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  男前な友人 作者:siko
計画通りな生徒会長
 そう、その瞬間、彼女と握手をしたその時に確かに何かが動き始めた気はしていた。していたのだけど……。
 幾らなんでもこれは動きすぎではないだろうか。

「ねぇ、あれが朝のアレでしょ……」
「あっ、ホントだー、風紀委員って書いてある腕章つけてる!」
「でもまあ、顔はそれなりよね」
「ねえねえ、どれぐらいの風紀の乱れで注意されるのかな。私大丈夫かな?」
「美紀くらいなら平気でしょ。それより注意ってどんな感じにされるのかな?」
「わかんないけど。ほら、でもうちの学校も風紀が乱れてるのってちょっとヤバイ感じの人たちじゃん。ああ言う人とかにも注意できるのかな?」
「アハハ、そりゃ無理でしょ! 風紀委員くらいじゃびびって出来ないって。それにあの人たちも生徒に注意されて言う事聞くような感じに見えないしー」

 昼休み、廊下を歩いているだけで皆の視線が刺さって自分に対する噂話が聞こえてくる。
 今まで特に目立つ事もなく平穏に過ごしていた自分からすると居心地の悪い事この上ない。
 だが、そんな泣き言も虚しく周りからの自分に対する視線と噂話がは絶えない。

「あっ、由美由美! あれが風紀委員よ。腕章してるもん。うわっ、学生服のホック締めてる。ありえなーい!」
「ホントだ。超ダサーイ!」

 煩い。俺だってホックなんて苦しいし面倒だし締めた事なんて入学式にしかなかったさ。
 でも仕方ないじゃないか。
 朝に会った柳瀬が「今日から風紀委員なんだから神承もしっかりしなくちゃ駄目じゃないか」って言って締めて来るんだもん!
 笑顔で俺のホックを締めてくれる柳瀬の顔を思い出すと外す事もできん。
 なんだか現状に頭が痛くなってきた。 


 ハァ、そもそも何でこんなことになったのか。
 話は先週にまで遡る。

 ケーキショップ兼カフェの「ヒンデミット」で我が校初の風紀委員の件を承諾してからはそりゃあもういろいろあったさ。
 まず校長へのお目通りと紹介。
「おお、エレンじゃないかよく来たよく来た!」
 ってなもんで、やけにフランクな初老の男、と言うかうちの校長にお目通しされて、もともと話は通してあったらしいけど、兎に角風紀委員の設立の最終決定と当事者(俺ね)への任命を済ませた、のがヒンデミットでの翌日の木曜日。
 さらに翌日の金曜日には生徒会室へ招待され、副会長以下全生徒会所属生徒への紹介される。
 影が薄い、と言うかエレンが目立ちすぎるので副会長以下の印象はなかったのだが、皆真面目で有能そうな人ばかりだった。
 風紀委員はこの生徒会室を拠点に活動する事になるらしいので、皆とは仲良くするように言われる。
 と言うわけで金曜日が終了。


 そして、よく月曜日、つまり今日の朝に、その動きは起こる。
 月曜日朝は、毎週全校生徒を体育館に集め朝礼をすることになっている。
 そして朝の会長の挨拶の途中、エレンは言ったのだ。

「今週の朝礼では、皆さんに重大なお知らせがあります。我が生徒会に置いて、新たに風紀委員の役職を設立する事となりました」

 突然の発表にざわつく生徒たち。だがそんな様子を気にした様子もなく続けるエレン。

「と言うわけで、2年B組。神承武君、前へ」

 打ち合わせもなく突然呼ばれたのでビックリする俺。ざわつく周りのクラスメート。
 だがうろたえても居られないので壇上に上がる。
 
 初めての壇上から見る光景。皆の視線で経験の無い緊張が湧き上がる。
 えーっと、確かこんな時は、みんなジャガイモみんなジャガイモ……。

 だが、そんな努力を実らせるまでの時間を与えられる事も無く、エレンは続ける。

「こちらが、今回風紀委員をやって頂く事こととなった、神承武君です。ちなみにある人の推薦を受けて話したのですが、文武両道、品行方正の上、正義感に溢れる素晴らしい人間で我が校の風紀の維持に全力を尽くしてくれるという事で適任と感じ是非と生徒会一同の方から頼み込んだ形になります」

 って、幾らなんでも口から出任せに並べすぎだろうそりゃ!
 こんな嘘八百でいいのか。聞いてるこっちが恥ずかしいくらい嘘だらけだぞ。一つも当たってないし。

「そう言うわけで風紀に関する権限のうち今生徒会が有している権限を全てこの神承君に委譲する事となりましたので、皆さんはもしも風紀の内の生徒会に権限がある部分の行為で注意を神承君から受けたら速やかに従う義務を負う事となります」


 ざわ……ざわ……。




 このどよめきは……
 間違いなく……戸惑い
 そして……
 疑念!
 
 その不信感は……
 圧倒的………………!

 



「み、みなさん静粛に!」
 
 余りのどよめきに流石に焦ったのかエレンが号令をかける。

「確かに、唐突だとか独断専行だとか言う気持ちを持たれる事も当然だと思います。それに関しては経過の報告を怠ったこちらに落ち度があります。しかしっ!」

 そういいキッと前を見据えるエレン。

「私たちには他の学校とは比べ物にならないくらい多くの権利を与えられているのです。私はそれを誇りに思っています。なぜなら、権利や自由は私たちの学校生活を楽しい物に変えるための力になるからです。でも、権利や自由を得るというのは同じくらいに多くの責任を負うという事なのです。その責任を、皆さんは全て負っていると言い切れますか!」

 しかし依然ざわざわは収まらない。それどころかますます大きくなる。
 良く聞くと、横暴じゃ無いのかなどと言う声まで聞こえてくる。
 と、そこで少し俯きがちになり沈む声を出すエレン。

「私は、去年の9月に会長に当選してから私たちの学校生活を少しでもより良い、楽しい物へとする為に努力をしてきました。最善を尽くすために努力した……つもりです」

 心なしか声が少し震えているような感じにも聞こえる。
 まさか、泣いてる?
 いや、まさかな。

「その結果、少しでも皆さんの学校生活が楽しくて充実した物になったらと、それだけを考えて……」

 そう言って顔を上げる。心なしか目が潤んでいるような……。
 それを受けて少し静かになる空気。

「私は、今の自由な校風を行える皆さんと一緒に送れる学校生活を誇りに思っています。でも、その過程で私たち生徒会だけでは手が回らない問題が出て来ているのも事実なのです。だから、私達は風紀委員を創設することにしたのです。私たちの権利に対する責任を果たすために」

 気がつけば誰も喋らずにしんと静かになった体育館で、エレンは話し続ける。

「皆さんのことを思い、最善を尽くそうと努力と検討を重ねた結論として、私たちの抱える問題を解決するために風紀委員の、神承君のような人の力が必要だと判断したのです。いきなり理解して欲しいと思うのは確かに横暴なのかもしれません。でも……」

 そこで、また全校生徒たちを見ながら、ふぅ吐息を吐いて。

「私たち生徒会は、それを必要と判断しました。だから、支持がいただけるなら、凄く嬉しいです」

 そう言生きると、エレンはふとさり気無く視線を投げかける。
 視線の先にあるのは……あれは、柳瀬、か?
 なんだ? 今のアイコンタクトは?

 と、そのエレンの視線に答えるようにニヤリとして拍手を始める柳瀬。
 最初はそれに戸惑うように周りの生徒が手を叩くが、しかし多人数の習性だろうか。その拍手は徐々に感染して、次第に大きな、そしてやがて全員の拍手となった。

「ありがとう……ございます! 本当に、理解がいただけて嬉しいです。本当に……」

 そう言ってお拍手のなか、御辞儀をするエレン。生徒会長の提案に答える生徒たちの姿。傍から見れば美しい図である。
 だが、俺も釣られて拍手をしながら、何か不自然な物を感じていた。

「それでは次は神承君からの挨拶です」

 なんとぉー!! 聞いてないってそんな事!

「ほら、神承君。生徒の皆さんの承認も頂けたのだし、早く挨拶挨拶!」

 そう言って斜め後ろで控えていた俺の方へと振り返るエレン。
 だが、その顔は、先ほどまでの様子とは対照的に酷く悪辣な表情で笑みを浮かべていてまさに……!

 計 画 通 り 

 と言う表情であった。
 って、さっきのしおらしい言葉も全部演技なのかよ。なんて事だ、さっき俺が感じていた違和感の正体はコレかよ!

「ほらほら、早くしなさいよね神承君!」
「あ、ああ……」

 とは言えなんといった物か……。
 しかし、時は待ってくれず考える時間など無い。ええいっ、ままよ!

「は、ははは初めまして! 今回風紀委員をやらせていただくこととなった神承武でちゅ!」

 いかん! 噛んだ上に更に赤ちゃん言葉になってまった!
 全校生徒の前でなんと言う失態! 当然生徒たちは笑い声を上げる。
 その声で更に頭は真っ白になる。
 俺はっ、おれはどうすればいいのだーーーー!!!
  


 それからの事は忘れたい。
 しどろもどろになりながら情けない挨拶をして朝礼を終え、教室に帰っても好奇の視線を受け続ける。
 休み時間の間にはクラスメートから質問攻めにあい、心の休まる暇も無い空間に耐え切れずに昼休みには逃げるように教室を後にした訳だ。

 だが……。

「あ、風紀委員だぜアレ!」
「お、マジだ、本物見ちゃった。アレに注意されるの俺たち?」
「そうじゃね。スゲーありえねーよな」

 廊下に非難した所でこのザマである。
 それより今の奴一年坊じゃねえか。先輩をアレ呼ばわりとは良い度胸だよ全く。
 注意してやろうか……とも思ったのだがここでまた目立つのも御免だ。それにそんな気力も無い。

 そう、今の俺には心の休まる場所がほしいんだ。心の休まる、人の目の少ない場所……。
 あ、そうだ、あそこなら人も少ないかも……。

 そうして俺はその場所を目指して歩き出したのであった。




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