよこれは?」
「そうね、位置情報共有GPSレシーバーとでも言った所かしら」
「位置情報共有GPSレシーバー?」
なんぞいそりゃ?
「解かりやすく言うと持ってる人間のグループ全員の正確な位置が高精度で表示される、そうね、カーナビのような物だわ。ナビのついた地図としても使えるし、持ってる人間同士でお互いの正確な位置を知る事もできるのよ」
「おおう。そりゃ凄い! でもなんでそんなものエレンが持ってるんだ?」
「だってさ、私って、ほら、お嬢様じゃない」
「まあな」
「その上、ほら、私って美人だしぃ、カヨワイ女の子でしょ?」
「は?」
美人は認めよう。でもか弱い女の子? 誰が?
そうして脳内にリフレインされるトラウマとなりかかってるあのセリフ。
「あんまりふざけた態度とると去勢するわよこの駄馬!」
ガクガクブルブル!
「なによ。何か文句あるの?」
「滅相も御座いません!」
「ふぅん……少し引っかかるけどまあいいわ。つまりね、私にはいつでも誘拐の危険とかが在りえる訳よ」
「まぁ、確率はゼロではない、よな?」
誘拐しようとした相手の身が心配になる話だが。
「それでね、フランスのおじいさまが心配して特注で作らせた品なのよ。私の居場所がいつでも解かるようにって」
なんだかなぁ。さすがお金持ちといった所か。普通のGPS携帯じゃダメなのだろうか?
「なんか凄い話だな」
「ええ。ちなみに今用意されている数は4つ。うち使われているのは2つ。一つは私が持っている。もう一つが執事のポルナレフが持っているから、使い方なんだけど、例えばポルナレフは今は東京に居るから、ここののPって書いてある所を押すとね……ほら」
そう言って俺に見えるようにレシーバーの画面のを向けて左端の人物欄の2番目に載っているPと言うところを指さすエレン。
と、画面が別の場所の地図になり、そこに赤い点で人物の位置が表示される。場所は当たり前のように田園調布だった。
「その人物が居る場所の地図に移り変わるわ。風紀委員として仕事サボられたら困るしこれなら学校の中のどこにいるかまでの精度で表示されるから常に正確な居場所も解かるの。それに無いとは思うけど万が一学校の内外で危険な事や事件を発見したたときも携帯で連絡さえくれればすぐに私が正確な場所に行く事ができる。どう、スグれものでしょ?」
「いや、確かになんだか凄く高性能なんですけど……これの料金とかは、ほら本体のお金とかパケット代とか……」
「うん、それなんだけど私のポケットマネーから出てるから大丈夫!」
そうやって例によってエッヘンとバインバインの胸を張るエレン。
すげえ! さすが金持ち! さすがお嬢! そして巨○!
「と言うわけで、神承君にはこれを常に持ち歩いて欲しいの」
「いや、別に構わんのだが。これを持つことになると俺のプライバシーは無くなる代わりにエレンの居場所も俺に筒抜けになっちゃうと思うんだけど」
「うん、そうよ。うふふふ、どう、私のプライベート、知りたいでしょ?」
そう言って怪しげに笑いながら「しな」を作るエレン。
「いや別に」
「なによもう! 面白くない神承君ね!」
「いや、そんなことよりも4個あるって言ったけど、後一個はどうするのさ?」
「そうね、それなんだけど……」
そう言ってDXもどきの余ったレシーバーを弄りながら何となく視線を投げかけるエレン。
視線の先は……柳瀬か?
「ねぇ、祐?」
「ん、なんだい?」
「私としてはこれを祐に持っておいて貰えると嬉しいのだけど」
「へ、何で私なんだい?」
「いや、そのね。余り深い意味は無いんだけれどね。風紀委員を手伝って欲しいとかそう言う無茶は言うつもりはないし。ただ……ね。神承君のことで何か問題が起きた時には時に祐にも手伝って欲しいなって」
「ああ、そう言うことね。神承の責任は紹介した私の責任でもあるからそれはいいんだけど、でも、良いのかい? それって凄く高価なものみたいなのに……」
「そんな事良いの! 祐が持っていてくれると「私が」凄く心強いから!」
「ふぅ、解かったよ。エレンがそこまで言うなら持っておくさ」
「ありがとう!」
そう言って本当に嬉しそうに柳瀬にレシーバーを渡すエレン。
ハァ、エレンは本当に柳瀬の事を買ってるんだな。確かに、柳瀬は非常に信頼できる人間だし良い奴だしな。その判断はきっと間違ってない。
「さて、今日の目的が達成できた所で、神承君、祐、言っておく事があるの」
「ん、何さ?」
「私たちは今、他の生徒たちよりもお互いを少しだけ深く知っていて、そしてこれからは常にお互いの居場所まで確認できる、そんな関係になったの」
「あ、ああ……」
「だからね、これからは一緒に生徒会役員として我が菖蒲里高校を楽しい学校生活が送れる場所にするために恥ずかしくない行動を取るようにしましょうって事。一緒に頑張って行きましょうね、神承君!」
「お、おう」
そう、何とか返事はしたのだが、一つだけ引っかかるように思った事がある。
なんか、これじゃあまるで、お互いが運命共同体みたいじゃないかと、そんな事を。
久しぶりです、遅れてすみません。
紅色の研究は次話からです。
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