第五話:千島蒼威
上京から一週間、蒼二は戦いに夢中になっていた。
毎夜、毎夜悪鬼を狩り続け、紅雪に血を吸わせていた。
(もっと─もっと強く─親父を探すのは二の次だ!)
「ハッ!」
路地裏に蒼い光が閃く。
次の瞬間、悪鬼が斜めに断たれて地面に落ちた。
そして蒼二の式神、紅雪が悪鬼の体に突き刺さり血を吸い上げる。
刀身が血を吸収し赤く染まっていき、やがて元の色へと戻った。
「ハハハハハ!」
蒼二は楽しそうに笑う、そして次の瞬間表情が虚ろへとなった。
「おい・・・テメーら誰だ?」
蒼二は紅雪を振って氷を作り出し、放つ。
無数の氷の弾丸は、路地裏の一角へ突き刺さった。
「あらら。見つかっちゃいましたね」
空間が歪んで、和服を着た少女が姿を現した。
身の丈は高くも無く低くも無い、そして圧倒的な存在感であった。
その少女の後ろには黒服に仮面をつけた護衛らしき二人の男。
「千島蒼二君ですね? 御崎家長女、朱音と申します」
「ハァ? ウゼーよテメエ! 人の感動に水をさすんじゃねえ」
蒼二の言葉に護衛に男二人の怒気が破裂し、蒼二に襲い掛かる。
一人は太刀を、もう一人は短刀を構えて接近してきた。
「ハン」
蒼二は軽く嘲笑すると緋眼を発動させ、一人目を切り崩す。
そしてもう一人が蒼二の首筋に向かって短刀を振る、
が蒼二は難なく避けると紅雪でまたも切り崩す。
「弱い・・・もっとマシなの連れてきなよ」
緋眼を解いた蒼二は紅雪を降って血を落とすと不適に微笑みかける。
すると朱音はにっこりと笑うと言った。
「私がお相手致しましょう、お手柔らかにお願いします」
「弱い物苛めはつまらないから嫌いなんだけどね・・・」
「まぁ、そう言わずに。 では、行きます」
・・・数分後、蒼二は血参れで倒れていた。
何が起きたのかわからない、痛みよりもその事が胸に染みる。
(蒼二! 降伏しなさい。 相手が悪い)
珍しく悲煉が焦った声で告げる。
(悲煉・・・ クソッ・・・)
立ち上がろうとするが体が動かない。指一本すら動かせる気がしなかった。
すると朱音が取り乱しながら蒼二に駆け寄ってきた。
「す、スイマセン・・・私も手加減したのですけれど・・・」
手加減されていた─その事実が蒼二の心を傷つける。
悔しくて、悔しくて仕方が無い。
そして・・・遠ざかる意識の中で声が聞こえた。
「・・・治療す・・・で御崎・・・へ連れて・・・す」
─目を覚ますと、天井が見えた。
体は柔らかい布団に包まれて、痛みもなくなっている。
首を動かして部屋を見回すと、部屋中傷だらけであった。
「あ、お目覚めですか?」
蒼二が声のした方を向くと朱音が座っていた。
出会った時とは違う和服、時間はどれ位たったのだろうかと蒼二は思った。
「アレから・・・どれぐらい時間がたった?」
「まだ三日です。怪我が酷かったので治癒術を使ってもそのぐらいかかってしまいました」
「アンタが怪我させたんだろ・・・」
「す、スイマセン・・・」
「大体、何だよこの部屋は・・・傷だらけじゃねーか」
「それは、悲煉さんが散々暴れた時についたものですよ〜」
「蒼二に触るんじゃねー! って言って大騒ぎでしたから」
(おい・・・悲煉・・・修理費請求されたらどうする気だ?)
(スイマセン・・・)
(ま、いいや。ありがとうな)
「んで、アンタは俺をどうしたいんだ?」
蒼二は朱音を睨みながら問う。
返答によってはその場で切りかかる覚悟もある。
すると朱音は笑顔を崩さず、柔和な口調で言った。
「どうもしませんよ。 蒼二君にお任せします」
「ハァ? アンタ俺を殺しに来たんじゃねーのかよ!?」
「う〜ん、家からの命令は殲滅、もしくは捕獲でしたが辞めました」
「蒼二君は、何か見てて可愛かったですからねぇ〜」
(い、意味がわからん・・・)
「まぁ、そう言う訳でお好きにどうぞ。 協力できる事があったら言ってくださいね」
「んじゃ、俺はここの家を拠点にしてもいいってか?」
挑発的に蒼二は言うが、朱音は笑みを崩さない。
「いいですよ〜 でも私と共同のお部屋で生活していただきますが」
「いいのかよ・・・」
心からツッコミたかった蒼二だが今はそんな事を思っている暇はない。
が、
「今の蒼二君じゃ私は殺せませんから」
朱音の容赦の無い言葉に、蒼二は怒りを堪える。
偉い・・・偉いぞ俺・・・忍耐力も大幅アップだ!
等と思いながら告げる。
「フン・・・そういやアンタ、俺の親父の事しってるか?」
「知ってますよ、千島蒼威さんは有名ですからね〜私も昔会った事がありますし」
「会ったことあるのか!?」
「はい、あの方が本気だったら私は今ここに居ないでしょうね」
「アンタでも勝てないのかよ・・・」
「私はあまり強くないですからねぇ〜」
「じゃあ俺はどうなんだよ・・・」
「拗ねる蒼二君も可愛い〜」
朱音に抱きつかれて、蒼二は赤面して暴れる。
何なんだよこの女は、いちいち俺に対して馴れ馴れしいし・・・
まぁ・・・いいさ。利用できるものは全て利用してやる!
蒼二はそう思うと、抱きついてくる朱音の体をどう引き剥がすかを考え始めた・・・
薄暗い部屋、罪歌は一人で立っていた。
彼女以外の死罪六神は全て任務で出払っているのだ。
「さて・・・順調のようね」
そう呟くと罪歌は上を見上げた。
そこには六つの檻がある。いずれも呪札が大量に貼り付けてあった。
檻の中には闇の塊が一つずつ存在しており、少しずつ、少しずつ大きくなっていた。
「これで、復讐が果たせる・・・」
私を認めなかった世界、私から全てを奪った世界。
その全てに復讐ができる・・・罪歌の心の中はそれしか考えていなかった。
そして罪歌は念じる。
(緋澄・・・体を貸すわ。 しばらくは貴女の好きに動きなさい)
その声は罪歌の心の闇の奥へ響いた。
そして・・・
(はーい! 緋澄いっきまーす!)
罪歌の体が一瞬、ガクリと崩れるがすぐに持ち直す。
しばらく俯いていた罪歌はやがて立ち上がった。
そして机の上にある二人の男の写真を見て一言。
「フフ・・・まずは旧交を温めにでも行こうかなぁ」
東京都、奥多摩の山中に狂とナナシは居た。
目的は、千島蒼威と八神正宗の捜索、及び監視である。
「アハハハ! 狂君見てみなよ! こんなに悪意が溢れているよ」
「・・・ああ」
「なんだい? 妙に大人しいじゃないか?」
「これからあの蒼威と正宗と戦うかもしれないんだぜ・・・」
「何だ、そんな事かい・・・僕らには強い味方が居るじゃないか」
ナナシは虚空から黒い剣を取り出す。
そして剣先から黒い光が迸り、蛇のような悪鬼が生まれた。
「ハハハ! どうだい? 僕の式神【篭絡】の力は」
「相変わらずイカれた能力だぜ・・・」
ピリリリリリリリリリリリッ
突然音が鳴り響いた。携帯の着信メロディーだ。
「おっと・・・罪歌からだ・・・・・・もしもし?」
「ハローッ! 狂ちゃんお久しぶり〜」
その声を聞いた瞬間狂は絶句した。
何故こいつが電話してくるのだろう?
いや・・・何故コイツが表に出てきているのだろう?と狂は思った。
「よぉ・・・何か用事か?」
「今、どこに居るのぉ? ってか蒼威見つかった?」
「今は奥多摩の山中だ・・・この山に居るらしいぜ」
「ふ〜ん・・・じゃあ今からアタシも行くからヨロシク〜」
「ハァ!? おい待てコラ!」
「ばいば〜い」 プツッ
それだけ言うと電話は一方的に切られてしまった。
そして、狂はげんなりとした顔でナナシに告げる。
「緋澄がこれから来る・・・」
「嫌だ・・・嫌だぁ!!」
いつもヘラヘラしているナナシが悲鳴をあげて脅える。
そういえばナナシが死罪六神に来たのも緋澄がつれてきたんだったな・・・
狂はそう思うと、ナナシに提案する。
「早めにあいつらの足取りを掴もう・・・緋澄が来る前に!」
「もう、遅いかも・・・アヒャヒャヒャヒャ!」
ナナシが笑い出した瞬間、凄まじいプレッシャーが襲い掛かった。
そして濃密な式神の気配があたりを埋め尽くす。
「死罪六神が何の用だ?」
闇の中から凛とした声が響く。
蒼威はゆっくりと歩きながら姿を現した。身の丈は175センチほどで、
黒いジャケットにワイシャツとジーパンを合わせた格好をしている。
「テメーらの監視だよ・・・俺達の邪魔をされると困るからな」
「・・・もう遅いぞ? 正宗は一足先に八神家のほうへ向かったし」
「なにぃ!?」
すると今まで黙ってたナナシがボソリと呟く。
「ククク・・・正宗殺せないならこいつ殺そうよ・・・」
「ナナシ!?」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! 死ーーね!」
ナナシが篭絡を呼び出し、剣を振るうと数体の悪鬼が生まれた。
「ハァ・・・仕方ねえ」
狂も式神【神舞】を呼び出す。
神舞は風を自在に操る現象型の式神である。
吹き荒れた風が周囲の物をなぎ倒し切り裂いていく。
「中々見事な式神だな」
(来る!)
(アヒャヒャヒャヒャ・・・楽しませてくれよぉ!)
蒼威は目を瞑り、式神を解き放った。
蒼威の周囲に薄青い銀色の球体が10個現れる。
それらは空中を自在に浮遊し、蒼威を取り囲むように存在している。
「これが俺の式神・・・【大我】だ。 手加減できないから覚悟しろよな?」
月明かりによって蒼威の獰猛な笑みが映し出された。
大学が始まって小説の更新速度が遅れています。
一週間に二話は投稿したいです。
ではでは、お読みいただきありがとうございました
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