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枯花廻りの籠の中 作者:高良あおい

第二部

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番外編・一 ラベンダーは揺れる

「智の国の夏は涼しい、って本当だったのね」
 興味深そうに辺りを見回して歩きながら、リザが呟いた。その言葉に、僕は僅かに微笑む。
「アネモスも過ごしやすい国だけど、ここは更に涼しいよね」
「そうね、メルカートリアの気候に慣れるとむしろ肌寒いくらいだわ。あの国は日本と似たようなものだったから」
「地形的なこともあるんだろうけど、この国は魔法が盛んだからね。そのせいで随分昔に少し気候が変わってしまったらしいよ。後は、人通りが他の国に比べて少ないだろう?」
「……そういえばそうね。ここが一番大きい街だって聞いたけど」
「正確には、グリモワールに街という概念は薄いんだけどね。強いていうなら国全体が一つの街のようなものかな。国ですらないけど」
 僅かに苦笑を浮かべ、僕は周りに立ち並ぶ建物を指し示す。
「ここが学者や研究者の国なのは、知っているだろう? 自分の知識を高めることや研究以外には興味が無い人ばかりなんだ」
「ああ……なるほど、日中は引き籠ってるってわけね」
 納得したようにどこか乾いた笑みを漏らすリザに、僕は更に笑いかける。
「図書館にでも行ってみる? 混んでいると思われがちだけど、図書館や書店の類はあちこちにあるから、むしろ空いていることの方が多いよ」
「……そういえばジル、しばらくここに暮らしてたんだったわね。道理で詳しいはずだわ」
「しばらく、と言っても三ヶ月くらいだけどね。リザは、グリモワールに来るのは初めて? ご両親が亡くなる前は旅をしていた、って言っていたけど」
「そうね、こっちの方にはあまり来たことないわ。一度は来てみたかったんだけど、その前に両親が殺されたから。前にも言ったけど、流石にこの年で一人旅はキツくて」
「殺された?」
 目を瞬くと、彼女もまた驚いたように僕を見る。
「言ってなかった? 殺されたって言っても、この世界じゃよくある話よ。旅の途中で偶然盗賊に殺された、ってだけ」
「盗賊に? ……確かによくあることだけど、リザは大丈夫だったの? それ」
 アネモスは比較的平和だったけれど、それでも『そういう人間』がかつていた世界よりずっと多いことは事実。戦乱の多い国やそれに近い地域であれば、更にその量は増す。リザの強さは知っているけれど、それでも危険だったことに変わりはない。思わず眉を顰めると、彼女は苦笑した。
「あたしが宿で大人しく留守番してたときのことよ。用事があるからって両親だけ国の外に出て、運悪く襲われたってわけ。それだって、両親を見つけた街の人間に聞いたんだし。ちょうどその時いたのがメルカートリアだった、ってわけ」
「そう」
 僕が微妙な表情を浮かべたのに気づいたのか、リザは呆れ顔で僕を覗き込む。
「言っとくけど、そこまでショックじゃなかったわよ。……って言うと誤解招くか。ショックだったし悲しくもあったけど、親しい人間が死ぬところは何度も見てきたわけだし」
「……それは、えっと」
 遠回しに皮肉っているのか、それにしても。
「同い年の人間だけで四人だもの、呪われてるんじゃないかと思ったわ」
「四人?」
 彼女の言葉に、僕は思わず訊ね返す。真澄と咲月が命を落とした時のことは、アネモスを出た直後にリザから聴いている。けれど、今彼女は、『四人』と言ったのだ。
 しまった、というように顔を顰めるリザに、僕は更に問いかけた。
「どういうこと? 僕と、咲月と、真澄と……他にも、誰かいるの? 同い年の人間ってことは、僕も知っている人だろ?」
 失敗した、とでも言いたげに、リザは目を逸らす。そして彼女は諦めるように深く息を吐き、僕に向き直った。
「出来ることなら話さないでおこうと思ってたんだけど、もう良いわ」
「……もしかして、訊かない方がいいことだった?」
 どこか含みのある言葉に、思わず首を傾げる。返ってきたのは、どこか疲れたような、苦笑交じりの嘆息。
「いや、ジルには聴く権利があるわ。ただ、そうね。その後であんたがどう思うかって言うのは、それとは別の問題じゃない?」
「……何があったの」
「実は――」
 言いかけたリザの言葉を遮るように、不意に右腕を誰かに掴まれた。右目は眼帯で覆われていて視界が狭くはあるものの、それでも接近に気づけなかった自分を叱咤しつつ、掴んできた相手へと目を向け――
「っ!」
「ジル?」
 その目を、見開くことになった。そんな僕の隣で、リザが訝しげに眉を顰める。
 年の頃は、僕と同じくらいだろうか。ラベンダーのような薄紫の髪に同じ色の瞳の、どこか女性的な顔立ちの青年。その顔には、どこかぼんやりしているような無表情が浮かんでいた。
 ……訪れたのは、最早見慣れた現象。目の前の青年に重なった、かつて親しかった少年の顔。変わらないその表情に、僕は僅かに微笑んだ。
「久しぶり、悠」
「は?」
 僕の言葉を聞いて、リザが驚いたように彼を見つめる。彼はそんなリザを気にする様子も無く、僕の言葉に頷いた。
「……うん。久しぶり、慎」
 彼にしては珍しく、嬉しそうなのを隠しもせずに。前世むかしと同じ表情で、彼は微笑を返してきた。
こんばんは、高良です。

さて、今回からしばらく番外編となります。最後の文章からもお分かりの通り、悠とのお話……なのですが目的は別にあったり。リオマリ編よりは短い予定。
ジルにとっては初耳だった、悠という少年の死。何故、彼がこの世界にいるのか。悠が慎に抱いていた想いも絡めて、語っていきたいと思います。
少々ホモォ……な内容になるかもしれませんが、直接の描写は無いので普通の方でも大丈夫、のはず!

では、また次回。
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