告白(Yの場合)
ギギィーッと言う軋んだ金属音を立てて開けた扉の向こうには青い空が広がっている。
人の少ない場所、屋上へとやってきた訳だが。
そう、無人の屋上。立ち入りは自由なのだがこれで綺麗でベンチの一つでも置いてあれば昼食を取る生徒たちで賑わう場所にでもなるのだろう。
だが、フェンスで囲まれた何も無い空間では好き好んで昼休みに来る奴もいないだろう。
そんな無人の屋上を適当に歩き、日当たりの良くて埃っぽくなさそうな所を適当に選んで手で払いそこに寝転がる。
そうして空を見上げる。青空の下、いくつもの白い雲が流れていく。
ふと吹いた、一陣の梅雨前の春風がこの上なく気持ち良い。
はぁ、良く考えれば朝礼からの数時間の間で、初めての安らぎの時間ではないだろうか。
本当は風紀委員は朝、そして昼休み、放課後の時間に校内の見回りをしなくてはならないのだけどこの騒ぎではそれも難しいし今日はいいだろう。
願わくば、この静寂と休息がせめて昼休みいっぱい位は続いてくれる事を……。
だがそんな願いも脆くも崩れつつあるのであった!
5分ほど空を見上げて寝転んでいたのだが、突如響いた金属の軋むドアの開閉音を聞き思わず身体が強張る。
気がつけば思わず身を潜めて隠れていた。って、何でそんな事したんだろうな、俺。
だが、そのかいあった様で屋上への進入者は俺の存在に気付く事はなかったようで無言で入ってきた。
なんだろうな、少し気になるので進入者の方を覗いて見る。入ってきたのは……女子生徒の二人組みだ。
あれ、片方、柳瀬じゃないか……?
気になるので気配を消しつつ話を聞けるポジションへと行く。
うん、やはり片方は柳瀬だ。でももう片方は……誰だ? 結構可愛い娘だけど。
と、フェンス際まで歩いて行った柳瀬がくるりと女の子の方へと振り向いた。
そして訥々と話し出す。
「その、手紙ありがとう。君、私と面識無かったよね。名前は?」
「高清水優子って言います! その、柳瀬先輩、私の手紙は……」
「ああ、勿論読んだ。ありがとう。私なんかを好きと言って貰えた事はとても嬉しいよ」
「それじゃあ、その、私とっ!」
「うん。でも、それはダメ、なんだ。すまない。私は、その、普通に男の子が好きな女だから、その、君とって言う事は少し想像できない」
「そ、そうですか……」
「うん、その、ごめん」
「で、でもっ、その、先輩は男子の告白も結構受けていて、それも断っているって聞いたんですけど。例えば陸上部の田村先輩とかからの告白も断ったって!」
田村……聞いたことあるな。何か陸上部でのインターハイの出場者で長身のイケメンだから女子からは王子とか言われていて人気があるとか。
柳瀬、そんな奴からも告白されていたのか。知らなかった。凄いな……。
でもなんで断ったんだろ。
「高清水さんだっけ……誰からその話を聞いたのかな? 私は誰かに話した記憶は無いんだけれどね」
「えーっ、有名ですよ。なんだか田村先輩が柳瀬先輩に振られたってヤサグレてたって!」
「そうなんだ……」
「ええ、だから、あの田村先輩の告白を断るくらいだから男の人に興味が無いって言う噂も流れているんですよ?」
「そっ、そんな。私は普通に男の子が好きなんだって!」
「だったらどうして田村先輩の告白断ったんですか? 他に好きな人が居るとか?」
「別にそんな相手は……いないけどさ。だけど田村君の事を私は良く知らないしさ、そう言う相手と付き合う事は出来ないよ」
「そうですか……」
「うん、そうなんだ。その、答えられなくて、ごめん」
「いえっ! 告白を受けて貰えただけども、うれしっ、い、です」
そう言いながらもその声は少しずつ涙声になっていく様に俺には聞こえた。
「本当にっ、ありがとうございました。柳瀬先輩と話せて、嬉しかったです」
そう言うと俯き加減で屋上を後にする高清水と言う娘。
後には柳瀬が一人残った。
柳瀬はどこか悲しそうに、申し訳無さそうにポツねんと立っている。
そして……。
「本当に、ごめん」
誰に言うわけでもなく、そう呟いた。
そのまま今度はフェンスの方へと歩いていき、フェンスを片手で掴んで空を見上げた。
今の体勢だと後姿しか見えないのだが全身からアンニュイな雰囲気が滲み出ている。
うん、こんな柳瀬は見た事は無いけれどこれはこれで中々絵になっていて……。
「ハァ、儘ならないものだよね、全く」
突然の言葉に一瞬俺が隠れているのがバレたのかとビックリする。
だが俺も気配は消しているし、柳瀬もこちらを気に留めた様子も無い。となると、独り言……か?
「本当に、私は、どうすれば良いんだろうかな、ねぇ、神承」
そう、空を見上げて俺の名前を呼んだ! やっぱりバレているのか!
だが次の瞬間には柳瀬はそんな動揺している俺を気に留めることも無く何事も無かったように振り返ると扉へと向かい、屋上を後にした。
やはり、バレては居なかったのか? となると独り言……だったのか。
しかしそうならば何故柳瀬は俺の名前を呼んだのだろうか……?
うん、全く解からん。
お久しぶりです。
身近な人から歩く不健康と言う不名誉な称号を得たsikoです。
正直悲しいです。でも今日まで4連で、明日からも4連で忘年会。
きっと私の肝臓は安酒で満たされた不味いフォアグラとなっている事でしょう。
でも少し元気が出たのと時間が出来たので書き溜めていた部分を仕上げてアップしました。
次話、告白(Eの場合)
更に次話、紅色の研究まではほぼ出来てますが仕上げに後少々時間をなください。
ちなみに紅色の研究は当たり前ですけどシャーロック・ホームズとは欠片ほども関係の無い話ですのでご了承ください。
ではまた。
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