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  男前な友人 作者:siko
風紀委員とは?
 巨大なパフェを何とか食べきってコーヒーを啜る。
 全身が甘ったるい疲労感に包まれている。さっきの時間は俺には刺激が強すぎだぜ。
 時間があまりにも甘すぎたせいだろうか。
 苦いはずのブラックコーヒーは、何故か甘ったるい味がした。

「やれやれ、こんな事はもうコリゴリだぜ」
「何言ってるのよ。この私が手ずから食べてあげたのよ。滅多に無いわよこんな事。ありがたく思いなさい!」

 そう言ってバインバインの胸をエッヘンと張るエレン。
 何が凄いっておっぱ……じゃなくて、言っている事は無茶苦茶なのに言っているエレン自身は全く自分の言っている事を疑っていないという所。
 そして、そのセリフが全く嫌味に聞こえない所だろうか。
 コレもエレンの人徳なんだろうかね。何となくエレンの人気の秘密がわかった気がする。

「ハァ、まあ、もう良いんだけどさ。それよりも、そもそも何で突然エレンは風紀委員なんて役職作ろうと思ったんだよ。そもそも風紀委員って何をするモノなのさ?」
「良く聞いてくれたわね神承君。何故風紀委員が必要か、それはズバリ……」

 ずばり?

「我が校の風紀の為よ!」

 そう。確かにそう言った。

「って、当たり前じゃねーか! 風紀委員なんだから風紀の為だろうさ。だから俺が聞きたいのは何で今までなかった風紀委員を今、急に必要とするのかって事だよ」
「へ? コレで解からないの? フゥ、ダメダメね神承君」

 そう言って紅茶を飲みながら使えない神承君ねーとかムカつくことを言いながらヤレヤレと言った感じのジェスチャーをするエレン。

「何故、我が校に風紀委員が必要かって、それは、我が項が今現在置かれている状況をおもんばかれば解かるはずよ?」
「うちの高校の現在の状況……?」
「そう、我が菖蒲里高校はかつて無い危機を迎えているのよ!」
「そうか?」

 特に最近何かあったっけ。平和だし特に事件も起きた記憶はないけど……?

「そう、我が校は現在、ワイドショーが喜びそうなほどに現代社会の子供たちが抱える問題を一手に引き受けたような状況なの……学力低下、いじめ、制服、髪型等の服装や性の風紀の低下。皆が義務を果たさずに権利ばかりを主張して、全ては力の在る者が勝つ、そんな暴力が全てを支配する世界。それが我が高校の現状よ!」
「どこぞの世紀末救世主が居そうな世界だなそりゃあ」

 どこの平行世界の菖蒲里高校だよ。
 うちの高校は確かに一部性質の悪い不良は居るし、喧嘩や暴力も見なくは無いが、だがあくまで常識的な範囲で警察が来る様な事態に陥った事は無い。
 いじめは、まあ在るのかも知れないけれど表立って声高に叫ばれるほどの大きな問題には成っていない。
 それに、もう一つの問題、それは……。

「そもそも、生徒が自分の権利を主張するようになったのは生徒会の権力が拡大した時に生徒の自主性を尊重するようにって教師と掛け合うことによって得た権利で、つまりエレンが進めた生徒会の政策の結果じゃないか」
「うっ……そこに目をつけるとは、意外と弁が立つようね」
「誰でも気付く事だって。そもそも、さっき言った問題の殆どだって実際に風紀委員が必要になるほどの大事には思えないけどなぁ」
「ソレは神承君が鈍感のとーへんぼくだから気付いて無いだけよ。実際は結構深刻な問題なのよ?」

 全く、神承君はニブニブのちんちんねーなどと言ってるエレン。
 怪しい、スッゲェ怪しい。

「女の子がちんちんとか言うんじゃありません。ハァ、それでエレン。風紀委員を欲しくなった本当の理由は?」
「言う事聞かせられる従順で有能で面白い直属の手駒が欲しかったからでーす!」

 つい言っちゃいましたーえへっと言うような軽いノリでそう言っちゃったーなエレン。

 俺、ドン引き。
 柳瀬を見ると、柳瀬もドン引き。

「いや、エレン。正直なのは美徳だけど流石にそれは……」

 冷や汗を流しながら忠告する柳瀬。うん、友達って時には重労働なのな。同情するぜ柳瀬。

「ハッ! い、いや、いやねぇ。その、冗談よ冗談。フランス流ジョークよオホホホー!」
「100%本心じゃねぇか」
「クッ、否定は出来ないわね」

 そこはしてくださいよ。
 あと、エレンのこと完璧人間と聞いてたのにトンだダメ人間だぜこりゃ。

「クソっ、腐ってやがる……早すぎたんだ」
「何を言ってるの神承君? ふぅ、まあバレちゃあしょうがないわ。確かにソレも理由の一部よ」
「うわっ、開き直ったよ」
「話は最後まで聞きなさいって。そう、私は思い通りになる有能な手駒が欲しい。ソレは確かよ。でも、そう思うのも現状の問題があるからよ」
「現状の問題……?」
「そう、実際に会長をやってみると解かるんだけど生徒の数が多いだけはあって本当にこの学校内には沢山の問題を抱えてるのよ。穏やかに見えるのは表面だけ。噂を拾っていくだけでも沢山の悩みを抱えている生徒やソレが元になって起こる問題行動の存在を聞くもの。でも私1人で出来ることには限界がある。だから、そんな生徒の問題を解決する力が必要なのよ」
「……でもソレを解決するのは教師の務めじゃないか」
「確かにね。生徒会が手を出す必要は一般的には無いわよ。でもね、私は皆がやりたいと願う事を実現する力が欲しい。そして、今の生徒会にはソレが可能にする努力が必要なのよ。いい? 神承君、自由を得るということは責任を負うことなの。先生方は確かに生徒会に多くの自由を譲渡してくれたわ。でも、ソレはその自由の中で起きる物事の責任を負うということなの。権利を欲しがるだけではダメ。権利が欲しければ、ソレに見合うだけの義務を果たさなくちゃダメなのよ」
「確かにそうだけど……なら、最初からそんな自由を得ない方がずっと楽じゃないのか?」
「そうね、確かにその方が「楽」ではあったと思うわよ。でも、きっとみんなの意見で自由に決める事が出来た方が私も、そしてみんなも楽しいじゃない。私は、その為には努力は惜しまないつもりよ」
 
 そう、なんでもないことの様に簡単にさらりと話すエレン。
 でも、おそらく彼女は見えないところで沢山、沢山ソレを可能にするための努力をしてきたのだろう。
 きっと、ソレは簡単な事ではなかったはずだ。
 でも、彼女はそれをおくびにも出さない。

 正直、驚いた。実際、現生徒会長のエレンは非常に人気者だ。
 勿論、その容姿、極端に革新的な生徒会運営と生徒の自主性を尊重しすぎる面からやっかみを受ける事も多いが、しかしやはり人気者なのは確かだ。
 今までは、その派手な容姿からの事なのかと思っていたのだけれど……。
 でも、それは勘違いなのだと思い知った。
 彼女には、人をひきつける魅力と、それに伴う力と努力がある。そんな彼女に皆が魅かれるのは当然のことなんだ。

 あれ、でも何か忘れてる気がする。何だったけな……。

「と言うわけで、神承君、我が生徒会はアナタを風紀委員として歓迎するわ!」
「……ハッ! 思い出した、何か適当な良い話についつい流されてオッケーしそうになってたけどその手には乗らないぜ!」
「ん? 何の事?」
「いいかエレン! そもそも俺は、一言も風紀委員をやるなんて言って無いぞ。なのに何で俺がやることで決定してるんだよ!」
「へ? まさか、断る気なの……この私の意見を」
「いや、そうは言わないけどさ……でも考える時間くらいあったって」
「何言ってるのよ勿体無い! 風紀委員になれる機会なんてそうないんだから。風紀委員経験は進路の推薦の時にはかなりプラスになるし、私直轄の役付けだから風紀関係の事にはほぼ独立した権力をもてるのよ!」

 げっ、そんなに重要なポストだったのか。
 と、黙っていた柳瀬がここで口を挟む。

「あー、ちなみに男子剣道部部長の笹山はどうもその2つが目的だったみたいでさ。前エレンが私を風紀委員に勧誘していたのを聞いてたみたいで、それからしつこく推薦の時のプラスになる事と権力の事を確認しながら自分を推薦しろって言ってきたしね」
「ふーん。笹山って人を私は知らないけど随分露骨な人ね。まぁ、兎に角そう言うこと。なりたいって言う人は幾らでもいる魅惑のポストなのよ? それをみすみす逃すなんて勿体無いと思わないの!」
「そうは言うけどねエレン。いきなり今日聞いてさあ決めろってそんな急な話……」
「良いじゃない。神承君みたいな人は悩んでも大抵良い方に考えは向かないもの。さあ、早くハイって言いなさい!」
「そうは言われてもなぁ……」

 魅力的な話だとは思うけど、なにぶん色々と大変そうだしなぁ……。

「もー! いつまでウダウダ悩んでるのよ、早くやるって言いなさいよ。会長命令よ!」
「んな無茶な。はぁ、考える時間が欲しいんだよ。なぁ柳瀬からも言ってくれないか?」

 そう柳瀬に助け舟を頼む。だが……。

「私もエレンに賛成だね。神承はこの話を受けるべきだね!」
「うわ柳瀬テメッ! 裏切りやがったな!」
「裏切るも何も……そもそもこの話を持ってきたのは私なんだから、私は最初っからエレンの味方さ」

 そうして人が悪そうにくっくっくと笑う柳瀬。
 クソッ! そう言えばそうだった。俺とした事が失念してたぜ。

「そうは言うけどさ。そんな大変な事俺に勤まるかどうか……」
「大丈夫。きっと、神承ならできるさ」
「そう簡単に言うけどさ……」

 思わず、腕を組んで考えてしまう。
 俺に、出来るのか。俺がやるのが果たして正しいのか。そもそも、俺は風紀委員をやりたいのか……。
 エレンも柳瀬も、流石に口を閉じて見守ってくれている。
 だが、幾ら考えた所で、答が出てくることも無い。
 ハァ、一体どうすれば……。

 だが……。

「ねぇ、神承」

 そんな、沈黙を破る柳瀬の声。

「ん? なんだよ」
「私はね、神承の事好きだよ」
「へ?」

 思わず間抜けな声が上がる。
 突然の事に思考が停止して呼吸が止まる。

「そう、好き。私は、神承のことが好き」
「や、柳瀬……?」
「何しろ神承は良い奴だし強いし付き合いも良いし気が利くし。本当に良い奴だよ神承はさ。私は神承の友人で居られる事に、凄く幸せを感じているんだ」
「あ、そ、そう」

 な、なんだ、友人としての「好き」か……。
 一瞬告白されたのかと思って思考停止してしまった。本当にビックリしたぜ!
 ふと、友人としてと解かった時に胸の奥で微かに残念な気持ちになった気がした。
 なんでろう。凄く嬉しい言葉で、俺も柳瀬の事を友人として大好きな筈なのに……。
 だが、そんな疑問を確かめる暇も無く柳瀬は言葉を続ける。

「でも、神承は凄く飄々としていて、何にもこだわらない所があるだろう?」
「そうかな?」
「そうなんだって。何にも囚われず、何にも拘らず、何にも執着をしない。あれ程の才能を持っている剣道もあっさりやめてしまったしね」

 そう……なのか?
 自分の性格なんか、殆ど気にした事も無いから良くは解からない。

「勿論、それも神承自身の性格かもしれないし、どういう生き方をするのも神承の自由だよ。でも、神承はそのままで良いのかい?」
「そのままで……」
「ああ、そのまま何もせずに、特別な想いも目的も無く、ただ日々を生きているだけで」

 ふと、胸の奥でチリチリとした痛みと焦燥を感じた気がした。
 それは、あの柳瀬と一緒に帰った日に見た夕焼けを見た時に感じた感情と同じ物ではなかったか。
 
「何も為さず、何も想わず、思い出すらなく……それは、凄く勿体無い事だと思う」

 そう言うと、柳瀬はふぅとため息をついて、手元の紅茶を飲む。

「神承に風紀委員が適任かなんて、実際の所私にも解からないし確証なんか持てる筈もない。でも、私は神承には務まるだけの力があると思う。ううん、在ると信じてる」
「柳瀬……」
「プラスになるかマイナスになるか、神承が風紀委員をやってどうなるのか、本当の事なんて私には解かるすべも無い。でもね神承。エレンはあんなんだけど、それでも実際には信頼できる人間で、そして私の友人なんだ。エレンと一緒に神承が働く事で、何かを想う事が出来たり、目的を持ったり、将来についての何かを少しでも見つけることが出来たとしたら、私は友人としてこの上なく嬉しく思うよ」
「柳瀬、お前……」
「まあ、正直ね。おせっかいかもと思ったんだけど、でも思ってしまったんだから仕方が無いじゃんか。勿論、神承が嫌だって言うのなら無理強いはしないんだけどね」

 そう言い切ると、もう言うべき事は全て話たとでも言うように俺から注意を外すと目を閉じて紅茶を味わう柳瀬。
 つられるように俺も手元のコーヒーを飲む。
 コーヒーはすっかり冷えていて、普段より余計に苦く感じた。

 だけど、もう心の中での迷いは無かった。
 俺は、もしかして、いやもしかしなくてもトンでもない幸せ者なのかも知れない。
 だって、これほど自分の事を思ってくれる友人とめぐり合う事なんか、普通は無いのだろうから。
 だから、そんな友人の言葉には、耳を傾けないと。
 
「解かったよ。風紀委員の話、受けてみるよ柳瀬」
「そう。私としても、それは良い考えだと思うね」

 そう言うとニヤリと笑う柳瀬。
 笑い方は相変わらずニヒルで悪人っぽかったけれど、その笑顔は彼女なりに心から笑っているように見えた。

 

「ふぅ、話はやっと纏まったみたいね。それじゃあ」

 そう言うと、少し大袈裟に、舞台女優のような優雅な振る舞いで右手を差し出すエレン。

「生徒会長のエレン・ブレンターノとして、神承君。菖蒲里高校生徒会はアナタを風紀委員として歓迎するわ。よろしくね!」
「ああ、こちらこそ」

 そう言ってその白くて綺麗な手を握り返す。

 こうしてここに、菖蒲里高校生徒会風紀委員としての神承武が誕生した。

 何かは良く解からない。
 でも、なにか、決定的なものが動き始めた、そんな気がした。






何とか時間を取って新話アップしました。
評価、感想、本当にありがとう御座います。
評価、感想は、勿論それだけでも嬉しいのですが、それを入れていただくことによって更に多くの方に読んで頂けるきっかけになるので凄く力になります。
 ただ、パソコンの調子が悪く固まってしまい返信を書こうとすると結果的に凄く時間がかかってしまうため一時的に返事を書いていない状態になってしまいすみません。
もしも返信が必要であれば作者紹介のほうにあるメールフォームからいただければメールチェックは(忙しい日は出来ない日もありますが)一応日課なのでその時に一緒に返信できると思います。
次はまた少し時間がかかると思いますが、よろしくお願いします。


(9月10日注)
 第7部分男前柳瀬と純情(変態)神承の畳描写について。
 畳表記を変更しました。具体的に言うと、畳の描写を無くしました。
 誤字等の小さな問題ではなく世界観の問題なので非常に悩んだのですが、自分の置かれていた環境をモデルにしたところ、やはりかなり少数で在ったことは事実のようなので、意見を取り入れて、畳表記を消しました。
 この件に置いて不快に思っていた方も居られると思います。ごめんなさい。
 あと、元の状態は、消してしまうのも汚い気がしたのでこの話だけをブログの方(http://19320925.blog104.fc2.com/)に保存しておきました。
 大きな変更になりましたので、戸惑う方も居られると思います。すみませんでした。
 あと、この注釈は問題の第7部分、それと改変時最新部分である第15部分の各後書きにて置いておきます。
 ご迷惑をおかけしました。


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