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枯花廻りの籠の中 作者:高良あおい

第二部

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第五話 初対面の再会

「ジル、少し良いか」
 兄が部屋に入ってきたのは、朝食後間もない頃だった。昼には城に向かう、と言っていたためだろう。けれど思いがけない訪問者に、僕は僅かに目を見開く。
「兄様。一体どうしたのですか? お忙しいでしょう」
「確かに目が回りそうだが、少し話しておきたいことがあってな」
 疲れたように苦笑し、彼は傍の椅子に腰かける。前世の記憶が邪魔をする僕とは違って純粋に父の死を悲しみながらも、彼が悲しむ暇も無いほど忙しいのは事実だった。
「やはり、僕も手伝いましょうか?」
「あまり気にかけるな、ジル。お前からトゥルヌミールの名を奪っておきながら、こういう時だけ頼るわけにもいくまい。それに、お前には父上の死因を調べてもらわなければならないからな」
「……正直、城に戻るのは気が重いですが」
 僅かに笑みを浮かべて嘆息すると、兄は苦笑交じりに肩を竦める。
「そうだろうな。マリルーシャもしばらく城にいる、何かあったら頼ればいい」
「いえ、マリルーシャさんが城にいるのは、僕にとってはいつも通りなのですが」
 クレア様の侍女であり兄様の婚約者という立場にある彼女は、今は数日おきにこの屋敷と城を行ったり来たりしているらしい。正式に兄様と結婚するかクレア様がグラキエスに嫁いだときには侍女をやめてこの屋敷に住むらしいけれど。
「それにしても、一体いつの間に仲直りしたのですか?」
「確か三ヶ月ほど前だ。どこぞの王子殿下に事情を知られてしまってな。あの方にとって、賢者の望みは自分の望みらしい。相変わらず盲信されているな」
「シリル様が?」
 思わず目を瞬かせる。確かに、彼が僕を師と慕ってくれているのは知っていたけれど。それでも、僕にも出来なかったことをやり遂げたのか。
「あの王子は日に日にうちの弟に言動が似てきてな、王になった暁にはどうなることやら」
「それは会うのが楽しみですね」
 笑みを漏らし、僕は僅かに表情を引き締める。
「それで、兄様。話しておきたいこと、とは?」
「ああ、そうだったな。……お前が国を出る前、父上に話したことについてだ」
 その言葉に、僕は体を強張らせた。
 国を出る前、父様に話したこと。将来のことも含めれば数え切れないほどあったけれど、兄様がこうして改めて持ち出してくるようなことは一つしか思い当らなかった。
 けれど、あれは父様にしか話していないはず。
「お前の事情については、全て父上に聴いている。お前が前世の記憶を持っていることも、クレア様やハーロルト様のことも。ああ、父上を恨むなよ。ジルは放っておけば一人で色々なことを抱えて、耐えようとするからな。父上は倒れてからずっと、お前のことを心配していた。自分がいなくなればお前はまた無理をして一人で抱え込む、と」
「……だから、兄様に全て話してしまわれたのですか」
「俺だけではなく、母上にも、だ」
 兄の言葉に、知らず手に力が籠る。
 出来ることなら、知られたくはなかった。僕が両親や兄に対して抱いていた負い目や遠慮に近い感情を、知られずにいたかった。そんな僕の心を知ってか知らずか、兄様は苦笑する。
「父上の言う通り、本当に気にしているのだな。まったく、真面目なのは良いことだが、度を過ぎれば欠点だぞ」
「兄様には言われたくないですね」
 僕が反論したことが意外だったのか、兄様は僅かに目を見開き、そしてその目を細めた。
「それもそうか。だが、父上にも言われただろう、ジル。前世の記憶など関係はない。お前はお前だ。公爵家を名乗ることを禁じられた程度で変わりはしない。お前は父上と母上の息子で、俺の弟だ。それを誇れ。前世の記憶など、さしたる問題ではない」
「……貴方たちは、どうして」
 力強く言い切る兄に、僕は顔を歪めて嘆息した。
 かつての僕ではなく今の僕を、慎ではなくジルを肯定する言葉。ずっと欲しかった言葉。それを、父様も兄様も、そして恐らく母様も、当然のように僕にくれる。……僕に、そこまでの価値は無いというのに。
「本当の僕は、自分のために他人を利用するような人間ですよ」
 呟いた言葉に、兄様は目を丸くする。そして、おかしそうな笑みを浮かべた。
「そうであってくれれば、俺もここまで心配はしないのだがな。そうだ、彼女――リザ、といったか。気になっていたのだが、あの子も前世関連か?」
「……よくお分かりで」
「お前が共に旅をすることを許すなど、それくらいしか思いつかん。年齢の割にやたらと聡いようでもあったからな。何にせよ、お前一人ではないなら安心だ」
 そんなに頼りなく見られているのかと、僕は苦笑を返す。いや、自分よりも他人を優先してしまう癖は僕自身がよく分かっているけれど、それでもそこまで酷くはないはず。
 僕の笑みをどう受け取ったのか、兄は嘆息した。
「一番厄介なのはお前に自覚がないこと、か。……さて、いつまでも邪魔をするわけにもいかないな。この話をしておきたかっただけだ、俺もいい加減に戻らなければな。すまないが、見送りは出来そうにない」
「忙しいのにそこまでしていただくわけにもいきませんよ」
「お前ならそう言うと思っていた。俺もしばらくは王城とここを行き来する生活だ、何かあったら知らせてくれ」
 それを聴いて、ふと既視感を覚える。考える暇も無く、僕の口から呟きが零れ落ちた。
「まるで一年前に戻ったようですね」
「……ああ、そうだな」
 ただ、リザが僕の隣にいることが――そして僕と城に住む人たちとの関係が、かつてとは異なっているけれど。
 同じことを考えたらしい兄様と顔を見合わせ、僕は苦笑した。

 ◆◇◆

「……あの、先生?」
「何でしょうか、クレア様」
「はぐらかさないでください、誰ですかその子は!」
 眉を顰めて訊ねてきたクレア様に視線を向けると、彼女は怒ったような表情でリザを指差した。
「人を指差してはいけませんよ、クレア様。マリルーシャさんに見つかったらどうするおつもりですか」
「そうだぞ、落ち着けクレア」
「だってハーロルト様、先生が!」
 今度は僕を指差し、ハーロルト様に向かって叫ぶ彼女に、僕は思わず苦笑する。
 ……その態度から察するに、クレア様とハーロルト様の関係は僕がこの国を去ったときに比べれば良くなっているようだ。どちらかというと事件が起こる前のそれに近くなっている。それでも呼び方が変わらない辺り、まだクレア様は完全に彼を許したわけではないらしい。
「この子は――」
「リザ=アーレンス。ジルとはいろいろあって、今は一緒に旅をしてるわ」
 紹介しようとすると、その前に彼女が口を開く。その言葉に、クレア様はムッとしたような表情のまま反論した。
「王族でしかも年上の人間に敬語使わないのって、どうかと思うんだけど」
「あたしはアネモスの人間じゃないもの。それに、敬う相手くらい自分で選べるわ」
 馬鹿にするように笑みを浮かべる彼女に、僕は二人に気づかれないようにまた笑みを漏らす。
「何それ、わたしは違うって言いたいの?」
「年下相手にむきになる時点で、真似したくはないわね」
「……なあ、慎」
 そのまま口論に発展する二人を笑顔で眺めていると、ハーロルト様が囁くように声をかけてきた。
「どうかしましたか、ハーロルト様」
「お前その喋り方はどうにか……まぁいいや」
 嘆息し、彼は口論を続ける二人にちらりと目をやる。
「あのやりとり、どっかで見たことある気が」
「真澄と咲月がよくやっていましたから、そのせいでは?」
「あー、それについては慎にも迷惑かけまく――って、そうじゃなくて!」
 叫ぶ彼に、そしてそのことにも気付かず口論を続けるリザとクレア様に、僕は苦笑した。……いや、リザは気付いていながらクレア様の気を逸らすためにあえて口論を続けている可能性もあるけれど。
「どうしてだと思う?」
 口調を変えた僕にハーロルト様は驚いたように瞬きし、次いで訝しむようにその目を細める。
「あいつ……リザだっけ。どこかで会った気がする」
「それはどうだろうね」
「はぐらかすなっての」
 睨むように見てくる彼に、僕は再び苦笑を返した。
「強いて言うなら、君が『リザ』としての彼女を知っているわけじゃないはずだよ。『真澄』として、会ったことはたくさんあると思うけど」
「真澄として? ……あ」
 ようやく答えに辿り着いたのか、彼は目を見開き……そして、慄くように顔を青ざめさせる。
「まさか……宝城か?」
「正解。喧嘩しちゃ駄目だよ?」
「無茶言うなっての」
 かつて柚希と真澄はとても仲が悪かったことを思い出しながら釘を刺すと、彼は僕から目を逸らし、乾いた笑いを浮かべた。
こんばんは、高良です。この話を書き終えたのが十分ほど前な辺り、いよいよストックが切れかかってます。ネタはあるのに書く時間がですね……!

というわけで後半でようやくアネモス王城に戻ったジル。今回はリザも伴っています。中身こそ同い年ですが外見はまだ十代前半の彼女がどういう目で見られるかは後々。
前世では親友だった咲月と柚希ですが、クレアにその記憶はありません。かつて出会った時には慎が間に入っていましたが、今回は静観。
ちなみにハルはジルに対して普通に接しているように見えますが、彼もまだ吹っ切れたわけではありません。それも後ほど。

では、また次回!
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