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枯花廻りの籠の中 作者:高良あおい

第二部

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第九話 響くのは警鐘か

「やった! ねえ見た慎、みんな同じクラスよ!」
「そうみたいだね」
 目の前に貼られた、新しいクラス編成を告げる紙。それを眺めながら、幼馴染の少女が嬉しそうに歓声を上げた。僕の隣で、柚希が嫌そうに顔を顰める。
「みんなってことは、あたしもかしら」
「うん、柚希も一緒だね。あとは……あっ」
 彼女の言葉に、僕は紙に目を向けたまま首肯。クラスメイトになる名前を目で追っていくうち、見慣れた名前を見つけて、僕は僅かに目を見開いた。一瞬動きが止まったことに気づいたのか、柚希が訝しげに僕の視線の先へ目を向ける。
「慎? どうし――って、あいつも一緒かよ」
「柚希、言葉遣い。ごめん、そういうわけで、僕ちょっと探してくるね」
「言うと思ったわ。遅かったら先行ってるわよ、流石に始業式は遅れたくないし」
「うん、そんなにかからないと思うけど……あれ、柚希、始業式には出るの?」
 肩を竦める彼女に微笑を返すと、彼女はしまったとでも言うように僅かに目を見開く。
「……咲月が、どうしてもって言うから」
「うん、言って正解だったわ! ねー柚希、今年はちゃんと学校来てね? 卒業まで同じクラスなんだもの!」
「分かった、とりあえず落ち着け咲月」
「去年も柚希と同じクラスだったくせにそれを知らなかった馬鹿は黙っててよ!」
「お前より馬鹿じゃねーよ!」
「……元気ね、あんたたち」
 いつものように始まった喧嘩。それを呆れ顔で眺める柚希に苦笑し、僕はクラス発表の掲示から離れて歩き出した。辺りを見回すも、探している少年らしき人影はない。けれど、彼もこの紙を見る必要はあったはず。ならば、と校舎の中に向かう。
「屋上か保健室、かな」
 呟き、まずはここから近い保健室に向かうことにする。この学校は近隣の高校の中では校舎が大きい方ではあるものの、所詮は高校。同じ一階にある保健室には、すぐに辿り着いた。
「失礼します」
 扉を叩き、開いて一歩足を踏み入れる。僕が訊ねるより前に、端に置かれた机で何か作業をしていたらしい養護教諭が僕に気づき、笑みを浮かべた。
「ああ、加波君。来ると思ったわ」
「おはようございます、先生。……あ、こっちにいたんだ」
 まだ朝だというのに保健室にいる一人の生徒に、僕は微笑みかける。ベッドに腰掛けて読書をしていたらしい少年は、僕に気づくと無表情だった顔を僅かに緩ませた。
「慎。……おはよ」
「おはよう、はるか
 笑みを返し、彼の元へと歩み寄る。僅かに呆れを滲ませて、僕は彼を見下ろした。
「いくら君でも、朝から保健室は珍しいね。クラス発表は? 見たの?」
「……見て、ない」
 どこかぼんやりとしているような無表情で、彼は首を振る。僕がそれを指摘することはない。いつものことだし、昔に比べればだいぶ良くなった方なのだから。
「見ようと、思ったんだけど……人が、多くて」
「ああ、それで屋上じゃなくてこっちに来たんだ」
 頷き、悠の顔を覗き込む。驚いたように僅かに目を瞬かせる彼に、僕は笑みを返した。
「もう大丈夫なの? 顔色は、いつもより良さそうだけど」
「うん……大丈夫」
 僅かに微笑を浮かべて頷き、彼は僕を見上げる。
「それで、クラス……どう、だった?」
 首を傾げる彼に、僕は思わず苦笑した。どちらかというと女性的な顔立ちである彼は、よく性別を勘違いされる。かなり整った容姿を持っている分、余計に。もちろん僕はそうではないと知っているけれど、それでも間違われるのが分かってしまう瞬間が、たまにあるのだ。
 ……そんなことを考えている場合じゃないか。
「みんな同じクラスだったよ」
「みんな、って? ……名前、忘れたけど、慎の幼馴染とか……あ、宝城、も?」
「うん、それと君もね」
 答えると、彼は大きく目を見開いた。彼にしては珍しい表情に、僕は思わず笑みを零す。
「だから探してたんだよ。卒業まで同じクラスなのに、最初から君を休ませるわけにもいかないからね」
「……慎と、同じクラス?」
「そう。だから、今年はなるべく授業に出るんだよ?」
 そんな僕の言葉に、彼は僅かに唸る。けれどそれもほんの少しだけで、悠はすぐに僕に視線を戻し、首肯した。
「慎がいる、なら……頑張る」
 彼にしては珍しく、嬉しそうな笑顔を浮かべて。

 ◆◇◆

「わっ」
 伝わってきた衝撃に、思わずよろける。腕に抱えた数冊の本を落とさずに済んだことに安堵の息を吐きながら見上げると、そこには驚いたように僅かに見開かれた夜空の瞳が一つだけあった。もう片方の目は、黒い眼帯に覆われている。
「先生!」
「こんにちは、シリル様。お怪我はありませんか?」
 にっこりと微笑む先生を見て、僕はたった今彼にぶつかってしまったことを思いだす。
「あ……すみません、先生こそ大丈夫でしたか?」
「ですからシリル様、以前も申し上げたでしょう。俺もジルも、シリル様にぶつかられた程度で怪我をするほど弱くはありません」
 先生の正面で、彼と話をしていたらしいリオネルが苦笑。一年ほど前にも彼に同じようなことを言われたな、と思い出す。
「最近は時間を見つけて体を動かすようにしてるんだけど」
「ええ、騎士たちの精神衛生上、彼らに訓練の相手をさせるのはお止めになった方がよろしいかと。……と言いたいところですが、シリル様に身を守る術をつけていただくことを優先しましょう。ですから、毎日治癒の塔に通わなくても済む程度にはなっていただきたいですね」
「あれは、みんな大げさに騒ぐから……そうだ、治癒の塔と言えば」
 リオネルの言葉にあることを思い出し、僕は先生の方を見た。
「一ヶ月くらい前から、治癒の塔に行くたびにリザさんと出会うのですが……先生は、何か聴いていますか?」
「リザと?」
 驚いたように一瞬だけ目を瞬かせ、次いで彼は微笑を浮かべる。
「やりたいことがある、とは聴いていましたが……あのリザが、治癒の塔ですか」
「……先生?」
 面白そうに微笑む彼に、思わず首を傾げる。しかしそれ以上訊ねる前に、先生は僕が抱えている本に視線を向けた。
「ところで、それはグラキエス語ですか、シリル様?」
 同時に投げかけられた問いに、僕は首肯する。
「はい。アネモス語ならかなり分かるようになったんですけど、他の国の言葉はまだ難しくて……でも、先生と約束したことですから」
 もっと強く、賢くなると。この国の王に相応しい人間になってみせると、国を去る彼に約束したから。
 僕の言葉に、リオネルが呆れるような苦笑を浮かべた。
「やはりシリル様を焚き付けたのはお前だったか、ジル」
「焚き付けたつもりはないのですが」
 リオネルの言葉に、先生は困ったように微笑む。確かにどちらかというと僕の方から宣言したわけで、先生に焚き付けられたわけではないけど。それでも先生が原因であることに変わりはないか、と僕は曖昧に笑った。
 そこで、気付く。
「ごめんなさい先生、もしかして邪魔してしまいましたか? リオネルと話をしていたんじゃ」
「確かにそうですが、邪魔ではありませんよ。……いえ、むしろシリル様にも聴いて頂いた方が良いかもしれません」
「ああ、そうだな」
 頷き合う二人に、僕は首を傾げた。
「何の話をしてたの?」
「シリル様。ウィクトリア帝国のことで、何か陛下から聴いてはいらっしゃいませんか」
「ウィクトリアのこと? ……そういえば、最近よく気をつけろって言われるけど。最近怪しい動きを見せているから、って」
「やはり陛下も勘付いておられたようですね」
 目を細める先生に、リオネルもまた首肯する。
「そのようだな」
「……何か、あったのですか?」
 訊ねると、二人は顔を見合わせ、よく似た苦い笑みを浮かべた。
「父様……前トゥルヌミール公爵が少し前に息を引き取ったことは、シリル様もご存知ですね? それが暗殺である可能性があったことも」
「はい、父に聴いています」
 先生の言葉に、僕は首肯。ドミニクの死因が自然なものではないかもしれない、と先生が気付いたのだと。そのため、しばらく城に滞在して調べることになったのだと。それが無ければきっと先生はまたすぐにアネモスを去っていたであろうことも、全て父上に聴いて知っている。けれどそれは口には出さず、僕は先生を見上げた。
「先生、まさか……ウィクトリアが?」
「その可能性が高い、と考えています」
 頷く先生の言葉に付け足すように、リオネルが口を開く。
「父上の暗殺に使われたのは、どうやら毒のようなのですよ、シリル様。少量では殆ど効き目がないものの、継続して摂取させることで病気のような症状と共に緩やかに命を奪う、暗殺に適した毒……ジルによると、それはどうやらウィクトリアでしか採れない薬草から出来ているらしいのです」
「それは」
 彼の言葉に、僕は思わず目を見開いた。
 だって、継続して摂取、と彼は言ったのだ。それは、つまり……
「使用人の中に、ウィクトリアの人間が紛れ込んでいる?」
「ご名答です、シリル様」
 先生が、片方しかない目を僅かに細める。彼にしては珍しく鋭い表情に、僅かに張り詰めた空気が流れた。
 それを、リオネルの苦笑が破る。
「あくまでも『かもしれない』の話です。まだ確定したわけではありませんが、シリル様は十分に気を付けていただければと」
「そう、だね……気を付けるよ」
「まずはお一人での外出を控えて頂きたいのですがね」
 呆れ気味の先生に、僕は苦笑を返した。
 ……自分の考えの甘さを再び後悔するのが、そう遠くない未来のこととも知らず。
こんばんは、高良です。
ついにやってしまった……というわけで更新日間に合いませんしでしたごめんなさいストックと時間があああああ!
そろそろ一週間くらいお休みをもらうかもしれません。少なくとも第二部が終わったら少し空白。

というわけで、前半は新キャラ登場。ずっと出したかったのですが、出す出すタイミングを見失いそうだったのでここで出てもらいました。第三部の直前くらいでちょっとだけ活躍する子です。今回はあまり語られませんでしたが慎が大好きなホモっ子です。
後半はかなり好きな組み合わせ。ウィクトリア帝国の名は第一部でも何度か出てきたのですが、覚えていらっしゃるでしょうか。第二部から第三部にかけてかなり重要な国ですので、覚えておいて頂けると幸いです。

では、また次回!
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