【第三部】最終話:新たなる未来が始まる。
刹那の体から力が抜けるのと同時にコアが浮き上がり、振動を起こす。
大気が揺れ、神代家全体がコアの波長に包まれる。
圧倒的な力が周囲へと広がり、嫌な汗が背中を伝った。
「何だよ、これ・・・」
時雨が呟く。
しかしその問いに答えるものは居ない、というよりも誰も答えられない。
コアはその間も振動を続け、やがて──天井付近に黒い光を迸らせ、爆砕した。
「時雨!」
「は、はい」
蒼威の声によって我に帰った時雨は崩れ落ちてくる瓦礫を吹き飛ばす。
そのまま重場の力を操り、瓦礫の落ちないように重力の方向を変えた。
そして、一息つくと言う。
「これ、どうします?」
「わからん・・・だが危なさそうな状態だな」
語り合う正宗と時雨。
すると、罪歌が一歩前に出て、コアに向かって手をかざすと一言。
「燃えろ」
黒炎がコアに向かって放射された。
燃え盛る劫火がコアを包み、焼きつく───せなかった。
炎が途切れてもコアは相変わらず振動を続け、揺ら揺らと浮いている。
「・・・・・・千島遥緋、貴女の力はどう?」
罪歌が問う。
隅の方で事態を傍観していた灼也は振り向くとコアの前に向かって歩いた。
そしてコアに軽く触れて、輪廻転生を発動。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!」
手を離す灼也。
後ろを向き、肩をすくめながら灼也は言った。
「駄目だ、ナニを殺していいかわからねぇ・・・」
「どういう事?」
「輪廻転生の死滅の対象をどれに絞ればいいか分からないってことだよ、中に居るのが多すぎる」
「・・・そう」
「それと、中に神代の奴らがいたぜ、刹那の式神が俺を妨害してきやがったし」
半ば呆れつつ、灼也が言う。
するとコアから、一体の悪鬼が生まれる。
悪鬼は地面を這いながら、醜悪な顔灼也に向けると喋りだした。
「オマエ・・・ラはタスからナイ・・・俺はコアのエネる・・・ぎーを全てツカい、ラクエンノ範囲を爆破してヤル」
「──なっ!?」
「オレタチノ夢ハ潰えた・・・お前らの存在モツイエル・・・アッハハハハハハハハハ!」
それだけ言い終えると、悪鬼は姿形が無くなりこの世から消え去った。
後に残ったのは立ち尽くす蒼威達だけとなる。
「なぁ、神璽と由加はどう思う?」
森羅が後ろを向いて問うと、由加と神璽は蹲っていた。
気分が悪そうに、地面に手をつき呼吸を荒らげている。
「お、おい! どうした!?」
森羅が屈んで由加と神璽に声をかける。
「苦しい・・・あのコアを見てると苦しい・・・・・・と言うよりも・・・アレを・・・俺は・・・アレをぉ!」
血相を変えて立ち上がろうとする神璽。
すると由加が苦しそうに神璽に言った。
「駄目・・・神璽・・・・・・・耐えて」
「由加・・・」
「私も、気持ちは貴方と同じ・・・・・・でも耐えてっ!」
「わかった・・・」
「森羅さんスイマセン、私達はアレから離れたいです」
「ん、わかった」
森羅が由加と神璽に肩を貸し、隅のほうへと歩こうとする。
それを見ると、正宗が言った。
「森羅、お前はその二人を抱えて、脱出してくれ」
「・・・ハ? 何で?」
「彼らの結晶がもし、コアに取り込まれたら大変な事になる。それと凄く顔色が悪いじゃないか」
「お、おう・・・わかった、じゃあ俺は先に結界の外へ行くぜ」
「時雨とコケッコーは二人の護衛をしてくれ」
「はい」
「誰がコケッコーだコラァ! ま・・・行ってやるよ」
時雨と陸人は返事をすると森羅達の方へ走っていった。
それを見届けると、正宗はゆっくりと地面に座る。
「さて、どうしようか・・・誰か意見のある奴はいるか?」
「・・・炎帝でも壊せないってことは、並みの式神じゃまず破壊は不可能だな」
「ああ、可能性があるなら万事残壊やそういう直接的な破壊の式神ぐらいだろうな」
「・・・この中には居ないな」
蒼威は残った灼也、煉、罪歌、狂、命、の姿を見てため息をついた。
すると、煉が手を上げた。
「一つ、いいですか?」
「ああ」
「神代刹那があの中で結晶のエネルギーを使おうとしているんですよね?」
「そうみたいだね」
「だったら、誰かがあの中に行ってコントロールを奪えばどうにかなると思いませんか?」
「・・・・・・誰かに、犠牲になれと?」
「適任が居るじゃないですか、こに肉体を持たない精神だけの存在が」
煉は笑いながら自分と灼也を指差した。
灼也もその意味に気づいたようで、うんと頷くと喋りだす。
「その方法しかないみてーだな」
「お前ら・・・」
「悔いはありません、これが私達の運命だと思ってますよ」
「まぁ、世界を救うために犠牲になるってのはロマンのある死に方だよな?」
「たまには意見が合いますね」
笑う灼也と煉、蒼威はそれを拳を握り締めながら見ている。
すると、黙っていた罪歌と狂が突然喋りだした。
「はーい! それアタシ達もいくよん! ね? 囚ちゃん」
「フン・・・キョウノカラダモアキテキタシナ」
「さっすが囚ちゃん! 男前ぇ!」
「フフフ、アンマホメルンジャネエヨ」
罪歌と狂の第二人格、緋澄と囚も行くと言い出した。
そして正宗は周囲の反応を見ると、立ち上がって言う。
「行ってくれるか? 灼也、煉、緋澄、囚」
四人は笑って返事をした。
犠牲、仕方の無い事、正宗はそう割り切ろうとするが中々にそうもいかない。
しかし、あらゆる手段を考えてみたがこれ以外にはもう浮かばなかった。
「んで、どうやって結晶の中に入るんだ?」
「この中で、刹那と同じような能力を持った奴が一人居るだろ?」
灼也の言葉によって全員の視線が命に向けられた。
視線を一身に浮けた命は、強く頷くと喋りだす。
「貴方達の精神だけを、コアの中に送ればいいのね?」
「ああ、できるか?」
「うん・・・現実にしてみせるよ! じゃあ、並んでくれる?」
命に促されて、四人は結晶の前に並んだ。
そして灼也、煉、緋澄、狂は命と手を繋ぎ、命はもう片方の手でコアに触れる。
「私の力は二つまでが有効だから・・・一気に全員を中に飛ばすね、それと探る用に」
「おう」
「はーい!」
「了解」
「・・・」
「じゃあ行くよ・・・『貴方達の精神を私は掴みたい』
四つの返事を聞くと、命は集中し式神を発動させる。
手から伝わる感覚を四人の中へと潜らせて、それぞれの精神を見つけようとする。
まず、灼也の精神を見つけた。
(遥緋、これでお別れだな)
(灼也・・・やっぱ何かこの呼び方慣れないよ)
(オメーが名付け親だろうが、コラ)
(ぇ・・・そうだっけ?)
(そーだっ! 全くお前ははよぉ・・・いつもウジウジ悩んでよぉ・・・蒼威よりも手がかかったぜ)
(ごめん、でも今はどう?)
(フン・・・認めてやるよ、お前は確かに強くなった)
(うん、ありがとう・・・)
(ん? どうした?)
(もう、会えないのかな?)
(多分な、これからは俺の変わりに蒼威がお前を守る、そしてお前の子供が生まれたら、今度はお前が守る番だぞ)
(・・・うんっ!)
(よし! いい返事だ! じゃあ・・・俺もう行くわ)
(今まで・・・本当にありがとう!)
(こちらこそ! じゃあな遥緋! 幸せになれよ!)
灼也の精神を掴んだ命は今度は煉の精神を探る。
感覚を更に鋭敏にし、命はそれを掴もうとする。
(蒼二、今までお世話になりました)
(いや、世話になったのはこっちだ)
(フフ・・・確かにそうかもしれませんね)
(お前がどんな時でも俺の味方であってくれたから、俺はここまでこれたんだ)
(・・・・・・)
(朱音の死の後、俺は墜ちて言ったけど一人じゃなかった、お前がいたし、皆が居てくれた)
(貴方は蒼威をも超える天才です、私風情が口を出さずとも自ずとやってくれると信じていましたから)
(・・・そっか、ありがとな)
(いえいえ、天美命とお幸せに)
(ハァ? 何でアイツが出てくるんだ?)
(・・・ふぅ、まぁいいでしょう。 これで私は居なくなりますが、鍛錬を怠るんじゃありませんよ?)
(わかってる・・・あ、そういや修羅雪は使えなくなっちまうのかな?)
(多分使えるでしょう、アレは貴方の本当の式神の姿ですから、ただ私が居たせいで半分しか顕現できなかったって事ですよ)
(なるほど・・・最後まで勉強になったぜ)
(蒼威の時も力の説明をした気が・・・まぁ、これが私の役回りなのでしょうね)
(何言ってんだよ)
(フフフ・・・感傷ですよ。 では、私はそろそろ行きますね)
(おう、俺の子供が出来たら名前は煉にしてやるぜ)
(おやおや、それはさぞ性格の悪そうな子に育ちそうですね)
(ハハハハハハ、確かにな・・・)
(ええ・・・では、さようなら、貴方の活躍を祈っていますよ)
煉の精神を掴んだ命は罪歌の中を探り始めた。
頭が焼き切れそうな感覚、命はさらにスピードを上げた。
(罪歌ちゃん)
(何?)
(色々あったねー 辛い事とかいっぱい)
(うん・・・でもやっと幸せを掴めそうなの)
(うんうん、でもこれからは償いの時だよ、でもそれが終わったら新しい人生が罪歌ちゃんを待ってるはずだから)
(わかってる・・・緋澄、貴女には沢山世話になったわね)
(まあねー アタシがいなくなったらアタシの銅像建ててもいいよー?)
(それって外見は私じゃん)
(あ、そうかそうかー・・・まぁ、罪歌ちゃんの外見気にいってるからいいやー)
(ありがとう)
(いやいや気にしないでよー、私は罪歌ちゃんみたいまともじゃない、駄目人格だしー)
(それは違うよ)
(え?)
(貴女は私の憧れの姿、何事にも素直で、人を思いやれる人・・・ずっと私が憧れていた性格なのよ)
(罪歌ちゃん・・・)
(だから、秋月緋澄は秋月史上、一番魅力的な女の子かもね)
(うわー凄い自惚れー)
(それが私でしょ?)
(うん!)
(ちょっとは否定してよね)
(にゃはは・・・っと、私そろそろいくね?)
(・・・じゃあね)
(うん、罪歌ちゃん、末永く幸せに暮らしてねー!)
緋澄の精神を掴む。
最後は囚の気配・・・体は限界を迎えているが、それでも命は探索を始めた。
(・・・何か言う事ねえのかよ)
(ネエヨ)
(ったく・・・テメーは最後まで生意気だぜ)
(オメーニイワレタクネーナ)
(大体、その片言喋りもついに直らなかったしな)
(フフン、オマエノハイボクダ)
(うるせえよ! あーもう・・・感傷的な雰囲気になれねえ奴だぜ)
(オタガイサマダ、ダガ・・・オマエハナカナカイイヤドヌシダッタゾ)
(そうかい、まぁ・・・お前も悪くなかったな)
(オレガイナクナッタシュンカン、アネヲオソウンジャネーゾ)
(誰が襲うか!)
(フッ・・・サイゴマデイジリガイノアルヤツダゼ)
(・・・お前、もう行けや)
(イワレナクテモイッテヤルヨ、アッチノホウガタノシソウダシナ)
(あーそうですかい)
(ジャアナ、アキツキキョウ・・・オレノサイコウノパートナーダッタクソヤロウ)
(・・・じゃあな、秋月囚・・・俺の兄貴分だった、大馬鹿者)
囚の精神を掴んだ。
そして命は四人の精神を掴んだまま、最後の言葉を紡ぐ。
『行け、己が望む場所──コアの中へっ!』
一瞬、命の周囲の空間が光に包まれ、やがて消える。
それと同時に、コアがドクンドクンッと鼓動を始め、暴れだした。
壁にぶつかり、空中を縦横無尽に飛び回り、振動が更に激しくなる。
「灼也!」
「煉!」
「緋澄!」
「囚!」
意識が自分だけの物になった蒼二達は叫んだ。
心が軽く感じる、胸の中に穴がぽっかりとあいたような感覚だった。
それでも、四人は仲間を応援し続ける。
そして───コアは地面へ落下した。
「・・・・・・・どうなったんだ?」
コアはまだしばらくもぞもぞと動いていた物の、やがて完全に停止した。
そして命がコアに近づき、優しく持ち上げた。
闇が渦巻き、混沌とした力を感じるが、落ち着いたような状態に戻っている。
「多分、大丈夫みたいです」
命が言う。
すると周囲に気を配りつつも、携帯電話を操作していた正宗が厳かに告げた。
「楽園も消えたらしい・・・僕達は、一応生き残ったみたいだね」
勝ったとは言わない。
何が勝ちで、何が負けなのかは正宗自身もよくわからない。
とりあえず正宗の中では犠牲を出した時点で、もうそんな事はどうでもよくなっていた。
「灼也・・・・・・・・っ」
遥緋が泣き出す。
蒼二と狂と罪歌もあさっての方向を見て黙って佇んでいる。
命も唇を噛んで俯いていた。
そして、蒼威が告げる。
「帰ろう・・・あいつらが作ってくれた今を無駄には出来ない、まだまだ俺達はやることがいっぱいあるからな」
廃墟と化した神代の屋敷を五人は後にする。
楽園の効果が切れたため、空間の断裂などが無くなり、簡単に外に出ることが出来た。
そして門のそばで穏やかな顔で永眠している剣菱の姿を見つける。
「剣ちゃん・・・ごめんなさい・・・」
命がもう動かない剣菱の体に抱きついて泣く。
ぞっとするほど冷たい剣菱の体は死を否応無く感じさせる。
「剣菱を頼むぞ」
蒼二は罪歌と狂にそう言うと一人で歩き出した。
そして、息子の背中に蒼威は語りかける。
「どこへ行くんだ?」
父の声を聞き、蒼二は振り向く。
気恥ずかしそうな、どんな表情をしていいか分からない無いような表情だった。
そして、言う。
「旅、しばらく一人になりたい」
「そうか、好きなだけ旅して来い・・・家で遥緋と遥ちゃんと俺で待ってるからよ」
「・・・ああ、じゃあな・・・・・・・・親父」
そう言うと蒼二は振り返る事無く歩き去った。
後に残された蒼威達は剣菱の遺体をそっと抱えると、結界の外へ向かって歩き出す。
仲間達が待っている、新しい未来を目指して。
そして──
──1ヵ月後──
暑い暑い夏の日の昼、私は学校からの帰り道を歩いていた。
夏休み前に入院したり、学校に行けなかったりしたので今日は補習の日。
明日からは、夏休み・・・色々と忙しくなるはずだ。
私─千島遥緋は学校を終えて、帰り道を歩いている。
あの後色々あった、犠牲者弔いの儀式や、その他諸々。
死罪六神の死者は、罪歌さんと狂さんの希望で弔われなかった。
多分・・・それでよかったんだと思う。
そんな事を考えていると、後ろに気配を感じた。
そして、私が振り向く前に声がかかる。
「こんにちは」
案の定、罪歌さんが立っていた。
この人は本当に気配を殺すのが上手いなぁ・・・
「迎えに来たよ、これから八神の屋敷で何か祝宴だか何だかやるらしいから」
「あ、はい。罪歌さんも参加されるんですか?」
「一応ね、まぁ・・・どんな目で見られるかは覚悟してるよ」
「そうですか・・・すいません」
「貴女が謝る必要は無いよ、さぁ行こう」
「はい」
罪歌さんは薄く笑って歩き出す。
私はその後をのたのたとついていった。
「蒼二は、今、どこで何してるの?」
ああ・・・お兄ちゃんか、折角元に戻れたのに全然話してないなぁ。
私はそんな事を思いつつ、罪歌さんに言った。
「ああ、今お兄ちゃんは──────」
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