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枯花廻りの籠の中 作者:高良あおい

第四部

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第二十二話 道中の不安

 いくら大所帯になるのは避けたいと言ったところで、シリル曰く限度はあるらしい。大勢の人間が一度に移動するのに転移の魔法は使えず、移動手段に馬車が選ばれたのは必然だった。
「ジルなら出来たんじゃないの? 大勢引き連れて転移」
「出来なくはないけど、非常事態でもないのにそんな無茶をする気にはなれないよ。シリル様やニナとゆっくり話をするのも楽しそうだったからね」
「無茶、でもないでしょうに」
 呆れの混じった笑顔で嘆息するお姉ちゃんを、笑顔で見つめる。生前の彼女がどんな思いをしてきたのかは知っているから、こうしてお姉ちゃんがお兄ちゃんの隣で笑っているのが見られるのはとても嬉しかった。
 私たちがいるのは、数台用意された中でも一番大きく豪華な馬車である。シリル曰く、聖地の周辺にはあまり大きな馬車では通れない道もあるため、これは王族が使う中では小さな方らしい。それでも他の馬車より大きいことに変わりは無く、現に私とシリル、そしてお兄ちゃんとお姉ちゃんの四人が乗ってもスペースは有り余っていた。夜になれば私とお姉ちゃんはこの中で、普通に横になって寝ることが出来る程だ。……実際にはシリルとお兄ちゃんも余裕で入りそうなのだけど、流石にそれは二人揃って拒否してきた。
 シリルはともかく、お兄ちゃんは行けるんじゃないかと思ったんだけどなぁ。お姉ちゃんにあの手紙を渡して以来、お姉ちゃんもお兄ちゃんの部屋で寝てる、って城の人たちから聞いているし。まだ『そういうこと』はしていないっぽい、というのは何となく分かるけれど、それでも同じ空間で寝るくらいなら平気そうだと思ったのに。……あ、私がいるから駄目なのか。何だかんだでお兄ちゃんもだいぶお姉ちゃんのこと特別扱いしてるよね。
 さておき。
「そう言えばシリルもお兄ちゃんも、夜はどうするつもりなの? 一緒に寝るのは色々とまずい、って言うのは分かるけど、流石にずっと起きてるわけにはいかないでしょ?」
「うん、僕は他の馬車で眠るつもりだよ。先生は――」
「野宿ですね。見張りも兼ねて」
 問いかけるようなシリルの視線に、お兄ちゃんは笑顔で頷き返す。……って、いや、ちょっと待って。
「それ、本当にちゃんと眠れるの?」
「大丈夫だよ、慣れているからね。それに人目が少ない方が、色々と魔法が使いやすいし」
「ジルと旅してると、野宿は大変なんだっていう一般常識を忘れそうだわ」
「……何するつもりなのかは分からないけど、それならまぁよし」
 お兄ちゃんがこの世界でも屈指の魔法使いだ、というのを思い出し、私は素直に引き下がる。お姉ちゃんの口調からも、彼が色々と魔法を使うつもりなのが推測できた。
 ……そういえばお姉ちゃんもまた規格外の治癒魔法の使い手だ、とシリルが言ってたっけ。『歌守』という種族についてはアドリエンヌさんに習ったけれど、お姉ちゃんの場合はちょっと特殊らしい。でもお姉ちゃんが優しいのは知っているし、そんな彼女が治癒魔法を、というのもむしろ納得できる話である。
「それにしても、意外だったね。この面子で聖地行きなんて」
「僕も予想外だったよ……リオネルと協力して、せめてネルヴァル侯くらいは外せないか頑張ってみたんだけどね。神子に同行して聖地を訪れられるほどの身分で暇な人間は彼くらいしかいなかった」
 私の言葉に、皮肉なことにね、とシリルは肩を竦めた。そう、同行者の中にはあのネルヴァル侯もいるのだ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが来てから、彼が表立って接触してきたことはない。恐らくお兄ちゃんを警戒してだろうとシリルは言っていたけれど、その沈黙はかえって不気味に思えて、だからこそネルヴァル侯が同行すると聞いたときには不安もあったのだ。
「あたし、あいつ嫌いだわ。大っ嫌い」
「……そういえば彼、リザのことも変な目で見ていたね」
「怖いです、先生」
 笑顔のまま、けれど纏う雰囲気を一変させるお兄ちゃんを見て、シリルが目を逸らす。私は笑顔でそんなやり取りを眺めつつ、こくりと頷いた。
「お兄ちゃんやお姉ちゃんもいるし、何もしてこないとは思うんだけど……」
「言っておきますけれど、今回に限ると私は何も出来ませんわよ?」
「わ、カタリナ起きてたの?」
 突然ふわりと現れた親友を見上げ、訊ねる。眠っていてとは言わなかったものの、出発した直後から姿を見せなかったから、てっきり寝ているとばかり思っていた、しかしそんな私に対し、彼女は妖艶に微笑む。
「あら、ニナにとって私の存在が不都合なとき以外、私は常に貴女の傍についていますわ。そう言う契約だもの」
「何も出来ないというのはどういうことですか? カタリナ」
「ジルならご存知ではなくて?」
 僅かに厳しいお兄ちゃんの問いかけに、カタリナは表情一つ変えず返した。……真面目な話をしているときにはカタリナもふざけなくなったから、一応進歩したのだろう。二人の間にあったことを考えたら、仲直りして欲しいというのは我が侭に過ぎる。それについては私もカタリナを弁護出来ないし。というか、よく考えたら普通に過ごしているお兄ちゃんが凄い。
「それと、話をするときには相手の目を見て、というのが礼儀ではないかしら」
「貴女に礼儀を問われるとは思いませんでしたよ」
 ……訂正、そうでもないっぽい?
「もちろん僕もカタリナ以外に対してはそうしますが、貴女と目を合わせるとろくなことがありませんから」
「まだ引きずっていますの? しつこい男は嫌われますわよ」
「処刑されてもなおしぶとくこの世界に居座るような女性ひとには言われたくありませんね」
 ああやっぱりトラウマ化してるっぽい。お兄ちゃんがこれだけ棘のある口調で話すのも珍しいだろう。いや、シリルの話では敵に対しては厳しいらしいけど、漂う空気の冷たさがもう尋常じゃない。
「そ、それでカタリナ、さっきの……何も出来ないって、どうして?」
「……ああそうか、ニナのこの度胸はリザさん譲りなんですね、そういえば」
「何よいきなり。あたしだってまさかここまで怖い物知らずになるとは思わなかったわ」
 シリルもお姉ちゃんも、聞こえてるからね? いや聞こえるように言っているのだろうけど。そんな二人に対し、カタリナは面白そうにくすくすと笑う。
「言っておきますけど、この子は怖い物を知らないわけではないようですわよ? ニナの恐ろしさはむしろ、恐怖を恐怖と知りながらそれでも向かってくるところにありますわね。そう、それと私が力になれない理由ですけれど、一言で言ってしまえば『私が精霊だから』ですわ」
「精霊だと、まずいことでもあるの?」
 首を傾げるけれど彼女は答えず、意味深な笑みを浮かべてお兄ちゃんを見た。彼は深く嘆息すると、私を見て頷く。
「聖地という場所は、少し特殊でね。母様からは、どれくらい習った?」
「アドリエンヌさんから? 中央神殿があるところだって……確か世界が出来たばかりの頃、一番最初の国が存在していた場所なんだよね。その国はずっと昔に亡びちゃったけど、クローウィンが出来たのと同じ頃に降りた最初の神子が、そこを聖地と定めて神殿を作ったんだっけ」
「うん、大体正解。正しくは神国クローウィンの成立時期と聖地成立の時期は少しずれているんだけど、その辺りは今は気にしなくても大丈夫。聖地と神子の繋がりというのもそれくらい深くて、だから僕たちはこうしてかの地に向かっているわけだ」
 笑顔で頷き、お兄ちゃんはちらりとカタリナを見て、目を細めた。
「その原初の国というのが少し厄介でね。何しろ太古の昔のことだから、生活習慣も言語も魔法形態も、現在いまとは何もかもが異なっていたんだ」
「それは……まぁ、そうだろうけど。でも、ならどうしてカタリナが?」
「使われる魔法が違えば、その地を満たす魔力の質もまた変わってくる。それは本当に些細なことで、普通なら異国の空気という言葉で片付けられる程度のものだけど、聖地だけは別格なんだ。生身の人間ならそれにも適応できるだろうね。でも、精霊というのは言ってしまえば魔力の塊のようなものだから……」
「そういうわけですわ、ニナ。精霊にとって、聖地というのは実体化を保つことすら困難な、出来ることならもっとも避けて通りたい土地ですの。ですから、私は聖地にいる間は殆ど姿を現せませんし、現しても出来ることはせいぜい助言程度ですわね。そのつもりで行動なさいな」
 その言葉はかなり不安だったけれど、さっきみんなに言った通り、お兄ちゃんやお姉ちゃんも一緒なのだ。大丈夫、と私は頷く。
「うん、気を付けるよ。……ネルヴァル侯も流石に、聖地で問題を起こすほど馬鹿じゃないと思うし」
 気休めに言ってみた言葉に、しかし返ってきたのは不安を誘うような沈黙だった。……ちょっ、四人とも、嘘でも良いからそこは同意してほしかったよ。
こんばんは。高良です。

何やら気になることもちょくちょく語られていますがその辺りは第五部に回すと致しまして、前話より少し後。聖地に向かう四人ですが、同行者は味方ばかりとはいかないようです。

そうそう、少し前にリザの誕生日! と騒いだことがありましたが、今日(三月二十五日)はその前世である柚希の誕生日です。枯花でもぶっちぎりの薄幸人生を歩んだ柚希の、誕生日です。せめて今世では幸せになれると良いね。
……いえ、どうでしょうね?

では、また次回。
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