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  緋色の眼 作者:ジョン
第八話:新宿戦線【後編】

 陸人が仕事の手続きを行っている間は、自由時間となった。
 時雨は、知人に挨拶をしに警察署へと向かい、遥緋は洋服店を見回っていた。

「流石東京・・・殺人的物価ね・・・」

 可愛いと思った服の値札を見ながら遥緋は呻いた。
 まだ中学生なのでアルバイトもできない遥緋には、手が出せない価格であった。
 
(なぁ、んなモンに金使うぐらいだったら飯でも食おうぜー)

 暇そうな灼那が唐突に語りかけてくる。
 遥緋は半ば呆れつつも答えた。

(まったく・・・灼那だって女の子なんだから少しはお洒落しなきゃ駄目だよ?)

(ハ? 俺は男だぜ?)

(え・・・)

(前の・・・あー・・・やっぱ今の無し! 忘れろ!)

(無理だよぉ! 私ずっと男の子にお風呂とかトイレ覗かれてたの!?)

(気にするな、俺にとってはどうでもいい話だ。それに体は女だしな)

(う〜・・・・・・何かよくわからないけど、まぁいいや・・・)

「あの、前をよろしいですか?」

 遥緋が混乱していると、着物を着た女性に声をかけられた。
 どうやら遥緋のせいで通路が通れないようである。

「あ、スイマセン」

 遥緋は通路の脇へと寄った。
 着物の女性は遥緋に笑顔でお礼を言う。

「ありがとうございます」

 そして、そのまま離れた所にあったベンチの所まで小走りに駆けていった。
 ベンチに着くとここからでは顔が見えないが、男と共に街へと消えていく。

(彼氏かぁ・・・いいな・・・ってかあの男の人お兄ちゃんに後姿が似てるな・・・)

 しかし、そんな事はありえないと思った。
 あの兄が女性と一緒に行動するわけないし、買い物になんか付き合うわけが無い。
 
(歩き方ももっとドヨ〜ンとしてるしね・・・)

 いつも一人ぼっちで学校生活していた兄を思い出す。
 すると、遥緋の携帯が鳴った。ディスプレイを見ると時雨からであった。

(もう集合時間か・・・)













 遥緋が集合場所へ行くと、陸人がイライラしたように座っていた。
 足元に煙草の山が出来ている当り、相当待ったのだろう。

「スイマセン、遅れちゃいました」

「おう、ってか時雨は一緒じゃないの?」

「時雨ちゃんは警察署へ・・・・・・あ、着ましたよ」

 ちょうど大通りの向かいから、時雨がノロノロと歩いてきた。
 手には色々なジャンクフード店の袋を抱えている。

「いやぁ、つい美味しくて遅れちゃいましたよ」

 時雨が幸せそうな表情で言う。
 しかし、陸人の顔は更に険しくなり、怒鳴った。

「遅いわぁ! どこ行ってんだよコラ!」

「警察行って、誠一さんと空さんに挨拶をしてきたんですよ」

 時雨がそういうと、陸人の顔が明るくなった。
 ホント・・・喜怒哀楽が激しいなぁ・・・
 と遥緋は思ったが、口には出さない。

「お! 先輩達に会いに行ったのかぁ〜元気だったか?」

「相変わらずですよ、誠一さんがボケてボケてボケ倒し、
 空さんが放置、時にツッコミ見たいな感じでしたよ」

「十四年たってもその構図は変わらないのか・・・」

 懐かしそうな顔をして陸人は言った。
 そして話についていけない遥緋が問う。

「あの・・・誠一さんと空さんってどなたですか?」

「ああ、俺と蒼威と森羅の高校の時の先輩だよ、空さんはめっちゃかっこよくて
誠一さんはめちゃくちゃ強くてな〜俺も蒼威も森羅もよくボコされたもんだよ」

「そうなんですか・・・森羅さんってどなたですか?」

「小学校から一緒なんだけどつるみだしたのは中坊かな?
 今は自衛隊に所属してるんだよ・・・昔はよく三人で悪さしたもんさ」

「えっ! お父さんも悪い事してたんですか?」

 遥緋の中の父親のイメージは凄い真面目君であった。
 理知的で、人柄が良い・・・そんな男を遥緋は想像していた。

「あいつは悪だったね、転校してきた日に俺をボコボコにして二階から落としやがったし」

 陸人の言葉で遥緋の中の父親象がガラガラと音を立てて崩れていく。
 うう・・・お父さんって本当にどんな人なの?
 遥緋はそう思い、落胆した。

「まぁ・・・やったのは蒼威じゃなくて灼也だったんだけどね」

「シャクヤ?」

「あ・・・・・・いや昔の大切な友達だよ・・・」

「へぇ」

(・・・・・・)

 何故か歯切れが悪そうに陸人は言う。
 すると、今まで黙っていた時雨が遥緋に話しかけた。

「遥緋・・・海野誠一は遥さんの従兄妹だよ? 何故知らない」

「そうなんですか? うーん良子叔母さんと徹宵叔父さんならわかるけど・・・」

「まぁ、滅多に会えないから忘れてるんだよ、んじゃそろそろ仕事へ行くか」

 










 今回、陸人が請け負った仕事は簡単な事であった。
 取り壊しが決まったビルに巣くう悪鬼を排除する、ただそれだけ。
 本来なら、浅葱家最強の式神使いである陸人がやるような仕事ではないのである。
 そんな陸人が志願した理由は・・・

「やっぱさ、詩歌の信頼を取り戻すためにもお小遣いぐらい稼いどかないとさ」

 といった不純な動機からであった。
 そんな事を話しながら彼らはビルへと近づいていく。

「んじゃ、時雨は三階、俺は二階、遥緋ちゃんは一階をお願い」

「何で俺が最上階なんですか・・・?」

「ん? 嫌がらせに決まってるじゃないか アッハッハッ!」

 陸人はあっけらかんとそう言いのけた。
 すると遥緋がおびえたような声で言う。

「一人・・・ですか?」

「ああ、でもここに居る悪鬼なんてチンカスレベルだから安心していいよ」

「チン・・・はい・・・」

 陸人の下品な物言いを遥緋は何とか受け流す。
 すると時雨は懐から手帳を取り出し、何やらメモをしている。

「時雨ちゃん、何書いてるの?」

「陸人セクハラ発言集さ、詩歌さんに後で採点してもらうんだ」

「時雨様、待ってください」

 陸人は急に懇願するような口調で言った。
 その光景をニヤニヤ笑いながら時雨は見下ろしている。
 遥緋には時雨の背後に正に外道と言う文字が見えた気がした・・・

「なんですか?」

「これ以上、詩歌に嫌われたら俺マジで孤独死しちゃうかもよ?
 ってかもし離婚なんて事になったら浅葱からも追い出されちゃうし
 この年でバツイチだぜ? それに梨香や俺の家族は確実に
 俺の敵に回るしさ・・・どうか、この哀れな元高遠陸人、現浅葱陸人に愛の手を!!」
  

 凄まじい肺活量で一気に喋った陸人はすがるような目で時雨を見た。
 時雨はフッと笑うと可哀想なモノを見る目をして陸人に言う。

「仕方ないですね・・・今回だけですよ?」

「はい! ありがとうございます」

「ではでは、陸人さんは最上階をお願いしますね」

「・・・はい」


 三人は建物の中へと入った、その瞬間周囲が光の膜に覆われる。
 光の膜は、ビル全体を囲むように展開した。

「ハメられたか・・・こんな結界作れる奴もいるんだな」

 陸人が平然と言い放つ。
 時雨も・・・

「そうですね、結界としてはまぁまぁの部類でしょう・・・敵は死罪六神ですか」

「え? え? 何が起きたの?」

 遥緋だけが状況について来れずに、一人オロオロとしている。
 そして膜の一部分が開き、人が入ってきた。
 長髪を後ろで束ねた髪型、右目にある大きな傷。
 隙の無い物腰、剣菱である。

「我が名は死罪六刃─第四位 光華 真砂 剣菱。
千島と八神に滅ぼされた真砂一族の最後の生き残りだ!」

「アレは・・・仕方がないだろ! 緋眼使いの悪鬼なんて存在させるわけにはいかなかった!」

 剣菱の言葉に時雨は反論する。
 だが剣菱は更に怒鳴った。

「薬害によって全滅しかけた我らは山奥で暮らし、そして寄生型悪鬼に取り付かれた
 千島蒼威、八神正宗の二人はそんな我らを無慈悲に殺したではないか・・・」

 剣菱の独白に三人は黙ってしまう。
 そして剣菱は更に言う。

「だから我は、千島と八神は許さん・・・あの日に無念に散っていった者達のためにもな!」

 その言葉と同時に剣菱の背後に二体の人型悪鬼が現れた。
 現れた人型悪鬼に、剣菱は指示を出す。

「お前らはあの娘と、あの男の相手をしろ・・・我は八神時雨を殺す」

 二体の人型悪鬼は跳躍すると遥緋と陸人の正面に降り立つ。
 剣菱は意識を集中させ、手に光の玉を生んだ。式神である。
 そして陸人が楽しそうに声を上げた。

「人型悪鬼上等! どっからでもかかってこいや」

 そして時雨は遥緋に言い放つ。 

「遥緋・・・気合入れろよ!」

 時雨の目は真剣そのもの。
 遥緋は、一瞬ためらったがすぐに気を取り直すと返事をした。

「う、うん!」










 遥緋へと人型悪鬼が迫る。
 一旦深呼吸して、緋眼を発動させた。
 視界がだんだんと紅く、そして遅くなっていく。

(怖い・・・悪鬼は怖い)

 悪鬼が巨大な爪を遥緋に向かって振り下ろす。
 遥緋はそれを見切ると、難なく悪鬼の背後まで高速移動をした。

(輪廻転生使わなきゃ・・・)

 集中・・・するが上手く式神を組み上げられない。
 恐怖が体を支配し、思考と動きを鈍らせているのだ。
 そして初撃を外したことに気づいた悪鬼は体を回転させ、腕を遥緋にたたきつけた。

(ッ!)

 とっさに後ろへ跳んで威力を減少させたが、壁に叩きつけられてしまった。
 体中に鈍い痛みが走り・・・心が折れた。
 そして悪鬼は高速で遥緋に向かって突っ込んでくる。

(嫌・・・来ないで・・・来ないでぇ!)

 悪鬼の鋭い爪が振り上げられ、遥緋は目を瞑った。

(もう駄目・・・死んじゃう・・・!)

 遥緋が来る痛みを堪えようとした時、右腕が勝手に動いた。
 それを機に段々と体の感覚が遠ざかっていく。
 そして自分の横を誰かがすり抜けて行ったような感覚がした。

(全く使えねー宿主だぜ、しばらく黙ってみてな)

 灼那が遥緋から強制的に体を奪った。
 そして灼那は獰猛な笑みで悪鬼へと告げる。

「おい・・・テメー今何かしたか?」

 その声と共に悪鬼の左腕が分解されて、粒子となり消え去った。
 遥緋の式神、輪廻転生の能力、再生と分解の力である。

「テメー程度の存在でオレサマを殺せるとでも思ったかコラァ!」

 腕を押さえて暴れる悪鬼の顔面を灼那は全力で蹴り飛ばす。
 その瞬間にも分解能力が作用し、悪鬼の顔が粒子状になりながら吹き飛ぶ。
 そしてやがて悪鬼は動かなくなった。
 
(しゃ・・・灼那・・・)

(遥緋・・・蒼威と本当に会いたいのならこいつらぐらい普通に殺せるようになれ!)

(・・・うん! 私もう逃げない・・・)

(よく言った!)

 灼那は遥緋を褒めると体の権利を譲った。
 段々と五感が戻っていき、遥緋は時雨や、陸人の方を見た。




 光の線が時雨を裂こうとする。
 それを間一髪で避けながら、時雨は跳躍した。
 高い、高い、とても人間が跳べない高さで時雨は跳ぶ。

(あれが噂の式神【天照】か、中々ウザイ能力な事で・・・)

 時雨は緩急をつけながら光の線を避けていく。
 服にはいくつかの焦げ目がついてはいるが、
 まだ一発も当ってはいなかった。

「チッ!」
 
 剣菱は舌打ちすると。もう片方の手にも光の線を作り出した。
 それを回転させながら時雨へと迫る。

「ドーン!」

 陸人の声と共にビル内に凄まじい爆発が起きた。
 コンクリートが吹っ飛び、内装の装飾もメチャメチャである。
 煙が晴れて、二人の姿が無い事に気づくと、陸人は怒鳴る。

「あ、緋眼使いやがったな! ずるいぞテメーら!」

 剣菱の眼と時雨の眼は真っ赤に染まっていた。
 そしてお互いの眼が段々と元の色に戻っていく。

「アンタ・・・俺まで殺す気ですか!?」

 命の危険に晒された時雨は怒鳴る。
 が、陸人は涼しい顔をして時雨に告げる。

「お前を信頼してたのさ・・・時雨なら絶対避けてくれるって!」

「そうですか・・・」

 時雨は怒りを抑えた顔で陸人に言う。
 
「ぬぅ・・・流石は浅葱をここまで復興させた式神【爆轟】だな・・・」

 剣菱の右の肩から血が噴出している。
 爆発で吹っ飛んだ廃材の破片が突き刺さったらしい。

「ハハハハ! 俺と詩歌の愛の結晶の式神だ、ナメんなよ?」

「フン・・・まあいい、作戦はほぼ成功だ・・・八神家は近いうちに必ず潰す」

「シカトですか・・・」

 完全に無視されて落ち込む陸人。
 時雨を憎悪の篭った瞳で睨んだ後、剣菱は遥緋を見た。

「貴様も同罪だ、千島遥緋・・・我は容赦はしない」

「・・・」

「ちょっと! 俺だけ名前呼ばれてないよ!?」

 次の瞬間、ビルの周りを覆っていた膜が弾けた。
 そして何時の間にか、剣菱の姿は消えていた。
 遥緋は半壊したビルを見ながら呟く。

「千島家の罪、か・・・」




FFのやりすぎで遅れに遅れております。
次回は少し息を抜いたお話にしたいと思っています。
それでは、お読みいただきありがとうございました。


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